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PDF厚生労働省2025年8月9日未分類

令和7年度障害福祉分野の介護テクノロジー導入支援事業(民間団体実施分)事業成果報告書

障害福祉分野の介護テクノロジー導入支援事業 1. エグゼクティブサマリ .............................................................. 1

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障害福祉分野の介護テクノロジー導入支援事業 (民間団体実施分) 令和8年3月 事業成果報告書 株式会社 最中屋 令和7年度 目次 1. エグゼクティブサマリ .............................................................. 1 2. 事業概要 ........................................................................ 2 2.1. 本事業の背景・目的 ...................................................... 2 2.2. 実施内容 .................................................................. 3 2.3. 実施体制 .................................................................. 6 2.4. スケジュール ............................................................... 10 3. 実態調査結果 ................................................................ 11 3.1. 調査の目的と実施概要 ................................................. 11 3.2. 分析手法の定義 ........................................................ 13 3.3. タイムスタディの結果分析 ................................................ 15 3.4. 職員の心理的ストレスと意識変容の分析 ............................. 41 3.5. 業務効率化と職員意識の相関分析(深掘り検証) ................ 48 3.6. 結論と提言 ............................................................... 53 4. 障害福祉分野のテクノロジー導入マニュアルの要点 ........................ 55 4.1. マニュアルの位置付けと基本思想 ....................................... 55 4.2. 生産性向上の考え方 ................................................... 55 4.3. テクノロジー導入の基本プロセス ......................................... 57 5. 委員会における主要論点 .................................................... 62 5.1. 業務量調査計画・結果に関する議論 ................................. 62 5.2. マニュアル構成・内容に関する議論 ..................................... 62 5.3. その他 ..................................................................... 63 6. 本事業における成果 .......................................................... 65 7. 残論点・今後の展開 ......................................................... 67 1 1. エグゼクティブサマリ 本事業は、障害福祉分野における生産性向上の推進に向け、テクノロジー導入を含む業務改 善の効果的な進め方を体系的に整理することを目的として実施した。 障害福祉分野においては、サービスの多様性や支援内容の個別性が高く、業務構造が複雑で あることに加え、支援の質や利用者の生活の向上といった側面を含めて評価する必要があること から、生産性向上の取組を単純な業務効率化として捉えることには限界がある。このため、テクノ ロジーの導入を個別の機器の導入としてではなく、業務の可視化、課題の構造的把握、改善の 実行および定着といった一連のプロセスの中で位置付けることが重要である。 本事業では、このような認識のもと、現場の実態および既存の知見を踏まえ、障害福祉分野にお ける生産性向上の進め方を整理し、実践的なマニュアルとして取りまとめた。マニュアルは、特定の 機器や制度の導入手順を示すものではなく、各事業所が自らの業務構造を見直し、課題に応じ た改善に継続的に取り組むための共通の枠組みを示すものとして位置付けられる。 当該マニュアルにおいては、生産性向上を単なる業務の効率化や時間短縮としてではなく、支援 者一人ひとりの力を引き出し、チームとしての力を活かして利用者に価値を提供することにより、新 たな価値を創出する取組として整理している。その上で、業務の可視化、課題整理、改善策の 検討および実行、振り返りと定着という一連のプロセスを、現場で実行可能な形で体系化した。 また、テクノロジーは改善のための手段の一つとして位置付けられており、「どの機器を導入するか」 ではなく、「どの課題を解決するために活用するか」という観点から検討することの重要性を明確に した。さらに、導入に当たっては、業務プロセスや運用設計と一体的に検討し、試行と振り返りを 通じて現場に適合させていくことが必要であることを示した。 加えて、本事業では、検討委員会を通じて、調査設計、結果の解釈およびマニュアル内容につい て段階的な検証を行い、現場実態との整合性、実務への適用可能性および政策的観点からの 妥当性を確保した。これにより、実務と政策の双方に資する成果物としての精度を高めた。 本事業の成果は、障害福祉分野における生産性向上の取組を推進するための基盤となるもの であり、今後のガイドライン策定や制度設計、報酬改定の検討における基礎資料として活用され ることが期待される。また、各事業所においては、本マニュアルを活用することにより、自らの現場実 態に即した課題設定および継続的な改善の実施が可能となり、支援の質の向上とサービス提供 体制の持続可能性の確保に資するものと考えられる。 2 2. 事業概要 2.1. 本事業の背景・目的 本事業は、障害福祉分野における生産性向上の推進にあたり、これまでのテクノロジー導入の取 り組みを踏まえつつ、その効果的な進め方を体系的に整理することを目的として実施するものであ る。 近年、介護分野を中心に、ロボット・ICT等のテクノロジーの導入が国および自治体の支援のもと で進められてきており、現場における業務負担の軽減や情報共有の効率化等に一定の成果が 見られている。こうした取り組みは、限られた人材の中で質の高い支援を提供していく上で重要な 手段として位置付けられており、障害福祉分野においても同様にその活用が期待されている。 一方で、テクノロジーの導入効果の現れ方や現場への定着状況については、事業所ごとに差が 見られるのも実態であり、業務改善やケアの充実に着実に結び付けていくためには、導入に至るま での準備や運用設計、導入後の振り返り・改善といった一連のプロセスを含めた取り組みの在り 方について、より整理された形で共有していく必要がある。 また、障害福祉分野においては、サービス種別が多様であり、提供される支援内容や業務の構 成が事業所ごとに大きく異なることに加え、利用者の自立支援や生活の質の向上といった観点を 踏まえた評価が求められるなど、成果を単純な数値で捉えることが難しい特性を有している。さら に、日々の支援業務においては、職員の経験や個々の判断に依拠する場面が多く、業務の進め 方が属人化したり、潜在化したりしやすいことから、業務構造の把握や課題の可視化が容易では ない状況にある。 このような状況を踏まえると、テクノロジーの導入を個別の機器やシステムの導入にとどめて捉える のではなく、業務の可視化、課題の構造的な把握、改善の検討および実行、さらには取り組みの 定着に至るまでの一連のプロセスの中に位置付けていくことが重要である。また、その過程において は、導入の目的や期待される効果を現場内で共有し、改善の方向性を明確にすることが、取り 組みの継続性や実効性の確保に資するものと考えられる。 本事業では、こうした認識のもと、テクノロジー導入を単独の施策としてではなく、生産性向上を 実現するための一要素として位置付け、業務の可視化、課題整理、改善の実行および効果の 捉え方を一体的に整理した「進め方」を共通の枠組みとして提示することを目的とする。これによ り、各事業所が自らの現場実態に即して課題を把握し、継続的に改善に取り組むことが可能と なる基盤の整備を図る。 あわせて、本事業により整理された枠組みを、分野横断的に活用可能な形で提示することで、 障害福祉分野全体における生産性向上の取り組みを底上げするとともに、支援者の力を最大 限に引き出し、ケアの充実につなげていくことを目指すものである。 3 2.2. 実施内容 本事業では、障害福祉分野における生産性向上の進め方を体系的に整理することを目的とし て、以下の三つの取り組みを相互に連動させながら実施した。 (1) 実態調査の実施 障害福祉事業所における業務実態およびテクノロジー導入状況を把握するため、定量調査と定 性調査を組み合わせた実態調査を実施した。 調査の構成 ● タイムスタディ調査(定量) ● 業務時間、業務構造、発生頻度等の把握 ● アンケート・ヒアリング調査(定性) ● 業務負担感、心理的指標、運用実態の把握 ● 導入プロセス、工夫点、課題、改善ニーズの整理 調査のねらい ● 業務時間や構成の把握にとどまらず、以下を含めた多面的な実態把握 ● 業務工程の変化 ● 現場における判断・負荷の構造 ● 運用上の工夫および課題 調査対象とするテクノロジーの考え方 ● 障害福祉分野の特性および先行調査を踏まえ、以下の観点で対象を設定 ○ 業務負担の軽減に直接寄与するもの ○ 業務時間・業務構造への影響を把握しやすいもの ○ サービス種別を越えて比較可能なもの ● 具体的には以下の領域に重点を置いた ○ 介護業務支援(送迎支援等) ○ インカム ○ 音声入力・記録 ● また、訪問系・通所系サービスを前提とした整理を優先した 調査対象とするテクノロジーについては、障害福祉分野の業務特性および先行調査の知見を踏 まえ、業務負担の軽減に直接寄与する領域を中心に設定するとともに、訪問系・通所系サービ スを前提とした整理を優先した。なお、対象機器の選定にあたっては、令和6年度「訪問系や通 所系サービスにおける介護ロボット・ICT等のテクノロジー活用及び介護現場におけるAI技術の 活用などを通じた生産性向上の取り組みの実態調査研究事業」における報告内容を参照した。 4 業務負担の軽減に直接寄与する領域を対象とした理由 ● 業務時間および業務構造への影響を把握しやすいため ○ 業務負担に直接作用するテクノロジーは、導入前後での業務時間や業務内容の変化を 比較的明確に捉えることが可能であり、タイムスタディによる定量的把握との親和性が高 い。 ● サービス種別や事業所規模による差異の影響を受けにくいため ○ 間接業務や付随業務に関わる領域は、サービス種別を越えて共通性が高く、複数事業 所間での比較や整理が行いやすい。 ● 既に一定の導入実績があり、現場での活用実態を把握しやすいため ○ 先行調査においても、直接介助を代替する機器よりも、職員の業務負担軽減に資する ICT等の導入が進んでおり、運用上の工夫や課題も蓄積されていることが確認されてい る。 訪問系・通所系サービスを前提とした整理を優先した理由 ● 障害福祉分野における地域生活支援の考え方との親和性が高いため ○ 障害福祉分野では、利用者本人が希望する地域生活を送れるように支援することを大 切にしており、障害者総合支援法においても基本理念に位置づけられているところ。 ○ そのため、地域で生活する障害者が主に利用する訪問系・通所系サービスにおけるテクノ ロジー活用の整理を優先することは、障害福祉分野における地域生活支援の考え方との 親和性が高い。 ● テクノロジー活用の整理が実務に適用しやすいため ○ 訪問系・通所系サービスにおける業務は、記録、連絡、移動、送迎等の共通業務が多 く、これらに対応するテクノロジーは他のサービス種別にも展開しやすい。 ● 先行調査との接続性を確保するため ○ 令和6年度「訪問系や通所系サービスにおける介護ロボット・ICT等のテクノロジー活用 及び介護現場におけるAI技術の活用などを通じた生産性向上の取り組みの実態調査 研究事業」においても、訪問系・通所系サービスにおける生産性向上の取り組みは、利用 者への直接介助を代替する機器よりも、介護者側の業務負担を直接的に軽減する ICT・支援技術において、比較的導入が進み、効果も把握しやすいことが示されている。 (2) マニュアルの作成 実態調査および既存の知見を踏まえ、障害福祉分野における生産性向上の進め方を整理し、 マニュアルとして取りまとめた。 マニュアルの位置づけ ● 個別の機器導入手順ではなく、業務改善の進め方を示す枠組みであり、各事業所が自走的 に改善を進めるための指針 5 主な構成要素 ● 業務の可視化方法 ● 課題の類型化 ● 改善の進め方(プロセス) ● テクノロジー活用の考え方 ● 取り組みの定着プロセス 整理のポイント ● 導入ありきとしない構成 ● サービス種別を越えて活用可能な汎用性の確保 ● 調査結果に基づく事例および留意点の整理 (3) 検討委員会の運営 実態調査およびマニュアル作成の各工程において、専門的知見の反映および成果物の妥当性 確保を目的として、検討委員会を設置し、段階的な検証を実施した。 検討委員会の役割 ● 調査設計の妥当性の確認 ● 調査結果の解釈および整理 ● マニュアル構成・内容の検証 ● 成果物の品質確保 検証の進め方 ● 調査計画段階、結果整理段階、最終化段階の各フェーズで検討を実施 ● 各段階での議論結果を成果物へ反映 検証の観点 ● 現場実態との整合性 ● 実務への適用可能性 ● 政策的観点からの妥当性 6 2.3. 実施体制 本事業は、事務局および検討委員会を中心とする体制により実施した。 事務局は、本事業の全体統括および進行管理を担うとともに、実態調査の設計および実施、デ ータ収集・分析、成果物の作成を一体的に実施した。また、検討委員会の企画・運営を担い、 各工程における論点整理、資料作成および関係者間の調整を行うことで、事業全体の円滑な 推進を図った。 検討委員会は、障害福祉分野に関する専門的知見を有する有識者、事業者代表等により構 成し、調査計画の妥当性の確認、調査結果の解釈および整理、マニュアル内容の検証等を実 施した。委員会は複数回開催し、調査の各段階に応じて検討事項を設定することで、調査設 計から成果物の最終化に至るまで一貫した検証体制を構築した。 このように、実務を担う事務局と専門的視点を担う検討委員会が相互に連携する体制を構築す ることで、実態調査の実施から成果物の取りまとめまでを一体的に推進した。 7 検討委員会 # 氏名 所属・役職 1 吉田 俊之※ 埼玉県立大学 教授 2 小平 めぐみ 国際医療福祉大学大学院 准教授 3 中川 亮 一般社団法人全国介護事業者連盟 副理事長 障害福祉事業部会 会長 4 五島 清国 公益財団法人 テクノエイド協会 部長 5 大塚 さおり 全国身体障害者施設協議会 常任理事 兼 人材・広報委員会 委員長 6 浅見 秀俊 公益財団法人 日本知的障害者福祉協会 7 田中 聡 長野県 健康福祉部 障がい者支援課 企画幹兼課長補佐 8 安藤 信哉 株式会社障碍社 代表取締役 9 片島 逸平 株式会社三菱総合研究所 主任研究員 ※ 座長 8 厚生労働省 # 氏名 所属・役職 1 ⻘木 健一 厚生労働省 社会・援護局 障害保健福祉部 障害福祉課 課⻑補佐 2 磯谷 桂太郎 厚生労働省 社会・援護局 障害保健福祉部 障害福祉課 課⻑補佐 3 友澤 洋史 厚生労働省 社会・援護局 障害保健福祉部 障害福祉課 生産性向上推進官 3 富澤 元嘉 厚生労働省 社会・援護局 障害保健福祉部 障害福祉課 福祉サービス係⻑ 9 事務局 # 氏名 所属・役職 1 結城 崇 株式会社最中屋 代表取締役CEO 2 鎌田 農 株式会社最中屋 執行役員COO 3 角森 いずみ 株式会社最中屋 カスタマーサクセスマネジャー 4 秋葉 未央 株式会社最中屋 執行役員CKO 5 源島 早紀 株式会社最中屋 6 木下 京子 株式会社最中屋 執行役員 CEO室⻑ 7 大槻 俊知 株式会社最中屋 代表取締役CIO 10 2.4. スケジュール 本事業は、実態調査、検討委員会による検証およびマニュアル作成を段階的に連動させ、各工 程で得られた知見を逐次反映しながら、短期間かつ年度内に実効性のある成果物を完成させる ことを基本方針として実施した。 具体的には、事業開始後、過去の検討資料の整理および調査設計を行い、対象事業所への 協力依頼および説明を経て、業務量調査(タイムスタディ)およびアンケート・ヒアリング調査を 実施した。その後、収集したデータの整理および分析を行い、結果を踏まえたマニュアル案の作成 および修正を進めた。 検討委員会は、令和8年2月に第1回(調査計画の確認)、令和8年3月に第2回(調査結 果およびマニュアル案の検証)、令和8年3月に第3回(マニュアル最終案の確認)を開催し、 各段階において必要な検討を実施した。これにより、調査結果とマニュアル内容を相互に連動さ せながら、段階的に精緻化を図った。 最終的に、調査結果および委員会での議論を踏まえたマニュアルおよび事業成果報告書を取り まとめ、年度内に成果物として確定した。 11 3. 実態調査結果 3.1. 調査の目的と実施概要 3.1.1. 調査の背景と目的 近年の障害福祉現場においては、利用者のニーズの多様化や重症化が進む一方で、人材確保 は極めて困難な状況にあり、全産業平均を大きく上回る有効求人倍率が常態化している。政府 においても介護同様、人手不足が深刻な分野の一つとして特定され、「省力化投資促進プラン ―障害福祉―」において、テクノロジー導入による生産性向上が急務とされた。 しかし、障害福祉分野におけるテクノロジー導入は、これまで「導入目的の曖昧さ」や「業務構造 の整理不足」といった課題を抱えており、単なる時間短縮の多寡のみではその真の価値を評価し きれない側面があった。本調査は、テクノロジー導入前後の業務構造の変化を、タイムスタディ (TS)による「定量的実測」と職員意識調査による「定性的評価」の両面から可視化し、障害 福祉現場に即した生産性向上のモデルを提示することを目的とする。 3.1.2. 調査実施の概要 本調査は、複数のサービス種別を有する事業所フィールドにおいて、以下の手法および体制で実 施された。 (1)調査手法の構成 職員の行動を1分単位で記録・集計できる分析ツール「ハカルト」を用いた統計的な業務実測 を実施した。これに加え、職員の心理的変容を捉えるための意識調査(7段階リッカート尺度お よびSRS-18)を実施し、定量・定性の両面から分析を行っている。また、現場職員への直接ヒ アリングにより、数値化しにくい日々の運用実態や具体的な課題感についても補完的に収集し た。 (2)実証フィールドと拠点定義 ICT導入の効果を直接測定する「導入済み拠点」と、相談支援職の標準的な現状を把握する ための「未導入拠点」を以下の通り定義した。 ● ICT導入済み拠点(A法人) 生活介護(大空ひだまり)、放課後等デイサービス(青空 ひだまり)、短期入所(星空ひだまり)等。これらは介護ロボットやICTを複数組み合わせた 「パッケージ型」の導入による生産性向上を図っている。 ● ICT未導入拠点(現状把握群) ○ A法人 虹色ひだまり:計画相談支援拠点。A法人所属であるがICT機器が未導入の 状態にあり、相談支援専門員の「導入前の実態」を抽出する比較対象として位置づけ る。 ○ B法人 びわりん:外部比較群としての相談支援事業所。ICT未導入拠点における標 準的な業務構造の把握に活用する。 12 (3)調査期間 本調査は、ICT導入前の実態を把握する「Before調査」と、導入後の変化を測定する「After 調査」の2期に分けて実施した。 ● Before調査(導入前):2025年8月9日~9月13日 ● After調査(導入後):2026年2月5日~2月15日 期間内において各施設のタイミングで実施 3.1.3. 調査対象の規模と属性 本調査の客観性を担保するため、タイムスタディによる詳細な行動実測と、多職種・多階層によ る意識調査を組み合わせて実施した。対象者の内訳および測定ボリュームは以下の通りである。 (1) 調査実施規模と対象属性 タイムスタディ調査には延べ33名が参加した。意識調査(アンケート)には計30名の有効回 答を得ており、これにはICT導入済み拠点の職員に加え、未導入拠点の相談支援専門員や、 比較群としてのB法人の管理者も含まれている(表1-1)。 【表1-1】調査実施規模と対象属性(実数:名) 区分 Before調査 After調査 マッチング (前後共通) アンケート回答 参加人数 23 28 18 30 (2) 調査参加職員の職種構成 障害福祉現場における多職種連携の実態を反映し、直接支援に携わる介護・看護職から、リハ ビリテーション専門職、相談支援職、組織運営を担う管理者まで、幅広い職層が調査に参加し た。 ● 直接支援・専門職(計28名): 介護職員(19名)、看護職員(4名)、作業療法 士/理学療法士(5名) ● 相談・計画策定職(計2名): 相談支援専門員・支援相談員(各1名:虹色ひだま り・びわりん所属) ● 管理・事務職(計6名): 管理者・事務職員(A法人およびB法人管理者を含む) 13 (3) 測定ボリューム 業務可視化ツール「ハカルト」を用いたタイムスタディにより、1分単位で職員の動きを追跡した。そ の結果、約1,335時間に及ぶ実測データを収集し、統計的に精度の高い分析基盤を構築した (表1-2)。 【表1-2】総測定ボリューム(タイムスタディ調査) 項目 測定時間(分) 測定時間(時間) 総測定時間 80105 1335.1 分析の核としては、ICT導入前(Before)と導入後(After)の両調査に参加し、継続的に 同一業務に従事した18名の「マッチングサンプル」を抽出している。これにより、職員個別の操作 習熟度や環境変化に伴う行動変容を、高い精度で精密に捉えることが可能となった。 3.2. 分析手法の定義 3.2.1. 分析のプロセスと視点 本調査では、テクノロジー導入による生産性向上の影響を多角的に捉えるため、以下の3ステッ プで「業務構造の変容」を検証する。 1. 実態把握(全体俯瞰):全拠点・職種の業務をランキング形式で可視化し、現場の負担 となっている「主要業務」を特定する。 2. 標準化の検証(「ムラ」の分析):主要業務の1回あたりの所要時間のバラつき(分散) を箱ひげ図で可視化し、業務が一定の範囲に収束する「標準化」の傾向を検証する。 3. 平準化の検証(「山」の分析):時間帯ごとの業務の重なり(ピーク)を特定し、特定時 間への負荷集中が緩和される「平準化」の状況を評価する。 3.2.2. 業務の標準化指標(「ムラ」の分析) 職員間や日ごとの環境に依存する「業務時間のバラつき」を特定するため、箱ひげ図を用いた分 散分析を行う。ここで定義する「ムラ」とは、1回あたりの業務時間に生じている分布の広がりを指 す。 本調査では、特に「最大値(外れ値)」の推移に着目し、突発的な長時間業務がどの程 度抑制されたかを、標準化を判断する指標の一つとする(表2-1)。 14 【表2-1】記録業務における1回あたり所要時間の分布指標(概念定義用) 統計指標 グラフの見方 データの意味(生産性向上の視点) 最大値 (外れ値) 上部の「点」や「★」 突発的な長時間業務。 ICT導入でこの「点」が 消えることが理想。 第3四分位数 青い箱の「上端」 上位25%。このラインが下がるほど、全体的に業 務が効率化されている。 中央値 青い箱の中の「線」 標準的な業務時間。 現場の「いつもの時間」を 示す最重要指標。 第1四分位数 青い箱の「下端」 下位25%。短時間の簡易作業。ここが安定し ていると業務の型ができている。 最小値 ヒゲの一番「下」 最短完了時間。これ以上短縮できない物理的な 限界値の目安。 3.2.3. 業務の平準化指標(「山」の分析) サービス提供時間内における「多忙のピーク」を特定するため、時間帯別積み上げ解析を実施す る。障害福祉現場では、特定の時間帯に「直接支援」(身体介助、会話、医療的ケア、レクリ エーション等)と「連絡・報告業務」が重なることで負荷が集中する傾向がある。テクノロジー(イ ンカム等)の導入が、こうした業務の重なりをリアルタイムに分散させ、特定時間への負荷集中 (山)がいかに緩和・平準化されるかを可視化する(図2-1)。 【図2-1】時間帯別業務密度の推移(概念図) 3.2.4. アンケート調査による意識変容の測定 定量的な時間測定を補完するため、職員の主観的な意識変容を以下の尺度を用いて測定し た。 15 ● 職場環境実感(Q26):ICT導入による働きやすさの変化を、7段階尺度(-3点~+3 点)で測定。 ● 要因分析(Q27):働きやすさに寄与した要因を「連携・共有」「効率・余裕」「質・育成」 の3カテゴリに分類し分析。 ● 心理的ストレス尺度(SRS-18):導入による精神的余裕の創出を客観的に評価。 3.3. タイムスタディの結果分析 本章では、まず法人全体のデータを統合して業務構造の変容を俯瞰する。その上で、拠点ごとの サービス特性に応じた詳細分析を行い、ICT導入が現場に与えた質的変化を検証する。 3.3.1. 法人全体における業務構造の変容 (1) 分析の前提と目的 本節では、法人全体におけるICT導入前後の業務構造の変化を捉えるため、前後2回の調 査を継続して実施した4拠点(大空、陽空、青空、星空)のデータを統合し比較を行った。 BeforeとAfterで回答数(母数)が異なるため、単純な時間の合計値ではなく、職員の1 日における「業務構成比(100%積み上げ)」を用いて、業務の質的変化を俯瞰する(図3- 1)。 【図3-1】法人全体における業務構成比の変容(Before/After比較) (2) 全体傾向の確認 図3-1が示す通り、法人全体で見ると「直接支援」や「間接業務」といった主要な業務カテゴリ 16 ーの構成比に極端な変動は見られず、ICT導入という環境変化を経ても、法人の根幹である支 援体制が安定して継続されていることが確認された。 一方で、各業務の細部(内訳)に目を向けると、拠点ごとのサービス特性(放課後等デイサー ビス、短期入所等)や稼働形態に応じた特有の変化の兆しが見て取れる。次節からは、これら 全体像を踏まえ、各拠点における具体的な業務構造の変容について詳述する。 3.3.2. サービス種別ごとの業務構造実態(実態把握) 本節では、各拠点におけるスタッフ1人・1日あたりの平均業務所要時間を分析し、サービス特 性に応じた業務構造を明らかにする。分析にあたっては、ICT導入前後の変化をランキング形式 で可視化した。なお、一部のデータには、調査期間中に偶発的に発生した一時的な変動因子 (ノイズ)が含まれる可能性がある点に留意が必要である。 (1) 生活介護:大空ひだまり ① サービスの特色と業務実態 大空ひだまり(生活介護事業所)は、重度障害を有する利用者を対象としており、定員20名 に対して多職種協働によるチーム支援体制を構築している拠点である。 同拠点におけるタイムス タディ調査の実測結果(図3-2)を参照すると、ICT導入前(Before)は「見守り」が約33 分、次いで「医療処置(約32分)」「機械浴(約30分)が上位を占めていた。導入後 (After)は「見守り」が約41分とさらに増加し、全業務において大きな役割を占めていることが 確認された。 17 【図3-2】大空ひだまり 業務ランキング(Before/After) ② 分析の視点:主業務の担保とICTの役割 生活介護の現場において、利用者の安全確保や状態観察を伴う「見守り」は不可欠な基幹業 務である。本データにおいて、ICT導入後に見守り時間が業務ランキングの首位を維持し、かつ 所要時間が増加(約33分→約41分)した事実は、システム導入後も「利用者の傍にいる 18 時間」が削減されることなく、継続して確保されている状況を示唆している。こうした傾向から、高 密度なケアが求められる現場におけるICTの役割は、単純な業務時間の短縮のみならず、基幹 業務を安定的に遂行するための支援環境の維持・向上に寄与している可能性が考えられる。 ③ ICT導入前後における主要業務の比較分析 前後2回の調査において、投入時間の推移を比較した結果を図3-3に示す。 「見守り」が Before/Afterともに高い水準を維持し、After調査においてさらに増加(約33分→約41 分)した一方で、「機械浴」や「医療処置」などの項目には変動が見られた。これらの増減につい ては、ICT導入による直接的な影響だけでなく、調査実施時の利用者の心身状況や当日の支 援体制の差異も含まれると考えられるが、2回の実測を通じて、時間帯や担当を問わず一定以 上の「見守り」が常に必要とされるという、本拠点における支援業務の基本構造が明確に示され たといえる。 【図3-3】大空ひだまり 業務時間比較(主要項目の推移) ④ 分析結果の考察:業務構造の可視化と質的変化 図3-3の比較データが示す通り、直接支援(見守り、入浴介助、食事介助等)が業務の主 軸である構造に変化はなく、ICT導入後もケアの基盤が維持されている。一方で、項目別の推 移を詳細に見ると、「記録」時間が減少(約4分→約1分未満)しているのに対し、「連絡調 整」は約1分未満から約16分へと増加している。これは、モバイル端末やインカムの活用によ り、支援の合間に「記録」を短時間で完結させられるようになった一方で、従来は「移動中」や「作 業の合間」に行われ記録として捕捉されにくかった微細な情報共有やリアルタイムな連携が、デー タとして明確に顕在化した結果であると推察される。 総じて、今回の2回にわたる調査は、拠点 の業務実態を精緻に可視化し、「動かせない直接支援」と「適時性が求められる連携業務」の構 19 造を浮き彫りにした。この可視化された構造こそが、今後のテクノロジー活用やさらなる業務改善 を検討する上での一つの基盤になると言える。 (2) 多機能型拠点:陽空ひだまり ① サービスの特色と測定データに関する留意点 陽空ひだまりは、自立支援に向けた実践的なプログラムを提供している放課後等デイサービス拠 点である。 同拠点におけるタイムスタディ調査の実測データ(図3-4)を参照すると、調査時期 (Before/After)によって上位となる業務項目が大きく入れ替わっていることが確認される。こ れについては、測定期間中における突発的な業務の偏りや、一部記録の欠損といった測定上の ノイズが含まれている可能性が高く、本データを用いてICT導入前後の単純な時間的比較(ビ フォーアフター)を行うことは統計的に難しい状態にある。 20 【図3-4】陽空ひだまり 業務ランキング(Before/After) ② 業務構造の実態:「送迎業務」と「管理業務」の比重 上記の測定上の限界を踏まえたうえでも、実測データから読み取れる同拠点の明確な特徴は、 「送迎運転」や「管理業務」が現場の業務時間を大きく占めているという点である。Before調査 では施設運営に関する管理業務が突出している一方、After調査においても児童の通学・帰宅 を支える「送迎運転」が上位を維持しており、これらが拠点運営の基幹となっていることが伺える。 21 ③ 分析の視点:送迎比重の高い拠点におけるICTの役割 このように送迎業務の比重が極めて高い拠点においては、ICT導入の主目的は「送迎そのものの 時短(物理的な移動時間の削減)」ではなく、送迎前後に発生する「連絡調整」や「記録業 務」の整序・効率化にある。 付随する間接業務がICTによって整理されることで、運転業務その ものの安全確保や、送迎中における児童への突発的な対応に対して、現場職員がいかに「心理 的余力(ゆとり)」を持てる環境を構築できるかが、本拠点における重要な分析・評価の視点と なる。 ④ ICT導入前後における主要業務の推移 前述の通り、突発的な業務の偏り等により全項目の単純比較には慎重を期すべきであるが、そ の中でも「5分以上の推移」が確認された主要項目を抽出したものが図3-5である。これにより、 ノイズの背景にある業務構造の変化をより詳細に捉えることが可能となった。 【図3-5】陽空ひだまり 業務時間比較(主要項目の推移) ⑤ 分析結果の考察:効率化への着手と「過渡期」の業務構造 比較データを確認すると、「記録」および「連絡調整」において、わずかながら減少の兆しが確認さ れた。これは、送迎業務の合間や移動先からでもICTツールを通じて情報の集約化・共有が図 られ始めた結果であると推察される。 一方で、これらの削減幅が限定的である点は、現時点では「従来のアナログ的な確認・連絡手 順」と「デジタルでの共有」が並行して動いている、あるいはシステム習熟の途上にある(過渡 期)ことを示唆している。しかし、その過程においても「見守り」等の直接支援時間は維持・微増 22 傾向にあり、間接業務の整理によって生じたわずかな余力が、着実に利用者(児童)への関わ りへと還元され始めている。 今後は、送迎前後におけるICT活用の標準化をさらに進めることで、二重業務の解消が加速 し、本拠点が目指す「送迎比重の高い現場における心理的余力の創出」がより顕著な数値とし て表れることが期待される分析結果となった。 (3) 放課後等デイサービス:青空ひだまり ① サービスの特色と多職種連携体制 青空ひだまりは、利用定員20名の放課後等デイサービスおよび児童発達支援事業所である。 知的障害、重症心身障害、自閉症といった多様な特性を有する児童を対象としており、看護 師、理学療法士、作業療法士、保育士など、多職種による高度なチーム支援体制を構築して いる拠点である。 ② 多種多様な業務が交錯する高密度な業務構造 同拠点におけるタイムスタディ調査の実測データ(図3-6)を参照すると、一つの業務に費やさ れる平均時間は最大でも30分強に留まっていることが確認された。この結果は、全調査対象拠 点のなかでも特筆すべき点であり、「短時間の多種多様な専門業務を、職員が頻繁に切り替え ながら並行してこなしている」という、極めて高密度かつ複雑な業務構造が浮き彫りとなった。 23 【図3-6】青空ひだまり 業務ランキング(Before/After) 【深堀り分析】稼働モード(平日・休日)による業務構造の違い 同拠点の「高密度な業務構造」をより正確に把握するためには、利用児童の学校の有無による 「稼働モード(平日稼働と休日稼働)」の違いを考慮する必要がある。児童が午後から来所す る「平日稼働(午後利用)」と、朝から夕方まで滞在する「休日稼働(1日利用)」では、現 場で発生する業務の性質が根本的に異なるためである。 本調査データを平日と休日に分割し、 24 分類ごとに業務項目の平均所要時間を比較したところ、以下の実態が浮き彫りとなった(図3- 7)。 【図3-7】稼働モード別(平日・休日)業務項目の平均所要時間比較 ● 平日稼働(午後利用)の業務構造:児童不在時間の活用と夕方の集中 平日においては、「カンファレンス」や「研修」「教育指導」「居室清掃」といった間接・管理業務 の時間が突出して長くなっている。これは、児童が来所する15時頃までの「児童不在の午前 中」を活用して、施設運営に必要な会議や環境整備をまとめて行っている実態を示している。 25 一方で、夕方以降は「送迎運転」などの移動業務が一気に発生し、限られた時間内で高密 度な支援と送迎をこなす「局所的な業務集中」が発生しやすい構造となっている。 ● 休日稼働(1日利用)の業務構造:継続的な直接ケアによる負荷 対して休日においては、「レク(余暇活動)」「一般浴」「食事介助」「見守り」といった直接的 なケア業務の時間が圧倒的な比重を占めている。朝から夕方まで長時間の支援が途切れるこ となく続くため、平日とは異なり、日中に会議や書類作成などの「間接業務」を行う時間を確保 することが構造上極めて難しい状態にある。このように、同拠点においては稼働モードによって 「時間を奪われる業務(ボトルネック)」が異なるという波を日々乗りこなしている。 ③分析の視点:ICTによる業務の整序 「送迎運転」や「生活支援」、「他直接支援」に加え、医療的ケアやリハビリ、創作活動、課外活 動など、多岐にわたる専門業務が入れ替わる。このような現場では、ICTによる迅速な情報共有 や記録の効率化が、頻繁な業務の切り替えに伴う「判断の迷い」や「情報の漏れ」を抑制し、多く の専門業務を安定して遂行するための基盤となっている。 ④ ICT導入前後における主要業務の推移 上記のような多職種連携が求められる環境において、業務内容にどのような変化が見られたかを 検証するため、前後2回の調査結果を比較した(図3-8)。 分析の結果、「生活支援」や 「教育指導」、「研修」、「カンファレンス」といった項目で大幅な増加が確認された。一方で、 Before調査で上位であった「送迎運転」や「医療処置」、「見守り」などの項目は減少あるいは 維持の傾向を示している。これらの推移は、ICT導入に加え、日々の利用児童の特性や支援ニ ーズの変化、あるいは活動プログラムの重点化など、その時々の現場実態を反映したものと言え る。 26 【図3-8】青空ひだまり 業務時間比較(主要項目の推移) ⑤ 分析結果の考察:多職種連携の深化とケア内容の可視化 比較データによれば、主業務である「生活支援」等の直接支援に関する時間が増加しており、多 職種が連携して児童一人ひとりに深く関わる体制が維持されていることが数値から伺える。特筆 すべきは、間接業務における「記録」と「連絡調整」の対照的な推移である。実測値において「記 録」時間が減少する一方で、「連絡調整」は増加(約1分未満から約5分超へ)している。こ れは、モバイル端末の活用により「記録」そのものが短時間で完結できるようになった一方で、イン カム等の導入によって、従来は移動中や作業の合間に埋没していた微細な「連絡・相談」が、測 定可能な業務として明確に可視化された結果と考えられる。以上のことから、2回の分析を通じ て、ICTは単なる時短手段に留まらず、複雑な専門業務を整序し、現場の情報流通を円滑化 するための「多職種連携のプラットフォーム」として、同拠点の業務構造を支える一助になっている と言える。 (4) 短期入所:星空ひだまり ① サービスの特色と業務の根幹 星空ひだまりは、小児から成人までを幅広く受け入れる利用定員4名(完全個室)の短期入 所拠点である。宿泊を伴うというサービス特性上、食事、更衣、排泄等の生活支援に加え、夜 間・早朝帯における「見守り」が業務の根幹をなしている。 ② 業務構造の実態:「見守り」と「情報共有」の比重 同拠点におけるタイムスタディ調査の実測データ(図3-9)を参照すると、ICT導入前 (Before)および導入後(After)の双方において「見守り」が全業務時間の最上位を占めて 27 おり、次いで「他間接業務」や「記録」が高い比重を示している。これは、完全個室での宿泊支援 において、利用者の安全を常時確保しつつ、交代制(シフト制)で勤務する職員間で正確かつ 網羅的な引き継ぎを行うための時間が、構造的に不可欠であることを定量的に示している。 【図3-9】星空ひだまり 業務ランキング(Before/After) 28 ③ 分析の視点:個別支援の質と継続性を担保するICTの役割 After調査においても「間接業務」や「記録」が上位を維持している事実は、定員4名の少人 数制による「個人の特性を尊重した個別支援」を徹底するため、多職種間でのカンファレンスや詳 細な状態共有に対して安定して時間が割かれている実態を示唆している。 したがって、宿泊を伴 い職員の入れ替わりが頻繁に発生する高負荷な現場において、ICT導入の真の価値は単なる 「記録時間の短縮」ではない。モバイル端末等を用いた情報の「都度入力・即時共有」を実現す ることで、夜間から日中への引き継ぎ時の情報欠損を防ぎ、24時間体制における「支援の継続 性と安全性」を強固に担保することこそが、本拠点における極めて重要な評価軸となる。 ④ ICT導入前後における主要業務の推移 24時間体制の支援において、ICT導入が「現場の事実」をいかに精密に捉えるようになったか を検証するため、前後2回の調査を比較した(図3-10)。 【図3-10】星空ひだまり 業務時間比較(主要項目の推移) ⑤ 分析結果の考察:潜在的ケアの可視化と24時間の支援密度向上 比較データによれば、 「見守り」が大幅に増加したほか、「オムツ介助」や「食事介助」等の直接支援項目についても数 値の伸びが確認された。これは、ICT端末(タブレット等)を常に携行し、支援の現場で「リアル タイムに入力・記録を行う習慣」が定着したことにより、これまで記録から漏れがちであった夜間帯 や早朝帯の細やかなケア実態が、正確に数値として可視化されるようになった結果であると考えら れる。 29 また、「記録」や「他間接業務」が維持・微増している点は、個別性の高い短期入所において、 ICTが単なる効率化ツールではなく、「得られた膨大な情報を、欠損させることなく次のシフトへ繋 ぐための高度な共有基盤」として機能していることを示している。 以上のことから、2回の分析を通じて、星空ひだまりにおけるICT導入は、「見えていなかった支 援の総量」を浮き彫りにし、24時間絶え間ない個別支援の質と安全性を、より確かなエビデンス に基づいて担保する体制へと進化したと言える。 (5) 相談支援:虹色ひだまり(A法人)・びわりん(B法人) ① サービスの特色と高度な専門性 虹色ひだまり(A法人)および、びわりん(B法人)は、障害児・者やその家族からの相談に 応じ、サービス等利用計画の作成やモニタリングを担う「相談支援」を主たる業務とする拠点であ る。特に「びわりん」においては、重症心身障害児者の相談支援に特化しており、要医療児者支 援体制加算を算定するなど、医療的ケアを要するケースにも対応可能な専門性の高い支援体 制を備えている。 ② 業務構造の実態と測定期間特有の変動 両拠点におけるタイムスタディ調査の実測データ(図3-11)を参照すると、双方ともに「記録」 「モニタリング」「連絡調整」といった間接・相談業務が上位を占めていることが確認された。なお、 虹色ひだまりにおいて「研修」が最上位に位置している点については、前述の通り調査期間中に 特定の外部研修が重なったことによる一時的な変動(ノイズ)によるものと判断される。そのた め、恒常的な業務構造の評価においては、これを除外して解釈することが妥当である。 30 【図3-11】相談支援 業務ランキング(虹色ひだまり/びわりん) ③ 分析の視点:場所の制約による「情報の停滞」と「心理的二重負荷」の解消 相談支援業務は、入所・通所サービスと異なり、支援の現場(利用者宅や関係機関)と記 録・事務の現場(事務所)が物理的に切り離されている。本調査のヒアリングに基づくと、ICT 未導入環境における相談員の業務構造には、数値データ以上の「目に見えない負荷」が潜んで いることが浮き彫りとなった。 31 ● 「記憶と手書きメモ」への依存からの脱却 従来、外出先や休暇中に受けた情報は、個人のノ ートへの細かなメモや記憶に頼らざるを得ず、これが事務所に戻ってからの「再入力」という二度 手間(情報の滞留)を生んでいた。スマートフォン導入後は、出先での即時の情報検索や共 有が可能となり、「情報を事務所に持ち帰って処理する」という時間的・心理的なタイムラグが 劇的に短縮されている。 ● 「移動時間」の有効活用と支援の機動性向上 「移動中でもZoom研修の視聴が可能にな った」「iPhone同士で動画や画像(歩容や靴底の状況等)を即座に専門職と共有できた」 という声は極めて重要である。これは、相談支援における「移動」が単なるデッドタイムから、「専 門的な連携や自己研鑽が可能な可動時間」へと質的に転換したことを示している。 ● コミュニケーション手段の多様化による「つながり」の維持 LINEメッセージやビデオ通話を活用 した面談・連絡が可能になったことで、従来の電話や訪問という手段に縛られない柔軟な対応 が実現している。これは、相談支援の主業務である「モニタリング」や「連絡調整」の密度を、場 所の制約を受けずに高められることを意味する。 結論としての分析軸の転換: 相談支援の評価においては、単なる「記録時間の短縮」という一 側面のみを追うべきではない。今回の実証では、現場での「記録専用ツール」等は未導入であり、 端末もスマートフォン(iPhone)のみという限定的な環境であったが、それでもなお「場所の制約 から解放されたことによる心理的ゆとり」が顕著に現れている点は特筆に値する。 相談支援は他サービスに比べ、情報の発生源(外出先)と処理場所(事務所)の物理的距 離が最大である。そのため、スマートフォン1台によって「出先での即時検索」や「画像による専門 職連携」が可能になっただけでも、情報の停滞というボトルネックが解消され、業務の質は劇的に 変化する。 Afterデータに見られる「連絡調整」や「記録」の時間の維持は、決して効率化が進んでいないこ とを意味しない。むしろ、これまで事務所で「重い事務作業」として後回しにされていた情報処理 が、スマートフォンの機動性によって「鮮度の高い機動的な連携」へと昇華された結果であると評 価できる。今後は、スマートフォンという起点に加え、音声入力や現場完結型の記録ツールが加 わることで、相談支援領域の生産性はさらに飛躍的に向上する余地(ポテンシャル)があること を、今回の分析軸は示唆している。 3.3.3. 業務の標準化と「ムラ」の検証(分散分析) (1) 分析の狙い:「記録」および「連絡調整」の深掘り 本調査では、ICT導入による直接的な行動変容が最も期待される「記録業務」と、多職種連 携の中核を担う「連絡調整業務」を重点分析対象とした。これらの業務は、個々の職員が1日 のうちに短時間(数分)から長時間(1時間程度)まで不規則に反復するため、単純な「平 均値」の比較だけでは実態の「ムラ(所要時間のバラつき)」を正確に捉えきれない特性を持 つ。 さらに、看護職員における医療処置記録、介護職員における日々の生活記録、リハビリ職に おける経過記録など、職種ごとに記録の性質や発生頻度が大きく異なる。そのため、本項では職 32 種別の分散分析を行うことで、ICTがそれぞれの専門業務にどのような影響を及ぼしたかを高解 像度で検証する。 (2) 分析手法:箱ひげ図を用いた「標準化」の評価 1回あたりの業務時間に生じている「ムラ(バラつき)」を視覚的かつ統計的に評価するため、箱 ひげ図(Box-plot)を用いた分析を実施した。 本分析においては、データの信頼性を担保する ため、ICT導入前(Before)および導入後(After)の両調査に参加した18名の職員(マ ッチングサンプル)の実測データを抽出して使用している。 ● 箱の長さ(四分位範囲): 短いほど1回あたりの所要時間のバラつきが小さく、誰がいつ業 務を行っても安定した時間で処理できている状態(=業務の標準化)が進んでいることを示 す。 ● 外れ値(プロット点・★マーク): 統計的に突出して長時間を要した「イレギュラーな業務」を 指す。これらの減少・低下は、特定のケースにおける「記録の長時間滞留」が解消され、業務 負荷の突発的なスパイク(跳ね上がり)が抑制されていることを意味する。 (3) 記録業務における標準化の検証 同18名のサンプルにおける記録業務の所要時間分布(図3-12)を参照すると、全体および 職種別に以下の傾向が確認された。 33 【図3-12】記録業務における1回あたり所要時間の分布比較(全体・職種別) ● 全体傾向の安定推移: 全体の中央値に大きな変動は見られず、従来の紙媒体からデジタ ル端末への移行プロセスが、現場に大きな混乱や入力遅延をもたらすことなくスムーズに受容さ れたことが伺える。 ● 看護職員における長時間滞留の解消: 職種別に比較すると、特に看護職員において、 Before調査で散見された長時間記録(30~60分)の外れ値が、After調査では明確 に解消されている。これは、モバイル端末を用いた「その場入力(リアルタイム記録)」の定着 が、事後的な記録作業の長時間滞留を劇的に抑制した成果と評価できる。 ● 介護職員における過渡期の課題: 一方で、介護職員においては、After調査で「箱」の長 さ(バラつき)が拡大する傾向が見られた。これは、デジタル機器の操作習熟度に関する個 人差が一時的な「ムラ」として表出している過渡期の現象と推察され、今後の施設内における 継続的な操作支援・研修が必要な領域として特定された。 (4) 連絡調整業務の可視化と密度の変化 続いて、連絡調整業務の所要時間分布(図3-13)を参照すると、記録業務とは異なる特異 な変化が確認された。 34 【図3-13】連絡調整業務における1回あたり所要時間の分布比較(全体・職種別) ● コミュニケーション密度の向上: 全体傾向として、After調査における「箱」が上方へ拡張して おり、1回あたりの連絡調整にかける時間(コミュニケーション密度)が高まっていることが示さ れている。 ● 「隠れた業務」の定義化と可視化: 特に介護職員において、Before調査では極めて少な かった連絡調整の記録データが、After調査では明確なボリュームを持って計上されている。こ れは、ICT導入以前は移動中や介助の合間に「口頭での立ち話」として処理され、データとし て埋もれていた細やかな情報共有が、デジタルツール(インカム等)を介することで「認識・測 定可能な正式な業務」として可視化された結果であると解釈できる。 ● 情報連携の資産化と確実性の担保: 情報共有の手段が「手書きや個人の記憶」から「デジ タルデータ」へと進化したことで、現場の細やかな連携プロセスが「組織の共有資産」として可視 35 化・蓄積される環境が構築された。これにより、多職種間での伝達ミスの抑制や、情報共有の 確実性が大幅に向上する可能性が示唆された。 3.3.4. 時間帯別業務密度の検証(「山」の推移) (1) 分析の目的:業務ピークの「山崩し(平準化)」を検証する 本項では、ICT(インカムやモバイル端末等)の導入が1日の業務フローにどのような影響を与 えたかを検証するため、時間帯別積み上げ解析を実施した。障害福祉現場において常態化して いる「特定の時間帯への業務集中(山)」が、導入前後でどのように分散し、平準化されたかを 可視化することを目的としている。 (2) 導入前後における業務密度の変化(概念) 実測データの分析に先立ち、ICT導入が現場の業務構造にもたらした質的な変化の概念を表 3-1に整理する。特定の時間帯に業務を「溜め込む」アナログな構造から、事象発生の都度「リ アルタイムに処理する」デジタルな構造への転換が、本検証における最大の評価軸となる。 【表3-1】ピーク時間帯における業務密度の変化(概念) 指標 Before(ICT未導入時) After(ICT導入後) 情報の流れ 特定の時間に「まとめて」共有 発生の都度「リアルタイム」に共有 業務の重なり 支援・記録・連絡が重複し「山」を作る 連絡が分散し「平準化」される 現場の感覚 突発的な多忙感が発生 予測可能性が高まり、安心感が増す (3) 各拠点における時間帯別業務密度の推移 本項では、前後比較の精度を担保するため、継続的に調査に参加した職員18名(マッチング サンプル)のデータを用いて、1日の時間帯ごとの業務構成を分析した。総測定時間が増加 (可視化)したAfter調査においても、特定の時間帯への負荷集中がどのように変化したかを 拠点ごとに検証する。 36 ①生活介護:大空ひだまり(夕方の業務構造の転換) 【図3-14】拠点別・時間帯別業務密度の推移(Before/After) ● 業務構造の変化:時間帯別業務密度の推移(図3-14)を参照すると、Before調査に おいては、16時台に「記録」が突出したピーク(山)を形成していた。しかしAfter調査で は、同時間帯における記録のボリュームが明確に抑制され、代わって「連絡調整」が最大の比 重を占める構造へと変化している。 ● 考察:モバイル端末の活用により、従来は夕方にまとめて行われていた記録業務が、日中 (10時~15時台)へと分散して処理される傾向が見られた。その結果、サービス終了間 際の多忙な時間帯において、職員個人の記録作業に割く時間が減少し、代わってチーム内で の連絡調整に時間を充てられるようになったと推察される。これは、ICT導入が夕方帯の業務 負荷の分散と、職員間の情報連携の促進に寄与している可能性を示唆している。 37 ②短期入所:星空ひだまり(記録習慣の定着とリアルタイム化) 【図3-15】星空ひだまり 時間帯別業務密度(Before/After) ● 業務構造の変化:時間帯別業務密度の推移(図3-15)に示す通り、Before調査 において9時台に見られた「記録」の突出したピークがAfter調査では減少し、代わって 9時~10時台に「連絡調整」が大きなボリュームを占める構造へと変化している。一方 で、After調査においては、新たに4時台および20時台に「記録」の極端に高いピーク (業務集中)が発生している点も確認された。 ● 考察:従来は朝の申し送り時間帯(9時台)に集中していた記録の確認や追記作業 がICT化によって効率化され、その時間をシフト交代時の「連絡調整(チーム内での情 報共有)」に充てられるようになった様子が伺える。これは連携の質的向上という観点か ら前向きな変化と捉えられる。 しかし同時に、4時台(夜勤帯の終盤)や20時台 (夕方の支援が落ち着く時間帯)に記録業務が局所的に集中している現象は、デジタ ル端末を導入してもなお「特定の時間にまとめて入力する」という運用習慣が残存してい る可能性を示唆している。宿泊を伴うサービスにおいて情報のリアルタイム性をさらに高め るためには、これらの時間帯における入力手順の見直しや、業務の合間での随時入力を 定着させるための継続的な環境整備が今後の課題として推察される。 38 ③多機能型:陽空ひだまり(連絡調整の適時化と効率的な連携) 【図3-16】陽空ひだまり 時間帯別業務密度(Before/After) ● 業務構造の変化:図3-16を参照すると、Before調査では、連絡調整が特定の時間帯 (10時台や14時台)に限定して局所的に発生していた。対してAfter調査では、11 時、14時、17時など、1日を通して必要なタイミングに細分化されて連携が行われる構造へ と変化している。 ● 考察:インカム等の導入により、特定の場所に集まったり、支援の手を止めたりすることなく、 現場にいながら即座に情報共有を行うことが可能となった。業務の合間に必要な連携をシー ムレスに完結させる「適時化(タイミングの最適化)」が進んだことで、複雑な工程管理を要す る多機能型施設において、機動的かつ効率的なチーム運営が実現されつつある様子が伺え る。 39 ④放課後等デイサービス:青空ひだまり(連絡調整の可視化と即時共有) 【図3-17】青空ひだまり 時間帯別業務密度(Before/After) ● 業務構造の変化:同拠点の推移(図3-17)に示すように、Before調査では特定の時 間帯にわずかに記録されるに留まっていた「連絡調整」が、After調査では午前(9時台) から午後(17時台)にかけて明確なボリュームを持って計上されている。特に始業直後(9 時台)においては、当日の支援に向けた連絡調整の時間が突出したピーク(山)を形成し ている状態が確認された。 ● 考察:After調査において「連絡調整」の記録ボリュームが全体的に増加した背景には、タイ ムスタディ調査における分類の明確化や、インカム等ICT機器の活用により、これまで記録に 残りにくかった細やかな情報連携が「測定可能な業務」として可視化され、現場のリアルな実 態がより正確に把握できるようになったことが大きいと推察される。 一方で、9時台に連絡調 整の極端なピークが発生している事実は、当日の業務調整や情報共有がこの特定の時間帯 に大きく依存している構造を示している。今後は、この始業時に集中する巨大な「山」をいかに 分散・平準化できるかが、さらなる業務改善の鍵となる。たとえば、ICTツールを活用した非同 期での事前共有(チャットや掲示板への事前入力等)を定着させ、朝の特定時間帯におけ る情報伝達の負荷を分散させることが、今後の運用上の課題として推察される。 3.3.5 小括:測定精度の向上と「支援の質」への転換プロセス 本章のタイムスタディ検証において、総測定時間はBefore調査(27,009.1分)からAfter 調査(53,095.9分)へと約2倍に大幅増加した。これは現場の業務量そのものが倍増したこ とを意味するものではない。現場職員が測定手法(アプリ操作等)に習熟し、日々の記録漏れ が大幅に減少したことで、「データの網羅性と測定精度が劇的に向上した結果」であると評価でき 40 る。 これまで不可視であった細やかな業務実態が高い解像度で客観的に捉えられるようになった 事実を前提とし、各拠点のデータから読み取れたICT導入による質的変化の兆しと今後の課題 を以下に総括する。 ① 業務ピークの「山崩し(平準化)」の進展と残存課題の特定 夕方帯など特定の時間帯に突出して溜め込まれていた業務の「山」が削られ、日中のスキマ時 間に分散(平準化)して処理される傾向が複数の拠点で確認された。特定の時間帯への極端 な業務集中が緩和されたことで、職員の心理的・肉体的な負荷の突発的なスパイクが抑制され つつある。一方で、拠点によっては依然として特定時間帯への「入力集中(新たなピーク)」が確 認されており、「いつ・誰が・どのタイミングで入力・共有するか」という運用ルールのさらなる最適化 が、次なる課題として明確に特定された。 ② 「即時性」の向上による情報鮮度と連携の確実性確保 モバイル端末等の活用により、支援の現場を離れることなく「その場での記録・情報共有」を行う 運用への移行が見られた。記憶が鮮明なうちに事象がデジタルデータとして蓄積される構造へと変 化したことは、交代制勤務における引き継ぎの確実性を高め、障害福祉現場において命綱となる 「情報の正確性や速報性、継続性」といった支援の質的側面の強化に直結していると推察され る。 ③ 「隠れた連携業務」の可視化と客観的資産化 多職種連携や送迎業務の前後に生じる「連絡調整」の重みが、ICTツールの活用と測定精度 の向上によって、初めて客観的な数値として言語化・定義された。これまで移動中や介助の合間 の「立ち話」として処理され、データ上は存在していなかった“支援の質を支える不可欠な連携時 間”が可視化されたことは、今後の適切な人員配置や業務改善、さらには職員の正当な評価を 議論するための極めて重要な客観的土壌となる。 ④ 非生産的な「隙間時間」の抽出と価値ある「連携」への再配分 本調査において「連絡調整」時間の増加傾向が確認された一方で、それと対照的に削減・抑制 された業務は、拠点ごとのサービス特性により「移動」「待機」「付随的事務」など多岐にわたる。こ れらは一見すると数値上では劇的な「時短」として現れにくいが、現場ヒアリングを通じた定性的な 分析により、以下のような「業務の置換(トレードオフ)」が起きていることが明らかとなった。 ● 「移動・待機」から「即時共有」へ:入所・通所系拠点(大空・陽空)では、インカム導入に より「スタッフを探して歩き回る移動」や「指示を仰ぐための待機」が削減され、その余力がリアル タイムな「連絡調整」へと転換された。 ● 「二度手間」から「随時入力」へ:放課後等デイサービス拠点(青空・星空)では、モバイル 端末携行により、事務所に戻ってからの「思い出し入力」という二度手間が抑制され、支援の 合間の隙間時間を活用した「報告・相談」へとシフトした。 41 これらは、アナログな環境下で埋没していた断片的な時間が、ICTという道具を介して「質の高い 連携(連絡調整)」へと再配分された結果である。特定の業務が単純に消失したのではなく、 業務の質そのものが「停滞」から「流動」へと変化したものであり、介護現場における生産性向上 の本質的な成果であると結論付けられる。 3.4. 職員の心理的ストレスと意識変容の分析 3.4.1. 調査概要と回答者属性 本章では、ICT導入による業務構造の変容が、職員の心理的負担や意識に対してどのような影 響を及ぼしたかを検証するため、無記名式のアンケート調査を実施した。本調査は、テクノロジー の導入が単なる効率化に留まらず、対人援助職としての心理的安全性をいかに支えているかを 明らかにすることを目的としている。 ● 調査手法:心理的ストレス尺度(SRS-18)および、ICT導入効果に関する独自設問 (5件法) ● 有効回答数:計30名(A法人:26名、B法人:4名) ● 回答者属性:生活支援員(12名)、看護職(6名)、リハビリ職(2名)、相談員 (3名)、管理者(7名) 本分析の最大の特徴は、ICT導入・運用が定着している「A法人」と、未導入の「B法人」を対 照させる点にある。これにより、テクノロジーによるバックアップ体制の有無が、職種や職位を超えて メンタルヘルスに与える影響を抽出した。 42 3.4.2. 組織全体の心理的ストレス傾向(SRS-18分析) 心理的ストレス尺度(SRS-18)を用い、「抑うつ・不安」「不機嫌・怒り」「無気力」の3因子 について、法人別のストレスプロファイルを算出した(図4-1)。各因子の平均スコアは、数値が 低いほど心理的ストレス反応が少なく、健康度が高い状態を示す。 【図4-1】法人別ストレスプロファイルの比較(SRS-18スコア) 法人別の平均スコア: ● A法人(導入済み): 抑うつ・不安(1.70)、不機嫌・怒り(1.44)、無気力 (1.42) ● B法人(未導入): 抑うつ・不安(1.13)、不機嫌・怒り(1.04)、無気力(1.13) 全体傾向の解釈: 図4-1の結果を参照すると、スコア上は未導入のB法人がA法人を下回 っており、ストレス反応がより少ない傾向を示している。この要因の一つとして、両法人の「回答者 属性の構成」が影響している可能性が考えられる。未導入のB法人は経験豊富な「管理者層」 が回答の主体であるのに対し、導入済みのA法人は直接支援を担う「現場処遇職」が主体とな っている。こうした職務特性や責任範囲の違いが、数値の乖離に一定程度反映されているものと 推察される。 A法人の健康度に関する考察: A法人の平均数値(1.42~1.70)に着目すると、緊張感 の高い直接支援に従事する現場職員が主体でありながら、全体として比較的安定した水準に収 まっていると評価できる。この背景には、第3章で検証した「業務の平準化(山崩し)」等の取り 組みが、現場職員の心理的負担を一定の範囲内に留めるための、補助的な役割を果たしてい る可能性も考えられる。 43 3.4.3. 職種・役割別のストレス構造(詳細比較と職務特性の検討) 本節では、職種ごとの職務特性とICT活用の有無が、職員の心理状態にどのような影響を及ぼ しているかを、SRS-18の因子別スコアに基づき詳細に分析する。 (1) 生活支援員:直接支援の現場における心理的状況の検討 直接支援を主業務とする生活支援員(A法人)のストレスプロファイルは、図4-2の通りであ る。 【図4-2】生活支援員のストレスプロファイル(A法人) ● ストレス反応スコア(A法人平均): 抑うつ・不安(1.52)、不機嫌・怒り(1.38)、無気力(1.34) 分析と考察: 直接支援を担う生活支援員は、全職種の中でも相対的にスコアが低く、安定した心理状態にあ ることが確認された。この要因については多角的な検討が必要であるが、第3章で確認された 「連絡調整の可視化」や「情報の即時把握」といった業務環境の整備が、現場特有の孤立感や 「状況が見えないことによる不安」を軽減させる一助となっている可能性が考えられる。 日々の多 忙な業務の中でも、情報の断絶が起きにくい環境が保たれていることが、心理的な安定を支える 副次的な要因として寄与しているものと推察される。 44 (2) 相談支援専門員:情報流通の不一致による「調整過負荷」のリスク 相談支援専門員におけるA法人・B法人の比較は、図4-3に示す通り、本調査において最も 顕著な差が現れた項目である。 【図4-3】相談支援専門員のストレスプロファイル(A・B法人比較) ● ストレス反応スコア(法人別): ○ A法人: 抑うつ・不安(2.10) 、不機嫌・怒り(3.17) 、無気力(3.17) ○ B法人: 抑うつ・不安(1.50) 、 不機嫌・怒り(1.17) 、無気力(1.34) 分析と考察: 両法人の相談支援専門員(いずれもICT未導入)のスコアを比較すると、特にA法人の相 談員において「不機嫌・怒り」および「無気力」の項目が、他の職種やB法人の同職種と比較し て高い値を示している。 この要因については、個別の事案の重なりや時期的な業務負荷など多岐にわたる可能性が考え られるが、客観的な状況として、直接支援現場(A法人)のリアルタイムな情報共有が進む中 で、外部調整を担う相談業務に依然としてアナログな手順(手書きメモの再入力や事務所への 帰還を前提とした作業等)が残っている場合、情報の集約地点に一時的な負荷が集中しやす い構造にあることが推察される。 特定の職種において突出した数値が見られることは、組織全体の業務バランスや情報流通のあり 方を検討する上での一つの指標となり得る。 45 (3) 管理者:組織運営の役割に伴う心理的状況の比較 各法人の管理職におけるストレスプロファイルの比較は、図4-4の通りである。 【図4-4】管理者のストレスプロファイル(A・B法人比較) ● ストレス反応スコア(法人別): ○ A法人: 抑うつ・不安(1.58) 、不機嫌・怒り(1.25) 、無気力(1.33) ○ B法人: 抑うつ・不安(1.00) 、不機嫌・怒り(1.00) 、 無気力(1.06) 分析と考察: A法人の管理者はB法人と比較して、各因子において相対的に高い傾向が見られる。この背 景には、A法人が現在、業務改善や新たなシステム運用の定着プロセスといった組織的な変革 期にあることが、管理層の心理的負荷に一定の影響を与えている可能性が考えられる。新しいマ ネジメント手法への適応や、現場のサポート体制の構築など、多岐にわたる調整業務が重なる時 期特有の状況が数値に反映されているものと推察される。 一方で、B法人の極めて低い数値(全項目1.00~1.06)については、回答者数が限定的 であることに加え、管理職としての強い責任感や自己効力感が回答に反映されやすいという、職 位特有の傾向も考慮する必要がある。 特定の導入ツールとストレス値の因果関係を断定することは困難であるが、組織が変化する過程 において、管理職が担う役割の重さが心理的状況にどのように現れるかを示す一つのデータとして 捉えるのが妥当である。 3.4.4. ICT導入による業務効率化と職員の意識変容の相関分析 本項では、タイムスタディ調査による「実測時間の変化」が、職員の心理状態や意識に対してどの ような質的変化をもたらしたかを、クロス集計により検証した。 46 (1) 分析の目的・方法 「実測値として業務時間が削減されたグループ」と「そうでないグループ」の間で、ICT導入に対す る実感やストレス反応にどのような差異が生じているかを抽出することを目的とする。 ● 分析対象 ○ TS調査の前後測定を完遂し、かつ意識調査に有効回答のあったA法人の職員13名 (マッチングサンプル)。 ● 群分けの定義: ○ 削減成功群(5名):TS実測値において、1日あたりの記録・連絡調整等の合計時 間が減少した職員。 ○ 停滞・増加群(8名):実測値において、削減に至らなかった、または習熟過程等によ り増加した職員。 ● 使用指標と設問内容: ○ ICT導入後の変化実感(Q25・Q26): 「ICT導入以前と比較して、以下の項目は どのように変化したか」を問う設問。 (尺度:-3[非常に悪化した] ~ 0[変化な し] ~ +3[非常に改善した]の7段階評価) ■ ※主な項目:精神的余裕、情報の即時把握、教育時間の確保、事故 分析への活用など。 ○ 心理的ストレス反応(SRS-18): 現在のストレス状態を測定。 (尺度:1[全くち がう] ~ 4[その通りだ]の4段階評価) (2) 分析結果:実測時間の削減と意識変容の相関 【表4-1】削減の有無による意識調査(Q25/26・SRS-18)比較集計 カテゴリ 設問・指標名 削減成功群 (n=5) 停滞・増加群 (n=8) 差 (効果量) 意識変容 (Q25/Q26) 精神的余裕 1 0.38 0.62 ストレス減 0.6 -0.25 0.85 即時把握 1.2 -0.75 1.95 教育時間確保 1.2 -0.25 1.45 優先順位の明確化 1.2 0.13 1.07 事故分析活用 1 -0.25 1.25 ストレス (SRS-18) 腹立ち 2 1.25 0.75 悲しみ 1.6 1.13 0.47 ※Q25/26は変化実感(-3~3点)、SRS-18はストレス反応(1~4点) 47 ① 「情報の即時性」がもたらす判断の余裕 表4-1の通り、全項目で最大の乖離(差+1.95)が見られたのは「情報の即時把握」であっ た。 実働時間の削減に成功している職員ほど、インカムやモバイル端末によるリアルタイムな情報 収集を「以前より改善した(スコア1.2)」と強く実感している。この「今、優先すべきことは何か」 という判断材料の即時入手が、優先順位の明確化(差+1.07)に直結しており、結果として 心理的な「精神的余裕」を生む最大の源泉となっている可能性が示唆される。 ② 専門的ケア・教育への意欲シフト 実測値で時間を創出した「削減成功群」では、「教育時間の確保(差+1.45)」や「事故分析 への活用(差+1.25)」の改善実感が突出して高い。 これは、ICTによる事務時間の削減 が、単なる「余剰時間の発生」に留まらず、後輩指導や安全管理といった「対人援助職としての 専門性の発揮」へと職員の意識をポジティブにシフトさせていることを示す象徴的な結果と言える。 ③ 潜在的な課題:習熟過程における心理的負荷 一方で、時間削減に至らなかった「停滞・増加群」では、ストレス減少の実感がマイナス値(- 0.25)を示している。これは、ICTツールの操作習熟や運用ルールの変更に伴う一時的な負荷 が、導入効果の実感を上回っている状態にあることを示唆している。 全ての職員がテクノロジーの 恩恵を享受するためには、個々の習熟度に合わせた継続的なサポート体制が、心理的負担を軽 減する鍵となることが浮き彫りとなった。 3.4.5. 小括:物理的余暇から「心理的余白」への転換 第4章における心理的ストレス尺度(SRS-18)および意識調査の分析により、ICT導入が 職員にもたらした心理的影響について、以下の3点に集約される知見を得た。 ● 業務の予測可能性向上による心理的安定 アンケート(Q25/26)において「情報の即時 把握」の改善を実感している職員ほど、精神的な余裕を感じている傾向が確認された。「次に 何をすべきか」「他者がどこで何をしているか」がリアルタイムに共有される環境は、対人援助職 特有の「見えない状況への不安」を和らげる一助となっている可能性がある。これは単なる時 間の短縮を超えた、心理的なセーフティーネットとしての側面を示唆している。 ● 多機能型拠点における「スイッチング・コスト」の抑制 複雑な業務構造を持つ多機能型拠点 においては、役割の切り替えに伴う心理的負荷(スイッチング・コスト)が生じやすい。ICTに よるシームレスな情報連携は、こうした「情報の探し直し」や「伝達の停滞」に伴う脳の疲労を 軽減し、疲労感の蓄積(無気力)を抑制する補助的な要因となっていることが推察される。 ● 組織的な情報流通の最適化に向けた課題の可視化 職種別の分析では、直接支援職の心 理状態が比較的安定している一方で、情報の結節点となる相談支援専門員において、特定 のストレス反応が突出して高いという客観的な事実が示された。これは、組織内の一部で情 48 報の高速化が進む中で、アナログな調整業務が残存している箇所に負荷が集中するという 「業務のひずみ」が生じている可能性を示している。 本章で得られた知見は、テクノロジーの導入効果が職種や業務習熟度によって多層的であること を示している。次章では、これらの「職種間のギャップ」を埋め、組織全体のレジリエンス(回復 力)を高めるための具体的なモデルを提言する。 3.5. 業務効率化と職員意識の相関分析(深掘り検証) 第3章のタイムスタディで判明した「物理的な業務構造の変化」と、第4章で確認された「心理 的ストレスの安定」について、その因果関係をアンケート調査に基づき深掘りする。 3.5.1. 分析の目的と方法 本項では、ICT導入が職員の「働きやすさ」にどのような質的変化をもたらしたかを構造的に検証 する。単なる作業時間の短縮という定量的な結果に留まらず、その内実を紐解くことで、現場へ の定着に向けた成果と課題を明確にすることを目的としている。 ● 分析対象: A法人 現場職員および管理者(n=26) ● 分析手法: ○ 量的分析: 職場環境実感(Q26)の分布および平均値の算出、働きやすさの要因選 択(Q27)のカテゴリ別集計 ○ カテゴリ分析: Q27の選択肢を「連携・共有」「効率・余裕」「質・育成」の3軸に構造化 して分析 49 3.5.2. 職場環境実感の現状(Q26) ICT導入前後での環境変化を問う意識調査(Q26:-3[非常に悪化した]~ 0[変化な し]~ +3[非常に改善した]の7段階評価)の結果は、図5-1に示す通り、全ての項目に おいてプラスの数値が得られた。これは、ツール導入が単なる「操作の習熟」に留まらず、職場環 境の質的改善に寄与していることを示唆している。 【図5-1】ICT導入後の職場環境実感の回答分布(n=26) ● 情報の即時把握による判断コストの低減 全項目の中で最も高い改善スコアを示したのは「情 報の即時把握(1.15)」であった。第3章で確認された「連絡調整時間の平準化(分 散)」という定量的な変化は、現場職員の主観においては「必要な情報が遅滞なく手に入る」 という実感として受け止められている。こうした情報の透明化が、現場における判断の迷いや手 戻りを減らし、結果として「精神的な余裕(0.54)」を創出する一要因となっていることが推 察される。 ● 多職種連携による「安心感」の醸成 「他職種との連携(0.85)」や「相談のしやすさ (0.46)」についても、ポジティブな推移が確認された。インカムやチャットツール等の活用によ り、物理的に離れた場所にいても専門職同士が即時に繋がれる環境が構築された。こうした 「バックアップ体制の可視化」は、特に高い緊張感を伴う障害福祉現場において、職員の孤立 感を軽減し、心理的な安定を支える補助的な要素となっている可能性が考えられる。 ● 業務効率から支援の質への意識波及 「記録の効率化(0.69)」が一定の改善を示す中 で、その効果は事務作業の軽減のみに留まらない。副次的な変化として「利用者と向き合う 時間(0.38)」や「事故分析への活用(0.31)」といった、対人援助の本質的な業務や 安全管理への意識向上にも、緩やかに波及し始めている様子が伺える。 50 3.5.3. 働きやすさを支える3つの柱(要因分析) ICT導入が「働きやすさ」に寄与した具体的な要因を探るため、全15項目の選択肢から重要と 考える要素(複数回答)を抽出し、その回答傾向を「連携・共有」「効率・余裕」「質・育成」の 3つの評価軸で構造化した。 【図5-2】働きやすい職場環境の構築に寄与する要因の分析(n=26、複数回答) ①【連携・共有】:現場の心理的安全性を支える最重要要因 図5-2の通り、「インカム等によ る連絡調整の迅速化(20票)」が全項目で最多となり、次いで「情報共有の効率化(18 票)」が挙げられた。 現場職員は、単なる事務時間の削減以上に、「チームとリアルタイムに繋が っている状態」に最大の価値を見出している。これは、広大な敷地や多機能型拠点の複雑な動 線において、情報の断絶を防ぐ「精神的なライフライン」としてICTが機能していることを示唆して いる。 ②【効率・余裕】:物理的制約からの解放と動線の最適化 基盤要因となる「効率・余裕」の軸 では、「記録業務の負担軽減(13票)」が上位となった。 これまでの「PC席に戻って記録す る」という物理的制約が、モバイル端末の導入によって解消されたことは、単なる時短に留まらな い。現場の動線が最適化され、隙間時間での処理が可能になったことが、結果として精神的な 「ゆとり」を副次的に生んでいるものと推察される。 ③【質・育成】:専門性の発揮に向けた発展的志向 発展的要因である「質・育成」の軸につい ては、「利用者へのケアの質の向上(9票)」などが挙げられた。 現時点では「連携」や「効率」 への実感が先行しているものの、効率化によって創出されたリソースを、対人援助という本来の専 門業務に再投資したいという職員の意欲の表れとして評価できる。今後は、この創出された時間 をいかに「質の向上」へ転換していくかが、組織マネジメント上の重要な視点となる。 51 3.5.4. 業務密度の平準化と職場満足度の相関 第3章で確認された「業務密度の平準化」という定量的な変化と、第4章・第5章で示された 「職場環境に対する肯定的な評価」を照らし合わせると、両者の間には一定の関連性があること が推察される。 ● 多忙感の質的変化:ピーク時の「心理的圧迫」の緩和 タイムスタディの結果、総労働時間が 大幅に減少していないケースにおいても、職場環境の実感スコア(Q26)が改善傾向を示し ている点は注目に値する。これは、ICT活用により「特定の時間帯に業務が集中し、対応が 後手に回る状態」が緩和されたことによる影響が考えられる。 業務の「山(ピーク)」が分散さ れ、一つひとつの業務に対して過度な焦りなく対処できる環境が整いつつあることが、職員が主 観的に感じる多忙感の質を変化させ、職場環境への肯定的な評価を支える一要因となって いる可能性がある。 ● 心理的安全性の醸成:情報共有によるバックアップ体制 アンケート(Q27)で多くの職員が 選択した「連絡調整の迅速化」は、単なる作業効率の向上に留まらず、現場の安心感を高め る要素として機能している。 インカムやモバイル端末を通じて、物理的に離れていても「状況が 共有されている」という状態が維持されることは、心理的ストレス尺度(SRS-18)における 「不安・抑うつ」スコアを安定した水準に留めるための、環境的な下支えとなっていることが推察 される。 3.5.5. 専門業務への注力と自己効力感 ICT導入により「事務的な連絡」や「記録の溜め込み」に伴う心理的負荷が抑制された結果、職 員の意識が「利用者と向き合う時間」や「専門的な振り返り」といった質的な側面へ向けられてい る様子が伺える。 ● ケアの質向上への寄与と発展的志向:意識調査の結果、特に実測時間の削減に成功した グループ(削減成功群)において、「教育時間の確保」や「事故分析への活用」といった項目 で高い改善スコアが見られた。 これは、テクノロジーによる業務の効率化が、単なる「作業の省 略」に留まるものではないことを示している。事務的・付随的な業務から解放されたリソースが、 対人援助職としての「専門性の発揮」や「支援の質の追求」へと再投資される、発展的なサイ クルを生み出している可能性を示唆している。 52 3.5.6. 多機能型事業所における「兼務体制」とICT活用の親和性分析 地域密着型の障害福祉サービスを展開する上で、利用者のライフステージに合わせて生活介 護や放課後等デイサービスなどを組み合わせる多機能型運営は、法人の大きな強みである。本 調査においても、職員が複数のサービス拠点を跨いで活動する実態が確認された(表5-1)。 【表5-1】拠点間移動(兼務)が確認された職員の活動内訳(TSデータより) 職員ID 主な職種 拠点A 拠点B 拠点C 判定 M2508007 介護職員 生活介護 短期入所 多機能型 3拠点兼務 M2508017 看護職員 生活介護 短期入所 放デイ M2508031 看護職員 放デイ 短期入所 多機能型 M2508001 作業療法士 放デイ 短期入所 - 2拠点兼務 M2508015 作業療法士 放デイ 生活介護 - M2508018 看護職員 放デイ 生活介護 - ● 多機能運営を支えるICTの親和性: TSデータの分析の結果、拠点間移動を行う職員の 多くが「業務削減成功群」に含まれていた。特に「情報の即時把握」において高い肯定感を示 しており、移動を伴う柔軟な働き方と、場所を選ばず情報を得られるICTツール(スマートフォ ン、インカム等)は、極めて親和性が高いといえる。 ● 「兼務のメリット」を最大化する構造的要因 ○ 支援の連続性の担保: ICT導入により、移動後即座に最新の支援状況を把握可能と なった。これにより、「どこにいてもチームとして機能できる」体制が構築され、多層的な支援 の質の維持に寄与している。 ○ 動線の最適化による余剰時間の創出: 特定のPC設置場所へ戻る必要がなくなり、移 動に伴うタイムロスが削減された。この余剰時間は、複数拠点を経験する職員ならではの 多角的な視点を活かした支援に再投資されている。 ○ 心理的安全性の確保(可聴化): インカム等により、支援の場を離れずフォローを要請 できる体制が整った。ICTがバックアップ体制を「可視化・可聴化」することで、兼務職員が どの拠点にいても安心して本来の専門性を発揮できる環境が実現している。 以上の分析から、多機能型運営におけるICTは、単なる効率化ツールを超え、「職員の柔軟な 配置」と「支援の質の担保」を両立させるための戦略的インフラとして機能していることが実証され た。 53 3.5.7. 小括:テクノロジーが創出する「支援の新しい土壌」 本章における業務効率化と職員意識の相関分析により、ICT導入が障害福祉現場にもたらす 価値は、以下の3点に集約される。 1. 「心理的余白」による支援の質の向上 :タイムスタディで確認された「業務密度の平準化」 は、職員の心理的圧迫を緩和し、職場環境の実感を肯定的な領域へと押し上げた。物理的 な「負荷の山」を削ることが、職員の心に「利用者と向き合うための余白」を生み出し、専門的 な振り返りや教育への意欲を高める基盤となっている。 2. 「情報の共有化」によるチーム力の強化: 働きやすさの要因分析(Q27)で最多の支持を 集めた「連絡調整の迅速化」に象徴されるように、ICTは情報の断絶を解消する「精神的なラ イフライン」として機能している。誰もが必要な時に必要な情報へアクセスできる環境は、職種 や拠点の壁を取り払い、法人全体で利用者を支える多層的な支援体制を構築した。 3. 多機能型運営における戦略的インフラ化:特に「兼務体制」とICTツールの親和性は極めて 高く、移動を伴う柔軟な働き方を支える不可欠なインフラであることが実証された。ICTによる 情報の即時把握とバックアップ体制の可視化は、兼務職員の不安を解消し、動線の最適化 を通じて、複数拠点を経験する職員ならではの知見を支援現場に還元させる効果を生んでい る。 結論として、ICT導入は対人援助職としての「自己効力感」を再構築するための重要な一要素 であり、持続可能な福祉現場を実現するための「新しい土壌」を創出するものと評価できる。 3.6. 結論と提言 3.6.1. 本実証事業の総括:ICT導入による「支援体制の柔軟性と安定化」の構築 本事業を通じて、ICT(インカム、モバイル端末等)の導入は、単なる「労働時間の短縮」という 数値目標を超え、障害福祉現場における「支援の質の担保」と「現場の心理的ゆとり」の両立を もたらすことが実証された。 タイムスタディの結果、After調査においてデータの網羅性が飛躍的に向上した事実は、これまで 現場職員の経験や感覚に頼っていた「見えない支援」が、組織の共通資産として客観化されたこ とを意味する。これは、属人的なケアから組織的なケアへの脱却、すなわち、どのような状況下でも 安定した支援を提供し続けるための「しなやかで強い支援体制」の構築に向けた重要な一歩であ る。 3.6.2. 現場の「実感」を「確信」に変え、生産性を加速させるための提言 今回の実証から得られた知見に基づき、現場の生産性向上をさらに加速させるための3つの指 針を提言する。 54 ① 現場の「楽になった感」を数値で裏付け、改善を加速させる 現在、現場からは「スタッフを探す手間が減った」「その場で記録できて安心」といった現場の「楽に なった」という手応えが具体的に実感され始めている。この「実感」を単なる感想に留めず、今回の 調査で得られた「移動時間の削減」や「業務の平準化」といった数値の変化として明確にフィード バックすることが不可欠である。「自分たちの動きがこれだけ変わった」という事実を定量的に可視 化することは、職員の生産性向上への理解を深め、さらなる改善への意欲を加速させる原動力 (アクセル)となる。 ② 多機能型運営に不可欠な「機動力」と「柔軟な情報収集」の確立 障害福祉分野において今後さらに加速する「多機能型運営(複数のサービスを一体的に提供 する形態)」や、多様なライフスタイルに合わせた「柔軟な働き方」に対応するためには、場所や時 間に縛られない情報インフラが必須である。 こうした中、ICTの活用により、拠点を跨いで活動す る職員や、短時間勤務の職員であっても、「いつでも、どこでも、必要な情報にアクセスし、共有で きる環境」が整う。この情報の流動性こそが、多機能型拠点特有の機動的な人員配置を可能に し、限られたリソースで支援の質を最大化させるための不可欠な基盤となる。 ③ 「時間の平準化(山崩し)」によるケアの密度の適正化 介護現場における多忙感の本質は、総時間数よりも「特定時間帯への業務集中(業務のム ラ)」にある。ICTの活用により、記録や連絡をリアルタイム化し、多忙なピーク時間帯から業務を 「逃がす」ことで、業務の山を平準化することが可能となる。この「時間の再配置」を数値で管理し 続けることが、職員の突発的な負荷を抑制し、利用者と向き合う直接支援の質を安定させる鍵 となる。 ④ 全職種を包含した「情報流通の最適化」による組織レジリエンスの向上 本実証では、直接支援職において顕著な効果が確認された一方で、情報の結節点となる職種 (相談支援専門員等)において一時的に情報処理負荷が集中する可能性も示唆された。今 後は、現場だけでなく相談業務等の周辺業務も含めた「全方位的なデジタル化」を推進し、組 織全体の情報流通を最適化することで、特定の職種に負荷を偏らせない、より強靭な支援体制 の構築を目指すべきである。 3.6.3. 結び:テクノロジーと「人の手」の共生 テクノロジーは支援を代替するものではなく、支援を支える「インフラ」である。本事業で確認された 「隙間時間の再配分」による効果は、最終的に「利用者一人ひとりと向き合う時間の精神的なゆ とり」へと還元される。数値による裏付けと現場の実感を両輪とすることで、本モデルが障害福祉 現場における「持続可能な改善活動」の羅針盤となることを期待する。 55 4. 障害福祉分野のテクノロジー導入マニュアルの要点 4.1. マニュアルの位置付けと基本思想 本マニュアルは、障害福祉分野におけるテクノロジー導入を含む改善の取り組みについて、その考 え方及び進め方を整理したものである。特定の制度や機器の導入方法を示すものではなく、現 場が自らの業務構造を見直し、課題に応じた改善に継続的に取り組むための共通の枠組みを 示すことを目的としている。 また、本マニュアルは補助事業や制度の解説を目的とするものではなく、障害福祉事業所が自ら の業務や支援の在り方を整理し、課題に応じて改善に取り組むための「考え方」と「進め方」を共 有するものである。 さらに、本マニュアルにおいてテクノロジーは、導入そのものを目的とするものではなく、業務構造を 見直す過程の中で必要に応じて活用を検討する選択肢の一つとして位置づけられている。 4.2. 生産性向上の考え方 障害福祉分野におけるテクノロジー導入の必要性については、単に業務の効率化を図る観点か らではなく、分野全体の構造的課題を踏まえた対応として整理されている。 まず、国としては、今後のサービス需要の増加が見込まれる中で、支援人材の確保が一層困難 となることが想定されており、限られた人材のもとで必要な支援を継続的に提供していく体制の構 築が求められている。このため、現場の負担軽減とサービスの持続可能性の確保を両立する観点 から、生産性向上の取り組みを推進する必要があるとされている。 こうした背景のもと、生産性向上の基本的な考え方や取り組みの全体像については、「障害福祉 現場における生産性向上の基本的な考え方」において整理されている。 同資料においては、生産性向上を単なる業務効率化としてではなく、支援者一人ひとりの力を引 き出し、チームとしての力を活かして利用者に価値を届けることで、新たな価値を創出していく取り 組みとして位置づけている。 本マニュアルは、こうした「障害福祉現場における生産性向上の基本的な考え方」を踏まえ、現 場において具体的にどのように改善を進めていくかを整理するものである。特に、業務の可視化、 課題の整理、改善の検討および実行、並びにテクノロジーの活用といった実践的な取り組みの進 め方を示すことを目的としている。 次に、障害福祉現場においては、支援業務に加えて、記録、情報共有、連絡調整等の業務が 日常的に発生しており、これらが複層的に重なることで職員の負担が増大している。また、業務の 流れや負担の所在が明確に整理されていない場合も多く、業務構造が可視化されていないこと 56 が、改善の検討を困難にしている。さらに、支援内容が利用者ごとに異なり、職員の経験や判断 に依拠する場面が多いことから、業務の属人化やばらつきが生じやすく、業務の標準化や効率的 な運用が難しい状況にある。 加えて、障害福祉分野においては、支援の成果が短期的な数値として表れにくく、利用者の生 活の質や自立の程度といった質的側面を含めて評価する必要がある。このため、業務時間の削 減といった単一の指標のみで生産性を評価することは適切ではなく、現場の実態に即した多面的 な捉え方が求められる。 こうした状況を踏まえ、テクノロジーの導入は、単に業務の一部を代替することを目的とするもので はなく、業務の進め方や情報の扱い方を見直す中で、職員の負担軽減や情報共有の円滑化を 図るための手段として位置づけられている。また、テクノロジーの活用により、これまで把握が難しか った業務の実態を可視化し、課題を明確にすることが可能となる点も重要とされている。 さらに、本マニュアルにおいては、「生産性向上」とは単なる業務の効率化や時間短縮を意味する ものではなく、支援の質を確保しながら、限られた人材でより良いサービス提供体制を構築するこ ととして整理されている。 加えて、「障害福祉現場における生産性向上の基本的な考え方」において示されているとおり、 障害福祉における生産性向上とは、支援者一人ひとりの力を引き出し、チームとしての力を活か して利用者に価値を届けることにより、新たな価値を生み出していく取り組みとして位置づけられて いる。 すなわち、生産性向上は単に業務を早く処理することを目的とするものではなく、限られた時間の 中で、本来重視すべき支援に十分な時間を充てることができる状態を実現することを意味するも のである。 そのため、生産性向上の取り組みは、業務の可視化により現状を把握し、課題を構造的に整理 した上で、改善を実行し、その結果を振り返りながら取り組みを定着させていくという一連のプロセ スを継続的に回していくものとして位置づけられている。また、テクノロジーはこうした改善の過程に おいて活用される手段の一つであり、導入そのものを目的とするのではなく、課題に応じて適切に 位置づけることが求められる。 以上のように、本マニュアルにおける生産性向上は、障害福祉現場の実態に即した課題認識を 前提とし、業務構造の理解と改善の循環を通じて、支援の質と持続可能性の両立を図る取り組 みとして整理されている。 57 4.3. テクノロジー導入の基本プロセス 本マニュアルにおいては、テクノロジー導入を含む改善の取組は、思いつきや単発の施策として実 施されるものではなく、目的を明確にした上で、一定の手順に基づき段階的に進めるべきものとし て整理している。 この基本的な考え方は、「障害福祉現場における生産性向上の基本的な考え方」において示さ れている取組の流れを踏まえたものであり、同資料で整理されている「課題の見える化」「解決策 の検討」「試行」「振り返り」といった一連のプロセスに対応するものとして位置づけられている。 本マニュアルでは、これらの取組を現場で実行しやすい形として再構成し、以下の三つのステップと して整理している。 58 ステップ1 課題を「見える化」する 本マニュアルにおいては、テクノロジー導入を含む改善の取組は、業務の現状を適切に把握し、そ の構造に基づいて課題を整理することから始まるものとしている。すなわち、個別の業務や事象に 着目するのではなく、業務全体の構造を捉えた上で、どのような視点で課題を整理するかが、その 後の改善の方向性を規定する重要な要素となる。このため、本ステップにおいては、現状の捉え 方および課題の構造化の考え方を明確にすることが求められる。 59 ● 業務の現状を「構造」として可視化する考え方 ○ 本マニュアルにおいては、改善の出発点として、業務の現状を客観的に把握し、その構造 を明らかにすることが不可欠であるとしている。 ○ 障害福祉分野においては、支援業務と記録、情報共有、連絡調整等の業務が相互に 重なり合いながら実施されており、個別の業務を切り出して把握するだけでは、負担の所 在や非効率の要因を十分に捉えることができない。 ○ このため、課題の見える化に当たっては、業務の内容や時間だけでなく、業務の流れ、業 務同士の関係性、情報の受け渡しのあり方等を含め、業務全体を一体の構造として捉え ることが重要である。 ○ また、業務の把握は、個々の職員の感覚や経験に依拠するのではなく、客観的な事実に 基づいて行う必要があり、これにより、課題の認識を組織内で共有可能な形で整理するこ とが可能となる。 ● 課題を「業務構造」から捉えるための視点 ○ 課題の把握に当たっては、個別の事象や感覚に基づくのではなく、業務構造に着目して整 理することが重要である。 ○ 本マニュアルでは、業務構造から課題を捉えるための視点として、業務の全体像を俯瞰 し、業務の流れを把握し、個々の業務の実施方法を確認し、最終的にその背後にある構 造的な要因を見極めるという段階的な整理を行うこととしている。 ○ このように、業務を多面的に捉えることにより、業務の分断、情報の滞留、負担の偏り、属 人化といった構造的な課題を明らかにすることが可能となる。 ○ また、このような視点に基づいて整理された課題は、個別の事業所に固有のものとしてでは なく、一定のパターンとして把握することができるため、再現性のある改善の検討につながる ものとされている。 ● 課題設定における基本的な考え方 ○ 課題の設定に当たっては、業務時間の長短といった単一の指標のみに基づくのではなく、 業務の進め方や負担のかかり方の構造に着目することが重要である。 ○ 障害福祉分野においては、支援内容の多様性や個別性が高く、業務時間の多寡のみを もって課題の有無や優先度を判断することは適切ではない。このため、本マニュアルでは、 業務のばらつきや非効率がどのように生じているかといった観点から課題を整理することとし ている。 ○ また、業務の中には本来必要な支援に要する時間も含まれることから、「時間が多い」とい う理由のみで削減対象とするのではなく、その時間の意味を踏まえた上で課題を見極める 必要がある。 ○ このように、課題は単なる作業量の問題としてではなく、業務構造の中でどのように発生し ているかという観点から捉えることにより、支援の質を損なうことなく、実効性のある改善につ なげることが可能となる。 60 ステップ2 解決策を考える、試してみる 本マニュアルにおいては、改善の取組は、把握された課題に対して適切な対応策を検討し、それ を現場で実行可能な形に具体化することにより進めるものとされている。この際、テクノロジー導入 を前提とした検討ではなく、業務の進め方や体制の見直しを含めた多様な手段の中から、課題 の性質に応じて適切な改善策を選択することが重要である。また、改善策は計画段階で完結す るものではなく、実行を通じて検証・調整を行いながら、現場に適合させていくことが求められる。 ● 課題に応じた改善策の検討の考え方 ○ 改善策の検討に当たっては、まず把握された課題の内容および発生している構造を踏ま え、その原因に対応する形で対策を検討することが基本とされている。 ○ この際、課題と改善策の対応関係を明確にすることが重要であり、「どの業務の、どのような 負担や非効率を解消するのか」という観点から整理する必要がある。 ○ また、改善策はテクノロジー導入に限定されるものではなく、業務の進め方の見直し、役割 分担の変更、情報共有方法の改善等、複数の選択肢を含めて検討することが求められ る。 ○ このように、課題に対して適切な手段を選択するという観点で整理することにより、導入あり きではない改善の検討が可能となる。 ● テクノロジー活用の位置付けと検討の視点 ○ 本マニュアルにおいて、テクノロジーは改善のための手段の一つとして位置づけられており、そ の導入は課題との関係の中で検討されるべきものとされている。 ○ すなわち、テクノロジーの検討に当たっては、「どの業務に適用するか」ではなく、「どの課題を 解決するために活用するか」という観点から整理することが重要である。 ○ また、同一のテクノロジーであっても、導入目的や運用方法の違いにより、その効果は大きく 異なることから、業務プロセスや運用ルールと一体的に設計することが求められる。 ○ このため、テクノロジーの導入は単独の施策としてではなく、業務構造の見直しの中で位置 づけることが重要である。 ● 改善策の実行における基本的な考え方 ○ 改善策の実行に当たっては、計画した内容を一度に適用するのではなく、現場の状況に 応じて段階的に導入し、試行を通じて調整を行うことが重要である。 ○ 特に、新たな取組やテクノロジーの導入においては、実際の運用の中で想定外の課題が 生じることがあるため、小規模な試行を行い、その結果を踏まえて改善内容を見直すことが 求められる。 ○ また、実行に当たっては、現場の理解を得ながら進めることが重要であり、改善の目的や内 容を共有し、関係者が共通の認識のもとで取組を進めることが必要である。 ○ このように、改善策は計画と実行を往復しながら具体化していくものであり、現場の実態に 即した形で運用を確立していくことが重要である。 61 ステップ3 振り返る 本マニュアルにおいては、改善の取組は実行して完結するものではなく、その結果を振り返り、得ら れた知見を踏まえて運用を見直し、組織として定着させていくことまでを含めて一体のプロセスとし て整理されている。このため、改善の効果や課題を適切に把握し、それを次の取組に反映させる とともに、個人の取組にとどめることなく、組織的な運用として定着させていくことが重要である。 ● 振り返りにおける基本的な考え方 ○ 振り返りに当たっては、改善の実施前後を比較し、どのような変化が生じたのかを整理する ことが基本とされている。 ○ この際、単に業務時間の増減といった数値的な変化のみを確認するのではなく、業務の進 め方や負担のかかり方、情報共有の状況、職員の負担感等を含め、多面的に評価するこ とが重要である。 ○ また、改善の結果として期待された効果が得られたかどうかだけでなく、新たに生じた課題や 想定外の影響についても整理する必要がある。これにより、改善策の妥当性を適切に評 価するとともに、次の改善につなげるための示唆を得ることが可能となる。 ● 振り返り結果の整理と共有の考え方 ○ 振り返りにより得られた結果は、個々の職員の経験としてとどめるのではなく、組織として共 有し、業務の標準的な進め方に反映していくことが重要である。 ○ そのためには、改善の内容や実施結果、運用上の工夫、課題等を整理し、関係者間で 共有する仕組みを設けることが求められる。 ○ また、振り返りの内容を共有することにより、特定の職員に依存しない形で知見を蓄積する ことが可能となり、業務の属人化の解消や組織全体としての対応力の向上につながる。 ● 改善の定着および継続的な取組の考え方 ○ 改善の取組を一過性のものとせず、継続的に実施していくためには、日常業務の中に組み 込み、組織として定着させることが重要である。 ○ 具体的には、改善内容を業務手順やルールとして整理するとともに、定期的に取組を振り 返る機会を設けることで、改善の継続性を確保することが求められる。 ○ また、改善の実施により新たな課題や見直しの必要性が生じることから、振り返りの結果を 踏まえて再度課題を設定し、次の改善に取り組むという循環を継続することが重要であ る。 ○ このように、振り返りと定着のプロセスを通じて、テクノロジー導入を含む改善の取組は、単 なる施策としてではなく、業務構造の見直しを継続的に行う組織的な活動として定着して いくものとされている。 62 5. 委員会における主要論点 5.1. 業務量調査計画・結果に関する議論 業務量調査に関しては、調査設計の妥当性および結果の解釈に関する観点から、主に以下の 論点が提示された。 まず、調査対象および分析の枠組みに関して、障害福祉分野における業務の特性を踏まえた整 理の必要性が指摘された。具体的には、相談支援業務のように業務単位が長時間に及ぶもの や、サービス種別・障害特性に応じて業務内容が大きく異なるものについては、他のサービスと同 一の分析軸で評価することの限界があるとの意見が示され、サービス特性に応じた分析軸の設定 の必要性が共有された。 また、タイムスタディの実施方法に関しては、調査期間やデータの取り扱いに関する留意点が示さ れた。特に、障害福祉分野においては曜日や利用者の状態により業務内容が変動することから、 短期間の測定結果のみをもって一般化することへの慎重な姿勢が求められた。あわせて、突発的 な対応等による業務時間の変動についても、単純な数値比較ではなく、ヒアリング結果とあわせて 解釈する必要があるとの指摘がなされた さらに、調査結果の解釈に関しては、テクノロジー導入による変化の捉え方について重要な論点 が提示された。具体的には、連絡調整業務の増加について、実際に業務が増加したのではなく、 これまで可視化されていなかった業務が顕在化した可能性があるとの指摘がなされ、単純な業務 時間の増減のみで評価するのではなく、「働き方の変化」として捉える必要性が示された。 また、業務時間の積み上げと実際の労働時間の関係についても、「業務時間の総和と労働時間 は必ずしも一致しない」との指摘があり、従来の指標では捉えきれない新たな働き方の変化を適 切に説明する必要性が共有された。 加えて、分析の粒度に関して、年代別・経験年数別の違いを踏まえた分析の必要性や、業務ご との変化だけでなく全体の業務構造の変化を俯瞰的に示す必要性が指摘された。 以上より、業務量調査に関しては、単なる数値の比較にとどまらず、障害福祉分野の特性を踏ま えた分析軸の設定および結果の解釈の在り方が重要な論点として整理された。 5.2. マニュアル構成・内容に関する議論 マニュアルの構成および内容に関しては、主に位置付け、対象読者、記載内容の具体性に関す る観点から議論が行われた。 まず、マニュアルの基本的な位置付けに関しては、特定の製品や個別事例の紹介に偏るのでは なく、汎用的な考え方や進め方を示すべきであるとの方向性が共有された。一方で、現場におけ 63 る理解促進の観点からは、具体的な使用イメージや事例、利用者や職員の声といった定性的情 報を適切に盛り込むことの重要性が指摘された。 また、「テクノロジー」の定義に関して、障害福祉分野においては「介護テクノロジー」という用語に 対する違和感があるとの指摘があり、本マニュアルにおける対象が「職員の業務を支援するツー ル」であることを明確に示す必要性が共有された。 さらに、マニュアルの対象読者に関しては、組織責任者や現場リーダーに加え、実際に導入を推 進する法人本部や事務部門の職員も含めて検討する必要があるとの意見が示された。また、現 場職員が具体的にどのように行動すべきかが分かるよう、役割ごとの関与の在り方や実践のヒント を示す必要性が指摘された。 加えて、マニュアルの内容については、「業務の時間削減」を主目的とするのではなく、「業務のムラ の可視化および平準化」や「PDCAの循環」といった観点を重視する方向性が確認された。また、 テクノロジーの活用により創出された時間を、利用者の活動や参加の促進等にどのように活用す るかといった、支援の質の向上に関する視点を明確に示す必要性が指摘された。 以上より、マニュアルについては、汎用性と具体性のバランスを確保しつつ、障害福祉分野の特性 に即した表現および構成とすることが重要な論点として整理された。 5.3. その他 その他の論点として、本事業全体の進め方および成果物の位置付けに関する意見が示された。 まず、成果物の位置付けに関しては、本事業で作成するマニュアルが、単年度の取組にとどまるも のではなく、今後の「障害福祉分野における生産性向上ガイドライン(仮称)」策定や制度設 計、さらには報酬改定の検討に資する基礎資料として活用されることが想定されていることが共有 された また、短期間での成果物作成に対する懸念が示されるとともに、内容の精度や表現については慎 重に検討する必要があるとの指摘がなされた。特に、国の資料として公表されることを踏まえ、デー タの見せ方や表現について過度な断定を避けるなど、適切な記載とすることの重要性が共有され た。 さらに、本事業で取り扱う範囲については、テクノロジー活用に焦点を当てつつも、業務改善全体 との関係性を踏まえた整理が必要であることが確認された。あわせて、今回の対象サービスに限ら ず、今後他のサービス種別へ展開していくことを見据えた整理の必要性も指摘された。 64 以上のとおり、委員会においては、調査およびマニュアルの内容に加え、本事業の成果物が今後 どのように活用されるかという観点からも議論が行われた。 65 6. 本事業における成果 本事業は、障害福祉分野におけるテクノロジー導入支援に関し、現場の実態を踏まえた知見の 整理および実践的なマニュアルの策定を目的として実施したものであり、主に以下の成果が得ら れた。 障害福祉分野における業務構造の可視化および知見の整理 本事業において実施したタイムスタディ調査およびヒアリング調査を通じて、障害福祉分野におけ る業務の実態について、定量・定性の両面から整理を行った。 その結果、支援業務に加え、記録、情報共有、連絡調整等の業務が複層的に重なり合う構造 が明らかとなり、これらの業務が職員の負担に大きく影響していることが確認された。 また、テクノロジー導入により業務時間の一部に変化が見られる一方で、その変化は単純な業務 量の増減として捉えるべきものではなく、これまで明確に認識されていなかった業務が可視化され るなど、働き方や業務の捉え方自体に変化が生じていることが示唆された。 さらに、障害福祉分野においては、サービス種別や利用者特性により業務の内容や負担が大きく 異なることから、一律の指標による評価には限界があることが確認され、分野特性を踏まえた分 析および解釈の重要性が明らかとなった。 生産性向上に関する考え方および改善プロセスの体系化 本事業では、既存の「障害福祉現場における生産性向上の基本的な考え方」を踏まえつつ、現 場において実践可能な形で、生産性向上の考え方および改善の進め方を体系的に整理した。 具体的には、生産性向上を単なる業務効率化や時間削減として捉えるのではなく、支援の質を 確保しながら、限られた人材でより良いサービス提供体制を構築する取組として位置づけた上 で、業務の可視化、課題整理、改善の実行、振り返りおよび定着という一連のプロセスとして整 理した。 また、課題の把握に当たっては、業務構造に着目し、全体像、流れ、細部、本質といった多面的 な視点から整理する枠組みを提示するとともに、改善策の検討においてはテクノロジー導入を前 提としない考え方を明確にした。 これにより、障害福祉分野における生産性向上の取組について、現場で再現可能な形での共通 フレームを提示した。 66 テクノロジー導入に関する実践的な指針の整理 本事業では、テクノロジー導入を単独の施策としてではなく、業務構造の見直しの中で位置づけ るべきものとして整理した。 その上で、テクノロジーの検討に当たっては、「どの機器を導入するか」ではなく、「どの課題を解決 するために活用するか」という観点から検討することの重要性を明確にした。 また、同一のテクノロジーであっても、導入目的や運用方法により効果が大きく異なることから、業 務プロセスや運用設計と一体的に検討する必要があることを整理した。 さらに、改善の実行に当たっては、小規模な試行を通じて調整を行いながら導入を進めること、導 入後は振り返りを通じて定着を図ることの重要性を示した。 これにより、テクノロジー導入を含む改善の取組について、現場で活用可能な実践的指針を提示 した。 マニュアルとしての成果物の取りまとめ 本事業の成果として、上記の知見を基に、障害福祉分野における介護テクノロジー導入マニュア ルを取りまとめた。 当該マニュアルは、特定の製品や個別事例の紹介にとどまらず、現場における改善の進め方を汎 用的な枠組みとして整理したものであり、業務の可視化、課題整理、改善手法、定着プロセス、 テクノロジーの活用に関する考え方等を体系的に提示している。 また、委員会での議論を踏まえ、障害福祉分野の特性に配慮した表現とするとともに、現場にお ける理解と実践につながるよう、具体的な事例や定性的な情報も適切に取り入れた構成として いる。 今後の政策および実務への活用可能性 本事業で得られた知見およびマニュアルは、障害福祉分野における生産性向上の取組を推進す るための基礎資料として活用されることが期待される。 具体的には、今後予定されているガイドラインの策定や、制度設計、報酬改定の検討におけるエ ビデンスとしての活用が想定されるとともに、各事業所におけるテクノロジー導入や業務改善の実 践に資するものと考えられる。 また、本事業は限られたサービス種別を対象としたものであることから、今後は他のサービス種別へ の展開や、継続的な知見の蓄積を通じて、より汎用性の高い取組へと発展させていくことが望ま れる。 67 7. 残論点・今後の展開 本事業においては、障害福祉分野におけるテクノロジー導入および生産性向上の進め方につい て、一定の整理を行った。一方で、検討委員会における議論および本事業の実施範囲を踏ま え、引き続き検討を要する論点および今後の展開の方向性として、以下の点が挙げられる。 業務量調査および分析手法に関する課題 本事業において実施した業務量調査は、障害福祉分野における業務構造の把握に資する知 見を得るものであったが、調査対象や期間等に一定の制約があることから、結果の一般化に当た っては留意が必要である。 特に、障害福祉分野においては、サービス種別、障害特性、利用者の状態等により業務内容や 負担の構造が大きく異なることから、単一の事例に基づく分析のみでは、分野全体を十分に代表 するものとはならない。 また、タイムスタディによる業務時間の把握についても、曜日や時期による変動、突発的な対応の 影響等を十分に考慮する必要があり、継続的なデータの蓄積および分析手法の高度化が求めら れる。 さらに、テクノロジー導入による変化については、単なる業務時間の増減としてではなく、業務の可 視化や働き方の変化といった観点から捉える必要があることから、定量・定性を組み合わせた評 価手法の確立が今後の課題として挙げられる。 サービス種別および対象領域の拡張 本事業においては、訪問系・通所系サービスを中心に調査および整理を行ったが、障害福祉分 野には入所系サービスや就労系サービス等、多様なサービス形態が存在する。 これらのサービスにおいては、業務の構造やテクノロジー活用の在り方が異なることが想定されるた め、今後は対象領域を拡張し、それぞれの特性に応じた整理を行うことが必要である。 また、今回対象とした業務支援系テクノロジーに加え、介助支援機器やAI技術等の新たな技 術領域についても、現場実態を踏まえた活用の在り方を検討していくことが求められる。 マニュアルの汎用性および具体性の向上 本事業において作成したマニュアルは、現場における改善の進め方を示す汎用的な枠組みとして 整理したものであるが、実際の活用を促進するためには、さらなる具体化および補完が必要であ る。 68 具体的には、サービス種別ごとの事例の充実、導入プロセスの具体的な手順の提示、役割別の 関与の在り方の明確化等により、現場における実践に直結する内容へと発展させていくことが求 められる。 また、マニュアルは一度作成して完結するものではなく、現場での活用状況や新たな知見を踏ま え、継続的に見直し・更新していくことが重要である。 テクノロジー導入の定着および組織的取組の推進 テクノロジー導入は、機器の導入自体をもって完結するものではなく、業務の進め方や組織運営 の中に組み込まれることにより、初めて効果を発揮するものである。 このため、導入後の運用設計や振り返りの仕組み、組織内での共有・展開の在り方等、定着に 向けた取組を体系的に整理する必要がある。 また、現場における取組を支えるためには、管理者や法人本部の関与の在り方、外部支援の仕 組み等も含めた、組織的な推進体制の構築が重要である。 政策への反映およびエビデンスの蓄積 本事業の成果は、今後のガイドライン策定や制度設計、報酬改定の検討等に活用されることが 想定されているが、そのためには、より多様な事例に基づくエビデンスの蓄積が必要である。 また、現場における取組の成果を適切に把握し、政策に反映していくためには、評価指標の整理 やデータ収集の仕組みの整備が求められる。 さらに、テクノロジー活用の推進に当たっては、現場の実態と政策の方向性を継続的に接続して いくことが重要であり、そのための検討の枠組みを継続的に運用していくことが望まれる。 障害福祉分野の介護テクノロジー導入支援事業 (民間団体実施分) 本事業は、令和7年度障害者総合支援事業費補助金により実施したものです。 株式会社 最中屋 https://monakaya.com/ 事業成果報告書 令和8年3月 令和7年度