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■表紙
障害福祉現場における生産性向上の基本的な考え方
~当事者視点に立ったケアの充実のために~
障害福祉現場の生産性向上に向けた調査研究事業 有識者会議
■目次
1. はじめに・・・3
1.1. 背景・・・3
1.2. 本書の目的・・・3
1.3. 本書の対象者・・・4
1.4. 本書の構成・・・5
2. なぜ生産性向上が必要なのか―Why・・・8
2.1. 現状と課題・・・8
2.2. 生産性向上の目指すこと・・・9
3. 生産性向上とは何か―What・・・13
3.1. 「生産性」の捉え方・・・13
3.2. 「生産性向上」と「業務改善」・・・17
3.3. 「生産性向上」の「見える化」・・・18
4. 生産性向上をどのように進めるか―How・・・22
4.1. 3つの価値観・・・22
4.1.1. 「3つの価値観」とは何か・・・22
4.1.2. なぜ「3つの価値観」なのか・・・22
4.2. 5つのステップ・・・24
4.2.1. 「5つのステップ」とは何か・・・24
4.2.2. なぜ「5つのステップ」なのか・・・24
5. 各ステップの進め方・・・27
5.1. ステップ1 共感をつくる・・・27
5.1.1. 言葉にしてみる・・・27
5.1.2. あるべき姿を描く・・・28
5.1.3. 呼びかける・・・30
5.2. ステップ2 課題を見える化する31
5.2.1. 現状を把握する 31
5.2.2. 課題を見出す 32
5.2.3. 現状/あるべき姿を整える・・・33
5.3. ステップ3 解決策を考える・・・33
5.3.1. 課題を絞り込む・・・34
2
5.3.2. 解決策を洗い出す・・・34
5.3.3. 解決策を選ぶ・・・36
5.4. ステップ4 試してみる・・・37
5.4.1. 取組の計画をつくる・・・37
5.4.2. 評価指標を決める・・・38
5.4.3. 小さく取組を始める・・・40
5.5. ステップ5 振り返る・・・40
5.5.1. 評価する・・・41
5.5.2. 取組を意味づける・・・41
5.5.3. 次のサイクルに発展する・・・42
6. 事例・・・43
7. 参考資料・・・52
8. 終わりに・・・54
9. 索引・用語辞典・・・56
10. 引用文献・・・58
1. はじめに
1.1. 背景
障害福祉の現場では、利用者一人一人に寄り添った支援が日々行われています。その一方で、記録や
事務作業に追われたり、人手不足の中で業務を回したりと、「もっと利用者と向き合う時間があればい
いのに」と感じる場面も少なくないのではないでしょうか。
こうした状況の中で、「生産性向上」という言葉を聞く機会が増えてきましたが、障害福祉においては、
その取組はまだ始まったばかりと言えます。「生産性」と聞くと、「効率を優先して、支援が画一的になる
のではないか」「現場がさらに忙しくなるのではないか」といった不安や戸惑いを感じる方も多いかもしれませ
ん。
その一方で、国全体では、医療や介護等の分野において、現場の負担を減らし、より良いサービスにつ
なげるための取組として、生産性向上の取組に対する支援が強化されています。障害福祉分野について
も、こうした流れの中で、生産性向上の重要性が位置付けられてきています
1
。
しかし、障害福祉の現場では、
生産性向上がなぜ必要なのか、どんな良いことがあるのかが、十分に共有されていない
「生産性」という言葉そのものに、どこか距離を感じてしまう
実際に何から始めればよいのか、具体的なイメージを持ちにくい
といった課題があるのも事実です。
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注釈)1 内閣府(2025)では、医療・介護とともに障害福祉分野についても生産性向上・省力化
の実現に関する記載が盛り込まれた。また、内閣官房(2025)及び厚生労働省(2025)では、障
害福祉分野の生産性向上に関する目標が策定された。
1.2. 本書の目的
本書では、先に述べた課題を踏まえ、障害福祉現場における生産性向上は、「支援を減らすこと」や
「人を減らすこと」ではなく、「ケアを充実させるためのもの」であることを示します。ここでいう「ケア」とは、
日常生活の支援にとどまらず、障害のある方が自らの望む生活を主体的に営むことができるよう支援する
ことを含む、幅広い概念として用いています。業務の進め方を見直したり、使える道具や仕組みを上手に
取り入れたりすることで、各法人・事業所の理念等を踏まえた「あるべき姿」を実現し、当事者視点に立
った「ケアの充実」の実現につなげることが、生産性向上の取組の目指す姿です。
そのために本書では、
なぜ生産性向上が必要なのか(Why)
生産性向上とは何か(What)
生産性向上をどのように進めるか(How)
という三つの視点から、考え方を整理しています。
図の説明:
「なぜ生産性向上が必要なのか(Why)」と書かれたボックス、「生産性向上とは何か(What)」と書
かれたボックス、「生産性向上をどのように進めるか(How)」と書かれたボックスが3つ左から右に横に
並んでいる。それぞれ、両手の間にハードが浮かぶイラスト、4人の人が手を合わせているイラスト、フロー
を示す右向きの矢印が3つ並んでいるイラストが描かれている。(図表の説明は以上)
1.3. 本書の対象者
本書は、障害福祉の現場に関わる様々な立場の方々が「当事者視点に立ったケアの充実のための
生産性向上」の必要性や考え方、そして、その進め方を理解するための共通の土台となることを想定し
ています。
その中でも特に、障害福祉サービス等の支援者の方々、具体的には、現場で働く職員の方々、そし
て、管理者や経営層の方々を主な対象として作成しています。支援者の方々には、障害福祉における
「当事者視点に立ったケアの充実のための生産性向上」の必要性や考え方を正しく理解し、職場の中や
関係者同士で話し合いながら、それぞれの法人・事業所ならではの生産性向上の取組を進めていただく
ことを期待しています。特に管理者や経営層の方々には、本書を通じた学びを取組の優先順位の判
断、人材の配置、テクノロジー導入等への投資判断、職員が安心して生産性向上に取り組める組織風
土の形成などにも役立てていただくことを期待しています。
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また、本書は、利用者本人やその家族にも、障害福祉の現場で進められている生産性向上の取組
が、よりよいケアの実現を目指すものであることを理解していただくことを目指しています。本書を通じて、利
用者に寄り添うことが生産性向上の前提であることを伝えていきます。
さらに、自治体職員の方々には、本書を通じて、障害福祉の生産性向上の必要性や考え方を理解
し、法人・事業所との対話や支援に生かしていただくことを想定しています。次期障害福祉計画及び障
害児福祉計画に係る基本指針では、「当事者視点に立ったケアの充実のための生産性向上」に関する
記載が盛り込まれ、都道府県では人材確保や生産性向上、経営改善に関するワンストップ窓口(サ
ポートセンター)や、関係者の連携を図る協議会を設置することが目標とされる見込みです。こうした
動きを踏まえて、本書が自治体での検討の参考となることも期待しています。
加えて、事業所向けに各種機器やサービスの開発や提供を行う民間事業者等にとっても、本書は重
要な意味を持ちます。テクノロジーを含むツールやサービスは生産性向上の重要な手段ですが、その導入
や活用は、現場の実情や価値観を十分に理解した上で行われることが不可欠です。本書を通じて、「当
事者視点に立ったケアの充実のための生産性向上」の考え方を理解し、現場に寄り添ったツールやサービ
スの開発や提供につなげていただくことを期待しています。
また、事業所の取組を支援する外部の支援者や事業者団体等にも、本書を活用いただくことを想定
しています。今後、都道府県における人材確保や生産性向上、経営改善に関するワンストップ窓口の
設置が進められ、様々な方々が法人・事業所の伴走支援に当たることが見込まれます。また、事業者団
体等においても、生産性向上に関する議論を行う機会が増加することが見込まれます。こうした中、本書
は現場への支援やそのための議論における「共通言語」を提供することも目的としています。
本書は障害福祉の現場に関わる様々な方々がそれぞれの立場で「自分たちにできることは何か」を考
え、取組の実行につなげるための一冊です。本書を通じて、障害福祉における「当事者視点に立ったケ
アの充実のための生産性向上」に関する理解が広がり、全国の現場や関係者による実際の取組につな
がっていくことを期待しています。
1.4. 本書の構成
第2章から第4章では、「なぜ生産性向上が必要なのか(Why)」、「生産性向上とは何か
(What)」、「生産性向上をどのように進めるか(How)」についての考え方を紹介しています。第
1章から第4章までについては章や節の最後に、立ち止まって考えるための「問いかけ」を用意しました。
この「問いかけ」は、本書の読者の皆様、特に管理者や経営層の方々や現場で生産性向上の取組の
中心となるプロジェクトチームの方々に活用していただくことを想定しています。問いかけに対して、自分
の考えを書き出したり、職場の仲間と話し合ったりすることで、「自分たちの現場だったらどうだろうか」
と考えるきっかけとして活用してください。また、他の職員などの関係者に対して、生産性向上について
のメッセージを伝えたり、一緒に生産性向上について話し合ったりするときのヒントとしても活用してくださ
い。
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第5章では、第4章で示した「生産性向上をどのように進めるか(How)」の考え方をもとに、各ス
テップの進め方を示しています。実際に各法人・事業所における生産性向上の取組を進める際の参考
にしてください。
第6章では、実際に生産性向上の取組を行っている法人・事業所の事例を取り上げています。第
5章で説明したステップや取組のポイントを具体的な事例と関連付けて理解できるように整理していま
すので、第5章を見返しながら、生産性向上の取組の進め方への理解を深めるのに活用してください。
第7章には、生産性向上の参考になるような資料を掲載しています。
第9章には、索引と用語辞典も掲載しています。本書で用いる重要な用語について、関連する箇所を
探しやすくしたり、理解を深めたりするのに活用できるようにしています。本書を読み進める際に、必要に応
じて参照してください。
本書は、これから障害福祉分野で生産性向上に取り組んでいくための、共通の考え方の土台としての
役割を担っており、サービスの種類ごとの違いや、さらに深掘りした内容については、今後、厚生労働省が
策定を予定している「障害福祉分野における生産性向上ガイドライン(仮称)」の中で整理される予定
です。
本書を通じて、読者の皆様が
生産性向上についての理解を深める
生産性向上について周りの人たちと語り合いたくなる
生産性向上を「自分ごと」として捉え、実際の取組に着手したくなる
ようになれば幸いです。
図表の説明:「生産性向上についての理解を深める」、「生産性向上について周りの人たちと語り合いた
くなる」、「生産性向上を「自分ごと」として捉え、実際の取組に着手したくなる」が左から右に横に並んで
いる。それぞれ、電球のイラスト、吹き出しが3つ並んだイラスト、ガッツポーズをしている人のイラストが配
置されている。(図表の説明は以上)
第1章の問いかけ
あなたは「生産性」あるいは「生産性向上」という言葉にどのようなイメージを持っていますか。
「生産性向上」の具体的な取組として、どのようなことをイメージしますか。
あなたのイメージする取組を進める上で、どのような難しさがありそうですか。
2. なぜ生産性向上が必要なのか―Why
なぜ、障害福祉で生産性向上が必要なのでしょうか。本書では、障害福祉において生産性向上に取
り組む理由を「各法人・事業所がそれぞれの『あるべき姿』を実現し、全国の障害福祉現場で当事者視
点に立った『ケアの充実』を実現するため」としています。
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「ケアの充実」は、障害福祉が大切にしてきた「障害者の自立と社会参加」、「地域共生社会」といった
考え方にもつながっています。
2.1. 現状と課題
障害福祉では、利用者の年齢層や障害の特性が多様です。提供されるサービスの種類も多岐にわ
たります。また、求められる支援のあり方は一人一人によって異なるため、当事者視点に立ち、個別性を
大切にすることが求められます。こうした多様性や個別性に応じて、各法人・事業所がそれぞれの経緯の
中で設立され、多様な理念や大切にしている価値観を掲げてきました。加えて、地域によってサービスの
需要や状況にも違いがあります。
こうした違いがある一方で、どの法人・事業所であっても当事者視点に立った「ケアの充実」が何より
も重要であることは、共通しています。
そして、「ケアの充実」は、「障害者の自立と社会参加」、「地域共生社会」といった障害福祉が大切に
してきた考え方にもつながっています。
しかし、障害福祉の現場には、次のような課題が存在しています。
人材の確保が難しく、定着にも苦労している
利用者や家族のニーズの多様化により、業務が複雑化している
経営規模が中小程度の事業所が多くニーズ変動の影響を直接受けやすいため、法人・事業所の
経営や運営が不安定になりやすい
これらの課題が重なることで、各法人・事業所が掲げる理念や価値観の実現、そして、「ケアの充実」
の実現が妨げられます。
図表の説明:障害福祉の現場の課題が各法人・事業所の理念等の実現や「ケアの充実」の実現を妨
げることについて表現した、左右を対比した図である。
左側は「ケアが行き届かない」とあり、建物の周囲に「人材が不足」「理念の妨げ」「不安定な経営」「業
務の複雑化」などの課題が渦のように集まり、ケアが十分に届かない状態を表している。
右側は「ケアの充実」とあり、建物の周囲に「理念」や「効率」といった要素が広がり、全体が明るく調和し
た状態で、ケアが充実している様子を表している。(図表の説明は以上)
2.2. 生産性向上の目指すこと
障害福祉の生産性向上では、各法人・事業所が組織全体で現場の課題に向き合い、支援者が持つ
力の発揮、そして、各法人・事業所の理念や価値観の実現を妨げる障壁をなくしていくことを目指して
います。さらに、生産性向上の取組を通じて、新しい価値を生み出し、それを広げていくことで、障害福
祉全体で当事者視点に立った「ケアの充実」につなげていくことを目指しています。
具体的には、
「あるべき姿」はどのような姿か
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「現状」はどのような状態か
を、法人・事業所ごとの特徴に応じて明らかにします。その上で、「あるべき姿」と「現状」の間にあるギ
ャップを埋める取組を進めていきます。
図表の説明:左右に分かれた図である。
左側には「どのような状態か」とあり、「現状A」「現状B」「現状C」と書かれた3つの四角が重なって置か
れている。これは、現在の状態や課題が整理されていない様子を表している。
中央には人のマークがあり、その右側には「課題A」「課題B」「課題C」と書かれた複数の四角いブロック
が階段のように積み上がっている。人がその階段を上ろうとしている姿が描かれている。
右上には星形があり、「あるべき姿」と書かれている。点線の矢印が左側から右上の星へ伸びており、現
在の状態を整理し、課題を一つずつ乗り越えながら、目指す姿に向かって進んでいくことを表している。
(図表の説明は、以上)
「あるべき姿」と「現状」の間にあるギャップを埋めるに当たっては、個人で取り組むのではなく、目指す「あ
るべき姿」をチームで共有し、協力しながら進めることが重要です。そのためには、職員一人一人が安
心して意見を出し合える環境を整えるとともに、チーム全体で課題や改善策を考え、実行していくことが
求められます。
生産性向上の取組には、業務の進め方や役割分担の見直し、情報共有の工夫など、人や組織の在
り方を見直す取組も含まれます。大きな改革を一度に行う必要はなく、まずは現場で実行可能な小さ
な改善から始めることで、支援者一人一人の力を引き出し、組織全体として変化を積み重ねていくこと
ができます。
こうした生産性向上の取組において、大きな力を発揮する重要な手段の一つが、テクノロジーです。
例えば、介護ロボットや情報通信技術(ICT)といった介護テクノロジーを導入・活用することで、支援
者の負担を減らしたり、利用者の安全を守ったりするのに役立ちます。特に様々な種類の帳簿を扱う障
害福祉の現場では、異なる帳簿の間での転記作業に要する時間やミスの発生が負担につながることが
明らかになっています。こうした転記負担の軽減には、記録ソフトをはじめとする情報通信技術の活用が
有効であり、本書の第6章では、こうした事例も取り上げています。このようにテクノロジーの活用により
浮いた時間を活用することで、当事者視点に立ったサービス提供の観点から、一人一人の利用者をより
丁寧に支援したり、より多くの利用者に支援を届けたりすることが可能になります。
テクノロジーの可能性はそれだけにとどまりません。例えば、
記録の共有により支援の質の向上につなげる
AI(人工知能)の活用により「支援の見立て」や「計画づくり」の場面での専門的判断を支援する
障害者自身がテクノロジーを活用してコミュニケーションや移動の幅が広がり、自立や社会参加につ
ながる
といったかたちで、これまで「できなかったこと」が「できるようになる」という可能性も持っています。
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このように、テクノロジーは負担軽減と新たな価値創出の両面で大きな可能性を持っています。こうした
テクノロジーの可能性を生かすことは、社会の変化を踏まえつつ、障害福祉の現場がより持続的に発
展していくための重要な視点の一つとなります。このため、障害福祉の生産性向上では、テクノロジー
の活用を特に重点的に扱っていく必要があります。
図表の説明:図は、生産性向上によって生まれる効果を2つの側面から示している。左側は、情報共
有・連携の促進、身体的負担軽減、事務負担軽減などによる「負担軽減」を表している。右側は、障害
者自身の自立や社会参加、支援の質の向上、専門的判断の支援などによる「新たな価値創出」を表し
ている。全体として、一人一人の利用者をより丁寧に支援し、「できなかった」ことが「できる」ようになること
を目指す図である。(図表の説明は以上)
コラム:「当事者視点に立ったケアの充実のための生産性向上」とDX
最近、「DX(デジタルトランスフォーメーション)」という言葉がよく聞かれるようになりました。DXとは単
にデジタル技術を取り入れることではありません。DXで重要なことは、現在の業務のあり方を出発点に、
変革した後の「より良い」将来像から逆算し、その実現のために、どのようなデジタル技術が必要かを考え
ることです。そして、そのデジタル技術をあるべき姿に近づくための手段として活用することです。
DXでは、現在の業務のあり方としての「現状」を「As-Is」、変革した後の「あるべき姿」を「To-Be」と表
現し、その間の「ギャップ」を埋めるという考え方がよく用いられます。本書で取り上げた「あるべき姿」と「現
状」の間の「ギャップ」を埋めるという考え方は、このDXでよく用いられる考え方をもとにしています。そのた
め、本書の示す「当事者視点に立ったケアの充実のための生産性向上」とはDXと重なる考え方として
捉えることもできます。
日々の業務負担を少しでも軽くすることで、生まれた時間や余力を活かし、当事者にとってより良い支
援につなげること、そして、支援に新たな価値を生み出すことこそが障害福祉におけるDXの本質といえる
でしょう。
コラム:「なぜ導入するのか」から始める介護テクノロジー
介護や障害福祉の現場では、介護テクノロジーを導入したものの、十分に活用されていないケースが少
なくありません。その大きな要因の一つは、「自分たちの法人・事業所に、なぜこの介護テクノロジーが必
要なのか」という目的が十分に整理されていないことが挙げられます。
導入がうまくいくかどうかの分かれ目は、目指す姿に照らして本当に必要なものかを検討できているかどう
かにあります。そのためには、「あるべき姿」と「現状」を明確にし、そのギャップを埋める取組として、介護テク
ノロジーの導入や活用を位置づけていくことが重要です。このように目的や位置づけを明確にした上で導
入を検討することが、介護テクノロジーを現場に定着させ、生産性向上につなげるためのポイントとなりま
す。
第2章の問いかけ
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あなたの法人・事業所が大切にしている理念は何ですか。
法人・事業所の「あるべき姿」はどのようなものだと考えますか。
法人・事業所の「あるべき姿」の実現の妨げとなっていることは何ですか。
。
3. 生産性向上とは何か―What
障害福祉における「生産性向上」とは、何を指すのでしょうか。本書では、障害福祉における生産性向
上を、当事者視点に立ったケアの充実のために、「支援者一人一人の力を引き出し、チームでその力を
利用者に届けることで、新たな価値を生み出すこと」と定義します。
「ケアの充実」の実現には、障害福祉の現場で活躍する支援者一人一人が持つ「力」を、十分に発揮し
やすい環境にしていくことが欠かせません。支援者がやりがいと安心感を持って働き続け、当事者視点に
立ったより良いケアを持続的に届けられるようにすることが、結果として、障害福祉の仕事の魅力を高め、
未来につないでいくことになります。
3.1. 「生産性」の捉え方
障害福祉における「生産性向上」は「当事者視点に立ってケアを充実させるためのもの」であって、
「支援を減らすこと」でも「人を減らすこと」でもありません。それとは逆に、負担軽減や価値の創出により、
「利用者の支援に注力できる環境づくり」や「支援者の働きがいの向上」につながる考え方です。
しかし、「生産性」という言葉に対して、
人と人との関わりが大切な障害福祉にはなじまない、どこか冷たい言葉
現場の忙しさを無視した「人を減らす」発想につながる言葉
といったイメージを持つ方も少なくありません。
また、ここでいう「生産性」は、あくまで支援に着目した生産性を指しているのですが、「人の価値や能
力を測るものさしのように感じてしまう」という声もあります。こうした理由から、「生産性」という言葉そのもの
に心理的な抵抗感を覚える障害当事者や障害福祉関係者がいることも事実です。
こうした中、本書では、「生産性」という言葉の本来の意味に立ち返った上で、障害福祉の文脈で捉
え直しています。
「生産性」という言葉は、「生」と「産」という、「うむ」「うみだす」という意味を持つ漢字から成り立っていま
す。また、「生産性」を意味する英語であるproductivity の語源をたどると、ラテン語の pro(前へ)
と ducere(導く・引き出す)に由来しており、本来は、「前へ進める」「潜在的な力を引き出す」という
意味を持っています。
こうしたことから、「生産性」という言葉は「組織等が持っている力を引き出し、新しい価値を生み出すこ
と」と捉えることができます。
これを踏まえ、本書では、障害福祉の現場でも使いやすいように、「生産性向上」を以下のように整理
しました。
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障害福祉における生産性向上:
支援者一人一人の力を引き出し、チームでその力を利用者に届けることで、新たな価値を生み出すこ
と
図表の説明:障害福祉における生産性向上の考え方を視覚的に表現している。
左側は「支援者一人一人の力を引き出す」とあり、複数の人のイラストがそれぞれ上向きの矢印とともに
描かれている。支援者それぞれの力や可能性を高めることを表している。
中央は「障害福祉における生産性向上 チームでその力を利用者に届ける」とあり、中央の円の中に利
用者、その周囲に複数の支援者が配置されている。支援者一人一人の力をチームとしてつなぎ、利用者
に届けることを表している。
右側は「新たな価値を生み出す」とあり、障害のある方の下に支援者や機器のイラストがある。支援者一
人一人の力を引き出し、チームでの支援の積み重ねによって、新たな価値や可能性が生まれることを表し
ている。(図表の説明は以上)
「生産性向上」とは、単に「業務効率化」だけを指しているものではありません。支援者が自分の「力」や
「強み」を理解し、それを発揮しやすい環境をつくることに関わるものです。
障害福祉の現場では、支援に必要な「力」を持つ多くの支援者が活躍しています。この「力」には、専
門性に裏打ちされた知識やスキルのみならず、障害福祉にかける想いも含まれます。こうした「力」が利
用者に届くことで、支援の「価値」が生み出されます。このため、支援者一人一人が持つこれらの「力」
の発揮を妨げている要因(事務負担、情報共有・連携の不足等)を取り除くとともに、「力」の発揮
を促す要因(役割の明確化、安心して意見を言える雰囲気等)を大切にすることが「ケアの充実」の
実現に不可欠です。
また、支援者一人一人にも多様な背景や個性があり、それが「力」の源泉になっている場合もあります。
このため、支援の現場で支援者一人一人の「強み」が発揮される環境づくりも重要となります。
このような環境が整うことで、支援者はやりがいと安心感を持ち、自分たちの持つ「力」を支援に十分
に生かして働けるようになります。そして、当事者視点に立った「新たな価値を生み出すこと」が実現しま
す。具体的には、業務の見直しやテクノロジーの活用などによって時間や余力が生まれることで、利用者
の希望をかなえる新たな取組や支援の質を高める工夫、さらに、当事者視点に立ったより良い支援の提
供に向けて、支援者自身がスキルを高めるための時間を確保することが可能になります。
その結果、利用者はより良いケアを受けられ、QOL(生活の質)の向上につながります。この循環が続
くことで、「ケアの充実」を持続的に実現できる強い組織へと発展します。
さらに、生産性向上の取組は、チームで取り組むことで、効果を実感しやすく、継続にもつながります。
日々の支援の中で生じる課題の多くは、現場の工夫や話し合いによって解決されてきたものです。生産
性向上の取組についても、こうした現場発の気づきや改善を大切にしながら進めていくことが重要です。そ
のうえで、経営層や管理者層が生産性向上の意義や重要性を理解し、現場の取組を支えながら関与
することで、取組が現場に根付き、「あるべき姿」の実現に向けて着実に前進しやすくなります。
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このようにチームで「当事者視点に立ったケアの充実のための生産性向上」に取り組むことは、結果とし
て、障害福祉の仕事の魅力や現場の持続可能性を高め、障害福祉を未来につないでいくことになりま
す。
コラム:支援者の「強み」を活かすために
障害福祉の現場には、様々な背景や経験を持つ支援者が関わっています。現場で活躍する支援者
一人一人の多様な背景や経験は、支援者の「力」の源泉となる「強み」と捉えることができます。例えば、
障害のある支援者が当事者としての背景や経験を持っている場合、利用者が感じている不安や困りごと
を、自身の体験と重ね合わせることで理解しやすくなることがあります。そのような理解を通じて、言葉にな
りにくい気持ちに気づきやすくなり、結果として、利用者の立場に寄り添った支援につながることもあります。
こうした「強み」に根ざした「力」を発揮するためには、互いの違いを理解し尊重し合える心理的安全性
が欠かせません。安心して意見や気づきを共有できる環境があることで、「誰か一人の正解」に頼らない、
多面的な支援が可能になります。
多様性を尊重する価値観が広がる中で、障害福祉の現場が、多様な人々がそれぞれの「強み」に応じ
た役割を担い、互いを尊重しながら働ける場であることは、これからの人材確保においても大きな魅力とな
り得ます。
障害福祉の現場が、多様性を包摂し、支援者一人一人がその「強み」に根ざした「力」を発揮できる
場であることは、人材確保や定着、そして障害福祉の価値を未来につなぐ上で大切なことです。
3.2. 「生産性向上」と「業務改善」
「生産性向上」と似た言葉に、「業務改善」があります。介護分野では、障害福祉分野よりも先行して
生産性向上に関する取組が進められており、「介護サービス事業における生産性向上に資するガイドライ
ン」では、主に現場で「業務改善」を進める過程が整理されています。
介護分野のガイドラインでは、「一人でも多くの利用者に質の高いケアを届ける」という介護現場の価値
を重視し、介護サービスの生産性向上を「介護の価値を高めること」と定義しています
2
。その上で、「職
場環境の整備」や「業務の明確化と役割分担」など、現場での「業務改善」の進め方がわかりやすくまと
められています。
障害福祉の現場にも、介護と同様に、人材不足や業務負担の大きさといった課題があります。その一
方で、障害福祉には、
利用者の年齢層や障害特性が非常に多様であること
サービスの種類が幅広く、支援の個別性が高いこと
当事者や家族により設立された事業所をはじめ、理念等に設立経緯が強く反映さ
れている場合が多いこと
といった特徴があります。
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このため、障害福祉の現場では、一つ一つの「業務改善」の必要性や優先度合いについて、各法人・
事業所の理念や価値観、現場の実情等に応じて、判断する必要があります。例えば、
強度行動障害の状態にある利用者への支援等においては、「業務改善」において重要視される
「業務の標準化」を進めること自体が適切ではない場合もあり、状況に応じた対応や個々の障害
特性に十分に配慮した対応が求められる
同じ「掃除」という活動でも、支援者の業務負担とみるか(例:重度の障害者を対象とする居住
系サービス)、教育的活動(例:障害児入所施設)や自立支援とみるかといった見方や価値
観の違いが存在し、「業務改善」の意味合いが場合によって異なる
というように、「業務改善」の捉え方そのものに留意が必要な場面も多くあります。
注釈)2 厚生労働省老健局(2024)。
さらに重要なのは、「業務改善」はあくまで通過点であるという点です。業務改善や負担軽減だけで
は、利用者の生活の豊かさに、必ずしもたどり着けるとは限りません。
生まれた余力を、利用者の希望をかなえる新しい取組、支援の質を高める工夫、支援者がスキルを
高めるための時間などにどう生かしていくかという、「業務改善の先」を見据える視点が欠かせません。
こうした背景から、障害福祉の現場で生産性向上を進めるためには、具体的な取組の前に、自分たち
の法人・事業所は何を目指しているのか、すなわち、どのような「ケアの充実」を実現したいのかを明ら
かにし、取組の前提となる考え方を共有することが重要になります。
そこで本書では、
生産性向上の目的や意義を明確にすること
生産性向上の取組を、「あるべき姿」と「現状」のギャップを埋める取組として位置付けること
取組を支えるチームづくりを重視すること
を大切にし、生産性向上に取り組むための土台づくりに重点を置いています。
3.3. 「生産性向上」の「見える化」
「生産性向上」と聞いても、まだどこか漠然としていて、具体的なイメージが持ちにくいと感じる方も多い
かもしれません。また、いろいろな要素が思い浮かんでも、それらがどのように関係しているかを整理すること
が難しいと感じる場合もあるでしょう。
本書では、「当事者視点に立ったケアの充実のための生産性向上」という抽象度の高い考え方と、現
場で行われている具体的な取組について、それぞれの中身と両者の関係性を、できるだけ「見える化」
することを大切にしています。
障害福祉の現場では、多様な利用者の状況や法人ごとの設立経緯などを背景に、それぞれの法人や
事業所で、大切にされてきた理念や価値観があります。本書における「生産性向上」の「見える化」では、
「当事者視点に立ったケアの充実のための生産性向上」の考え方を踏まえつつ、大切にされてきた理念や
価値観、そしてそれを実現するための取組を整理し、見える形にします。これにより、各法人・事業所な
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らではの「生産性向上」の取組の中身や必要性が明確になり、関係者の間で共通のイメージを持つこ
とができるようになります。
このように、自分たちの法人・事業所で大切にされてきた理念や価値観を具体化していくことは、どのよう
な「ケアの充実」を実現したいのかを具体化することでもあります。本書でいう「ケア」とは、介助をしたり、サ
ービスを提供したりする行為そのものに限りません。利用者の生活を支えるための関わり全てを意味してい
ます。こうした考え方に基づき、本書では、「当事者視点に立ったケアの充実のための生産性向上」とし
て、次の三つの要素として整理しました。
利用者のQOL(生活の質)の向上
支援者の働きがいの向上
持続可能な事業運営の実現
「当事者視点に立ったケアの充実のための生産性向上」の実現には、これら3つの要素をバランスよく
実現していくことが重要です。
このような整理を参考に、各法人・事業所ならではの「生産性向上」の「見える化」を進めることが生産
性向上の取組を進めるための出発点であり、現場での対話や改善を重ねていくための重要な一歩で
す。
コラム:ロジックツリーで「見える化」する
本書では、生産性向上の具体的な手法として、主に「ロジックツリー」を用います。ロジックツリーとは、物
事を分解して構造化することで、「全体」と「部分」の関係を整理するための手法です。ロジックツリーで
は、右(下位の概念)に向かうほど、要素が細かく分解されていき、上位の概念(左)から下位の概
念(右)へと進むにつれて、内容がより具体的に分かれていきます。全体像と、そこに至るための具体的
な取組との関係を、ひと目で把握できることが特徴です。
この手法は、考えたい要素の大きさや具体性がばらばらな場合でも、それぞれを適切な階層に整理し、
全体像を見渡すのに役立ちます。また、ロジックツリーとして「見える形」にすることで、自分たちの考えを他
の職員や関係者と共有しやすくなるという利点もあります。
数ある分析・整理の手法の中でも、ロジックツリーは、こうした「自分たちは何を大切にしているのか」、「ど
のような姿を目指しているのか」、「そのために、現場で何に取り組むのか」といった問いを理念や価値観か
ら実践まで段階的につなげて整理できる点に特徴があります。
利用者の状況や法人・事業所の理念が多様な障害福祉の現場では、「正解となる取組」が一つとは
限りません。だからこそ、それぞれの法人・事業所が大切にしている理念や価値観と日々の取組のつなが
りを整理し、共有するための手法として、特に取り入れやすい手法です。このように、ロジックツリーは、本
書の大切にする生産性向上の考え方を「見える化」する上で、有効な手法の一つです。
以下では、各法人・事業所が「当事者視点に立ったケアの充実のための生産性向上」をより具体化す
るための手がかりとして、ロジックツリーを作る際に参考となるモデル(ひな形)を示しています。
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図表の説明:この図は、「あるべき姿」を、
1. 利用者の視点
2. 支援者の視点
3. 組織の視点
の3つに分けてロジックツリーで整理したものである。
左から右に向かって、各視点ごとの項目と、その具体例が枝分かれして示されている。
1. 例)利用者の視点
1-1. 支援の質の向上
職員のスキル向上
➢ 資格取得・専門性向上 など
利用者のアクセシビリティ改善
➢ ICTを活用した情報保障 など
1-2. 利用者本人の意思尊重
利用者のしたいことの実現
外出・就労・趣味活動など
意思決定支援の充実
1-3. 安心できる生活環境
食事や住環境の改善
➢ 調理担当配置、静かな環境づくり など
不穏を減らす環境調整
➢ 見守りカメラ活用 など
1-4. 家族の参画
家族が安心できる情報共有
家族意見の支援計画への反映
2. 例)支援者の視点
2-1. 職員の負担軽減
記録や事務の効率化
➢ タブレット、ICT導入 など
残業削減
行政手続きの簡略化
2-2. 職員の働きやすさ
勤務シフト整備
有休休暇取得率の向上
多様な働き方
➢ 利用者の笑顔増
➢ 成長実感
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➢ 迷いの減ることで支援に集中
2-3. 人材育成
OJT・メンター制度
動画研修・外部研修受講
専門職資格の取得支援
2-4. 人材確保・定着
新規採用・定着率改善
働き甲斐の可視化
3. 例)組織の視点
3-1. 安定した経営
収益性の確保と健全な運営
離職率低下による人件費の安定
3-2. 経営力の強化
経営リテラシーの向上
➢ 研修・経営支援など
法人本部の機能強化
➢ 採用、人事管理、人事評価など
3-3. 規模の最適化・協働化
大規模化による効率化
複数法人の協働
3-4. 地域との連携強化
地域資源の有効活用
➢ ボランティア受入れなど
行政・関係団体との協働
➢ 協議会設置・開催など
地域行事・啓発活動への参加
(図表の説明は以上)
本書の第5章に沿って各法人・事業所で生産性向上に取り組む際には、このロジックツリーのひな形
を参考にしながら、自分たちの理念や価値観、さらに、現場の実情に合わせたロジックツリーを作ってみてく
ださい。
第3章の問いかけ
本章の掲げる「生産性」の捉え方を読んで、当初抱いていた「生産性」に対するイメージから変化は
ありましたか。
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あなたの法人・事業所の「あるべき姿」を実現するためには、具体的にどのような取組が考えられます
か。
具体的な取組の中には、テクノロジーの力を活用して、取り組めそうなことはありますか。
4. 生産性向上をどのように進めるか―How
障害福祉の現場で、具体的にどのように生産性向上を進めていけばいいのでしょうか。本書の掲げる
「当事者視点に立ったケアの充実のための生産性向上」は、利用者や支援者などの「人」を大切にするプ
ロセスです。
このため、本書では、障害福祉の特性も踏まえ、「3つの価値観」を大切にしつつ、「5つのステップ」に
沿って、生産性向上の取組を進めることとしています。
4.1. 3つの価値観
4.1.1. 「3つの価値観」とは何か
障害福祉の現場で生産性向上に取り組むに当たっては、「何を大切にしながら進めるのか」という共
通の価値観を、あらかじめ共有しておくことが重要です。
本書では、法人・事業所全体で生産性向上の取組を進めていくうえで、次の「3つの価値観」を大切
にすることとしています。
図表の説明:
「3つの価値観」を示した図である。
左は「協調性(みんなですすめる)」で、立場や手順の違いを認め合いながら、安心して取り組めること
を大切にすることを表している。複数の人が一緒に関わるイラストが描かれている。
中央も「包括性(みんなにやさしい)」で、意見や考えが異なっても、対話や説明を通じて納得しながら
進めることを表している。複数の人が吹き出しとともに描かれている。
右は「共益性(みんながうれしい)」で、利用者、職員、組織等のすべての関係者にとって良い変化にな
ることを表している。3名の人が線で繋がり、手を挙げて喜んでいる様子が描かれている。
(図表の説明は以上)
4.1.2. なぜ「3つの価値観」なのか
障害福祉の現場には、非常に多様な関係者が関わっています。例えば、利用者、家族、現場の職
員、管理者、経営者、自治体職員、支援機関などが挙げられます。
また、相談系サービスであれば他のサービス事業所や病院等、就労系サービスであれば生産活動の場
面でのお客様など、それぞれのサービスならではの関係者や関わり方があります。さらに、協働化等により、
複数の法人・事業所が協働して業務を行うことや同一法人内にも設立経緯等が異なる事業所が存在
することがあります。
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このように多様な関係者が関わる中では、立場によって見えている景色や感じている課題は異なりま
す。だからこそ、生産性向上の取組をうまく進める上で、一緒に考え、協力しながら進めていく姿勢が欠
かせません。
また、生産性向上の取組を進めるうえでは、関係者一人一人の納得感も重要です。特に、働く人一
人一人の意欲や当事者意識を高めることは、結果として支援の質の向上にもつながります。あわせて、
「当事者視点に立ったケアの充実」には、利用者本人の意思決定を尊重し、支援に生かしていく姿勢が
不可欠です。
さらに、生産性向上の取組がすべての関係者にとって、よい影響がもたらされることも重要です。特定
の目標にこだわったり、支援を過度に標準化してしまうと、見過ごされる観点が発生したり、誰かが取
り残されたりするリスクもあります。
現場が一丸となって前向きに取り組める環境をつくるためにも、協調性(みんなですすめる)・包摂性
(みんなにやさしい)・共益性(みんながうれしい)という3つの価値観を意識しながら進めることが
重要なのです。
第4章第1節の問いかけ
あなたの法人・事業所ではどのような関係者(「3つの価値観」における「みんな」)がいますか。
あなたが挙げた関係者にとっての課題はどのようなものがありますか。
課題を乗り越えるためにどのような工夫・留意が考えられますか。
。
4.2. 5つのステップ
4.2.1. 「5つのステップ」とは何か
本書では、障害福祉の現場で「当事者視点に立ったケアの充実のための生産性向上」の取組を進め
るにあたり、次の「5つのステップ」に沿って進めることとしています。
①共感をつくる:支援者間で共通の「あるべき姿」を描く。
②課題を見える化する:「あるべき姿」と「現状」を比べ、
その間のギャップを明らかにする。
③解決策を考える:課題について、無理なく実行できる解決策を考える。
④試してみる:解決策を具体的な取組に落とし込み、小さく試す。
⑤振り返る:取組を振り返り、次の取組へ発展させる。
この「5つのステップ」は、一度きりで終わるものではなく、循環・繰り返しの中で、少しずつ前に進んで
いくことを想定しています。
図表の説明:図は、生産性向上の取組を進めるための「5つのステップ」を示している。中央に「5つのス
テップ」があり、その周囲に、①共感をつくる、②課題を「見える化」する、③解決策を考える、④試してみ
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る、⑤振り返る、の順で円形に配置されている。取組は、この流れを繰り返しながら進めていくことを表して
いる。(図表の説明は以上)
4.2.2. なぜ「5つのステップ」なのか
本書の「5つのステップ」は、障害福祉の特性を踏まえつつ、現場で活用しやすい手順に整理したもの
です。
障害福祉の現場では、利用者の年齢や障害特性、生活環境が多様であり、求められる支援のあり
方は利用者一人一人によって異なります。その一方で、チームで協働して支援を行うに当たっては、支
援者側の支援のあり方に関する一定の共通理解が必要です。
このため、「当事者視点に立ったケアの充実のための生産性向上」の取組を進めるには、共通の「あるべ
き姿」を描くという「方向付け」が必要となります。これは、「5つのステップ」の中で、主にステップ1で取り
組むことが想定されています。
また、多様性や個別性に対応した支援の中で得られる感覚、経験、ノウハウ等は、属人化したり、潜
在化したりすることがあります。チームとして充実した支援を行うには、これらを「見える化」し、共有すること
が欠かせません。このため、ステップ2をはじめ、「5つのステップ」の各所で、言葉にしてみること、構造的
に整理すること、そしてチームで共有することを大切にしています。
さらに、利用者の希望の実現に向けて力になりたい、チームで協力してよりよい支援を届けたい、周囲の
人の役に立ちたいといった支援者の想い、さらには各法人・事業所が掲げる理念や価値観を生かすことも
欠かせません。このような障害福祉ならではの強みを生かし、「当事者視点に立ったケアの充実のための
生産性向上」を実現するためには、前向きで創造的かつ柔軟な進め方であることが求められます。このた
め、「5つのステップ」では、想いを共有することを大切にするとともに、課題の特定や解決策の選択に際し
て結論ありきにならないよう留意しています。
コラム:「5つのステップ」と「デザイン思考」
本書で示している「5つのステップ」は、「デザイン思考」の考え方
3
を参考にしながら整理したものです。
「デザイン思考」とは、サービスや製品を利用する人(ユーザー)の視点を重視し、新たな解決策を創出
するための方法論です。障害福祉においては、これまでも当事者視点に立った支援を大切にしてきまし
た。障害福祉サービス等の利用者の生活や思いに寄り添いながら支援を考えていくという点において、デ
ザイン思考の考え方は、障害福祉の考え方と親和性があるといえます。
本書では、デザイン思考のプロセスを参考にしつつも、障害福祉の現場における実践になじむ形で整理
し、「当事者視点に立ったケアの充実のための生産性向上」に向けた取組を考えるための手がかりとして、
「5つのステップ」として示しています。
注釈)3 デザイン思考の考え方についてはBrown(2009)を参照した。また、本書の「5つのステッ
プ」については、Hasso Plattner Institute of Design at Stanford(2012)を参考に作成した。
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本書では、デザイン思考のプロセスを参考にしつつも、障害福祉の現場における実践になじむ形で整理
し、「当事者視点に立ったケアの充実のための生産性向上」に向けた取組を考えるための手がかりとして、
「5つのステップ」として示しています。
第4章の問いかけ
日々の業務の中で、利用者一人一人への対応が特に難しいと感じる業務は何ですか。
その業務について、利用者の視点から見た「あるべき姿」と「現状」にギャップはありますか。
このギャップを少しでも縮めるために、何ができそうですか。
5. 各ステップの進め方
ここからは「5つのステップ」に沿った、生産性向上の具体的な進め方を解説します。5つのステップは、
ステップ1からステップ5まで順に進め、また、ステップ1に戻るという循環構造になっています。
5.1. ステップ1 共感をつくる
ステップ1では、支援に込めた想いや価値観を言葉にし、支援者間で共通の「あるべき姿」を描くこと
で、共感をベースとした取組を進めるための土台をつくります。多様性や個別性への対応の要請が強い障
害福祉の現場で、生産性向上の取組に向けた「方向付け」をする上で、特に重要なステップになります。
図表の説明:「ステップ1」の流れを3つのイラストで示した図である。
「言葉にしてみる」「あるべき姿を描く」「呼びかける」が横一列に並んでいる。人と吹き出しのイラスト、3
人の人から矢印が星に伸びているイラスト、呼びかけている人のイラストが描かれている。(図表の説明は
以上)
5.1.1. 言葉にしてみる
まずは、生産性向上の取組の中心となるプロジェクトチームを立ち上げ、プロジェクトリーダーを決めます。
このプロジェクトチームの中で、「支援を続ける理由」を言葉にしてみましょう。例えば、
どんなケアを利用者に提供したいか。
どんな時に働きがいを感じるか。
法人・事業所が大切にしている理念や価値観についてどう思っているか。
地域にとってどのような存在でありたいか。
といった問いを投げかけ、プロジェクトチームの一人一人が考える、目指すケアの姿や法人・事業所の姿に
ついて語り合いましょう。一人一人の考える(支援のあり方や法人・事業所のあり方に関する)「ありたい
姿」から始めることがこの後、「あるべき姿」を描くことや「現状」を把握する上で、役立ちます。
法人・事業所が大切にしている理念や価値観が明確に決まっていない場合であっても、
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法人・事業所の設立の経緯
提供している支援の特徴
日々の声かけや現場でよく使われる言葉・表現
から、法人・事業所が大切にしていることが見えることもあります。
なお、最初からプロジェクトチームを立ち上げるのではなく、経営層がトップダ
ウンで生産性向上に取り組むケースもあります。その場合でも、経営層が自ら現場
を観察し、利用者や職員に耳を傾け、現場と関わることで、現場の職員の立場に立っ
て「支援を続ける理由」を言葉にしてみることが大切です。
5.1.2. あるべき姿を描く
生産性向上の取組を進めるためには、「どのようなケアを実現したいか」「どのような職場をつくりたいか」
「地域にとってどのような存在でありたいか」といった共通の「あるべき姿」 を持つことが大切です。
既にプロジェクトチームの一人一人が言葉にしてきた「支援を続ける理由」を踏まえ、法人・事業所とし
ての「あるべき姿」にまとめていきましょう。「あるべき姿」に対して共通認識を持つためには、「あるべき姿」を
構造的に「見える化」することが重要です。例えば、「利用者・支援者・組織」などの視点から、「それぞれ
にとって望ましい姿は何だろう」と考えてみること、更に、「あるべき姿」のロジックツリーを作成し、「あるべき
姿」の具体的な要素や関係性を見える形にしていくことが有効です。
図表の説明:ロジックツリーのイラストである。あるべき姿から3つに線が伸びている。1つ目が「例 利用
者の視点」として、車いすに乗った利用者のイラストが描かれている。2つ目が「例 支援者の視点」とし
て、ガッツポーズをする人のイラストが描かれている。3つ目が「例 組織の視点」として、建物のイラストが
描かれている。(図表の説明は以上)
解説:「ありたい姿」と「あるべき姿」
本書では、「5.1.1.言葉にしてみる」の中で「ありたい姿」、そして、「5.1.2.あるべき姿を描く」の中で「あ
るべき姿」という表現を用いました。
「ありたい姿」とは、一人一人が思い描く理想的な姿を指しています。同じ法人・事業所の中でも、一人
一人が考える「こんな支援がしたい」あるいは「こんな職場で働きたい」という想いは多様です。立場や職
種、経験年数によっても異なるかもしれません。
チームとして取組を進める上で、一人一人の多様な「ありたい姿」を言葉にしていくことは重要な過程で
す。その上で、「3つの価値観」を踏まえて、一人一人の思い描く「ありたい姿」を大切にしつつ、組織とし
ての共通の「あるべき姿」を整理していくことが必要です。
このように、一人一人の想いの多様性を認めつつ、チームとしての「あるべき姿」を描くことが取組の前進
につながります。
21
5.1.3. 呼びかける
法人・事業所を挙げて生産性向上の取組を行うためには、経営層やプロジェクトリーダーから自身の考
える「なぜ生産性向上に取り組むのか」を発信することが重要です。支援者全員を巻き込み、組織を挙
げて「一緒に進めよう」という方向付けをするには、「あるべき姿」として取組の目的をはっきりと示すことが
不可欠です。
具体的には、以下のような内容を盛り込んだ「キックオフ宣言」を行うことが有効です。
生産性向上の取組を通じて目指す「あるべき姿」が何であるか
「あるべき姿」を実現するためには、生産性向上の取組が不可欠であること
この取組には、職員全員の協力が必要であること
取組を進めるに当たって、協調性(みんなですすめる)、包摂性(みんなにやさしい)、共益性
(みんながうれしい)に沿った取組にすることを約束すること
事例:法人理事長による繰り返しのメッセージ(CAREER PORTほんまち(社会福祉法人 南高愛
隣会))
法人全体での記録ソフトの導入に当たって、理事長から「ICT化は支援の質を守るための取組である」と
いうメッセージを繰り返し職員に伝えました。これにより、記録ソフトの導入目的は単なる事務の効率化で
はないということを全職員に浸透させました。
5.2. ステップ2 課題を見える化する
ここでは、「あるべき姿」と「現状」を比べ、その間のギャップを明らかにします。特に、ロジックツリーを用い
て、現場の課題を構造的に整理し、チームで共有しながら、検討を進めることがポイントです。
図表の説明:ステップ2の流れを示した図である。
左から順に、「現状を把握する」「課題を見出す」「現状、あるべき姿を整える」が横一列に並んでいる。
理想の姿とのギャップから課題を見出し、最後に現状・あるべき姿・課題の関係を整理する流れを表して
いる。(図表の説明は以上)
5.2.1. 現状を把握する
課題を明確にするためには、まず「今、自分たちはどのような状態にあるのか」を正しく知ることが欠かせま
せん。「現状」の把握は、自分たちの「力」や「強み」が活かされている点と十分に活かしきれていない点を
確認するプロセスです。
ここでは、ステップ1でまとめた「あるべき姿」との関係で「現状」がどうなっているのかを確認します。その
際、次の2つの視点から確認すると、現場の実態をより正確に理解できます。
① 数値からわかること(定量)(例:記録にかかる時間、残業時間など)
② 職員や利用者の声や体験からわかること(定性)
22
(例:負担を感じる場面、困りごとなど)
確認できた内容は、既にロジックツリー上で表現された「あるべき姿」の個々の要素に対応した「現状」と
して整理し、書き加えていきます。
図表の説明:あるべき姿を、利用者・支援者・組織といった3つの視点に分けて整理し、それぞれについ
て現状と比較しながらギャップを確認する考え方を示したロジックツリーの図である。(図表の説明は以
上)
5.2.2. 課題を見出す
ここでは、現状把握を通じて見えてきた「ギャップ」、すなわち、課題について、「なぜ起きているのか」、「ど
のような影響が出ているのか」といった視点で掘り下げ、課題の中身を明らかにしていきましょう。
具体的には、それぞれの課題を「原因」「結果」「悪影響」などの視点で分類し、それらの課題がどのよう
につながっているのかを構造化して考えることが有効です。
課題を構造的に分析することで
どこが本質的な課題か
どこから手をつけると効果が高そうか
が見えやすくなり、後の解決策の絞り込みにつながります。
また、課題を検討する際には、他の事業所の取組を参考にすることも考えられます。特に同一あるいは
類似のサービスの種類を提供する事業所の間では、業務の種類や感じている課題感が似ている場合も
多く、取組の効果が高そうな課題を特定するヒントを得られる場合があります。
事例:職員からの聞き取りによる原因の把握(チャレンジャー(社会福祉法人 武蔵野千川福祉
会))
「職員の有給休暇取得日数が少ない」という状況があり、その原因を把握するため、職員に聞き取りを行
いました。その結果、単に業務が多忙であることだけが原因ではなく、休暇申請がすべて紙様式のため、
休暇簿の記載や決裁手続に時間と手間がかかり、物理的に休暇が取得しづらいということも原因となっ
ていたことがわかりました。
5.2.3. 現状/あるべき姿を整える
ここでは、「現状」から得た気づきや課題をもとに、「現状」と「あるべき姿」の間の関係を改めて整理しま
す。
既にロジックツリーで整理した「現状」と「あるべき姿」を比較し、言葉のつながりに違和感がある部分があ
れば、ロジックツリーを修正します。
ロジックツリーを見直すことで、「現状」「課題」「目指す方向」の関係性がわかりやすくなり、解決までの
道筋が描きやすくなります。
23
5.3. ステップ3 解決策を考える
前のステップで「あるべき姿」と「現状」のギャップを明らかにすることで具体的な課題が浮き彫りになりまし
た。これらの課題について、現場で無理なく実行できる、解決策を考えていきましょう。
図表の説明:
「ステップ3」の流れを3つのイラストで示した図である。
「課題を絞り込む」「解決策を洗い出す」「解決策を選ぶ」が左から右に一列に並んでいる。
それぞれの段階で、付箋のような箱が縦に並んでおり、課題や解決策が整理されていく流れを表してい
る。(図表の説明は以上)
5.3.1. 課題を絞り込む
ここまでで浮き彫りになったすべての課題を一度に解決する必要はありません。
「現状」をもとに、現場から出てきた意見や気づきを大切にしながら、「まずどの課題に取り組むか」(「優
先して取り組む課題」)をはっきりさせていきます。その際、「5.2.2.課題を見出す」での整理をもとに、優
先順位付けをすることも有効です。
事例:緊急性×職員の声×効果の大きさで優先度をきめる(ひびきホーム音彩(社会福祉法人 ス
プリングひびき))
課題の優先順位を①緊急性が高いもの、②職員からの声が多いもの、③利用者と職員双方にとって効
果が大きいもの、の三つの軸で整理し、職員にも共有しています。職員の声を定期的に無記名のアンケ
ートで収集しており、例えば、送迎記録や勤怠管理の煩雑さはアンケートでも最頻出の課題であったた
め、早期にICTを導入しました。優先順位の判断を透明化することで、職員に納得感が生まれ、現場
の協力を得やすくなっています。
5.3.2. 解決策を洗い出す
「どの課題に取り組むか」を明らかにしたら、その課題に対応した、考えられる解決策をできるだけ多く出
します。解決策を洗い出すうえでは、外部の情報を参考にすることも役立ちます。例えば、
厚生労働省や自治体が公表している報告書等をもとに、類似のサービスにおける取組事例を調べ
てみる
「介護テクノロジー等導入・活用マニュアル(仮称)」(令和7年度中に策定予定)を参照する
自治体等のワンストップ窓口
4
に相談する
機微情報を入力しないよう注意を払いつつ、生成AIに質問してみる
テクノロジーの展示会等を見学する
24
また、具体的な解決策としては、例えば、
テクノロジーの活用
業務の流れや役割分担の見直し
ルールやマニュアルの整備・更新
職員同士の情報共有の工夫
手順書の作成
といったものが挙げられます。
なお、テクノロジーの導入等に際して、初期投資が必要になる場合でも、補助金の活用により、負担
が軽減できる場合があります
5
。補助金に関する情報は自治体や厚生労働省のウェブサイト等で公表さ
れています。また、こうした情報を事業者団体や行政書士等から入手している事業所もあるようです
6
。
図表の説明:取り組むべき課題に対して、解決策を検討する際の視点を示した図である。「取り組むべ
き課題」と書かれた周囲には、円状に「情報の取扱いに注意しつつ生成AIを活用する」「類似サービス
の取組を知る」「介護テクノロジー関係のマニュアル等を活用する」「ワンストップ窓口に相談する」「テクノロ
ジーの展示会等を活用する」といった四角の図形が配置されている。(図表の説明は以上)
注釈)
4 障害福祉現場のワンストップ窓口は、内閣官房(2025)、厚生労働省(2025)等を踏まえ、
今後設置が進められる予定。
5 厚生労働省(2025)。
6 厚生労働省(2025)。
事例:記録ソフト導入に向けた解決策の洗い出し(ヘルパーステーションぱーとなー(有限会社宝
寿))
記録業務を軽減するため、特定のソフトに最初から絞るのではなく、解決策の選択肢を幅広く検討する
ことから取り組みました。積極的にメーカーへの相談やテクノロジーに関する相談会・展示会へ参加し、複
数の選択肢を比較・検討しました。また、職員のテクノロジーに対する不安を和らげることも重要な解決
策と捉え、こまめな社内研修を実施するなど、運用面での取組についてもあわせて検討しました。
5.3.3. 解決策を選ぶ
ここでは、洗い出した解決策から、どの解決策に実際に取り組むかを決めます。解決策は一つとは限り
ません。特にテクノロジーを導入する場合は、業務の進め方の見直しや役割分担など、アナログな解決策
と組み合わせることで、現場に定着しやすくなり、より高い効果が期待される場合もあります。
解決策を選ぶ際には、チームでの合意形成の観点も重要です。解決策を選ぶ過程が「3つの価値観」
に沿っているか、改めて、確認しましょう。
25
また、これまで整理したロジックツリーを見返し、選んだ解決策が各法人・事業所の「あるべき姿」や「ケア
の充実」の実現につながっているかについても、確認しましょう。
事例:保護者に合わせた解決策の選定(天使園(社会福祉法人宗友福祉会))
利用児童の食事提供におけるアレルギー対応について、これまで保護者との連絡を電話や口頭で行って
おり、その確認作業や対応が負担となっていました。この解決手段を選ぶに当たっては、事業所の都合だ
けでなく、利用児童の保護者の使いやすさも重視しました。保護者は若い年齢層が多く、日常的にスマ
ートフォンを利用していたことから、アレルギー対応の連絡手段として、スマートフォンアプリの導入を採用し
ました。
事例:記録ソフトの導入と併せてマニュアルも作成(トータルサポートライトブレイン上飯野校(株式会
社 UNIQUER))
「記録ソフトの導入にあたり、それまでの紙様式と入力項目が変わることを受け、各入力項目に何を入力
するのかを示したマニュアルを作成しました。これにより、職員が迷わずにソフトに入力することができ、記録
ソフトの定着が進みました。また、職員間の記録内容の標準化にもつながっています。
5.4. ステップ4 試してみる
考えた解決策を現場で実際に行う具体的な取組(アクティビティ)に落とし込み、小さく試していきます。
図表の説明:
「ステップ4」の流れを3つのイラストで示した図である。「取組の計画を作る」、「評価指標を決める」、
「小さく取組を始める」が左から右に一列に並んでいる。左から順に、計画を立てる図、評価指標を決め
る図、小さく始めることを足あとで示した図が並んでいる。(図表の説明は以上)
5.4.1. 取組の計画をつくる
ここでは、課題に対する解決策について、実行計画を立てます。実行計画では、プロジェクトの実行体
制やあるべき姿、解決したい課題、そのために取り組む解決策、スケジュールなどを記載し、「誰が・いつ・
何を行うのか」を明確にします。これにより、取組を確実に進められるようにします。
実行計画は、取組に当たっての仮説であり、その後の検証や分析や評価の土台となります。仮説に基
づいて取組を進めることは「変化の実感」にもつながり、取組の継続や定着にもつながります。
コラム:「実行計画」と「ロジックモデル」
実行計画の策定にあたっては、ロジックモデルの考え方が参考になります。
ロジックモデルとは、事業が成果を上げるために必要な要素を体系的に図示したもので、事業の設計図
7
にたとえられます。ロジックモデルは「インプット」「活動」「アウトプット」「アウトカム」と4つの要素で構成さ
れます
8
。
26
ロジックモデルの考え方に基づいて実行計画を立てることで、解決した課題に対し、どのような取組を行
い、その結果どのような変化が期待されるのかという因果関係を仮説として可視化することができます
9
。
なお、「アウトカム」には目標の達成段階に応じて「初期アウトカム」、「中間アウトカム」、「最終アウトカム」
があります。
図表の説明:
事業の流れ、記録ソフトの例をロジックモデルの4要素で整理した図である。
左から順に、記録ソフト導入に必要な人材・物品・予算などの「インプット」、記録ソフトの選定や導入、
操作研修などの「活動」、記録のデジタル化や操作研修の実施回数などの「アウトプット」、記録時間の
短縮や情報共有の迅速化といった「アウトカム」が示されている。
【インプット】
記録ソフトの
導入に必要な
人員 PC 予算 等
【活動】
記録ソフトの選定
記録ソフトの導入
操作研修の実施 等
【アウトプット】
記録のデジタル化率
操作研修の実施回数
操作研修の参加者数
【初期アウトカム】
記録時間の短縮
情報共有の迅速化
【中間アウトカム】
職員の負担軽減
【最終アウトカム】
当事者視点に立った
ケアの充実
(図表の説明は以上)
27
5.4.2. 評価指標を決める
取組の進み具合や成果を確認するために、まず、何を指標として見ていくのかを示す評価指標
(KPI)を設定します。その上で、それぞれの指標について、どの程度の達成を目指すのかを目標値とし
て定めます。
評価指標は、チーム全体で「取組がうまく進んでいるか」を共有し、評価するための目安であると同時
に、取組の仮説が適切であったかを検証するための手がかりともなります。同じ方向を向いて、継続した取
組を進めていくうえでも役立つものです。
評価指標を決めるときは、「3つの価値観」を思い出しながら、全ての支援者が関わるように工夫するこ
とが大切です。ある研究
10
では、目標は単に難しいほどよいのではなく、関係者に受け入れられているか
どうかによって効果が異なることが示されています。受け入れられている場合には、難しい目標ほど成果が
高まりますが、受け入れられていない場合には、難しいほどかえって成果が下がることがあります。
また、現在のデータを把握しておくことは、取組後にどのような変化があったのかを確認し、仮説に基づく
取組がどのような成果につながったのかを検証するうえで欠かせません。これらのデータは、その後の分析や
評価を行う際の基盤にもなります。
注釈)
7 三菱UFJリサーチ&コンサルティング株式会社(2016:35)。
8 日本財団(2019)。
9 図は日本財団(2019)を参考に作成。
10 Erez and Zidon(1984)。
コラム:SMARTの観点
評価指標は、できるだけ具体的で、「何をすればよいのか」が現場の職員にも分かるものであることが重
要です。そのための考え方として、ここではSMARTの観点を紹介します。SMARTとは、目標や指標を
設定する際に確認したい、次の5つの観点の頭文字を取ったものです。
図表の説明:目標設定の考え方である「SMART」を示した図である。
縦に、5つの四角の図形が並んでいる。上から目標が、
具体的であるか(Specific):何をよくしたいのかはっきりしているか
測定できるか(Measurable):変化を数字・記録で確認できるか
達成可能であるか(Achievable):現実的に到達できるか
意味があるか(Relevant):生産性向上の目的(支援の質向上、働き方の向上等)につながって
いるか
期限が決まっているか(Time-bound):「いつまでに達成するか」という期限が決まっているか
と並んでいる。(図表の説明は以上)
28
中でも特に重要なのが、「測定できるか」と「達成可能であるか」という2つの観点です。取組による変化
を測定できないと取組の成果を客観的に評価することができません。また、達成があまりに難しい目標を
設定してしまうと、現場の職員がついていけなくなってしまうこともあります。これらは「協調性(みんなです
すめる)」という観点からも重要となります。
現状のデータの把握や分析を踏まえ、測定可能かつ適切な難易度の成果指標を設定しましょう。
5.4.3. 小さく取組を始める
取組は、最初から完成形を目指すのではなく、「小さく始め、試しながら改善していく」姿勢で進めること
が大切です。「5.4.1取組の計画をつくる」で作成した計画に沿って取組を始めましょう。
生産性向上の取組は、日常の業務に加えて行うため、一時的に業務の負担が増えることがあります。
必要に応じて、計画した取組を、一部の業務や限られた期間・人数など、小さな範囲で試すことも考えら
れます。試してみて、思うような効果が得られなかった場合は「5.3.3解決策を選ぶ」へ戻るなど、柔軟に
進めていきましょう。
また、取組の中で得られた実感や気づきについては、振り返りに向けて記録しておきましょう。特に取組
の中での小さな成功体験は、取組を続ける意欲を高めるうえで効果的です。
事例:柔軟な姿勢での試行(ユリーカハイム草加(ゆりいか株式会社))
記録ソフトの導入に当たって、「まず試してみて、合わなければ見直す」という柔軟な姿勢のもと、複数メー
カーの記録ソフトを比較検討し、現場の職員による勉強会や練習を重ねながら導入を進めました。また、
経営層から「慣れるまで時間がかかる職員には丁寧にフォローすること」を管理者・職員に事前に周知し、
職員への支援体制を整えました。
5.5. ステップ5 振り返る
実行した取組を振り返り、必要に応じてやり方を見直しながら、次の取組へつなげ、よりよい形へ発展さ
せていきます。
図表の説明:ステップ5の流れを示した図である。
「ステップ5」の流れを3つのイラストで示した図である。
「評価する」「取組を意味づける」「次のサイクルに発展する」が左から右に一列に並んでいる。
左から、チェック項目のあるノートのイラスト、電球と人のイラスト、循環を表す矢印と人のイラストである
(図表の説明は以上)
5.5.1. 評価する
「5.4.2評価指標を決める」で定めた評価指標をもとに、取組の成果を確認します。評価指標に基づく
取組の成果の評価では、数字で確認できる変化(量的評価)と、現場の実感や気づき(質的評
29
価)の両面から確かめます。これらの両面から成果を捉えることで、どんな変化があったかを把握すること
ができます。また、評価指標以外にも、取組の中で得られた実感や気づきについても確認しましょう。
事例:効率化だけでなく、ケアの方向性の統一に寄与(ぷっくるケア(ぷっくる株式会社))
これまで紙様式だった訪問記録について、記録ソフトを導入したことで、ヘルパーが記録を定期的に事務
所に届けたり、郵送したりする手間が削減されました。また、入力した記録内容がリアルタイムに共有され
ることで、ヘルパー間での利用者のケアの方向性の統一に効果があるという気づきも得られました。
5.5.2. 取組を意味づける
生産性向上の取組は、1回取り組んで終わりではありません。よかった点やうまくいかなかった点を振り
返り、「この取組が私たちにとってどんな意味があるのか」を言葉にして共有することが大切です。この「意味
づけ」を丁寧に行うことで、「なぜ続けるのか」、「次に何を改善すべきか」が明確になり、生産性向上の取
組に対する職員一人一人の納得感や、次に向けた意欲につながります。
5.5.3. 次のサイクルに発展する
評価を通じて得られた成果や取組の意味を踏まえ、ステップ1(共感づくり)に立ち戻り、次の取組へ
とつなげていきます。原則として、ステップ5の後にはステップ1に戻り、らせん状に発展していくことを想定
していますが、必要に応じて、途中のステップに戻って考え直したり、やり方を見直したりしても問題ありま
せん。
こうした発展を通じて、組織全体が経験から学び、改善を続ける「学び続けるチーム」へと成長していき
ます。
図表の説明:ステップ1~5を繰り返しながら、次のサイクルへ発展し、チームが学び続けて成長していく
様子を示した図である。(図表の説明は以上)
事例:定期的な振り返りと改善の実施(相談支援事業所フロントライン(社会福祉法人 大乗福祉
会))
長距離移動を伴う相談支援業務を効率化するため、「現地完結型」の相談支援体制を構築しました。
ノートPCやディスプレイ、ポータブルプリンター等を活用し、契約から記録提出までを現地で完結できる仕
組みとしています。導入では、定期的に振り返りの会議を行い、運用状況の確認と改善策の検討を行っ
ています。例えば、一部の記録について、入力が後回しになりやすいという気づきがあったため、各記録の
入力のタイミングや手順の統一を行いました。現在もこの振り返りと改善のサイクルを継続し、運用の定着
と質の向上を目指しています。
6. 事例
30
社会福祉法人 雄勝なごみ会(秋田県)
◼ 事業所の概要
法人名:社会福祉法人 雄勝なごみ会
基本理念:響存:ふれ愛・助け愛・支え愛の3つの愛を大切に、一人一人の幸せ創りを志としま
す。
事業所名:地域生活支援拠点(愛光園・ぱあとなあ・かざぐるま)
所在地:秋田県湯沢市
サービス種別:
愛光園(生活介護、施設入所、短期入所)
ぱあとなあ(就労B、放デイ、相談支援、ホームヘルプサービス)
かざぐるま(生活介護、短期入所、共同生活援助)
職員数:計115名(3部門合計)
ホームページ:[https://ogachi-nagomi.net/](https://ogachi-nagomi.net/)
◼ 取組の概要
既存の記録ソフトはパソコン入力が前提であり、現場での即時記録が難しいことや紙書類が多い運用が
課題となっていた。このため、タブレットによる入力を可能とする環境整備と、帳票のデータ管理への移行
を実施した。記録業務の電子化と運用見直しを進め、支援時間の確保につなげた。
◼ 取組の流れ
共感をつくる:8月
プロジェクトチームの立ち上げ
➢ 各事業所からメンバーを選出、「みんなのそばにいたいプロジェクト(通称:みんそばプロジェク
ト)」として始動した。
あるべき姿の言語化
➢ 利用者中心の支援を実現する姿を整理し、取組の方向性を共有した。
課題を見える化する:9-10月
現状整理・導入機器の確認
➢ 既存ソフトの機能や運用方法を確認し、タブレット入力で実現できること・難しいことを整理し
た。
タイムスタディや職員アンケートで現場の課題を見える化
➢ 記録業務にかかる時間や負担感、現場の現状を把握した。
解決策を考える:10-12月
できること/できないことの整理
➢ 機能追加で対応できる範囲と、ソフト変更が必要な範囲を切り分けた。
代替案・追加機能の検討
➢ 優先度の高い業務(工賃計算等)も含め、必要な機能やソフトの情報収集を行った。
31
試してみる:12-1月
運用方針の決定・試行導入
➢ タブレット入力やバイタル連携を試行。メーカー説明会も実施し、現場職員が直接操作を確認
した。
➢ 就労Bの工賃計算について、2か月間の試行を経て本格導入とした。
振り返る:2月
導入後の効果検証
➢ アンケートや再測定を行い、業務時間や負担感の変化を確認した。
創出時間の活用検討
➢ 削減できた時間をどの支援に充てるか、現場で話し合いを進めている。
コメント:
(施設長):今回は、法人全体で取り組むため、各事業所からプロジェクトメンバーを選定しました。利
用者のことを一番に考えているメンバーです。取組ごとに主担当を決めました。
(職員A):導入予定の記録ソフトでは、工賃計算から支払請求まではできないことがわかりました。
期待していただけにショックで...落ち込んでいる私に、施設長が工賃計算ができるソフトも試してみようと
言ってくれました。結果的に今回導入することになりました!
(職員B):テクノロジーに苦手意識のある職員もいるため、全体説明やマニュアル配布の他、プロジェ
クトメンバーが職員の特性や理解度を踏まえ、個別に説明も行いました。
そのためか、当初想定していた職員のネガティブな反応は少なかったです!
画像の説明
施設の表玄関が写った画像。
コメント部分(施設長、職員A、職員Bにはそれぞれの方の顔写真が貼られている。
(画像の説明は以上)
◼ あるべき姿と現状(ステップ2:課題を見える化する)
本事業所では、「利用者の力を引き出し、生活の幅を広げたい」という理念のもと、利用者・支援者・組
織の3視点からあるべき姿を整理した。
その結果、記録・帳票業務の負担により支援時間が圧迫されていることや、業務フローの複雑さが課題と
して明らかとなり、記録業務の見直しに取り組むこととした。
図表の説明:あるべき姿と現状のロジックツリー
●あるべき姿/現状
あるべき姿:利用者の「力」を引き出し、生活の幅を広げたい
あるべき姿 利用者の視点:自分がしたいことができる環境
32
➢ 生活体験の増加⇔(現状)外出・体験が少ない。要望に応えられないことが多い。
➢ 地域・家族に姿を伝える⇔(現状)入所生活が見えにくい。
あるべき姿 支援者の視点:個別支援の充実
➢ 時間的な余裕がある⇔(現状)間接業務が優先される ※赤枠
➢ 支援根拠が言語化されている⇔(現状)個別支援に対する考えに職員間の温度差があ
る。支援の根拠がわからない人がいる。
あるべき姿 組織の視点:職員がやりがいをもって働ける
➢ 人材育成の体制が整っている⇔(現状)体制はあるけど、不十分。OJTも丁寧にする時間
がない。
➢ 現場に裁量がある(権限移譲)⇔(現状)現場に任せているが、現場側がまだ慣れていな
い
※赤枠について:今回の取組で特に焦点を当てた領域
●ギャップ(課題)
記録・作業に時間がとられ、個別支援の時間が十分にとれない
その結果、利用者の生活体験の機会が少ない
業務フローの複雑さ・帳票の多さが負担になっている
(図表の説明は以上)
◼ 取組の計画(簡潔版)(ステップ4:試してみる)
本取組では、記録・帳票業務の負担軽減を通じた個別支援時間の創出を目的に、記録や帳票の電
子化を進めることとした。
図表の説明:ロジックモデル
「インプット→活動→アウトプット→初期アウトカム」の表はロジックモデル図として、左から「インプット」「活
動」「アウトプット」「初期アウトカム」が横に配置されている。
●インプット
補助金
タブレット端末/記録ソフト
プロジェクトメンバー
ソフトメーカー支援
↓
●活動
業務可視化(記録時間測定・帳票棚卸)
タブレット・記録ソフト導入
33
↓
●アウトプット
記録ICT活用
➢ タブレット導入台数
➢ タブレット利用職員数
➢ 記録ソフト利用事業所数
帳票電子化
➢ 電子押印対応書類数
➢ 電子化した帳票様式数
バイタルデータ連携
➢ 電子転送対象機器数
工賃計算電子化
➢ 電子化対象利用者数
↓
●初期アウトカム
記録・帳票業務時間削減
➢ 工賃計算の作業時間
➢ 押印時間
➢ バイタル測定・記録時間
印刷枚数の削減
◼ 取組の成果・変化(一部抜粋)(ステップ5:振り返る)
取組の成果として確認された変化のうち、代表的な業務である「工賃計算」「支払伝票の押印作業」に
おける効果を整理している。なお、取組全体としては他にも成果が見られるが、ここでは一部を抜粋して
紹介する。
●工賃計算
これまで工賃計算は、複数のExcelファイルで対応しており、管理・入力・確認に手間がかかってい
た。
既存ソフトでは必要な処理に対応できないことが分かったため、就労Bについては、工賃計算が可
能なソフトを新たに導入した。
導入後は、現場入力→事務確認の流れが整い、転記・集計が減って業務フローが簡素化した。あ
わせて、日々の確認を丁寧に行う運用とした。
Before
職員の作業時間 4時間/月
34
事務員の作業時間 30分/週
↓
After
職員の作業時間 10分/月
事務員の作業時間 0分/週
⚫ 支払伝票の押印作業
毎月190枚(3拠点合算)の支払伝票に押印(押印箇所770箇所)していた。
電子公印を作成し、システム内で書類確認と押印ができるようになり、ワンクリックで一括押印がで
きるようになった。
現在は支払伝票のみだが、今後、電子決裁できる帳票を増やしていく予定。
Before
押印時間 90分/月
紙の枚数 190枚/月
↓
After
押印時間 10分/月
紙の枚数 0枚/月
当法人では、業務を「直接業務」「間接業務」「個別業務」の3つに分類して整理した。
今回の取組により、記録や転記にかかる時間が削減されたことで、間接業務に充てていた時間を個別業
務へ振り分けることが可能となった。現在、個別業務に充てる時間は増加しているものの、それが実際に
「利用者の生活体験の増加」につながっているかについては、引き続き検証が必要である。今後も取組の
効果を確認しながら、あるべき姿の実現を目指していく。
画像の説明
工賃計算の項目、Before/Afterの比較にはそれぞれ「業務フロー」と書かれた業務フロー図(プ
ロセスマップ)が1つずつ貼り付けてある。
支払伝票の押印作業の項目、Beforeには1事業所分/月の支払伝票の画像、デスクで押印し
ている画像、ファイリングや印刷もすべて削減とキャンプチャーの入ったファイリング画像が貼り付けてあ
る。
Afterには、PC操作をしている男性職員の画像が貼り付けてある。(画像の説明は以上)
一般社団法人HK(愛媛県)
◼ 事業所の概要
35
法人名:一般社団法人HK
基本理念:
『障害者が障害のない人と同じように暮らせるようにしたい』
『障害を理由に「できない」ということを全てなくしたい』
事業所名:ケアクリエイト
所在地:愛媛県松山市
サービス種別:重度訪問介護
職員数:計50名
ホームページ(CIL星空):http://cilhoshizora.com/?v=f8f993120e2d
※ケアクリエイトは重度訪問介護事業所であると同時に、同施設内のCIL星空の活動を支える役割を
担っている。
※CIL星空のメンバーは障害当事者として全国的に活動しており、ケアクリエイトの支援は自宅での生
活にとどまらない。
◼ 取組の概要
管理職が現場支援や事務作業に追われ、人材育成等のマネジメント業務に十分な時間を割けない状
況が続いていた。管理職がマネジメント業務に専念できる体制づくりを目的に、リーダーへ属人化していた
シフト作成業務を他職員へ引き継ぐ取組を行った。現行の手順の可視化、シフト表の見直しや手順書
の作成を行い、その他職員でも対応可能な体制を整えた。
◼ 取組の流れ
共感をつくる:9-10月
あるべき姿の言語化
➢ 代表・リーダーが事業所の現状を振り返り、理念である「利用者の自分らしい生活の実現」のた
めには、事業所の運営体制をより強化していきたいことを改めて言語化した。
現状の言語化
➢ 管理職が人材育成等のマネジメント業務に十分な時間を割けていない状況を振り返った。
プロジェクトチームの立ち上げ
➢ リーダーに属人化しているシフト作成業務を別の職員に引き継ぐことを目的に、プロジェクトチー
ムを立ち上げた。
課題を見える化する:10月
取組の宣言・呼びかけ
➢ コアメンバー会議にて取組を宣言し、取組のねらいについて共有した。
課題の整理
➢ 現行のシフト作成手順を書き出し、見える化を行った。
解決策を考える:10-11月
36
解決策を洗い出す
➢ 現行の作成手順に対し、効率化できるポイントをメンバーで意見交換した。
➢ シフト表のフォーマットの見直しや、Excel自動計算の導入等を検討した。また、引継ぎを受け
る職員の視点から、好ましい引継ぎ方法を聴取した。
試してみる:12-1月
実際に引き継ぐ
➢ リーダーのサポートのもと、実際にシフト作成業務を職員へ移行した。
振り返る:2月
取組の振り返り
➢ シフト作成業務の引継ぎを行い、リーダーの業務時間や負担感の変化を確認した。
コメント:
(代表):今回の取組では、まずリーダーと話し合い、事業所のありたい姿を改めて言語化しました。
日々の運営は回っているものの、事業所の運営体制をより強化していくために何に取り組むべきなのか、
改めて考えるきっかけとなりました。
(リーダー):まずは現行のシフト作成手順を書き出すことから始めました。どの工程にどれくらい時間を
要しているのか振り返るきっかけとなり、負担の大きい手順も明確になりました。
(職員A):リーダーのサポートのもと、段階的に引継ぎを受けたため、シフト作成業務の理解が深まり
ました。また、引き継がれる立場として疑問点を共有したことで、マニュアルや手順の改善にもつながりまし
た。
画像の説明
事業所の外観の画像が貼られている。
代表、リーダー、職員Aそれぞれの顔写真が貼られている。(画像の説明は以上)
◼ あるべき姿と現状(ステップ2:課題を見える化する)
本事業所では、「利用者の力を引き出し、生活の幅を広げたい」という理念のもと、利用者・支援者・
組織の3視点からあるべき姿を整理した。
その結果、管理職が現場支援や事務作業に追われ、本来のマネジメント業務に時間を割けていない
ことが明らかとなり、リーダーに属人化しているシフト作成業務を他職員に引き継ぐこととした。
図表の説明:あるべき姿と現状のロジックツリー
●あるべき姿/現状
あるべき姿:利用者の自分らしい生活を実現したい
あるべき姿 利用者の視点:利用者が柔軟にサービスを利用できる環境を整備
37
➢ 利用者の予定に合わせた柔軟な職員配置が可能⇔(現状)あらゆる利用者に対応できる
職員の不足
あるべき姿 支援者の視点:職員が質の高い、ケアを提供
➢ 職員が自律的に行動できる⇔(現状)事業所理念・方針が浸透していない
➢ 人材育成プログラムの充実⇔(現状)育成に対応できる人材の不足
あるべき姿 組織の視点:安定したサービス提供体制を維持
➢ 適切なマネジメントの実施⇔(現状)管理職がマネジメント業務に集中できていない※赤枠
➢ 業務の役割・手順の標準化⇔(現状)シフト作成業務・手順が属人化している※赤枠
※赤枠について:今回の取組で特に焦点を当てた領域
●ギャップ(課題)
管理職が現場対応にも追われ、マネジメント業務(人材育成等)に集中することができない
シフト作成業務が特定の職員に属人化している
(図表の説明は以上)
◼ 取組の計画(簡潔版)(ステップ4:試してみる)
本取組では、適切なマネジメントの実施と業務の役割・手順の標準化を目的とし、シフト作成業務の
引き継ぎとシフト作成手順の見直しを実施した。
図表の説明:ロジックモデル
「インプット→活動→アウトプット→初期アウトカム」の表はロジックモデル図として、左から「インプット」「活
動」「アウトプット」「初期アウトカム」が横に配置されている。
●インプット
プロジェクトメンバー
↓
●活動
シフト作成業務の手順書の修正
シフト作成業務の引継ぎの実施
↓
●アウトプット
修正したシフト作成業務の手順書
シフト作成業務の引継ぎの実施回数
↓
●初期アウトカム
シフト作成時間の短縮
38
シフト作成業務を担える職員の増加
管理者のマネジメント業務に充てる時間の増加
◼ 取組の成果・変化(一部抜粋)(ステップ5:振り返る)
●働きやすさの向上
これまで、シフト作成業務はリーダー1名が担当していたため、休暇・不在時にも急な勤務交代等
への対応が発生していた。
今回の取組ではシフト担当者を2名に増員することで、不在時にはもう一人の担当者が対応でき
る体制を整えた。
効果の測定にあたっては、リーダーへ働きやすさに関するアンケートを実施した。
Before
シフト作成担当者 1名
シフト作成業務に対する負担感(5段階)5
↓
After
シフト作成担当者 2名
シフト作成業務に対する負担感(5段階)3
吹き出し:休暇・不在時の対応が減り、心理的負担も軽減しました。
●マネジメント業務に充てる時間の増加
業務の引き継ぎを行い、シフト担当者は2名体制となった。
リーダーのシフト作成業務にかかる時間が削減したことで、マネジメント業務に従事できる時間の増
加につながった。
Before
シフト作成業務に従事した時間
10時間/月(3か月平均)
↓
After
シフト作成業務に従事した時間
4時間/月(3か月平均)
↓
月6時間の削減をマネジメント業務へ充当可能となった。
39
これまで管理者1名で担っていたシフト作成業務を2名体制とし、あわせて作成手順の見直しを行っ
た。
その結果、不在時にも対応できる体制が整い、業務運営の安定性が高まった。また、シフト作成に要し
ていた時間の一部を確保できるようになったことで、管理業務や人材育成により注力できる環境が整いつ
つある。
今後は、働きやすい環境づくりと運営体制の強化の両立を目指し、創出された時間を人材育成の充
実に活かしながら、引き続き取組を進めていく。
画像の説明
働きやすさの向上の項目、Before:1名での作業画像、After:2名でPC操作を行っている画
像が1枚ずつ貼り付けてある。
ページ右下には集合写真が貼り付けられている。(画像の説明は以上)
デコボコベース株式会社(東京都)
◼ 事業所の概要
法人名:デコボコベース株式会社
法人のビジョン:「凸凹が活きる社会を創る。」
事業所名:ハッピーテラスキッズ中野ルーム
所在地:東京都中野区
サービス種別: 児童発達支援
職員数:計5名
ホームページ:[https://happy-terrace.com/](https://happy-terrace.com/)
◼ 取組の概要
保護者面談について、現状メモを取りながら行っているため、表情や機微の把握に集中することができ
ない場面があった。一方で、メモをとりながらでないと記録を作成する際に、時間がかかってしまうという状
況があった。このため、PCの録音機能と生成AIによる要約の活用により、面談により集中できる環境の
実現と記録の作成時間の短縮に取り組んだ。
◼ 取組の流れ
共感をつくる:12月
プロジェクトチームの立ち上げ
➢ プロジェクトチームを立ち上げる。小規模な事業所のためメンバーは、支援にあたるスタッフ全員
と管理者とした。
あるべき姿の言語化
40
➢ 各職員が普段思っている「もっと○○したい」 を共有した。
➢ 職員全員が子供や保護者によりよい支援を届けたいと思っていることが共有できた。
課題を見える化する:12月
現状を確認
➢ 「もっと○○したい」に対して、なぜできないのか現状を共有。共通の悩みとして「時間が足りな
い」という現状が明らかとなった。
➢ また、保護者面談について、メモを取りながら行っていることや記録作成に時間がかかるという意
見も出た。
解決策を考える:12月
できることを考える
➢ 「もっと○○したい」のうち、環境、予算、現実的に取り組めるか等を判断基準に、取り組む課
題、解決策を選択。
➢ 保護者面談において、面談により集中できる環境とすること、記録の作成時間を短縮すること
を目的に、録音及び生成AIによる要約を導入することを決定。
試してみる:12-1月
運用方針の決定・試行導入
➢ 生成AIについては、入力データが再学習に使われない企業向けアカウントの使用に限定し
た。
➢ 生成AIの利用について、同意書を作成し、承諾を得た。
➢ 現状値を確認し、目標値の設定した上で、保護者面談において、録音と生成AIを導入した
振り返る:2月
導入後の効果検証
➢ 職員アンケートを行い、面談での集中度合いの変化を確認した。
➢ 記録の作成時間についても測定結果を確認した。
新たな取組の検討
➢ 今回の取組を加算様式の作成にも応用するなど、新たな取組の検討を進めている。
コメント:
(施設長):あるべき姿や現状の前に、アイスブレイクとして事業所や一緒に働くメンバーのいいところを
書きだして共有しました。最初に肯定的な面に目を向けることで、その後も建設的な議論ができました。
(職員A):録音によるテキスト記録だけでは、表情や身振りといった非言語の情報が不足するため、
そこを補う必要性を感じました。だからこそ、改めて面談時は話者の表情や機微を捉えることに集中した
いと改めて思いました。
(職員B):面談後の事務処理に対する心理的負担が軽減されました。
また、面談の記録を当日中に作成できることで、ケースの情報を職員間で迅速に共有できるようになりま
した。
41
画像の説明
施設の表玄関が写った画像。
子ども向けの感覚遊び・リハビリ用の室内スペースにさまざまな色鮮やかな遊具・訓練器具が配置さ
れている画像が貼り付けられている。(画像の説明は以上)
◼ あるべき姿と現状(ステップ2:課題を見える化する)
本事業所では、法人の「教育と福祉で、ゆたかさを広める」という企業理念のもと、「キッズファース
ト」という支援ポリシーに基づき、利用者・支援者・組織の3視点からあるべき姿を整理した。
その結果、取り組みたいことはたくさんあるが日々の業務が忙しく取り掛かれていない現状が明らかと
なった。そこで、今回はいますぐできることに絞り込み、保護者面談時の録音と記録作成にあたって
の生成AIの活用に取り組むこととした。
図表の説明:あるべき姿と現状のロジックツリー
●あるべき姿/現状
あるべき姿:子供や保護者のために、より良い支援を届けたい。
あるべき姿 利用者の視点:安定した支援の提供
➢ 教材の保管場所が明確⇔(現状)プリント類について、保管場所が整理されていない
➢ 業務マニュアルの整備⇔(現状)一部の業務でマニュアルがなく、属人化している
あるべき姿 支援者の視点:職員のQOLの向上
➢ 資格取得のための勉強時間の確保⇔(現状)勉強時間が確保できていない
➢ 適正な勤務時間⇔(現状)業務が時間内に終わらず、残業が発生している
あるべき姿 組織の視点:ケース情報の共有・把握
➢ ケース会議の時間の充実⇔(現状)ケース会議の時間は確保できているがより充実させた
い
➢ 保護者面談の充実⇔(現状)メモをとりながら面談を実施、記録作成に時間がかかる※赤
枠
※赤枠について:今回の取組で特に焦点を当てた領域
●ギャップ(課題)
保護者面談を充実したいが、メモをとりながら面談を実施している。
記録の作成に時間がかかり、負担となっている。
(図表の説明は以上)
◼ 取組の計画(簡潔版)(ステップ4:試してみる)
42
本取組では、保護者面談の充実を目的に、面談時のPCによる録音と生成AIによる録音データの要
約に取り組んだ。その結果、面談に集中できる、記録の作成時間が短縮したといった効果が確認され
た。
図表の説明:ロジックモデル
「インプット→活動→アウトプット→初期アウトカム」の表はロジックモデル図として、左から「インプット」「活
動」「アウトプット」「初期アウトカム」が横に配置されている。
●インプット
PC及びPCの録音機能
生成AI
プロジェクトメンバー
↓
●活動
面談時のPCによる録音
生成AIによる録音データの要約
↓
●アウトプット
PCによる録音の実施回数
生成AIによる要約の実施回数
↓
●初期アウトカム
面談に集中できた度合の増職員アンケートの結果
記録の作成時間の短縮
(図表の説明は以上)
◼ 取組の成果・変化(一部抜粋)(ステップ5:振り返る)
●保護者面談
これまで保護者面談の実施にあたっては、PCやノートでメモを取りながら実施をしており、面談に集
中できない面があった。
そこでPCの録音機能を活用し、メモをとらずに面談に臨むようにした。
導入効果の測定にあたっては、職員アンケートを実施し、録音により面談により集中できるかを確認
した。
Before
保護者面談に集中できる度合(5段階評価)
43
2.7(職員4名の平均)
↓
After
保護者面談に集中できる度合(5段階評価)
4.7(職員4名の平均)
●記録の作成作業
これまで、面談時にとったメモを基に、面談で話した内容を思い出しながら記録を作成していた。
面談時に録音した録音データを生成AIを活用し、文字起こしから要約を行った。
話者の表情や身振りといった非言語情報を補う必要があるものの、時間の短縮につながった。
Before
面談記録の作成時間 30分/件
↓
After
面談記録の作成時間 6.6分/件
小さな取り組みではあるが、一つの業務に絞って生成AIの活用を試したことで、他の業務に応用できる
進め方を学ぶことができた。
新しいことを一人で始めても継続が難しいが、チームで一つの目標を決めて取り組むことで、継続的に取り
組めることがよくわかったほか、職員間で様々な日頃感じていることを議論する機会となった。
保護者面談の質を向上させることで、今後の支援計画にもいい影響が出ると考えている。
今後は、他の業務にも応用させつつ、職員の業務負担を軽減しながら、保護者や子どもたちへよりよい
支援を届けられるよう取り組んでいく。
画像の説明
保護者面談上の項目、Before:メモを取りながら面談している画像、After:PCの録音機能を
活用して会話に集中している面談画像が1枚ずつ貼り付けてある。
記録の作成作業の項目、Before:PCで面談記録を作成している、After:PCの録音データを
生成AIで文字起こし要約したものの画像が1枚ずつ貼り付けてある。
右下には内の床に大きな紙を広げ、6人ほどの人が円になって座り、付箋を貼りながらアイデア出し
などディスカッションしている画像が貼り付けてある。(画像の説明は以上)
44
7. 参考資料
7.1. 生産性向上の取組の具体的な進め方を知る
障害福祉サービス事業所のICTを活用した業務改善ガイドライン
https://www.mhlw.go.jp/content/12200000/000654236.pdf
本ガイドラインは、障害福祉サービス事業所の現場で生じやすい問題についての業務改善のポイン
トを、規模別/内容別に、ICT 導入事例と共に紹介したものです。
画像の説明:障害福祉サービス事業所のICTを活用した業務改善ガイドラインの表紙の画像(画像
の説明は以上)
介護サービス事業における生産性向上に資するガイドライン
https://www.mhlw.go.jp/stf/kaigo-seisansei-information.html
本ガイドラインは、介護サービス事業所が生産性向上の取組を進める際の参考となるよう、考え方
や取組の進め方、具体的な実践例を整理したものです。
「施設・居宅・医療系 各サービス共通冊子(令和6年度改訂)」では、介護事業所のサービス
種別に共通する生産性向上の基本的な考え方や取組のポイントに加え、ICT・介護テクノロジー
等のツール活用の方法や、近年の取組事例が紹介されています。
あわせて、サービス類型ごとの特性に応じた取組を示した、施設系・居宅系・医療系の各冊子も作
成されています。
画像の説明:介護サービス事業における生産性向上に資するガイドラインの表紙の画像が4種類並ん
でいる。(画像の説明は以上)
7.2. 政策の動きを知る
省力化投資促進プラン ―障害福祉―
https://www.cas.go.jp/jp/seisaku/atarashii_sihonsyugi/shouryokukatousi/10-
2.pdf
「省力化投資促進プラン」とは、人手不足が深刻な業種等において、AI、ロボットの導入やDXを
始めとする省力化投資を推進するため、各事業の所管省庁が業種ごとの具体的な課題を踏まえ
た省力化投資を促進するためのプランとして策定するものです。
「省力化投資促進プラン ―障害福祉―」(令和7年6月13日策定)では、障害福祉分野
における実態把握の結果を踏まえ、今後進めるべき多面的な促進策の方向性が整理されていま
す。あわせて、国等が実施する支援・サポート体制の整備や周知・広報の方針に加え、目標、
KPI、スケジュール等が体系的にまとめられています。
45
8. 終わりに
本書では、障害福祉における「当事者視点に立ったケアの充実のための生産性向上」の基本的な考
え方を示してきました。そして、障害福祉の生産性向上について、「支援者一人一人の力を引き出し、
チームでその力を利用者に届けることで、新たな価値を生み出すこと」と位置づけてきました。障害福祉
の生産性向上は「支援を減らすこと」でも「人を減らすこと」でもありません。負担軽減や価値の創出によ
り、利用者の支援に注力できる環境づくりや支援者の働きがい向上を進めるものです。
障害福祉の現場では、既にそれぞれの現場の実情に応じた創意工夫が重ねられています。利用者の
小さな変化に気づき、支援の方法を調整し、チームでよりよい支援を模索してきた大切な積み重ねがあり
ます。本書で示した考え方は、こうした現場の努力を否定するものではありません。むしろ、既に行われて
いる取組やもともと法人・事業所が大切にしてきた考え方を「見える化」することで、支援者がより力を
発揮できるような環境を整えるものです。
生産性向上は、一度に大きな変化を起こすことを求めるものではありません。まずは、職場で話題にし
てみること、本書で紹介した方法を試してみること、小さな取組から初めてみることといった、一つずつの取
組の積み重ねが変化につながります。
本書の冒頭でも紹介したとおり、本書の途中には複数の箇所に、立ち止まって考えるための「問いかけ」
があります。これまで示した「問いかけ」に対して、既に自分の考えを書き出したり、職場の仲間と話し合っ
た記録をつけたりされた方は、是非、それを読み返してみてください。本書を読む前からの変化に気づくこと
ができるでしょう。「考えること」、「言葉にすること」、「対話すること」、「試すこと」、「振り返ること」、そし
て、「気づくこと」、こうしたプロセスが生産性向上の取組では、とても大切です。
これからテクノロジーは更に進歩していきます。AIをはじめとする新しい技術は、支援のあり方にも少なか
らず影響を与えるでしょう。しかし、どれほど技術が進歩しても、利用者と向き合い、支援を届けるのは
人です。だからこそ、生産性向上の中心にあるのは、支援者の力であり、チームの力です。
障害福祉の生産性向上に関しては、令和8年度以降、ガイドラインの策定、更には、各都道府県に
おけるワンストップ窓口や協議会の設置が進められることが見込まれます。今後の政策的な展開において
も、本書はその重要な土台となるものです。
このように技術の進歩や政策的な展開が見込まれる中でも、「当事者視点に立ったケアの充実のため
の生産性向上」の本質を見極めることが大切です。そして、前向きに取組を進め、支援の可能性を広げ
ていくことが必要です。本書が障害福祉現場の支援者を含め、関係者の皆様のこうした取組の一助と
なることを期待しています。
9. 用語辞典・索引
本書で用いている重要な考え方や用語について、その意味や本書における位置づけを整理しています。
46
あるべき姿:将来的に実現したい状態、チームが共有する理想や目標とする姿。単なる理想では
なく、「どのような状態を実現したいか」を具体的に描くことで、改善の方向性や優先順位が明確に
なる。
介護テクノロジー:「介護ロボットや情報通信技術(ICT) 等のテクノロジー」の総称。介護サー
ビスの質の向上、職員の負担軽減、高齢者等の自立支援による生活の質の維持・向上に資する
取組を推進するために活用される
11
。
ケア:日常生活の支援にとどまらず、障害のある方が自らの望む生活を主体的に営むことができる
よう支援することを含む広い概念。
現状:現在の状態・課題・できていること・できていないことを客観的に整理した姿。改善の出発点
となる「今の姿」であり、問題を特定し、次の一歩を考えるための基礎となる。
DX(デジタルトランスフォーメーション):「Digital Transformation(デジタルトランスフォーメー
ション)」の略称で、デジタル技術によって、ビジネスや社会、生活の形・スタイルを変えること
12
。
生産性:組織等が持っている力を引き出し、新しい価値を生み出すこと
障害福祉における生産性向上:支援者一人一人の力を引き出し、チームでその力を利用者に届
けることで、新たな価値を生み出すこと
評価指標(KPI):目標を達成するために、進捗や成果を数値で測るための主要な指標。「今ど
れくらいできているか」を客観的に示すための“物差し”であり、改善の方向性や優先順位を判断す
る根拠となる。
QOL(生活の質):障害者にとっての生活の質とは、日常生活や社会生活のあり方を自らの意
思で決定し、生活の目標や生活様式を選択できることであり、本人が身体的、精神的、社会的、
文化的に満足できる豊かな生活を営めること
13
。
11 厚生労働省(2024)。
12 厚生労働省(2023)。
13 厚生労働省社会・援護局障害保健福祉部企画課(2002)。
【数字】
3つの価値観 :22, 23, 29, 36, 38
5つのステップ :22, 24, 25, 27
【アルファベット】
DX:11, 53, 56, 58
QOL(生活の質):15, 19, 50, 56
SMART:39
【あ行】
新たな価値:10, 11, 13, 14, 15, 54, 56
47
あるべき姿(To-Be) : 4, 8, 9, 10, 11, 12, 15, 18, 21, 24, 25, 26, 27, 28, 29, 30,
31, 33, 36, 37, 43, 44, 45, 46, 47, 49, 50, 56
【か行】
解決策: 24, 25, 32, 33, 34, 35, 36, 37, 40, 43, 46, 49
介護テクノロジー:10, 12, 35, 52, 56
課題:3, 8, 9, 10, 15, 17, 23, 24, 25, 31, 32, 33, 34, 37, 38, 43, 44, 46, 47, 49,
50, 53, 56
価値観:5, 8, 9, 16, 17, 18, 19, 20, 21, 22, 23, 25, 27, 28, 29, 36, 38
【き行】
キックオフ宣言:30
ギャップ:9, 10, 11, 12, 18, 24, 26, 31, 32, 33, 44, 47, 50
協議会: 5, 54
【け行】
ケア: 3, 4, 5, 8, 9, 11, 13, 14, 15, 17, 18, 19, 20, 22, 23, 24, 25, 27, 28, 36, 38,
41, 46, 47, 54, 55, 56
ケアの充実:4, 5, 8, 9, 11, 13, 14, 15, 18, 19, 20, 22, 23, 24, 25, 36, 38, 54, 55
計画: 5, 10, 37, 38, 40, 44, 47, 50
現状:8, 9, 10, 11, 12, 18, 24, 26, 28, 31, 32, 33, 34, 39, 43, 44, 46, 47, 49, 50,
56
【し行】
持続可能な事業運営:19
心理的安全性:16
障害福祉における生産性向上:13, 14
【ち行】
力:9, 10, 13, 14, 15, 16, 21, 25, 31, 44, 54, 56
【つ行】
強み:14, 15, 16, 25, 31
【て行】
テクノロジー:4, 5, 10, 12, 15, 21, 35, 36, 43, 52, 54, 56
48
【と行】
当事者視点:4, 5, 8, 9, 10, 11, 13, 15, 18, 19, 20, 22, 23, 24, 25, 38, 54, 55
【は行】
働きがい:13, 19, 27, 54
【ひ行】
評価指標:38, 39, 41, 56
標準化:17, 23, 37, 47
【ふ行】
振り返り:24, 40, 41, 42, 46
プロジェクトチーム: 5, 27, 28, 43, 46, 49
【み行】
見える化:18, 19, 20, 24, 25, 28, 31, 43, 44, 46, 47, 50, 54
【ゆ行】
優先順位:4, 34, 56
【り行】
理念:4, 8, 9, 12, 17, 18, 19, 20, 21, 25, 27, 28, 43, 44, 46, 47, 50
【ろ行】
ロジックツリー:19, 20, 21, 28, 31, 33, 36
ロジックモデル: 38
【わ行】
ワンストップ窓口 :5, 34, 35, 54
10. 引用文献
厚生労働省(2023)「医療DXについて(その1)」、2023年4月26日、
https://www.mhlw.go.jp/content/12404000/001091100.pdf
[アクセス日: 2026年1月16日]。
厚生労働省(2024)「「ロボット技術の介護利用における重点分野」を改訂しました」、 2024年
6月28日、
49
https://www.mhlw.go.jp/stf/juutenbunya_r6kaitei_00001.html
[アクセス日: 2026年1月16日]。
厚生労働省(2025)「省力化投資促進プラン―障害福祉―」、2025年6月13日、
https://www.mhlw.go.jp/stf/seisakunitsuite/bunya/hukushi_kaigo/shougaishahuk
ushi/seisansei/shouryokuka.html
[アクセス日: 2026年1月16日]。
厚生労働省社会・援護局障害保健福祉部企画課(2002)「身体障害者ケアガイドライン~地域生
活を支援するために~」、
https://www.mhlw.go.jp/topics/2002/04/tp0419-3.html
[アクセス日: 2026年1月16日]。
厚生労働省老健局(2024)「介護サービス事業における生産性向上(業務改善)に資するガイド
ライン~より良い職場・サービスのために今日からできること~(令和6年度改訂版各サービス共通冊
子)」、 https://www.mhlw.go.jp/content/12300000/001545559.pdf
[アクセス日: 2026年1月16日]。
日本財団(2019)「ロジックモデル作成ガイド」、
https://www.nippon-foundation.or.jp/wp-
content/uploads/2019/01/gra_pro_soc_gui_03.pdf
[アクセス日: 2026年1月16日]。
三菱UFJリサーチ&コンサルティング株式会社(2016)「社会的インパクト評価に関する 調査研究
最終報告書」、内閣府委託調査、
https://www.npo-homepage.go.jp/toukei/sonota-chousa/social-impact-hyouka-
chousa-h27
[アクセス日: 2026年1月16日]。
内閣官房(2025)「新しい資本主義のグランドデザイン及び実行計画2025年改訂版」閣議
決定、
https://www.cas.go.jp/jp/seisaku/atarashii_sihonsyugi/pdf/ap2025.pdf
[アクセス日: 2026年1月16日]。
内閣府(2025)「経済財政運営と改革の基本方針2025 ~「今日より明日はよくなる」と
実感できる社会へ~」閣議決定、
https://www5.cao.go.jp/keizai-
shimon/kaigi/cabinet/honebuto/2025/2025_basicpolicies_ja.pdf
[アクセス日: 2026年1月16日]。
Brown, Tim (2009). Change by Design: How Design Thinking Transforms
Organizations and Inspires Innovation. Harper Business.
50
Erez, Miriam, and Zidon, Isaac (1984). “Effect of goal acceptance on the
relationship of goal difficulty to performance”. Journal of Applied
Psychology, Volume 69, No.1: 69-78.
Hasso Plattner Institute of Design at Stanford (2012). “An Introduction to
Design Thinking: Process Guide”.
https://web.stanford.edu/~mshanks/MichaelShanks/files/509554.pdf
[アクセス日: 2026年1月16日].
発行日 2026年3月
令和7年度 厚生労働省 障害者総合福祉推進事業
「障害者福祉現場の生産性向上に向けた調査研究事業」有識者会議
(事務局 株式会社NTTデータ経営研究所)
以上