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PDF厚生労働省令和7年6月13日未分類

令和7年度 障害福祉現場の生産性向上に向けた調査研究事業報告書(令和7年度障害者総合福祉推進事業)

厚生労働省 令和7年度 障害者総合支援事業費補助金(障害者総合福祉推進事業) 障害福祉現場の生産性向上に向けた調査研究事業

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厚生労働省 令和7年度 障害者総合支援事業費補助金(障害者総合福祉推進事業) 障害福祉現場の生産性向上に向けた調査研究事業 報告書 令和8年3月 株式会社NTTデータ経営研究所 i 目次 第1章 事業概要 ................................................................................................................ 1 第1節 本事業の背景 ..................................................................................................... 1 第1項 障害福祉現場を取り巻く状況と課題 ............................................................. 1 第2項 生産性向上という言葉への抵抗感 ................................................................. 1 第2節 本事業の目的 ..................................................................................................... 2 第3節 本事業の概要 ..................................................................................................... 2 第1項 本事業の対象 .................................................................................................. 2 第2項 本事業の進め方 .............................................................................................. 3 第3項 実施体制 ......................................................................................................... 4 第4項 事業スケジュール .......................................................................................... 6 第2章 有識者会議の設置 .................................................................................................. 7 第1節 設置の目的 ......................................................................................................... 7 第2節 開催概要............................................................................................................. 7 第3節 主な論点と議論 .................................................................................................. 8 第3章 ヒアリング調査の実施 ........................................................................................ 12 第1節 調査の目的 ....................................................................................................... 12 第2節 調査概要........................................................................................................... 12 第3節 調査結果........................................................................................................... 14 第1項 事業所ごとのヒアリング結果 ...................................................................... 14 第2項 ヒアリング結果のまとめ ............................................................................. 38 第4章 検証の実施 .......................................................................................................... 41 第1節 検証の目的 ....................................................................................................... 41 第2節 ヒアリングでの検証 ........................................................................................ 41 第1項 検証概要 ....................................................................................................... 41 第2項 検証結果 ....................................................................................................... 41 第3節 実地での検証 ................................................................................................... 42 第1項 検証概要 ....................................................................................................... 42 第2項 検証結果 ....................................................................................................... 43 第3項 取組効果の推計 ............................................................................................ 45 第5章 基本的な考え方の整理結果 ................................................................................. 56 第1節 基本的な考え方の作成方針 ............................................................................. 56 第2節 「基本的な考え方」の作成における主な論点 ................................................ 60 第6章 フォーラムの開催 ................................................................................................ 66 ii 第1節 開催の目的 ....................................................................................................... 66 第2節 パネルディスカッションの内容 ...................................................................... 68 第3節 参加者アンケートまとめ ................................................................................. 72 第7章 今後に向けて ....................................................................................................... 75 第1節 ガイドライン策定に向けた検討課題 ............................................................... 75 第2節 本事業を通じて得られた示唆 .......................................................................... 75 第3節 今後の展望 ....................................................................................................... 76 第8章 参考資料 .............................................................................................................. 78 第1節 フォーラムにおける登壇内容 .......................................................................... 78 第2節 フォーラムにおけるアンケート結果 ............................................................... 87 1 第1章 事業概要 第1節 本事業の背景 第1項 障害福祉現場を取り巻く状況と課題 障害福祉の現場は、利用者の年齢層や障害の特性が非常に多様であり、提供されるサー ビスの種類も多岐にわたるという特徴がある。こうした中で、各事業所はそれぞれの理念 や価値観に基づいて当事者の視点に立った「ケアの充実」を目指している。しかし、現在 の障害福祉現場は、人材の確保が難しく、利用者の多様なニーズに伴う業務の複雑化や、 経営・運営が不安定になりやすいといった深刻な課題に直面している。特に人材の確保に ついては、有効求人倍率が令和7年11月時点で3.43倍 1 と高い水準で推移しており、職員 の確保が依然として極めて困難な状況にある。 こうした状況の中、支援の質を維持・確保しつつ、現場の負担を減らし、より良いサー ビスにつなげるための解決策として「生産性向上」の取組が強く求められている。しかし ながら、介護や医療分野ではすでに生産性向上の取組が進められてきた一方で、障害福祉 の現場においては、生産性向上の取組の必要性がまだ十分に共有されていないのが現状で ある。 このような中で、令和7年6月13日に厚生労働省により障害福祉分野における「省力 化投資促進プラン」が策定された。同プランにおいては、「令和7年度、障害福祉現場の生 産性向上の目指すべき姿や必要な取組を可視化するための調査研究を実施」することが位 置づけられており、現場の課題解決に向けた道筋を明確にすることが急務となっている。 第2項 生産性向上という言葉への抵抗感 障害福祉の現場において、「生産性向上」という言葉に対しての抵抗感が存在している。 具体的には、「生産性」という言葉に対して、「効率を優先してサービスを減らすこと」や 「現場の忙しさを無視して人を減らすこと」といった否定的な印象を持たれたり、「人の価 値や能力を測るものさし」であると受け取られたりする傾向がある。 こうした抵抗感の背景には、「生産性」という概念が主に産業分野等において効率性や 成果の最大化を重視する文脈で用いられてきたことに加え、人に対する評価や選別と結び つけて理解されてきた側面があると考えられる。そのため、対人支援を本質とする障害福 1 厚生労働省 社会保障審議会障害者部会(第154回)(令和8年1月19日)資料2 「2040年に向けた障害福祉サービスの提供体制について」p.11 2 祉の現場においては、当該概念が支援の質と相反するものとして捉えられやすい状況が生 じている。 一方で、障害福祉における生産性向上は、業務負担の軽減や新たな価値の創出を通じ て、利用者支援に充てる時間や資源を確保し、支援の質の向上や職員の働きやすさの改善 を図るための取組として位置づけられるものである。したがって、サービスや人を減らす ことを目的とするものではない。 このため、障害福祉分野において生産性向上の取組を推進していくにあたっては、その 定義や目的を明確に示すとともに、従来の理解との違いを整理し、関係者間で共通認識を 形成していくことが重要である。 第2節 本事業の目的 本事業は、障害福祉現場における生産性向上について、「なぜ生産性向上が必要なの か」「生産性向上とは何か」、そして「どのように進めるのか」といった基本的な枠組みを 整理するとともに、実態把握や実証的な検証を通じて、その具体的な取組内容や効果を明 らかにし、今後の普及・展開に向けた基盤を整備することを目的として実施するものであ る。 前述のとおり、現在、障害福祉の現場においては「生産性向上」の取組の必要性が十分 に共有されていない。また、その言葉の意味も定義がされていない。さらに、取組の進め 方についても明らかにされていない状況にある。 こうした状況を踏まえ、本事業では、有識者会議における議論、先進的な事業所へのヒ アリング調査、実地での検証等を通じて、生産性向上の考え方や取組プロセスを構造的に 整理するとともに、現場における実践事例や効果を可視化する。また、その成果について フォーラム等を通じて広く共有することで、取組の理解促進と横展開を図る。 これらを通じて、障害福祉現場に関わる多様な関係者が、生産性向上の取組を実践して いくための共通基盤を形成するとともに、今後策定されるガイドラインや施策の検討に資 する知見を提供することを目指す。 第3節 本事業の概要 第1項 本事業の対象 障害福祉において、多様な関係者がともに生産性向上の取組を進めていくためには、ま ずその前提となる認識を揃えることが不可欠である。そのため、本事業では、障害福祉現 場における生産性向上に対する共通認識を形成するための土台として、「障害福祉現場にお ける生産性向上の基本的な考え方」を作成することとしている。なお、この「基本的な考 3 え方」を踏まえて、現場で実際に生産性向上を実践していくために必要な具体的な手法や 手順については、令和8年度に厚生労働省においてガイドラインとして策定される予定で ある。 2 第2項 本事業の進め方 本事業は、「障害福祉現場における生産性向上の基本的な考え方」(以下、「基本的な考 え方」)を体系化し、現場への普及を図るため、以下実施内容で進めた。 図表 1 本事業の進め方 1.有識者会議の設置 障害福祉分野における生産性向上について、専門的かつ多角的な視点から議論を行う場 として、学識経験者や各種事業者団体の代表等からなる有識者会議を設置した。本会議で の検討とフィードバックを通じて、生産性向上の目的やプロセスなどの基本構造を精査し た。 2.ヒアリング調査の実施 生産性向上に積極的に取り組んでいる事業所を対象にヒアリング調査を実施した。現場 2 厚生労働省「令和7年度 全国厚生労働関係部局長会議資料」障害保健福祉部資料 p.22 4 が抱える課題や取組の背景、具体的なプロセス、成果などの実践知や先行事例を抽出し、 「基本的な考え方」を現場の実情に即したものにするための基礎情報を収集した。 3.検証の実施 整理した「基本的な考え方」の妥当性や現場での実行性を確認するため、ヒアリングお よび実地での検証を行った。実地での検証では、事業所の生産性向上の取組に伴走しなが ら、課題の抽出や分析、計画の策定、効果測定などの実践を通して、基本的な考え方に示 す手順が現場の感覚と合致しているかを確認した。 4.基本的な考え方の作成 有識者会議での議論、ヒアリング調査から得られた知見、および検証の結果を総合的に 踏まえ、障害福祉現場において「なぜ生産性向上が必要なのか(Why)」「生産性向上とは 何か(What)」「どのように進めるのか(How)」を体系化した「基本的な考え方」を作成 した。 5.フォーラムの開催 作成した「基本的な考え方」や収集した取組事例を、全国の障害福祉関係者へ広く周知 するため、「生産性向上推進フォーラム」を開催した。具体的な実践イメージの共有や関係 者間の意見交換を通じて、現場における生産性向上の機運を醸成し、取組の第一歩を後押 しすることを目指した。 第3項 実施体制 本事業を効果的に実施するため、専門的かつ現場の実態に即した多角的な視点から議論 を深めるため、学識経験者、事業者団体や職能団体の代表者、先進的な取組を行う法人の 代表、先行する介護の生産性向上に関する専門家など、計10名の委員から構成される有 識者会議を設置した。 5 図表 2 有識者会議 委員 氏名 所属・役職名 浅見 秀俊 公益財団法人 日本知的障害者福祉協会 社会福祉法人 清心会 総務部係長 大塚 さおり 全国身体障害者施設協議会 人材・広報委員長 社会福祉法人 和松会 清松園 施設長 小澤 啓洋 全国社会就労センター協議会 常任協議員 社会福祉法人 光明会 理事長 小田 知宏 一般社団法人 全国児童発達支援協議会 理事 認定NPO法人 発達わんぱく会 理事長 鎌田 大啓 株式会社TRAPE 代表取締役 新藤 健太 学校法人 日本社会事業大学 社会福祉学部 福祉援助学科 准教授 中川 亮 一般社団法人 全国介護事業者連盟 副理事長 障害福祉事業部会 会長 野澤 和弘 一般社団法人 スローコミュニケーション 理事長 植草学園大学 副学長 林 晃弘 社会福祉法人 フラット 理事長 東 祐二 一般社団法人 日本作業療法士協会 事務局員 (五十音順、敬称略) 図表 3 厚生労働省 オブザーバー 氏名 所属・役職名 磯谷 桂太郎 社会・援護局 障害保健福祉部 障害福祉課 課長補佐 友澤 洋史 社会・援護局 障害保健福祉部 障害福祉課生産性向上推進官 釘田 透 社会・援護局 障害保健福祉部 障害福祉課 企画法令係 (敬称略) 図表 4 事務局(株式会社NTTデータ経営研究所) 氏名 所属・役職名 足立 圭司 ライフ・バリュー・クリエイションユニット ディレクター 奈良 夕貴 ライフ・バリュー・クリエイションユニット マネージャー 篠原 啓佑 ライフ・バリュー・クリエイションユニット シニアコンサルタント 保坂 真名 ライフ・バリュー・クリエイションユニット シニアコンサルタント 芦澤 佐紀 ライフ・バリュー・クリエイションユニット コンサルタント 6 第4項 事業スケジュール 本事業は下記のスケジュールで実施した。 図表 5 事業スケジュール 6月 7月 8月 9月 10月 11月 12月 1月 2月 3月 有識者会議 ● ● ● ● ヒアリング調査 検証(ヒアリング) 検証(実地) 基本的な考え方の作成 フォーラムの開催 ● 7 第2章 有識者会議の設置 第1節 設置の目的 本事業では、専門的かつ現場の実態に即した多角的な視点から議論を深めることを目的 として、学識経験者、事業者団体や職能団体の代表者、先進的な取組を行う法人の代表、 先行する介護分野における生産性向上の専門家等、計10名の委員から構成される有識者 会議を設置した。 本会議では、特に「基本的な考え方」の作成方針について重点的に議論を行った。 第2節 開催概要 本事業の有識者会議は計4回開催した。各回の有識者会議の概要を以下に記載する。 図表 6 有識者会議 回 開催時期、開催方式 主な議題 第1回 8月26日(火)16:00~ 18:00 ハイブリッド開催  事業の概要  障害福祉現場における生産性向上の考 え方に必要な観点  生産性向上の考え方を整理するための 情報収集・分析方法について 第2回 10月2日(木)10:00~ 12:00 オンライン開催  ヒアリング調査の分析結果(中間報 告)  障害福祉現場における生産性向上の基 本的な考え方 作成方針 第3回 12月3日(水)15:00~ 17:00 ハイブリッド開催  障害福祉現場における生産性向上の基 本的な考え方  ヒアリング調査・実地での検証先の報 告 第4回 1月27日(火)10:00~ 12:00 ハイブリッド開催  障害福祉現場における生産性向上の基 本的な考え方  事業報告書(骨子案)  フォーラムについて 8 第3節 主な論点と議論 <第1回有識者会議> 事業の概要  本事業の有識者会議は、専門職や学識経験者等により構成してい る。なお、当事者の意見については、事業者へのヒアリングや、 団体を代表して参加している有識者への意見聴取を通じて把握・ 反映する。 障害福祉現場に おける生産性向 上の考え方に必 要な観点  生産性向上の取組は、利用者の満足度や幸福度の向上を目的とす る取組である。  障害福祉分野の特徴として、小規模事業所が多いことや、当事者 性の強い事業所が多いことが特性として挙げられる。  社会にもたらすインパクトを測る指標(KPI)は、持続可能な事 業の経営等といった観点を設定してはどうか。  生産性向上の取組においては、ワークマネジメントとピープルマ ネジメントの双方の観点が重要である。テクノロジーを活用する のは人であることから、マネジメントが適切に機能しているかと いう視点が基盤となる。その上で、既存の組織資源をいかに活か し、目指す姿を実現していくかが重要である。  テクノロジーの導入に当たっては、組織内部のチームワークが大 切である。障害福祉現場は他職種連携が大前提となるが、理念の 共有・人間関係などが揃って初めてテクノロジーが現場に入って くる。一方で、テクノロジーの活用によってチームワークが向上 し、チームワークを高めるための時間を確保できるといった影響 も期待できる。「生産性向上を捉える目線の種類」にチームワー クの視点を入れると、より現場で起きていることを表現できる。 生産性向上の考 え方を整理する ための情報収 集・分析方法に ついて  本事業の目的は、今後、生産性向上の取組を全国に拡げていくこ とである。検証先の事業所は、PDCAサイクルを回しながら、自 主的に取組を進めていくことを目指す。  ヒアリングの対象は、既にテクノロジーを導入している事業所 や、有識者から紹介のあった事業所等を想定している。  福祉の現場だけではなく、多領域の力を借りながら生産性向上の 取組を広げていけるとよい。  支援目標は利用者本人の言葉で設定されるものである。例えば、 「一般就労」「地域滞在日数の向上」を目標にするよりも、動物 に関わる仕事がしたい、息子と一緒に暮らし続けたいという目標 の方が、利用者本人が自分のために頑張ることができる。AIの 9 活用により、利用者の目標が立てやすくなったり、アセスメント の際に本人の希望や強みを拾える可能性がある。支援の本質にテ クノロジーが活用できるようになるとよい。 <第2回有識者会議> ヒアリング調査 の分析結果(中 間報告)  生産性向上とは、単に時間や人員を削減することではなく、一人 ひとりが持つ力とチームの潜在力を、組織全体として引き出すプ ロセスである。  あるべき姿と現状は切り離して捉えるものではなく、相互に結び つきながら前進していくものとして捉えることが重要である。  生産性向上の取組が、職員のやりがいや利用者のQOLにつなが っているのかといった観点について、取組の結果だけでなく、そ の先まで含めて検討を深める必要がある。  DXには、業務の負担を少しでも減らしたいという意味合いと、 職員・利用者双方にとって今まで出来なかったことができるよう になるという意味合いがある。テクノロジーの活用により、新た なケアや体験を創り出し、新しい価値の創出が進んでいく。  取組内容の整理に当たっては、実施した内容のみならず、どのよ うにテクノロジーの活用や判断が行われたのかといったプロセス を含めて記載することで、より実践的な内容になる。 障害福祉現場に おける生産性向 上の基本的な考 え方 作成方針  基本的な考え方や報告書については、どのような層に向けて発信 するのか、明確にすることが重要である。多くの福祉現場におい ては、生産性向上という言葉に対して自分たちには関係ないと受 け止められる可能性がある。基本的な考え方の冒頭では、生産性 向上が単なる効率化や省力化を目的とするものではなく、利用者 のQOL向上や職員のやりがいの実現を目指す取組であるという 本来の意義を、明確かつ力強く打ち出す必要がある。  基本的な考え方は、実現不可能な理想像であると意味がない。取 組の手段はテクノロジーに限らず、現場にとって身近なものでも よい。  生産性向上の取組によって生まれた余力をどのように活かすかと いう問いにまで踏み込むことで、読み手や実践者にとってより意 味のある内容になる。  用語については、横文字やカタカナの文言は読み手が違和感を持 つ可能性がある。多くの人が目にするため、注釈を入れるなど分 かりやすい表現にしていく必要がある。 10 <第3回有識者会議> 障害福祉現場に おける生産性向 上の基本的な考 え方  生産性向上は、テクノロジーを活用した省力化であり、人が少な くなるというイメージが先行している可能性がある。ケアの充実 が最上位の概念であり、利用者や支援者の働きがいに繋がってい くことをしっかり説明しなければならない。  障害福祉分野は多様であり、サービスの在り方も非常に幅広い。 その多様性ゆえに、一歩手前の共通概念から整理していく必要が ある。  生産性向上に関する制度は、介護分野から障害福祉分野に展開さ れているものも多く、介護と障害の連携が必要となる。  生産性向上の取組を進めるにあたっては、現場を巻き込んだ「共 感を作る」経験が大切となる。  取組の進め方においては、フレームワークを明記するより、現場 で心理的なハードルをどう下げて定着させるかなどの具体例を出 す方が分かりやすいのではないか。  用語については、横文字や専門用語が多い場合、現場での理解を 妨げる可能性があることから、「あるべき姿」など、より平易で 直感的に理解できる表現を用いることが望ましい。  本事業においては、今年度は生産性向上の考え方の全体像を整理 することを主眼とし、令和8年度においては取組の進め方の詳細 を検討する予定である。また、テクノロジーの活用については重 要な要素の一つとして位置付けつつ、別事業において「介護テク ノロジー等導入・活用マニュアル」の策定を予定している。 ヒアリング調 査・実地での検 証先の報告  ヒアリングを実施した事業所はテクノロジーを活用した取組を行 っているが、それに付随した様々な取組を行っている。  ヒアリング結果の整理にあたっては、5つのステップに整理する と読み手の理解が進みやすいのではないか。 <第4回有識者会議> 障害福祉現場に おける生産性向 上の基本的な考 え方  「専門性」「スキル」「思い」は3つ全てが必要であり、循環する ものである。  その職員にしかない経験や知識を可視化し、組織内で共有するこ とで、一定の標準化と共通理解を図っていくことが重要である。  テクノロジーの活用においては、時間の削減等のアウトプットに 11 着目されることが多い。しかし、テクノロジーは人間ができるこ とを増幅するものでしかないため、障害福祉現場において人をテ クノロジーに置き換えると上手く取組は進んでいかない。あるべ き姿と結果を常に照らし合わせながら、取組が適切な方向に進ん でいるかを確認していくことが重要である。  プロセスの評価とは、取組が上手く行われたかであり、アウトカ ムの評価とは、本来望んでいた結果がかなったかどうかを指して いる。アクティビティとアウトカムの評価は、プロセスの評価と なる。  「想い」という漢字を使用することとする。職員の想いだけでは なく、利用者の想いを実現するために生産性向上の取組を行うこ とが読み手に伝わる表現にできるとよい。 事業報告書(骨 子案)  報告書においては、令和8年度に作成予定のガイドラインについ ても言及している。令和8年度事業では、サービス種別ごとに生 産性向上の取組に関するガイドラインを策定することを想定して いる。 フォーラムにつ いて  本フォーラムのねらいは、生産性向上の取組に関するWhy・ What・Howを整理し、その意義や定義を改めて共有することに ある。なお、議論の対象はテクノロジーの活用に限らず、幅広い 観点からの検討を行うこととしている。 12 第3章 ヒアリング調査の実施 第1節 調査の目的 本調査は、障害福祉の現場における生産性向上の「基本的な考え方」を作成するための 基礎情報および実践知を収集・抽出することを目的として実施した。 具体的には、すでに生産性向上や業務改善に積極的に取り組んでいる事業所を対象にヒ アリングを行い、以下の事項を明らかにすることを目指した。 1. 価値観や考え方の抽出 障害福祉サービスにおいて、各事業所がどのような理念や価値観に基づいて業務改善 (生産性向上)を捉え、日々の取組につなげているかを抽出する。 2. 取組内容とプロセスの把握 現場が抱える課題に対して、どのような具体的な打ち手(取組内容)を選択し、どのよ うに進めて定着させたのかという実践知を把握する。 3. 障害福祉特有の留意点の確認 取組の進め方について、障害福祉サービスならではの特性に応じた工夫や留意点がない かを明らかにする。 これらの調査を通じて得られた現場のリアルな声や実践知を体系化し、本事業で策定す る「基本的な考え方」を、現場の実情に即した実効性の高いものにしていく。 第2節 調査概要 本調査では、障害福祉分野における多様な実態を網羅的に把握するため、提供している サービス種別(訪問系、日中活動系、居住系、相談支援系、障害児支援系など)や事業所 の規模に偏りがないよう留意し、過去に生産性向上に資する取組を積極的に実施した実績 のある事業所を選定した。事業所の選定にあたっては、有識者会議の委員が所属する事業 者団体より紹介いただいた。 調査手法としては、取組の中心となった法人本部の職員や現場の管理者層やリーダーを 対象に、オンライン会議システム等を活用した半構造化面接(ヒアリング)を実施した。 ヒアリングでは、取組を行った背景(課題意識)、取組に向けた準備、具体的な取組内容 や進め方、得られた成果、そして実施上の課題や工夫について聴取した。 ヒアリング調査の対象となった事業所および実施時期等は以下の通り。 13 図表 7 ヒアリング調査対象事業所 No. サービス種別 事業所名 (法人名) 所在地 取組概要 実施時期 1 重度訪問介護 ぷっくるケア (ぷっくる株式会 社) 東京都 記録ソフトの導入 2025年9月 2 行動援護 ヘルパーステーシ ョンぱーとなー (有限会社宝寿) 徳島県 記録ソフトの導入 2025年9月 3 共同生活援助 ユリーカハイム草 加 (ゆりいか株式会 社) 埼玉県 記録ソフト、グル ープチャットの導 入 2025年9月 4 自立訓練(生 活訓練)、就労 移行支援 CAREER PORT ほんまち (社会福祉法人南 高愛隣会) 長崎県 記録ソフト、日報 システムの導入 2025年10月 5 就労継続支援 B型、就労移 行支援 チャレンジャー (社会福祉法人 千川福祉会) 東京都 記録ソフト、勤怠 管理システムの導 入 2025年9月 6 計画相談支援 相談支援事業所フ ロントライン (社会福祉法人大 乗福祉会) 広島県 ノートPC、ポー タブルプリンター の導入 2025年9月 7 放課後等デイ サービス トータルサポート ライトブレイン上 飯野校 (株式会社 UNIQUER) 富山県 業務支援ソフトの 導入 2025年9月、10 月 8 障害児入所支 援 天使園 (社会福祉法人宗 友福祉会) 愛媛県 児童の食物アレル ギーに関する連絡 アプリの導入 2025年10月 9 共同生活援助 ひびきホーム音彩 (社会福祉法人ス プリングひびき) 佐賀県 送迎システム、勤 怠管理システム、 介護ロボットの導 入 2025年11月 14 第3節 調査結果 第1項 事業所ごとのヒアリング結果 1. ぷっくる株式会社 ぷっくるケア 【基本情報】 サービス種別 重度訪問介護、居宅介護 主たる対象とする障害の種類 身体障害、知的障害、精神障害 事業所の所在地 東京都新宿区高田馬場1-23-14 シティホームズ306 従業員数 常勤6名、非常勤19名 取組概要 記録ソフトの導入 調査項目 ヒアリング内容 取組の背景 ・ 元々、記録は紙媒体に手書きが基本であった。 ・ 経営の安定化を図るため、特定事業所加算の取得を検討して いたが、加算要件である「リアルタイムでのやり取り」「記録 保存」が紙管理では満たせていない状況にあった。 ・ ヘルパー職員は訪問記録を複写し、1部を利用者宅にて保管、 もう1部を事業所へ郵送が必要であった。出勤簿も同様に郵 送していた。 ・ 管理者は、ヘルパー職員の紙記録や出勤簿が届かない場合、 随時確認の連絡を行っていた。 取組の内容 ・ 特定事業所加算を取得するため、「リアルタイムでのやり取 り」「記録保存」ができるようになることを目指し、記録ソフ トを導入した。 取組の進め方 ・ 2024年夏~秋頃、記録ソフトの選定を行った。ソフトに求め る機能について、“管理者が各へルパーの訪問に指示を出せる こと”、“ヘルパーが訪問毎に管理者へ報告を入れられること” であることを事業所内で擦り合わせた。複数ソフトを比較し、 試用を進めた。 ・ 元々使用していた国保連の簡易入力ソフトの表示と似ているソ フトを一か月半程度試用し、導入を決断した。 ・ 2024年秋頃、記録ソフトを購入した。使い始めてからの不備 を防ぐため、実際に運用を開始するまで事業所内の導入準備を 行った。ソフトの運用方法を把握し、管理者とヘルパー数名で 15 実際の入力テストを行った。使いづらさや、機能の理解を深 め、必要時メーカー担当者に問い合わせを行った。 ・ 2025年1月頃、ヘルパー職員へ記録ソフトの導入を周知し た。記録ソフトの概要や実際の操作画面について共有した。 ・ 2025年4月頃、試用運転として、紙記録と記録ソフトの併用 を開始した。視覚的に分かりやすいよう、職員へ操作マニュア ルを配布した。マニュアルは職員宅への郵送や、チャットに添 付して送付した。 ・ 2025年5月頃、紙記録を原則無くし、記録ソフトへ移行し た。 取組の成果 ・ ヘルパー職員の手書き作業が無くなり、記録時間が短縮した。 ・ 記録ソフトを通してヘルパー職員から管理者へ随時報告が可能 となった。ヘルパー職員同士もリアルタイムで記録を共有で き、情報共有が円滑になった。 ・ 管理者はデバイス1台でヘルパーの訪問状況を把握でき、紙記 録や郵送チェックの負担が解消された。 ・ 管理者は、記録の集計や請求における転記が不要になり、処理 に要する時間が大幅に減少した。 取組実施上の課題  特定事業所加算の取得要件を満たすため、事業所・ヘルパー 双方にとって使いやすい記録ソフトの運用方法を検討するこ とが難しかった。  ヘルパーへ操作方法をレクチャーするためのマニュアル作成 に時間を要した。 取組の定着・継続  操作方法の定着に向けて状況をこまめにチェックしながら、 その都度連絡をとり、操作を伝えたり入力を促すなどのフォ ローが必要であった。  慣れてくると、入力をまとめて行ったり、入力し忘れる項目 が決まっていたりなどの傾向が見られるため、細かく軌道修正 をすることが大切であると感じている。 取組を振り返って ・ 特定事業所加算の取得に向けては、ソフト導入のみだけではな く、バックオフィス側での補完的な対応が必要となる。 ・ 本来の目的が加算の取得であったため、引き続き対応が必要に なるが、ヘルパー職員にとっては「紙郵送が不要」「スマート フォンで記録が完結」と大幅に業務を効率化することができ た。 16 2. 有限会社宝寿 ヘルパーステーションぱーとなー 【基本情報】 サービス種別 行動援護 主たる対象とする障害の種類 知的障害 事業所の所在地 徳島県 従業員数 20名 取組概要 記録ソフトの導入 調査項目 ヒアリング内容 取組の背景  全国介護事業者連盟の徳島支部の支部長として厚生労働省の 動向に触れる中で、障害福祉分野においても生産性向上の取 組が今後不可欠になると考えたことが、取組の背景にある。  従来は、サービス提供のたびに複写用紙を用いて利用者の押 印を受け、1件ごとに内容確認とサービス時間の入力を行って いたため、作業負担が大きく、入力ミスや記録漏れが生じや すい状況にあった。  また、業務ごとに給与単価が異なるため、管理者や事務職員 には複雑な計算・管理の負担がかかっていた。行動援護は外 出支援が中心であり、支援中に記録することが難しいため、 支援終了後にまとめて記録を作成することが多く、職員負担 の大きな要因となっていた。 取組の内容  記録ソフトの導入  その他、紙による記録の廃止、スマートフォン等を活用した 記録入力への切替シフトや予定のデジタル管理、共有のデジ タル化 取組の進め方  介護・障害分野向けのソフトは多く、価格や機能もさまざま であったため、インターネット検索やメーカーとの打合せを 通じて情報収集を行った。  特に、ヘルパーが入力した記録がそのまま請求処理につなが ることや、予定変更が現場の実態に即して柔軟に反映されるこ とを重視して検討を進めた。  現場職員にはDXへの抵抗感や不安があったため、集合研修 を実施し、実際にソフトに触れてもらいながら理解を促し た。特に、「本当に請求までできるのか」「自分でも使えるの か」といった不安に対し、丁寧に説明しながら導入を進め た。また、経営側のメリットだけでなく、現場職員にとって 17 も記録負担の軽減や働きやすさにつながることを伝える工夫 を行った。 取組の成果  記録を一元管理できるようになり、前回の支援内容や変更事 項の把握・共有がしやすくなった。また、直行直帰が可能と なり、現場職員が本来の支援により集中できるようになっ た。請求業務の効率化も進み、管理側・現場側の双方にメリ ットが生じた。  訪問介護計画書や行動援護の支援手順書などをデジタルで共 有できるようになり、紙管理に比べて確認漏れが減少した。 その結果、支援の質の向上にもつながったと考えている。  これまではSNSで職員ごとにシフトを個別送信していたが、 ソフト上で予定を確認できるようになり、情報共有の手間が 削減された。シフト作成や周知の効率化にもつながった。  記録ソフト導入をきっかけに、職員がスマートフォン活用に 慣れ、オンライン会議ツールへの抵抗感も減少した。「現地に 集まらなくてもよい方が効率的」という認識が広がり、法人 内でDXに前向きな機運が醸成された。他サービス種別の職 員からも「自分たちの現場でも導入したい」という声が上が るようになった。放課後等デイサービスや生活介護への展開 可能性も見えており、法人全体でICT活用への関心が高まっ ている。  年齢や性別により適応度の差はあるものの、紙の煩雑な作業 から解放されることを歓迎する職員は多かった。特に、人材 確保が難しい訪問介護分野では、こうした業務負担軽減が採 用・定着にも好影響を与えることが期待される。 取組実施上の課題  障害福祉に対応していないソフトも多く、実際には検索や見 積依頼、個別打合せを重ねながら比較検討せざるを得なかっ た。機能、操作性、画面の見やすさ、契約形態、価格帯がそ れぞれ異なり、最適なソフト選定は容易ではない。  障害福祉サービスは種類が多く、法人全体で共通利用できる ソフトは高額になる傾向がある。徳島県では介護分野への導 入支援はあるが、障害分野での支援はなく、事業所規模等に よって導入のしやすさに差がある。  訪問介護、障害福祉サービス、移動支援など複数制度にまた がるサービス提供を行っており、二人介助や地域生活支援事 業への対応など、給与計算や記録との連動が複雑である。特 18 に移動支援は地域生活支援事業に位置づけられるため、シス テム連携が難しいという課題がある 取組の定着・継続  現場職員に対して、生産性向上の取組が自分たちにどのよう なメリットをもたらすのかを理解してもらうことが重要であ る。そのためには、効果や利点をわかりやすく示す資料やチ ラシ等を活用し、職員が具体的なイメージを持てるようにす ることが有効と考えられる。 取組を振り返って  行動援護は、安全・安心な外出の確保、信頼関係の構築、活 動範囲の拡大という段階を踏みながら、質の高い支援を届け ることが重要なサービスである。 その質を持続的に確保するためには、職員が安心して働ける 環境づくり、処遇改善、業務効率化、福利厚生の充実が欠か せない。  今回の記録ソフト導入は、単なる事務効率化にとどまらず、直 行直帰の実現や情報共有の改善、デジタル活用への意識変化 を通じて、職員の働きやすさと支援の質の向上の両立につな がる取組であったといえる。一方で、ソフト選定や費用負 担、複雑な制度対応などの課題は残っており、今後も継続的な 改善と現場への浸透をめざす。 19 3. ゆりいか株式会社 ユリーカハイム草加 【基本情報】 サービス種別 共同生活援助(障害者グループホーム) 主たる対象とする障害の種類 事業所の所在地 埼玉県草加市 従業員数 24人 ※3つのグループホーム全体での人数。 取組概要 業務マニュアルの作成、グループチャットの導入と運用 ルールの整備、記録ソフトの導入 調査項目 ヒアリング内容 取組の背景  3つのホームは拠点が離れており、管理者が一か所に常駐して いない状況にある。  グループホームは居住系サービスであり、その大きな特徴とし て、職員が基本的にワンオペで夕方から夜勤まで勤務する体制 となっている。  こうした状況から、限られた人員で安定した運営を行うため に、生産性向上の取組が必要であった。 取組の内容  業務マニュアルを作成した。ひとつのホームの業務内容をもと に、作成・ブラッシュアップを進めた。  グループチャットを導入し、現場に行かなくても情報共有でき る仕組みを整えた  記録ソフトを導入し、タブレットから入力できる体制に移行し た。  紙で行っていた業務をデジタル化し、①申し送り、②業務日 誌、③支援記録をソフトに記録した。 取組の進め方  生産性向上の取組は、自分たちの理念に沿って行う必要がある と考え、理念の明確化と取組方針の策定を行った。  3~4年前に理念を明確化し、ビジョンやミッション、ホームと してのあるべき姿を共有したことが、現在の取組を支える基盤 となっている。ホームとしてのアイデンティティを確立し、職 員に大切に持ってもらいたい基本姿勢まで落とし込んで共有し た。  現場の課題感、経営者の課題感を共有し、一緒になって進めて いくことを重視した。成功も失敗も共有し合い、改善を積み重 20 ねるチーム文化の醸成を大切にした。 【業務マニュアル】  業務マニュアルは、法人の代表が案を作成し、職員みんなでア ップデートしていった。 【グループチャット】  グループチャットは、法人の代表が中心となり、これまでの経 験をもとにルールを策定し、職員に丁寧に伝えていった。  支援に関する申し送りは記録ソフトに統一し、グループチャッ トは「拡散する必要のある緊急性の高い情報(事故など)」の み共有する運用とした。 【記録ソフト】  記録ソフトは複数メーカーを比較検討し、請求のための二重記 録がなくなる点と、操作性の良さを特徴とするソフトを導入し た。  導入段階から管理者にも参加してもらい、メーカーによる説明 会を一緒に受講した。  デジタルに抵抗のある職員もいたため、現場で職員同士の勉強 会や練習など丁寧に行った。  「やってみて合わなければやめる」という柔軟な姿勢で臨み、 職員が業務をしやすくなることを目標に設定した。 取組の成果 【記録ソフト】  不要な来所の削減。オンラインで記録を閲覧できるようにな り、記録確認のためだけに現場へ足を運ぶ必要がなくなった。  他の業務への時間の増加。タブレット入力により記録時間と負 担が軽減され、職員が利用者支援など他の業務に充てられる時 間が増えた。  記録の効率化・ミス削減。食事等を入力すると自動的に請求書 へ反映され、重複記録が不要となり、効率化とミス削減につな がった。  以前は4冊の記録ファイルをそれぞれ確認する必要があった が、タブレット上で情報が一元化され、確認が容易になった。  記録の集約により定量的なデータを把握しやすくなり、根拠に 基づいた「次の支援の一手」を組み立てやすくなった。 21  職員の役割は、利用者の声や「声なき声」、希望を管理者に届 けることであるが、記録ソフト導入により、この役割分担と機 能がより明確化した。紙の記録では見落としがちな情報も、デ ジタル化により拾い上げやすくなった。  企業理念や基本姿勢に基づいているため、効果が定着してい る。職員も「利用者の声を聴こう、観察しよう」という意識を 自然に持つようになった。 取組実施上の課題  グループチャットは、職員が「すぐ聞いてもらいたい」という 気持ちになりやすく、ルール統一に時間を要した。グループチ ャットが便利である一方、「直接会ってコミュニケーションし た方が良い」場面もある。  システム化における最大の障壁は、機器の初期設定である。特 に、パソコンの設定作業は、最も負担が大きく、導入時に大き な労力を要する。業者からの支援を受けることは可能である が、実際の運用において「事業所に合った形」で設定すること は外部業者では判断しにくく、最終的には事業所自身が調整す る必要がある。 取組の定着・継続  定着・継続の前提として、安定した経営基盤を整えることが不 可欠である。  グループホームは終の棲家ではなく、利用者が「別の場所で生 活したい」と希望することもある。その際に快く送り出す姿勢 が求められる。  利用者の退去により減収となることもあるが、それを前提にし た経営基盤を整えておかなければならない。  生産性向上の取組は、利用者の意思を尊重し、「その人が望む 生活」を支えることが目的であり、そのためにも経営的な余裕 を確保しておくことが必要である。 取組を振り返って  生産性向上はあくまで「支援の質を高めるための武器」であ り、目的ではない。理念と切り離された効率化は、支援の質を 損なう危険性があるため、常に自分たちの理念と照らし合わせ ながら進める必要がある。  トップから理念に基づくメッセージを繰り返し発信し、文化と して定着させることが重要である。職員が「自分はこのために 働いている」と実感できる瞬間を多く持つことで、生産性向上 の取組はうまくいき、事業所の成長につながる。 22 4. 社会福祉法人 南高愛隣会 CAREERPORTほんまち 【基本情報】 サービス種別 就労選択支援、自立訓練(生活訓練)、就労移行支援、 就労定着支援 主たる対象とする障害の種類 精神障害・発達障害 事業所の所在地 長崎県諫早市本町2-5 従業員数 常勤10名(他事業との兼務1名) 取組概要 記録ソフトの導入、日報システムの導入 調査項目 ヒアリング内容 取組の背景 【記録ソフト】 ・ 紙の記録や報告書作成などの間接業務が負担となり、利用者 と向き合う時間が減少。記録方法や各種様式については、事 業所ごとにバラバラで統一されていなかった。 ・ 職員アンケートで記録の重複や申し送り等の情報共有への課 題が出ており、支援の質を高めるために、記録、共有を効率 化する仕組みへのニーズがあった。 ・ 2015年に法人の別事業所で障害者虐待事案による行政処分を 受けたことを契機に、業務の透明化・標準化のため、ICTを 活用した仕組みづくりを進めることを決定。 【日報システム】 ・ 若年層の知的障害者が利用者の中心だったが、特別支援学校 で作業訓練を行うようになり、学校卒業後、すぐに就職する 方が増加し、利用者が減っていった。 ・ 一方で、地域では、精神障害や発達障害を抱える方が増えて おり、利用者として受け入れる方向となった。 ・ 知的障害と精神障害では特性が全く違うため、職員側とし て、障害特性の理解やアセスメントへの不安があり、利用者 の理解を深めるツールが求められた。 取組の内容 【記録ソフト】 ・ 法人全体で、記録ソフトを導入した。 ・ 様式、記録方法について、本部でルールを統一した。 【日報システム】 ・ 利用者本人が、日々の睡眠、服薬等の状況、不調のサイン等を 設定した個別評価項目を自身で入力し、職員と共有する日報シ ステムを導入した。 23 ・ 入力された情報により、職員は変化に気づき、支援のタイミン グがわかるようになった。入力内容の蓄積により統計分析がで きるようになり、利用者の状態を把握できるようになった。 取組の進め方 【記録ソフト】 ・ 「職員が利用者支援により多くの時間をさけるように」という 目的のもと、法人本部の事業サポート本部が中心となって導入 を進めた。 ・ ソフトの選定については、連携している法人が先行して運用し ていることや職員と利用者家族との間で連絡がとれる機能が決 め手となった。 ・ 各事業所の記録や申し送りの状況を確認し、重複や非効率な手 続きを把握。あわせて、通信環境等の状況も確認し、必要な設 備や端末を整備。 ・ 説明会や操作研修を職員向けに実施。導入にあたって、理事長 から「ICT化は視点の質を守るための取組である」というメッ セージを繰り返し伝えた。 ・ 3事業所でトライアル実施し、検証。その後、2018年から全事 業所へ導入した。導入後も運用を現場任せにせず、事業サポー ト本部の職員が、各事業所の職員から任命した担当者と連携し ながら、現場職員からの意見を集約し、マニュアルの見直しを 随時行った。 【日報システム】 ・ 当時の所長が展示会で情報を入手し、導入を決定。 ・ 導入前にベンダー主催の操作説明会を実施。 ・ 導入当初から利用者には一律に説明を実施、同意を得た上で利 用を進めている。 ・ 毎朝支援の前後に職員がシステムを確認し、利用者への配慮事 項や個別対応を決定。 取組の成果 【記録ソフト】 ・ 記録作業が平均で15~25%程度削減された。 ・ 年間換算で、法人全体としては、約18,000時間の業務削減効 果があり、削減された時間を利用者との対話や支援計画の検 討、利用者家族との連携にあてられるようになった。 ・ 記録の標準化と即時共有ができるようになり、支援内容の一 貫性が保たれるようになった。 ・ 申し送りがリアルタイムにでき、支援方針の統一や、リスク対 応の迅速化にもつながった。 24 ・ データや記録に基づいて検証ができるようになり、「より良い 支援をチームで考える」という意識が浸透し、職員間や事業 所間でのチームケアの質が向上した。 ・ 現在は、記録を利用者家族と共有しており、これにより利用 者家族の支援への理解が深まるとともに、職員も緊張感をも ってより良い記録や支援を考えるようになった。 【日報システム】 ・ 利用者の当日の状態に合わせて利用時間やプログラムの変更や 休憩時間の設定を行うことができている。 ・ 体調不良や不調の前兆を早期に察し、長期欠席や長期入院の 減少がみられた。長期欠席や長期入院が減ることで、結果的 に職員の業務負担も軽減された。 ・ 医療機関の受診時にデータを医師に見せることで、診察にあ たっての参考にもなっている。 ・ 訪問看護や企業とも情報共有ができ、就労定着に向け、より 効果的な支援ができている。 取組実施上の課題 【記録ソフト】 ・ 特に年齢の高い職員において、操作への不安や入力負担を抱く 者がいたため、動画マニュアルや個別サポートを実施した。 ・ 各事業所で記録の形式や内容にばらつきが生じたため、法人と して統一的なルールやテンプレートを用意し、情報の一貫性を 確保した。 ・ ICT導入に伴い、情報セキュリティも課題となった。端末の管 理、持ち出しルールを明文化し、利用者情報の取り扱いに関す る研修を実施した。 【日報システム】 ・ 統合失調症などの症状により、利用者によっては、システムの 利用が進まないことがある。 ・ 職員としては、毎日システムを確認する必要がある手間がある ため、負担に感じている面もある。 ・ コメント機能に寄せられた利用者からのコメントを返す作業が 職員の負担となっている。対応が難しい利用者については、職 員が外部の臨床心理士によるスーパーバイズを月1回受け、相 談している。 取組の定着・継続 【記録ソフト】 ・ 業務改善委員会を設置し、定期的に現場で独自の運用がされて いないかチェックを行っている。 25 ・ 同委員会では、現場の意見や経営執行会議での議論をもとに毎 年テーマを決めて取組を実施。現在は勤怠管理システムの更新 について議論している。 【日報システム】 ・ 年1回の研修を継続して実施している。 ・ 月1回利用者本人とシステムの画面を見ながら振り返りを実 施。気づきや次の支援の方向性を共有している。 取組を振り返って 【記録ソフト】 ・ 生産性向上とは、単なる業務効率の追求ではなく、職員一人一 人がより良い支援を考え、利用者一人ひとりの人生に寄り添う ための時間と余裕を生み出すことであると考えている。ICTの 導入は、そのための手段である。 ・ 導入当初は、戸惑いや現場ごとに理解度の差もあったが、現場 の声を丁寧に拾い上げながら改善を重ねていくことで、「ICT を使う業務」から「ICTを活かして支援を高める業務」へと意 識が変化した。 【日報システム】 ・ 利用者本人の自己記録を日々見える化することで、早期の対応 が可能となり、症状悪化を防ぐことができている。 ・ 訪問看護や企業とも情報共有することができ、チームケアの向 上にも役立っている。 ・ 利用者によっては、使いたがらない方もいるため、その対応を どうしていくかが、今後の課題。 ・ 自己表現することが苦手な精神障害の方にとって有効なツール である一方で、就労後はシステムがない環境に行くことを想定 し、本人が自身の状態を口頭で発信できることも必要だという 意見もある。 26 5. 社会福祉法人 武蔵千川福祉会 チャレンジャー 【基本情報】 サービス種別 就労継続B型、就労移行支援 主たる対象とする障害の種類 知的障害者 事業所の所在地 東京都武蔵野市境南町4-20-5 従業員数 常勤7名、非常勤4名 取組概要 勤怠管理システムの導入、記録ソフトの導入 調査項目 ヒアリング内容 取組の背景 【勤怠管理システム】 ・ 法人の評議委員会、役員会において「職員の有給取得日数が 少ない」という指摘を受けていた。 ・ 出勤簿や休暇簿が紙の様式で手書きであり、押印して管理者 に提出、管理者確認後、法人本部の総務担当者が確認という 非常に手間がかかっていた。 【記録ソフト】 ・ Excelや紙で記録をしており、転記のしにくさなどにより、作 成に時間を要していた。 ・ 内部監査から、変化がある利用者の記録はしっかり書かれて いるものの、変化のない利用者の記録は内容が不足している という利用者ごとの記録の偏りを指摘されていた。 ・ 平成27年に計画相談を開始したが、厚労省のExcel様式での 作業は非常に負担だった。 取組の内容 【勤怠管理システム】 ・ 勤怠管理システムを導入 ・ 出退勤の打刻や休暇申請をスマートフォンやPCからできるよ うにした。 ・ スマートフォンを持たない職員のために、ICカードリーダー を設置し、交通系ICカードを利用した打刻も可能にした。 【記録ソフト】 ・ 記録ソフトを導入し、個別記録、業務日報の作成をシステム 上でできるようにした。 ・ 事業所間で利用者の情報共有や各利用者の個別記録を一覧で 閲覧できるようにした。 取組の進め方 【勤怠管理システム】 ・ 評議員会、役員会の指摘を受け、本部の担当者が原因を調査す るため、事業所の職員に聞き取りを実施。 27 ・ 単に業務が多忙であることだけでなく、休暇申請がすべて紙様 式のため、手間がかかるため、物理的にも休暇取得しづらいと の声があった。 ・ 現状の様式やフローを確認した上で、本部の総務担当が中心と なって、要件整理し、ベンダーとの調整を実施。就業形態に合 わせ機能削減や締め日や休日設定等のカスタマイズを検討し た。 ・ 導入にあたっては、各事業所の管理者に対し、1時間程度の操 作説明を本部が実施した。 【記録ソフト】 ・ 現場のITが得意な職員3名程度で構成されるデジタル推進委 員会を中心に導入するソフトを検討。 ・ 費用面、機能面、サーバー設置の要否等を基準に比較表を作 成し、導入するソフトを選定した。 ・ 導入にあたっては、ベンダーによる職員向けの説明会を実施 した。 ・ 導入にあたっては、各事業所において利用者の基本情報をそ れまでの紙の記録を参照しながらシステムへ入力する移行作 業を実施。デジタル推進委員会の委員も現場を回って、入力 支援を行った。 ・ 各事業所の日々の記録入力を定着化させるため、導入後3~4 年間は、全事業所の業務日報や記録例を毎日各事業所に配信 していて横展開していた。 取組の成果 【勤怠管理システム】 ・ 休暇申請がしやすくなり、一人当たりの年間有給取得日数が取 組前は平均約9日だったが、取組後は平均約11日に増加し た。 ・ 男性の育児休暇取得者も3名いる。 ・ さらに、総務担当にて毎月手作業で丸1日かかっていた給与計 算の作業が数分で完了できるようになった。 【記録ソフト】 ・ 記録ソフトの導入により、一覧で各利用者の記録が確認でき るようになったため、記録の偏りが可視化され、是正しやす くなった。 ・ 入力作業が効率化したため、以前は利用者帰宅後に記録を作 成し、1時間残業していたが、定時で多くの職員が退勤できる ようになった。 28 ・ 個々の記録内容が一覧で確認でき、職員間で内容を閲覧する ことができるようになったため、業務が属人化しにくくなっ たと感じている。 ・ 計画相談のモニタリング時期、計画更新時期などもソフトの 中で、期日が表示されるため、管理がしやすくなった。 ・ 事業所間で利用者の申し送り機能を活用することで事業所間 でのコミュニケーションが活発になった他、例えば、利用者 の服薬の変更などがタイムラグなく共有できるようになっ た。 取組実施上の課題 【勤怠管理システム】 ・ 打刻へ個人の交通系ICカードの利用に抵抗がある職員もいた ため、打刻専用のカードも用意して対応。 ・ ソフトウェアの機能のアップデートが定期的にあるため、追加 機能の要否の判断、現場職員への操作方法の周知が必要とな る。 ・ 打刻漏れは防ぐことができないため、打刻漏れに対する総務担 当からの個別の対応依頼は引き続き必要。 【記録ソフト】 ・ 導入当初は紙記録の情報を各事業所で入力する作業負担が発 生。進捗が芳しくない事業所へはデジタル推進委員会の委員 が出向き直接支援を行った。 ・ PC操作が苦手な職員が一定数いたが、事業所内の若手職員が 個別にフォローした。 取組の定着・継続 ・ 法人の役員会において、毎年委員会を設置し、各事業所の職員 から委員を募っている。その中で定例的な委員会もあれば、そ のとき必要なトピックで設置している委員会もあり、こうした 仕組みが改善の取組に繋がっている。 ・ 例えば、作業活動創造部会では、現在法人としては、ダイレク トメールの封入封函作業を中心に受託しているが、今後を見据 え、他の作業を受託することも検討が必要と考え、議論してい る。 ・ 一方で、オンラインを主体で委員会を開催しており、活性化が 課題であるとも感じている。 取組を振り返って ・ 毎年、職員に自己申告書として、来年はどの事業所で働きたい とか、今困っていること等を聞いており、法人としては、そこ で出た内容は叶えていきたいと考えている。 29 ・ 利用者と関わる時間は減らせないし、むしろ増やしていきた い。職員が利用と向き合える時間を確保することが基本であ る。そう考えたときにできる限り事務作業はICTの活用等 で、省力化していきたいと考えている。そうした考えのもと、 総務担当も法人全体として集約している。 ・ 利用者と関わる時間が増えることで、結果として、職員のモチ ベーションの向上につながると考えている。 30 6. 社会福祉法人大乗福祉会 相談支援事業所フロントライン サービス種別 相談支援事業所(計画相談) 主たる対象とする障害の種類 ― 事業所の所在地 広島県 従業員数 3人(認定こども園園長と兼務1名、常勤専従2名) 取組概要 「現地完結型」の相談支援の仕組みを構築 調査項目 ヒアリング内容 取組の背景  竹原市を拠点に広島市、福山市、東広島市など広域を対象 としており、1件あたり片道90分~2時間の移動が発生し ていた。  契約、計画作成、モニタリング、報告などが紙ベースで分 散管理され、情報共有の遅延や記録漏れのリスクがあっ た。  職員からは、事務作業に追われて利用者や家族と向き合う 時間が十分に取れないという課題意識があった。  効率化は手段であり、「人に寄り添う時間を取り戻すこと」 を目的に取組を開始した。 取組の内容  広域対応でも支援を止めないため、「現地完結型」の相談支 援の仕組みを構築した。ノートPC、モバイルディスプレ イ、ポータブルプリンターを用い、契約、計画案提示、署 名、提出までをその場で完結できる体制を整えた。  クラウド上で進捗や記録を一元管理し、抜け漏れ防止と即 時共有を実現した。  本人や家族と画面を見ながら確認することで、支援内容を 「一緒につくる」形に転換した。 取組の進め方 ・ 業務工程を洗い出し、時間のかかる作業や情報が滞る場面 を整理した。その結果を踏まえ、業務フローを「現地完結 型」に再設計した。 ・ まずは一部ケースで試行運用し、操作性や負担感を確認し ながらルールを整備した。 ・ 「誰が、いつ、何を入力・確認するか」を明確にし、職員 同士で得意・不得意を補い合う体制をつくった。 ・ 月1回のミーティングで振り返りを行い、小さな改善を積 み重ねた。 31 取組の成果  契約、計画作成、報告を現地で完結できるようになり、移 動や再訪問の時間を約20~30%削減した。  進捗管理の一元化により、請求やモニタリングの遅延が大 幅に減少した。  クラウド管理により、端末故障や災害時でも業務を継続し やすい体制が整った。  職員の間に、ICTを「支援の質を高めるための手段」とし て捉える意識が定着した。利用者や家族からは、「説明がわ かりやすくなった」「安心して任せられる」といった反応が みられた。 取組実施上の課題  広域対応のため、長距離移動やノーショー、日程変更など の不確実性が大きい。  相談支援の報酬構造上、多くのケース数を維持しなければ 経営が安定しにくい。  業界全体として紙やExcelに依存した運用が多く、システ ム導入への心理的な抵抗も残っている。  端末障害や災害時を見据えると、ローカル保存ではなくク ラウド前提の設計が不可欠である。 取組の定着・継続  月1回の振り返りを継続し、運用改善を続けている。  当日完結率、記録漏れ件数、モニタリング遅延率などを確 認し、改善効果を見える化している。  安定した経営基盤を確保しながら、継続して運用できる体 制づくりを重視している。 取組を振り返って  相談支援事業の効率化は、「人に寄り添う時間を増やすた め」に行うものである。  楽になるための省力化ではなく、生まれた時間を支援の質 の向上に振り向けることを重視している。  単なるICT導入ではなく、現場で支援を完結できる仕組み づくりとして進めたことが特徴である。 32 7. 株式会社UNIQUER トータルサポートライトブレイン上飯野校 【基本情報】 サービス種別 放課後等デイサービス 主たる対象とする障害の種類 障害児 事業所の所在地 富山県富山市上飯野字道ノ下9番地1 従業員数 常勤8名、非常勤1名 取組概要 業務支援ソフトの導入 調査項目 ヒアリング内容 取組の背景 ・ 代表が職員の出勤簿や児童の出欠の状況を全件チェックし、 加算の要件や算定可否を判断していた。 ・ 事業所を2か所に増やすにあたり、代表以外でもチェックが できるよう業務を標準化し、属人化を解消していく必要があ った。 取組の内容 ・ 請求、記録作成を一気通貫で行える業務支援ソフトを導入し た。 ・ ソフトの利用定着に合わせ、PCの台数を拡充した。 取組の進め方 ・ ソフトの選定にあたっては、導入候補を現場職員も含め、操作 体験を交えながら選定した。請求業務の負担軽減など、現場で のメリットを共有しながら、試験導入から始め、本導入へ移行 した。 ・ 現場の職員同士でマニュアルの読み合わせを行い、操作研修を 実施。不明点はコールセンターへも随時相談した。 ・ 主任以上の現場職員と経営幹部で構成されるリーダー会におい て、使い方を共有・確認し、ルールを統一した。 ・ 利用者の基本情報のデータ移行作業は大変だったが、ベンダー の支援を受けることでスムーズに移行できた。 ・ 業務支援ソフトの導入により、これまで使用していた記録ソフ トとは記録の入力項目が変わるため、職員向けに各項目への入 力内容を示したマニュアルを作成した。結果、定着が進んだ。 取組の成果 ・ 請求業務の効率化、記録作成やチェックなどの事務作業が減少 した。現場職員だけでなく、現場の管理者の余裕創出にもつな がり、教材づくりや会議の時間を確保できるようになった。 ・ 事務負担が軽減されたことにより、職員間のコミュニケーショ ンが増え、その日にあった悩みの共有やイベントの企画の相談 などがしやすくなり、心理的安全性の確保につながっている。 33 ・ とくに管理者においては、忙しいといかに業務を減らすかが目 標設定となりがちだが、会議においても「こういった取組をや りたい」といった前向きな目標設定の提案が増加した。 ・ 記録の入力にあたってのマニュアルを作成したことで、記録内 容の標準化にもつながった。 取組実施上の課題 ・ 導入時は一人一台のPCを用意していなかった。利用が定着し ていくにつれ、職員同士で利用したいタイミングが重なってし まうといった課題があった。そのため、補助金を活用し、PC とタブレットを充実させた。 ・ 報酬の算定方法が日単位から時間単位に変わった際は、ソフト の仕様や入力方法の変更について、リーダー会や職員同士で集 中的に集まって対応を話し合い、共有した。 ・ 操作が苦手な職員も一定数いたため、業務量を一時的に軽減 し、入力方法を丁寧に学べるようにした。 取組の定着・継続 ・ 現場に任せきりにしてしまうと、記録の入力方法など、独自運 用が進んでしまう。そのため、リーダー会を通じて、事業所間 の情報を共有し、法人としての共通ルールを作って統率をとる ことも必要。 取組を振り返って ・ 経営側が導入メリットを理解し、自分の言葉で伝え、現場を巻 き込むことができるかが重要であると感じる。 ・ 現場を尊重しつつ、現場任せにせず、経営側もコミットしてバ ランスをとることも大事。 ・ 新しい取組に対し、アレルギーがある職員も一定数いるため、 まずは試験導入で職員に使ってもらい、抵抗をなくしていくこ とが必要。 34 8. 社会福祉法人宗友福祉会 天使園 【基本情報】 サービス種別 施設入所支援、計画相談支援、生活介護、就労移行支 援、就労継続支援A・B型、共同生活援助、児童発達 支援、放課後等デイサービス、保育所等訪問支援、障 害児入所支援 主たる対象とする障害の種類 精神障害、知的障害 事業所の所在地 愛媛県松山市中野町甲800番地 従業員数 常勤41名、非常勤9名 取組概要 児童の食事アレルギーに関するスマートフォンアプリ の導入 調査項目 ヒアリング内容 取組の背景 ・ 事業所に新卒職員が集まりにくく、離職者が増加している状 況であった。 ・ 職員のありのままの思いを聴取するため、管理者が職員との 個別面談を行った。意見や不満を聞き取った中でも、特に児 童の食事アレルギーへの対応の業務に心理的負担を感じてい るという声が多く表出された。 ・ 障害を問わず困っている人がいたら手を差し伸べるという法 人理念のもと、職員の声から課題を一つ一つ吸い上げ、まずは 食事アレルギーの対応に関して取組を進めた。 取組の内容 ・ 児童の食事アレルギーに関する保護者との連絡を、電話や口頭 でのやりとりからスマートフォンアプリに置き換えた。 ・ アレルギー対応が必要な児童への食事提供は業務委託を行っ た。 取組の進め方 ・ 2020年頃、職員と個別面談を行い、児童の食事アレルギー対 応に関する心理的負担が大きいことが明らかになった。また、 職員が本来の専門性を十分に活かしきれていないことが課題と なっていた。これらの状況を踏まえ、改善に取り組む必要性を 認識した。 ・ 児童の食事アレルギーに関する保護者との連絡をアプリ化する ことを決断した。児童の保護者はスマートフォンを利用してい ることが多数であり、アプリ利用への抵抗が少なく、連絡手段 として定着しやすいと判断した。 ・ 関係者から紹介を受け、アプリを選定した。 ・ アプリの操作方法に関する職員向け説明会を開催した。 35 ・ 2022年4月頃、アプリの活用を開始した。保護者の不安を取 り除くため、保護者向けにアプリの操作方法の説明会を複数回 開催した。 取組の成果 ・ アプリ導入後、保護者から「便利になった」「毎日食事の写真 が送られてくるため、安心できる」等の声が届いており、保護 者の利便性と満足度の向上がみられた。 ・ 職員から「気持ちが軽くなった」という声が聞かれるようにな り、職員の心理的負担が軽減された。 ・ アプリの導入によって、職員は保護者との食事アレルギーに関 する連絡業務が減少した。結果として、職員の残業時間が減少 した。 ・ アプリの導入によって空いた時間を職員同士の伝達や業務の振 り返りに活用することで、その日の支援内容や児童一人ひとり の状態を振り返る余裕が生まれた。職員の専門性の自覚や、よ り良い支援の提供につながった。 ・ 課題が解決したことにより、職員同士の信頼関係が構築され、 コミュニケーションがより円滑になった。 ・ 取組実施上の課題 ・ 施設長を説得すること、事業所全体の納得を得ること、保護者 への周知などは工夫が必要だと思い、丁寧に進めていった。 取組の定着・継続 ・ 本取組によって職員のモチベーションが向上し、次の生産性向 上の取組に挑戦しやすい風土となった。職員が主体的に業務効 率化を提案し、どのように支援業務に活かしていくか、前向き に議論を進めている。 取組を振り返って ・ 職員に余裕が生まれることで、児童をより理解して保護者にフ ィードバックができるため、保護者の安心にもつなげることが できている。 36 9. 社会福祉法人スプリングひびき ひびきホーム音彩 【基本情報】 サービス種別 共同生活援助 (法人:居宅介護、重度訪問介護、移動支援、行動援 護、同行援護、生活介護、就労継続支援B型、放課後 等デイサービス) 主たる対象とする障害の種類 知的障害(重度心身障害) 事業所の所在地 佐賀市高木瀬町長瀬196番地1 従業員数 15名(常勤6名、非常勤9名) ※令和8年2月末日現在 取組概要 介護ロボット、ICTシステム等の導入 調査項目 ヒアリング内容 取組の背景 ・ 重度心身障害者への支援が多く身体的負担が大きいため、高 齢職員が体力を理由に介護の少ないサービスへ移る傾向があ った。 ・ 職員が環境要因によって長く働き続けられない状況があり、 支援の質の維持が課題となっていた。 ・ 育児や介護をしながらでも働き続けられる職場づくり、経験 豊富な職員が長く関わり続けられる環境づくりを目的に、 2014年頃から働き方改革に着手した。 ・ グループホームを本来は24時間365日稼働させたいが、夜勤 看護師の不足等により現在は土曜の夜のみ利用者が自宅へ戻 る運用となっており、人材確保と働きやすい環境整備が必要 だった。(日曜日の午後にGHに戻る) 取組の内容 ・ 介護ロボットの導入(移乗支援機器、可動式リフト、天井リフ ト、装着型アシストスーツ等) ・ グループホーム内設備の整備(見守りカメラ、離床センサー、 バイタル測定機器、特殊浴槽など) ・ 感染物をそのまま処理できる洗濯機など、現場ニーズに基づく 機器導入 ・ 議事録作成ツールを活用し、会議内容の整理や共有の効率化を 実施。 ・ 今後は、既存システムの連携による情報管理の一元化や記録デ ータの活用等により、計画作成や会議運営を含めた業務効率化 を検討している。 <法人全体での取組> 37 ・ 送迎管理システムの導入(配送管理システムを応用) ・ 勤怠管理システムの導入(ICT助成金活用) ・ ヘルパーのサービス種別ごとに異なる時給体系を整理し、 給与計算をデータ化・平均化 取組の進め方 ・ 役職別会議(管理者→主任・リーダー→現場)で同一資料を使 い、段階的に情報共有 ・ 無記名アンケートや月例会議で職員の意見を収集し、優先順位 をつけて改善を実施 ・ 機器選定では展示会(ケアテック、バリアフリー展など)への 参加やデモ機の活用を実施 ・ 職員自身が体験し、利用者目線で安全性や使いやすさを確認し て導入機器を選定 ・ 補助金情報を自治体・全社協サイト等から収集し活用 ・ 機器導入後は「必ず使う」方針をトップダウンで徹底 ・ トップ自らもデータ整理や分析などの実務に関与 取組の成果 ・ 支援中のヒヤリハットが減少し、利用者の安全性の向上につな がった。 ・ 移乗支援機器や装着型支援機器等の活用により、職員の身体的 負担・疲労感が軽減した。 ・ 起床・就寝やトイレ介助等の場面で1人介助が可能となるな ど、介助業務の効率化が進んだ。 ・ 身体的負担を理由とした離職が減少するとともに、定年後も働 き続けたいと考える職員が増加するなど、人材の定着につなが った。 ・ 機器導入後の身体的負担での退職者は出でいない。 ・ ICTや福祉機器活用の先進事例として他事業所からの見学が増 加し、取組の波及・普及につながっている。 ※厚生労働省「省力化投資促進プラン-障害福祉-」に事例掲載 https://www.mhlw.go.jp/content/12200000/001517154.pdf 取組実施上の課題 ・ 新しい取組において、情報伝達が不十分な場合に現場で混乱が 生じることがあった。 ・ 法人の拡大に伴い、支援方法やツールの統一が十分にできない ことがあった。 ・ 保護者との意見の違いや調整が必要な場面があった。 ・ 機器導入においては、使いこなせない職員が出る可能性があ る。 取組の定着・継続 ・ 機器ごとに担当職員を設定し、使用方法のサポート体制を整備 38 ・ 担当職員には通常業務とは別に時間を確保し、対応できるよう 配慮 ・ 取組の目標やゴールを明確にし、職員に共有する機会を増やし ている ・ 職員同士が支え合う雰囲気づくりを重視し、チームワークを醸 成 取組を振り返って ・ 新しい取組がうまくいかない原因は、多くの場合「伝達不足」 であると認識している。 ・ 新しいことへの取組は、現場の職員にとっては仕事が増えるこ とのように「負担感」として、錯覚するようであった。 ・ 法人規模の拡大に伴い、情報共有の仕組みを意識的に整備する 必要があると感じている。 ・ トップダウンだけではなく、職員が主体的に関わっていると感 じられる進め方を重視している。 ・ 管理者会議、主任会議、職員会議で同じ資料を用いるなど、共 通理解を生む工夫を行っている。 ・ 導入当初は、戸惑いや現場ごとに理解度の差もあったが、現場 の声を丁寧に拾い上げながら改善を重ねていくことで、「ICT を使う業務」から「ICTを活かして支援を高める業務」へと意 識が変化した。 第2項 ヒアリング結果のまとめ ヒアリング調査を通じて、生産性向上に積極的に取り組む事業所が共通して抱えていた 課題、その根底にある障害福祉ならではの価値観、そして今後の取組プロセスを構築する 上で欠かせない実践的な示唆が明らかになった。 1. 共通する現場の課題 多くの事業所が、取り組んだ背景として以下のような課題に直面していた。 (ア) アナログな業務による負担と残業の常態化 紙媒体による記録、手書きの出勤簿や休暇簿の運用などにより、転記作業や集計に多大 な手間がかかり、残業が常態化していた。また、情報がリアルタイムで共有されず、確認 のための連絡業務が負担となっていた。 (イ) 業務の属人化と情報共有の不足 特定の職員に業務が依存する属人化が生じており、不在時のフォローが困難な状況があ った。また、職員間で「支援観」のズレがあったり、記録の記載内容にばらつきがあった 39 りすることで、支援の質の均一化を妨げる要因となっていた。 (ウ) 「支援したいのにできない」もどかしさ 膨大な事務作業や複雑化した業務に時間を奪われ、職員が本来最も大切にしたい「利用 者と向き合う時間」が十分に確保できず、専門性や思いを活かしきれないという葛藤を多 くの現場が抱えていた。 2. 障害福祉現場が大切にする価値観 生産性向上に取り組む背景には、各事業所が拠り所としている価値観が確認された。 (ア) 利用者主体の「個別支援」の徹底 障害福祉は当事者視点を基盤としており、利用者のアイデンティティや経験を尊重し、 利用者が主体の個別支援を提供することが重視される。 (イ) 効率化の先にある「ケアの充実」 取組の目的には、単なる業務の効率化やコスト削減ではなく、生み出された時間や余力 を使って「支援の質を高めること」や、職員が「やりがいを持って働ける環境を作るこ と」であるという想いがある。 (ウ) 職員の主体性とチームワークの尊重 トップダウンの指示にとどまらず、目の前の利用者と日々向き合う現場職員の気づきや 挑戦する姿勢を尊重し、チーム全体でより良い支援を模索していくことが求められてい る。 3. 取組プロセスへの示唆 現場の課題を解決し、価値観を実現するための取組プロセスに関する示唆が得られた。 (ア) 目的の明確化と「共感」の醸成 取組を始めるにあたり、「なぜこの改善を行うのか」といった目的を経営層から繰り返 し発信し、現場の納得感と共通認識を形成することが成功の土台となる。 (イ) 現場の声に基づいた課題の「見える化」 アンケートや聞き取りを通じて現場の困りごとを吸い上げ、客観的に課題を抽出・整理 するプロセスが求められる。 (ウ) 「気づき」を促す解決策の選定 機器の展示会に職員が参加するなど、現場の職員が「これがあれば便利だ」「利用者のた めになる」と実感できる体験を作り出し、主体的に解決策を選び取る工夫が定着率を高め る。 (エ) 「小さく試す」柔軟な姿勢と振り返り 最初から完璧を目指すのではなく、「まずは試してみて、合わなければ見直す」という柔 軟な姿勢で段階的に取組を進めることが重要である。また、定期的な振り返りの場を設 け、小さな成功体験を共有し合うことが、自律的に改善を続ける組織風土の形成につなが 40 る。 41 第4章 検証の実施 第1節 検証の目的 本検証は、本事業を通じて整理・作成した「基本的な考え方」の妥当性を確認し、現場 の実情に即した実効性のある内容となっているかを検証することを目的として実施した 具体的には、整理された生産性向上の考え方や取組の手順が、現場の感覚と合致してお り相違がないかを確認するため、ヒアリングを通じた検証を行った。そのほか、事業所の 協力を得て実際に生産性向上の取組を試行し、そのプロセスや効果を確認する実地での検 証を行った。 第2節 ヒアリングでの検証 第1項 検証概要 検証対象となる事業所は、第3章においてヒアリング調査に協力いただいた9事業所と した。 ヒアリングでの検証の手法としては、各事業所の管理者等に対し、「基本的な考え方」の 素案を提示した上で、「なぜ生産性向上が必要なのか」「生産性向上とは何か」「どのように 進めるか」等のそれぞれの項目について、現場の視点からの率直な意見やフィードバック を聴取した。 第2項 検証結果 「基本的な考え方」の素案に対し、実際に生産性向上に取り組む現場の視点から、実践 的かつ具体的なフィードバックが多数寄せられた。 1. 「生産性向上」や関連表現に対する受け止め 「生産性向上」という言葉に対して「ケアの充実」と言い換えている点は分かりやすく 違和感がないと評価された。一方で、「ケア」という言葉よりも「支援」の方が現場では よく使われるという声があった。また、「効率を優先して支援が画一的になるのではない か」という懸念を示した表現については、「そもそも画一的な支援は障害福祉の現場に馴 染まない」というニュアンスの方が実態に近いとの指摘があった。「現場がさらに忙しく なるのではないか」という不安については、管理者層と、現場職員とで、立場によって受 け止め方が異なるといった意見があった。 42 2. 取組のモチベーションと経営的視点の重要性 「やりがい」や「ケアの充実」を目的とすることには共感が得られた一方で、経営目線 からは「金銭的なメリット(報酬や処遇の充実等)がないと経営陣は動きにくい」「やり がいだけに帰結するとボランティア論になってしまう」といった意見があった。また、現 場で最も欠けているのは経営者自身の「業務を効率化する」という思考そのものであり、 経営層が危機感を持って取り組むためのメッセージが必要であるとの指摘があった。 3. テクノロジーに対する見解 「介護ロボットという言葉は訪問系の事業所には馴染みが薄く、ICTという表現の方が どの事業所にもマッチしやすい」、「紙であっても標準化された手順やマニュアルがあれば 十分に意味がある」といった、現場の実情に即した意見があった。また、効率化で「浮い た時間」の使い道について、単に既存のケア時間を延ばすというよりも、「通常はできな かった新たなケア(新たな価値の創出)」に着手できるようになるといった声もあった。 4.5つの手順に対する受け止め 「5つの手順はわかりやすく、取り組みやすい」、「共感から入ることは現場の運用にも あっている」という肯定的な意見が多くあった。一方で、あるべき姿から考えることは理 想であるものの、事務負担軽減などの目の前のメリットを示した上で、職員の関心と協力 を引き出すことも必要な場合があるという意見もあった。 第3節 実地での検証 第1項 検証概要 検証対象となる事業所の選定にあたっては、障害福祉サービス特有の多様性を反映させ るため、提供しているサービス種別(訪問系、日中活動・居住系、障害児支援系など)や 事業所の規模に偏りがないよう留意した。また、当事者団体が設立した事業所も選定の対 象として含めた。 これらの事業所において、「基本的な考え方」の素案において整理された取組の「5つ のステップ」に沿って、取組を実施し、その前後での業務時間の変化や、職員の負担感・ 働きがい等の変化を定量的・定性的に測定した。 43 図表 8 実地での検証 対象事業所 No. サービス種別 事業所名 (法人名) 所在地 取組概要 検証期間 1 生活介護、施 設入所支援、 就労継続支援 B型 等 障害者支援拠点 愛光園 (社会福祉法人 雄勝なごみ会) 秋田県 記録ソフトの追加機 能、タブレット導入、 バイタル電送、工賃計 算の効率化など 2025年10 月~2026 年2月 2 重度訪問介護 ケアクリエイト (一般社団法人 HK) 愛媛県 管理者業務の移管によ る体制の見直し 2025年10 月~2026 年2月 3 児童発達支援 ハッピーテラス キッズ中野ルー ム (デコボコベー ス株式会社) 東京都 AI文字起こしツールの 導入による面談記録の 効率化 2025年12 月~2026 年2月 第2項 検証結果 実地での検証において、各事業所において「5つのステップ」に則って実際に生産性向 上の取組を進めた結果、サービス内容や取組の内容によらず、この手順の実行性が確認さ れるとともに、各ステップを現場で実践・定着させるための重要な示唆を得られた。な お、各事業所の取組の詳細については、「基本的な考え方」の巻末に参考事例として掲載し ている。 1. ステップ1「共感をつくる」 取組の第一歩として、単なる業務改善ではなく「何のために行うのか」という目的意識 をチームで共有することが不可欠である。ある事業所では、利用者を第一に考えるという 思いを込めたプロジェクト名を付けることで、目指すべき方向性を共有した。また別の事 業所では、話し合いの冒頭で「事業所やメンバーの良いところ」を出し合うアイスブレイ クを実施し、肯定的な面に目を向けることで、前向きで建設的な議論を行うための土台を 形成した。 2. ステップ2「課題を見える化する」 課題を抽出する際は、現場の「もっとこうしたい」という前向きな思いと「なぜできな いのか」という現状をセットで洗い出すことが有効である。ある事業所では、この手法に よりありたい姿と現状を書き出し、「時間が足りない」という共通の課題を可視化した。 また別の事業所では、特定の管理者に依存し、交渉や感覚的な部分が大きかった業務(シ 44 フト作成等)の手順を文章に書き出すことで、属人化していた業務を可視化した。 3. ステップ3「解決策を考える」 解決策を検討するは、課題の絞り込みや解決策の洗い出しが重要である。ある事業所で は、複数の課題の中から予算や充てられる時間などを考慮し、職員による投票で取り組む 課題の優先順位を決定した。また別の事業所では、現在のシステムで対応できる範囲とで きない範囲を切り分け、外部のツールも含めて柔軟に解決策を洗い出した。 4. ステップ4「試してみる」 段階的に試行することが現場の混乱を防ぐことができる。ある事業所では、一つの業務 に絞ってツールの活用を試したことで、「小さく始める」ことの重要性を実感し、他の業務 へ応用する際の考え方を学ぶことができた。また別の事業所においても、対象となる利用 者や業務範囲を一部に絞って取組を進め、翌月に全体へ広げるといった段階的な移行計画 を立てて実践した。 5. ステップ5「振り返る」 取組の成果は、削減時間などの定量面だけでなく、職員の心理的変化などの定性面から も評価することが重要である。ある事業所では、作業時間の計測と並行して、職員の負担 感などを測るアンケートの実施を計画した。また別の事業所では、業務効率化によって利 用者と向き合うことに集中できる度合が大幅に向上し、職員の心理的負担が軽減したこと が確認されている。さらに、取組後の振り返りを通じて「新しいことを一人で始めてもう まくいかなければ継続が難しいが、チームで目標を決めて合意形成し、実行するプロセス を経ることで継続性が生まれる」という気づきも得られており、組織全体でこの5つのス テップを回していくことの意義と実効性が実証された。 45 第3項 取組効果の推計 実地での検証先の1つである社会福祉法人雄勝なごみ会における業務改善の具体的な取 組内容と、その効果を定量的に示した推計結果を紹介する。同法人は、障害者支援施設 (入所支援)および就労系障害福祉サービスを運営する複数拠点の事業所であり、ICTツ ールの導入およびデジタル化を通じて、現場職員の業務負担の抜本的な削減に取り組んで きた。以下に示す各事例は、改善前後の業務時間・印刷枚数・押印箇所等の実績データを もとに推計したものであり、障害福祉現場におけるデジタル化の効果を具体的に示す事例 として位置づけるものである。 1.バイタルデータの自動転送・電子化 1) 対象事業所の概要 事業所名 愛光園 施設種別 障害者支援施設(入所支援) 入所者数 45名 改善取組内容 バイタルデータの自動転送・電子化 対象職種 生活支援員・看護師 測定頻度 1日3回測定(毎日実施) 2) 業務改善前後の比較(利用者1名あたり・1回あたり) 図表 9 業務改善前後の比較(利用者1名あたり・1回あたり) 職種 改善前 (分/回) 改善後 (分/回) 削減量 (分/回) 削減率 備考 生活支援員 0.53分 0.20分 0.33分 62.3% 15名で8 分 看護師 6分 2分 4分 66.7% — ※所要時間は、1回当たりの測定時間に測定回数と利用者数を乗じた単純計算による参考 値である。なお、看護師は通常、1日に1~2回のバイタル測定を実施している。実際の現 場では、巡回の中で複数名を続けて測定する場合もあることから、実際の所要時間は異な る場合がある。 3) 年間削減時間の推計(入所者45名) 測定頻度および入所者数(45名)をもとに、職種ごとの年間削減時間を算出した。 46 図表 10 年間削減時間の推計(入所者45名) 職種 削減量 (分/回/ 名) 測定回 数 (1日) 入所者数 1日あた り削減 (分) 月あたり 削減 (分) 年あたり 削減 (時間) 生活支援員 0.33分 1回 45名 14.9分 約446分 約90時間 看護師 4分 2回 45名 360分 10,800 分 約2,190時間 合計 — 約2,280時間 ※ 生活支援員の年間削減分:0.33分×1回×45名×365日÷60=約90時間 ※ 看護師の年間削減分:4分×2回×45名×365日÷60=約2,190時間 ※ 月あたり削減分は30日換算。月平均約190時間の業務時間を創出。 4) 削減業務時間の経済的価値の推計 削減時間の経済的価値は、厚生労働省「令和6年度障害福祉サービス等従事者処遇状況 等調査結果」における実コスト時間単価(福祉・介護職員等処遇改善加算(I)~(V) を取得(届出)している事業所における福祉・介護職員(常勤の者)の平均給与額)(法定 福利費15%込み・月163時間換算)をもとに算出した。 図表 11 使用した時間単価 職種 月額給与 実コスト時間単価 施設入所支援職員 371,620円 2,622円/時 看護師 421,390円 2,973円/時 ※ 実コスト時間単価:月額×1.15÷163時間(法定福利費15%込み) 図表 12 年間削減コスト推計 職種 削減時間(年) 削減額(推計) 生活支援員 約90時間 約235,980円 看護師 約2,190時間 約6,510,870円 合計 約2,280時間 約675万円 47 5) 定性的効果 金銭的な削減効果(年間約675万円)に加え、以下の効果が期待される。  医療・健康管理体制の充実:看護師の業務余力(年間約2,190時間)が創出され、入 所者への個別支援・医療的ケアの質向上に寄与する。  転記ミス・記録漏れのリスク低減:自動転送により手作業での転記が不要となり、デ ータの正確性が向上する。  リアルタイムな情報共有:デジタル化によりバイタルデータの即時共有が可能とな り、異常の早期発見につながる。 6) 考察 本事例におけるバイタルデータ転送業務の改善は、生活支援員(62.3%削減)・看護師 (66.7%削減)ともに大幅な時間短縮を実現した。特に看護師については、利用者1名・1 回あたり4分の削減が45名×2回×365日に積み重なることで、年間約2,190時間という 極めて大きな効果をもたらしている。入所支援施設ではバイタル測定が毎日全入所者に対 して複数回実施されることから、1回あたりのわずかな時間短縮が年間で大きく蓄積され る。また、専門性の高い看護師の業務を直接支援に集中させる環境整備につながることが 期待できる。 48 2.ケース記録業務の電子化 1) 対象事業所・取組の概要 事業所名 愛光園 施設種別 障害者支援施設、生活介護 利用者数 入所45名(各フロア15名×3)・短期入所3名・通所 数名 改善取組内容 ケース記録・日誌の電子化 主な改善効果 印刷枚数の削減(100%)・押印箇所の削減(100%)・分散入力による 時間外労働の削減 2) 業務改善前後の比較 図表 13 業務改善前後の比較(月次) 項目 改善前 (月) 改善後 (月) 削減量 (月) 削減率 印刷枚数 (日誌・片面) 約250枚 0分 約250枚 100% 完全廃止 印刷枚数(月次ま とめ・両面) 約150枚 0枚 約150枚 100% 完全廃止 印刷枚数合計 (片面換算) 約550枚 0枚 約550枚 100% 完全廃止 押印箇所(日誌) 約210箇所 0箇所 約210箇所 100% 完全廃止 押印箇所 (月次まとめ) 約50箇所 0箇所 約50箇所 100% 完全廃止 印箇所合計 約260箇所 0箇所 約260箇所 100% 完全廃止 ※ 押印は施設長のほか、係長・サービス管理責任者・担当職員も行っており、上記は各書 類に関わる全役職者分の合計箇所数。 ※ 利用者ごとのケース記録については、各記録の1枚目のみ押印を行う運用であった ※ 利用者ごとの月次まとめについては、用紙両面で活用している。 49 図表 14 改善前の紙運用の内訳 事業所種別 印刷頻度 月間枚数 押印箇所(月) 日中日誌(3フロア) 毎日・片面 ― ― 夜間日誌(3フロア) 毎日・片面 ― ― 通所日誌 毎日・片面 ― ― 看護日誌 毎日・片面 ― ― 日誌計 約8枚/日 約250枚 約210箇所 ご利用者ごとの月次まと め 月1回・両面 約150枚以上 約50か所 合計(紙の枚数) ― 約400枚 約260箇所 合計(片面換算) ― 約550枚 約260箇所 ※「ご利用者ごとの月次まとめ」(月1回・両面は約150枚以上(両面)のため、片面換 算にすると300以上となる。 3) 年間削減効果の推計 図表 15 年間削減効果の推計 項目 月次削減量 年間削減量 印刷枚数(片面換算) 約550枚 約6,600枚 押印箇所 約260箇所 約3,120箇所 4) 削減効果の経済的価値の推計 図表 16 用紙・インク・トナー等の単価 項目 単価 根拠 用紙代 約1円/枚 A4 500枚約500円 インク・トナー代 約1~3円/枚 モノクロ約1~2円/インクジェット約2~4円 合計単価 約2~4円/枚 機種・印刷方式による 50 図表 17 用紙コスト削減の推計 年間削減枚数 (片面換算) 削減コスト(下限) 削減コスト(上限) 6,600枚 約13,200円 約26,400円 図表 18 年間削減コスト合計 削減項目 内容 年間削減額(推計) 用紙・印刷コスト削減 6,600枚(片面換算)× 約2~4円/ 枚 約13,200~26,400円 5) 定性的効果 金銭的な削減効果に加え、以下の定性的効果が確認・期待される。  時間外労働の削減:業務終了後の一括入力から業務の合間の分散入力へ移行し、退勤 超過の解消につながった。  記録のリアルタイム性向上:今後はタブレットによる活動中のリアルタイム入力を目 指しており、支援の質向上が期待される。  書類管理業務の解消:押印のための書類回覧・保管・検索にかかる手間が抜本的に解 消された。  紛失・転記ミスリスクの低減:クラウド上での一元管理により、紙書類特有のリスク が排除された。 6) 考察 ケース記録業務の電子化は、愛光園においては、記録時間そのもの(1名あたり2~3 分)に大きな変化をもたらすものではなかったが、印刷・押印業務の完全廃止および入力 タイミングの分散化により、職員の業務負荷を構造的に改善するものである。特に押印に ついては、施設長・係長・サービス管理責任者・担当職員の複数名が関与する運用であっ たため、年間3,120箇所という削減量は、書類の物理的な回覧・確認・保管にかかってい た業務フロー全体の解消を意味する。 51 3.工賃計算業務の電子化 1) 対象事業所の概要 事業所名 愛光園 サービス種別 就労継続支援B型 改善取組内容 工賃計算業務の電子化・効率化 改善対象職種 職員(福祉・介護職員)および事務員 2) 業務改善前後の比較(月次) 図表 19 業務改善前後の比較(月次) 職種 改善前 (月) 改善後 (月) 削減量 (月) 削減率 備考 職員(月) 240 分 10 分 230 分 95.8% — 事務員(月) 150 分 0 分 150 分 100.0% 週30分換 算 合計(月) 390分 10分 380分 97.4% — 合計(年) 4,680 分 120 分 4,560 分 97.4% — 3) 年間削減効果の推計 図表 20 年間削減効果の推計 職種 月次削減量 年間削減量 年間削減量(時間換算) 職員 230分 2,760分 46時間 事務員 150分 1,800分 30時間 合計 380分 4,560分 76時間 月平均380分(約6.3時間)の業務時間を創出。 4) 削減業務時間の経済的価値の推計 削減時間の経済的価値は、厚生労働省「令和6年度障害福祉サービス等従事者処遇状況 等調査結果」における実コスト時間単価(福祉・介護職員等処遇改善加算(I)~(V) を取得(届出)している事業所における福祉・介護職員(常勤の者)の平均給与額)(法定 福利費15%込み・月163時間換算)をもとに算出した。 52 図表 21 使用した時間単価 職種 月額給与 実コスト時間単価 福祉・介護職員 327,720円 2,312円/時 事務員 357,080円 2,519円/時 ※ 実コスト時間単価:月額×1.15÷163時間(法定福利費15%込み) 図表 22 年間削減コスト推計 職種 削減時間(年) 削減額(推計) 職員 46時間 約106,352円 事務員 30時間 約75,570円 合計 76時間 約181,922円 5) 定性的効果 金銭的な削減効果(年間約18.2万円)に加え、以下の効果が期待される。  対人支援業務へのシフト:創出された76時間(年)を利用者支援・記録業務・職員 研修等に充当できる。  ミス・転記誤りのリスク低減:デジタル化により手作業による計算ミスや転記誤りが 抑制される。  事務員業務の完全解消:月150分(週30分相当)の工賃計算関与がゼロとなり、他 業務への集中が可能となった。 6) 考察 本事例が示す97.4%という削減率は、デジタルツールの適切な導入によって定型的な管 理業務が抜本的に圧縮されうることを示している。削減された76時間(年)は、職員が 「管理業務」から「対人支援業務」へとシフトするための実質的な時間的余裕となり、支 援の質の向上に直結するものである。 【出典・参照資料】  厚生労働省「令和6年度障害福祉サービス等従事者処遇状況等調査結果」 (福祉・介護職員処遇改善加算(I)~(V)を取得(届出)している事業所にお ける福祉・介護職員(常勤の者)の平均給与額勤、全体:327,720円、就労B職員: 53 289,130円、事務員:357,080円) 4.記録・申請書類の電子化 1) 対象事業所・取組の概要 事業所名 法人全体(3拠点) 改善取組内容 記録・申請書類の電子化 主な改善効果 押印時間の短縮(電子押印)・印刷枚数の削減(100%)・押印箇所の 削減(100%) 2) 業務改善前後の比較 図表 23 3拠点合計・月次 項目 改善前(月) 改善後(月) 削減量(月) 削減率 作業時間(分) 90分 10分 80分 88.9% 印刷枚数(枚) 154枚 0枚 154枚 100% 完全廃止 押印箇所(箇所) 1,232箇所 0箇所 1,232箇所 100% 完全廃止 図表 24 事業所・種別ごとの内訳(月次・改善前) 事業所種別 両面印刷 (枚/月) 押印箇所 (施設長/分) 押印箇所 (押印箇所×2)※ 生活介護 約26枚 104箇所 208箇所 施設入所 約27枚 108箇所 216箇所 就労継続支援B型 約13枚 52箇所 104箇所 その他複数事業所 約88枚 352箇所 704箇所 合計 約154枚 616箇所 1,232箇所 ※ 押印箇所は施設長決裁分のみの計上。実際には事務員による押印も同数発生するた め、実質的な押印箇所数は2倍(×2)となる。 54 3) 年間削減効果の推計(3拠点合計) 図表 25 年間削減効果の推計(3拠点合計) 項目 月次削減量 年間削減量 年間削減量(時間換算) 作業時間 80分 960分 16時間 印刷枚数 154枚(両面) 1,848枚(両面) — 押印箇所 1,232箇所 14,784箇所 — 4) 削減効果の経済的価値の推計 削減時間の経済的価値は、厚生労働省「令和6年度障害福祉サービス等従事者処遇状況 等調査結果」における実コスト時間単価(福祉・介護職員等処遇改善加算(I)~(V) を取得(届出)している事業所における福祉・介護職員(常勤の者)の平均給与額)(法定 福利費15%込み・月163時間換算)をもとに算出した。 図表 26 作業時間削減コストの推計 項目 数値 対象職種 事務員 月額給与 357,080円 実コスト時間単価 2,519円/時 年間削減時間 16時間 削減額(推計) 約40,304円 ※ 施設長も同等の時間削減が見込まれるが、給与統計データが得られないため本推計に は含めていない。実際の効果はさらに大きい。 ※ 実コスト時間単価:月額×1.15(法定福利費)÷163時間 図表 27 用紙コスト削減の推計 項目 単価 根拠 用紙代 約1円/枚 A4 500枚約500円 インク・トナー代 約1~3円/枚 モノクロ約1~2円/インクジェット約2~4円 55 項目 単価 根拠 合計単価 約2~4円/枚 機種・印刷方式による ※ 両面印刷1枚=片面2枚分の用紙消費として換算(1,848枚両面=3,696片面相当) 図表 28 年間削減コスト推計 年間削減枚数(片面換 算) 削減コスト(下限) 削減コスト(上限) 3,696枚 約7,400円 約14,800円 図表 29 年間削減コスト合計 削減項目 内容 年間削減額(推計) 作業時間削減 16時間×2,519円/時 約40,304円 用紙・印刷コスト削減 3,696枚(片面換算)× 約2~4円/ 枚 約7,400~14,800円 合計 約47,704~55,104円 5) 考察 本事例における記録・申請書類の電子化は、作業時間の88.9%削減にとどまらず、印 刷・押印業務を完全に廃止するものである。特に押印箇所の年間14,784箇所(実質)とい う削減量は、従来の紙運用において職員が日常的に費やしていた確認・回覧・保管業務の 規模を端的に示している。 金銭換算による効果(年間約5万円)は比較的小規模に見えるが、書類の検索・保管ス ペースの削減、転記ミスや紛失リスクの低減など、定量化が難しい副次的効果は大きい。 同様の取組が全国5,457か所の障害者支援施設に普及した場合、業界全体でのペーパーレ ス化推進に向けた重要なモデルケースとなりうる。 56 第5章 基本的な考え方の整理結果 第1節 基本的な考え方の作成方針 1.作成の目的 「基本的な考え方」は、障害福祉現場における「当事者視点に立ったケアの充実のため の生産性向上」の必要性や考え方、そして、その進め方を理解するための共通の土台とな ることを目的として作成した。 2.目標 「基本的な考え方」は、生産性向上の考え方を広く共有し、障害福祉の現場において今 後、持続的な改善が進むことを目指すものである。 そのため、本書の作成にあたり、次の2つの観点から目標を設定した。 1. 読者の行動変容 ・生産性向上についての理解を深めること ・生産性向上について周りの人たちと語り合いたくなること ・生産性向上を「自分ごと」として捉え、実際の取組に着手したくなること 2. 普及・展開 ・フォーラムや自治体、関係団体等を通じて広く周知されること ・障害福祉現場において活用が広がること 本書は、これらの目標を踏まえ、読者が内容を理解するだけでなく、現場で対話し、今 後の実践につなげていくことができるような構成を目指した。 また、本事業で実施したフォーラムにおいても、本書の概要を説明・周知した。 なお、これらの目標の実現は本書のみで直ちに完結するものではなく、現場での対話や 実践、関係者による周知・活用を通じて、今後段階的に進んでいくものと考えられる。 3.「基本的な考え方」の構成 内容構成に当たっては、読者が生産性向上の必要性、目指す姿、進め方を段階的に理解 できるよう、「なぜ生産性向上が必要なのか(Why)」、「生産性向上とは何か(What)」、 「生産性向上をどのように進めるか(How)」という流れで整理した。 具体的には、まず、障害福祉現場を取り巻く状況や課題を踏まえ、生産性向上が求めら れる背景を示した。次に、障害福祉分野における生産性向上の意味を整理し、目指すべき 57 方向性を明らかにした。そのうえで、実際の取組を進める際の基本的な視点や手順を示す 構成とした。 特に、「生産性向上をどのように進めるか(How)」では、障害福祉の特性を踏まえた生 産性向上の進め方として、関係者が共有すべき価値観と、実践の流れを重視した。価値観 については、多様な立場の関係者が参画しながら進めること、誰も取り残さないこと、利 用者・職員・組織等、関係者それぞれにとって意義のある取組とすることを重視した。ま た、実践の流れについては、「共感をつくる」、「課題を見える化する」、「解決策を考え る」、「試してみる」、「振り返る」、という一連のプロセスを示し、現場が無理なく段階的に 取り組めるよう整理した。 なお、生産性向上については、その目的がケアの充実にあることや、なぜ取り組む必要 があるのかを現場が理解し、自分ごととして受け止めながら進められる流れとすることが 重要である。また、「ケアの充実」を障害当事者の視点で捉えることを明確にすることが 重要である。こうした考え方が読者にわかりやすく伝わるよう、本書の副題として「当事 者視点に立ったケアの充実のために」を付すこととなった。 4.構成の工夫 委員からは、「To-Be」「As-Is」「アクティビティ」などの横文字は、現場になじみにく く、意味が伝わりにくいとの意見があった。一方で、今後の政策や関連資料で用いられ る重要な用語については、一定程度残しておく必要があるとの意見も示された。 これらの議論を踏まえ、「基本的な考え方」では、多くの読者に受けいれてもらえるよ う、用語についてはできる限り平易な表現に見直し、必要に応じて言い換えや注釈を加 える方針とした。あわせて、重要な用語については巻末に用語集を設け、理解を補える よう整理した。特に、「基本的な考え方」で頻出する「現状(As-Is)」や「あるべき姿 (To-Be)」については、コラムにおいて英語を併記し、本文では、「現状」「あるべき 姿」といった日本語表現を用いることとした。 このように、用語についても、現場にとって理解しやすく、今後の政策との接続も意 識した表現となるよう整理した。 1. 記述のトーン  ですます調を基本とする。  主体的で前向きな表現を用いる。 2. 資料する英語・カタカナ用語  用語に馴染みがない場合でも伝わりやすいように、できるだけ平易な日本語を使 用する。 58  政策上頻出する用語については、英語やカタカナ語も使用するが、その際は原 則、日本語→(英語)の順で表記する。 例:評価指標(KPI) 3. コラム、事例、図表の掲載 内容の理解を助けるため、適宜図表等を用い、視覚的にもわかりやすくなるよう配慮 した。その上で、鍵となる用語の詳細な説明や補足的な内容、より深く理解するための 視点については、コラムとして整理し、本文と役割を分けて記載した。 また、事例や問いかけを盛り込むことで、読者が自らの現場に引きつけて考えられる よう工夫した。こうした構成により、本書が、単なる「基本的な考え方」の解説資料に とどまらず、日々の業務や支援を振り返り、実際の行動や対話につながる資料となるこ とを目指した。 <コラムの役割>  コラムは、本文の理解を補い、内容をより深く捉えるための補足として位置付け た。  本文だけでも基本的な内容を十分に理解できる一方で、コラムを読むことで、背 景にある考え方や関連する視点について、さらに理解を深められる構成としてい る。 <事例>  生産性向上を具体的にイメージしやすくするため、本文中には、障害福祉サービ スの現場における生産性向上の取組事例を掲載した。  事例を通じて、「基本的な考え方」で示す各ステップ等について、実際の現場でど のように取り組み得るかを理解しやすくなるよう工夫した。 <図表>  読者が親しみを持って内容を読み進められるようにするとともに、考え方や文章 の構造を視覚的に理解しやすくするため、主要な内容についてはイラストや図表 を用いて整理した。  これにより、文章だけでは捉えにくい関係性や全体像が把握しやすくなるよう工 夫した。  なお、図表及び「基本的な考え方」本書のデザインは一般社団法人「かたりす と」に依頼した。 59 5.「基本的な考え方」の位置づけ 「基本的な考え方」は、障害福祉分野における生産性向上の詳細な実務手順や個別具体 の方法を網羅的に示すものではなく、今後の取組の前提となる共通の考え方を示すことに 主眼を置いた。 令和8年度には、この「基本的な考え方」を踏まえ、各サービス類型向けの「障害福祉 分野における生産性向上ガイドライン(仮称)」を策定する予定である。本書は、その上 位概念および基本的な枠組みを提示するものとして位置づける。 なお、「基本的な考え方」およびガイドラインは、生産性向上の取組全般を対象とする ものであり、テクノロジー等の個別具体的な取組は、その実現手段の一つとして位置づけ る。介護テクノロジー等の導入・活用に伴うマニュアルの作成については、令和7年度障 害福祉分野の介護テクノロジー導入支援事業において実施されている。 図表 30 「基本的な考え方」とガイドライン等の位置づけの整理 6.想定する読者 対象者としては特に、障害福祉サービス事業所の職員、管理者、経営層を想定してい る。あわせて、利用者本人、家族、自治体、支援機関等にとっても、障害福祉分野におけ る生産性向上を理解するための基礎資料となるよう作成した。 60 第2節 「基本的な考え方」の作成における主な論点 以下では、「基本的な考え方」(以下「本書」という。)の作成に当たり、有識者会議等 において主な論点となった事項と、それに対する検討の内容を整理する。 1.障害福祉現場での現状と課題の捉え方・生産性向上の目指すこと  有識者会議では、障害福祉現場の現状や課題を整理するに当たり、一律の課題像と して描くのではなく、障害福祉分野の多様性や個別性を踏まえて記載すべきである との意見が出された。  委員からは、利用者の年齢層や障害特性、サービス種別が幅広く、必要とされる支 援も一人ひとり異なること、さらに法人・事業所の設立経緯や理念が強く反映され ている場合が多いことから、画一的な説明では現場の実感とずれてしまうおそれが あると指摘された。  一方で、こうした違いがあるとしても、当事者視点に立った「ケアの充実」が何よ り重要であることは、どの現場にも共通するとの認識が共有された。加えて、障害 福祉における支援は、「障害者の自立と社会参加」や「地域共生社会」といった、こ れまで大切にされてきた理念ともつながっているため、現状や課題もそうした価値 の延長線上で捉える必要があると考えられた。  これらの議論を踏まえ、「現状と課題」として、まず障害福祉分野の多様性、個別 性、地域差に触れたうえで、代表的な課題として3つを例示し(人材の確保と定着 が難しいこと、ニーズの多様化により業務が複雑になっていること、中小規模事業 所が多く、経営・運営が不安定になりやすいこと)共通して大切にすべきものは 「当事者視点に立ったケアの充実」であることを明確に記載した。 2.「生産性向上」におけるテクノロジーの位置づけ  本書の中でテクノロジーをどのように扱うかは、重要な検討事項であった。  委員からは、生産性向上全体を扱うのか、それともテクノロジー活用を中心に整理 するのかによって、本書のメッセージや構成が変わるため、その点を明確にすべき との指摘があった。  本書では、生産性向上の考え方全体を整理することを主たる目的とし、テクノロジ ーはその実現を支える重要な手段の一つとして位置づけることとした。  一方で、テクノロジーは単なる省力化の道具ではなく、記録や情報共有、見守り等 を通じて支援の質を高めたり、障害者本人の自立や社会参加の拡大につながったり する可能性があることも共有された。 61  これらの議論を踏まえ、テクノロジーについては、生産性向上の実現を支える重要 な手段の一つとして位置づけたうえで、負担軽減だけでなく、新たな価値の創出に もつながる可能性があることを明記した。 3.障害福祉における「生産性」の定義  「生産性向上」という言葉そのものをどう定義するかについても、有識者会議では 議論が行われた。  委員からは、障害福祉においては、利用者一人ひとりの障害特性や希望、事業所の 理念や成り立ちによって支援のあり方が大きく異なるため、一般的な「効率化」の 考え方をそのまま当てはめることはできないとの意見が多く示された。特に、利用 者の個別性に応じた支援には効率化しきれない側面があることや、直接支援の質を どう考えるかが本質的な論点であるとされた。  このため、本書では「生産性」の語源に立ち返り、組織や人が持つ力を引き出し、 新たな価値を生み出すこととして整理した。さらに、障害福祉における生産性向上 を、「支援者一人ひとりの力を引き出し、チームでその力を利用者に届けることで、 新たな価値を生み出すこと」と定義した。 4.「生産性向上」と「業務改善」の関係  有識者会議では、障害福祉分野における生産性向上を整理するに当たり、先行する 介護分野のガイドラインとの違いや共通点も論点となった。  介護分野の生産性向上ガイドラインでは、ケアの質の向上を生産性向上の上位概念 に置いたうえで、生産性向上の取組が主として「業務改善」の過程として整理され ている。  一方、障害福祉分野では、利用者の障害特性や支援内容の多様さ、事業所ごとの理 念や価値観の違いが大きいため、同じように「業務改善」を中心に整理すると、実 態に合わなくなるおそれがあるとの意見が示された。  また、委員からは、障害福祉分野では、同じ業務であっても支援の文脈や価値づけ によって意味が異なるため、「効率化すべき業務」と一様に捉えることはできないと の意見があった。  そのため、本書では、業務改善はあくまで通過点であり、その先にある「ケアの充 実」を見据える視点が必要であることを示した。また、障害福祉分野では「業務改 善」を各法人・事業所の理念や現場の実情に応じて、その必要性や優先度を判断す る必要があることを記した。 62 5.「生産性向上」の「見える化」/ロジックツリー  有識者会議では、理念を現場で共有し、実際の取組につなげるためには、自分たち が何を大切にし、どのような「ケアの充実」を目指すのかを見える形にすることが 重要との方向性が共有された。  抽象的な理念だけでは具体的なイメージを持ちにくく、現場での実践につながりに くいこと、また「業務負担が軽減される」「時間が生まれる」といった中間的な効果 だけでなく、その先にある利用者のQOL向上、職員のやりがい、持続可能な事業 運営まで含めて示す必要があるとの意見があった。  こうした議論を踏まえ、本書では、「当事者視点に立ったケアの充実のための生産性 向上」を、「利用者のQOLの向上」、「支援者の働きがいの向上」、「持続可能な事業 運営の実現」の3つの要素として整理し、その関係を共有する方法としてロジック ツリーを用いることとした。  ロジックツリーを使うことで、自分たちは何を大切にし、どのような姿を目指し、 そのために何に取り組むのかを、理念や価値観から実践まで一連の流れとして整理 しやすくなると考えられる。 6.「あるべき姿」と「ありたい姿」  目指す姿の表現についても議論があった。委員やヒアリングでは、「あるべき姿」と いう表現は、外から定められた正解を示すような印象が強く、障害福祉分野では、 現場が理念や価値観を踏まえて主体的に描く「ありたい姿」として捉える方が適切 ではないかとの意見があった。  一方で、生産性向上の取組では、個人ごとの思いにとどまらず、チームとして共有 する一つの目指す姿を持つことが重要であるとの考え方から、本文では「あるべき 姿」という表現に統一した。そのうえで、現場が自らの理念や価値観をもとに目指 す姿を描くことが出発点であることが伝わるよう、コラムで「あるべき姿」と「あ りたい姿」の違いを補足することとした。  また、「あるべき姿」の整理に当たっては、理念や目指す姿と具体的な取組との関係 を理解しやすくするため、ロジックツリーにつながる入口として、簡易なロジック ツリーの図も挿入することとした。これにより、職員が自分たちの目指す姿を、具 体的な取組や成果との関係の中で捉えやすくなるよう工夫した。 7.生産性向上の進め方 1)3つの価値観  障害福祉分野における生産性向上を進めるに当たっては、単に手順や手法を示すだ けでなく、どのような価値観のもとで取組を進めるのかを明確に示すことが重要で 63 あるとの考え方が示された。  特に、障害福祉分野では、利用者の状況や支援内容が多様であり、法人・事業所ご とに理念や大切にしている価値観も異なるため、一律の進め方だけでは、現場が納 得しながら取り組むことは難しいとの認識が共有された。  そのため、それぞれの現場が納得しながら取組を進めるための共通の土台となる価 値観を整理する必要があると考えられた。  これらを踏まえ、「基本的な考え方」では、生産性向上を進める際の土台となる3 つの価値観(「協調性(みんなですすめる)」、「包括性(みんなにやさしい)」、「共益 性(みんなにうれしい)」)を整理した。 2)「デザイン思考」の考え方  委員からは、障害福祉分野では、利用者の障害特性や希望、事業所の理念、支援の 成り立ちが多様であるという障害福祉分野特有の性質が強調された。そのため、外 から与えられた正解に沿って進めるのではなく、利用者や職員の思い、現場の実情 を丁寧に捉えながら進めることが重要との意見があった。  特に、「共感をつくる」「自分たちのこととして捉える」ことが出発点として重要で あることは、繰り返し指摘があった。こうした障害福祉分野特有の背景を踏まえ、 進め方を整理するに当たっては、さまざまなフレームワークが検討された。  その結果、本書では、「デザイン思考」の考え方を取り入れることが適当であると整 理された。  デザイン思考は、利用者(ユーザー)の声や現場の思いを起点に、準備段階を積み 重ねながら取組を具体化していく手法であり、障害福祉分野で重視される「利用者 視点」「共感」「対話」と親和性が高いと考えられた。  委員からも、障害福祉分野における生産性向上は、「どのような支援を実現したいの か」「利用者にとって何がよりよいのか」を出発点にすべきであるとの意見があり、 徹底した利用者視点を重視するデザイン思考は、障害福祉分野の考え方と親和性が 高いとの評価があった。 3)現場で実践しやすい「5つのステップ」としての再構成  一方で、委員からは、デザイン思考の考え方をそのまま導入するだけでは、現場に とって抽象的かつ難しく映るおそれがあるとの指摘もあった。  特に、ICT未導入の法人や小規模事業所にとっては、複雑なフレームワークがかえ って取組の障壁となる可能性があると考えられた。  そのため、「まずはできるところから始めること」、「小さな成功体験を積み重ねるこ と」、「現場に合ったやり方を選べること」が重要であるとの意見が複数の委員から 64 出された。  このため、本書ではデザイン思考の考え方を踏まえつつも、現場での実践しやすさ を考慮して再構成し、「共感をつくる」「課題を見える化する」「解決策を考える」 「試してみる」「振り返る」という、取組の流れを5つのステップとして体系化し た。 4)チームで進めることの重要性  生産性向上を誰がどのように進めるのかという点では、チームで進めることの重要 性を明確に位置づけるべきとの意見があった。  障害福祉現場では、多様な職種や立場の職員が連携しながら支援を行っている。そ のため、「あるべき姿」と「現状」のギャップを埋めるためには、職員一人ひとりが 目指す姿を共有し、協力しながら進めることが不可欠であるとの意見があった。  さらに、単に役割分担をするだけでなく、安心して意見を出し合える環境を整え、 チーム全体で課題や改善策を考え、実行していくことが必要であるとの指摘もあっ た。  これらを踏まえ、本書では、生産性向上の定義の中にも「チーム」で取り組む旨を 明記し、その前提となる環境づくりの重要性も示した。 5)共感を創るプロセス  ステップ1は、生産性向上の取組を進めるに当たり、関係者の間で取組の意義や目 指す方向について共感をつくるためのプロセスである。  有識者会議では、このステップについて特に多くの意見が出された。障害福祉分野 における生産性向上の取組は、まず現場の職員がその意義を理解し、自分ごととし て受け止めることから始める必要があるとの方向性が共有された。  具体的には、生産性向上の取組を進める前提として、現場の職員の間に共感や共有 が生まれていることが極めて重要であるとの意見が示された。  特に、障害福祉分野では、「生産性向上」という言葉に対して、効率化や負担増とい った印象から抵抗感が生じる場合もあるため、まずは「なぜ取り組むのか」「何を目 指すのか」を職員同士で言葉にし、納得感を持ちながら進められる状態をつくるこ とが重要であるとされた。  また、委員からは、デザイン思考における「共感」は、単にチームを編成すること ではなく、職員一人ひとりが、どのような支援を理想とするのか、どのようなとき に働きがいを感じるのかを語り合うことが中心であるとの意見が示された。  こうした意見を踏まえ、ステップ1は、形式的に取組体制を整える段階ではなく、 まず現場の思いや価値観を言語化し、共有する段階として位置づけることとした。 65 6)解決策の選び方  有識者会議では、解決策について、単に思いつきを並べるのではなく、課題に対応 する具体的な選択肢として整理することが必要であるという意見があった。  また、解決策は、テクノロジーに限らず、役割分担の見直し、記録方法の整理、ル ールづくり、無料ツールの活用など、現場にとって取り組みやすい工夫も含めて考 えるべきとの意見があった。さらに、利用者のQOL向上や職員のやりがいまで視 野に入れると、テクノロジーに直接関係しない取組も重要になるため、解決策をテ クノロジー関連に限定しすぎないことが重要との指摘もあった。  これらの議論を踏まえ、解決策については、テクノロジーも重要な選択肢の一つと して位置づけつつ、あくまで課題に応じて、現場に合った方法を主体的に選び取る ことを記載した。 7)実行計画の策定と取組の検証  委員からは、取組を始める際には、何を目指して、どのような取組を行い、その結 果としてどのような変化を確認するのかを整理しておく必要があるとの意見があっ た。  そのため、取組の計画を策定すること、そして、評価指標(KPI)を設定すること を本文に記載した。評価指標(KPI)については、数値目標だけでなく、支援の質 の変化や職員の実感なども含め、現場に合った形で設定することが重要であると整 理した。  計画を策定する際、ロジックモデルの考え方が有効であると考えられた。ロジック モデルの考え方に基づいて実行計画を立てることで、解決した課題に対し、どのよ うな取組を行い、その結果どのような変化が期待されるのかを因果関係で可視化で きるためである。  一方、本文で詳細に扱いすぎると、かえって現場にとって難しく感じられるおそれ があるとも考えられた。そのため、ロジックモデルについては、現場に過度な負担 感を与えないよう、本文で詳細な作成を求めるのではなく、考え方を補足するコラ ムとして掲載した。 66 第6章 フォーラムの開催 第1節 開催の目的 障害福祉現場における「ケアの充実のための生産性向上」について、その基本的な考え 方を整理し、障害福祉に関わる関係者が共通の理解のもとで取組を検討していくための基 盤づくりを目的として、「障害福祉現場における生産性向上推進フォーラム~ケアの充実の ために~」を開催した。 本フォーラムは、生産性向上を単なる業務効率化として捉えるのではなく、支援の質を 高め、支援者一人ひとりが力を発揮しやすい環境を整えるための考え方として理解しても らうことをねらいとした。また、生産性向上の取組は、画一的な方法を導入するものでは なく、それぞれの現場の状況や課題に応じて工夫しながら進めていくことができるもので あることを共有し、参加者が自らの現場における取組を検討するきっかけとなることを目 指した。 図表 31 フォーラム開催概要 フォーラム名 障害福祉現場における生産性向上推進フォーラム~ケアの充実のために ~ 開催日程 2026年3月9日(月)13:00~16:00 開催方法 ハイブリッド開催(会場、オンライン) 対面会場:JA 共済ビルカンファレンスホール (東京都千代田区平河 町二丁目7番9号) ※後日、アーカイブ配信を実施 申込者数 1,317名(対面:144名、オンライン参加1,173名) 参加者数 952名(会場参加:68名、オンライン参加:884名) 参加者属性 障害福祉サービス事業所等、障害福祉サービス等を提供する法人本部、 自治体、介護サービス関係者、障害福祉サービス等に関連する団体、福 祉用具・介護テクノロジー等の製造・販売企業 等 (アンケート結果より集計) プログラム 1. 障害福祉現場における生産性向上の政策動向  厚生労働省 社会・援護局 障害保健福祉部 障害福祉課 2. 障害福祉現場における生産性向上とは  株式会社NTTデータ経営研究所 ライフ・バリュー・クリエイシ ョンユニット 3. パネルディスカッション①なぜ今、生産性向上なのか ~『基本的な 考え方』に込めたメッセージ~ 67 <パネリスト>  株式会社 TRAPE 代表取締役 鎌田大啓 氏  学校法人 日本社会事業大学 社会福祉学部 福祉援助学科 准教授 新藤健太 氏  一般社団法人 スローコミュニケーション 理事長 植草学園大学 副学長 野澤和弘 氏  社会福祉法人 フラット 理事長 林晃弘 氏  一般社団法人 日本作業療法士協会 事務局員 東祐二 氏 4. パネルディスカッション②現場からひろがる生産性向上 ~みんなで つくる、 よりよい支援のかたち~ <パネリスト>  公益財団法人 日本知的障害者福祉協会 社会福祉法人 清心会 総務部係長 浅見秀俊 氏  社会福祉法人 全国社会福祉協議会 全国身体障害者施設協議会 人 材・広報委員長/社会福祉法人 和松会 清松園 施設長 大塚さおり 氏  全国社会就労センター協議会 常任協議員 社会福祉法人 光明会 理事長 小澤啓洋 氏  一般社団法人 全国児童発達支援協議会 理事/認定 NPO 法人 発 達わんぱく会 理事長 小田知宏 氏  一般社団法人 全国介護事業者連盟 副理事長/障害福祉事業部会 会長 中川亮 氏 掲載先 https://www.nttdata-strategy.com/newsrelease/event/s-seisan- forum2025/ 68 図表 32 開催チラシ 第2節 パネルディスカッションの内容 1.パネルディスカッション①なぜ今、生産性向上なのか ~『基本的な考え方』に込めた メッセージ~ 生産性向上とい う言葉を初めて 耳にした時の印 象、現在の印象  「生産性向上」という言葉に対しては、当初、効率化や人員削 減といったイメージが先行し、障害福祉の現場で大切にしてき た価値を損なうのではないかという違和感があった。  一方で、議論を重ねる中で、生産性向上は単なる効率化ではな く、利用者のQOLの向上や支援の質の向上、職員の働きがい の実現に向けた「手段」として捉えるべきものであると認識さ れていった。現場における人材不足や業務負担の増加といった 状況を踏まえると、障害福祉の価値を守り続けるためにも、生 産性向上の視点を避けることはできないのではないか。  生産性向上の考え方自体は一般産業と共通する部分もあるもの の、障害福祉においては何を生み出すのかという点が大きく異 なる。単に効率よく成果を出すことではなく、利用者一人ひと りの暮らしや自己実現にどのようにつながるかという観点から 捉える必要がある。  言葉だけが先行すると誤解を生みやすいため、「何のための生産 性向上なのか」という目的や目指す姿を丁寧に共有していくこ 69 とが重要である。生産性向上を進めるに当たっては、こうした 言葉の受け止めや背景に十分配慮しながら、現場と対話を重ね ていく必要がある。 障害福祉現場に おける「生産性 向上」の取組が 実現すること  生産性向上の取組によって実現されることとして、まず、事務 作業や間接業務の見直し等を通じて、利用者に向き合う時間を 確保しやすくなる。  一方で、単に時間が削減されること自体に意味があるのではな く、創出された時間や余力を何に活用するのかが重要であり、 その先に利用者のQOLの向上や支援の質の向上を位置付ける 必要がある。また、生産性向上は支援の質や職員のやりがいを 高めるための有効な手段の一つであるが、それのみが唯一の方 法ではない。一見すると非効率に見える関わりの中にも、本人 理解や信頼関係の構築に不可欠な時間があることから、何を効 率化し、何を大切に残すのかを見極めることが重要である。  業務の効率化は単に作業時間の短縮にとどまらず、職員が支援 に集中しやすくなることや、引継ぎ・確認・育成にかかる負担 の軽減にもつながるとされた。これにより、支援の質の向上 や、より丁寧な関わりの実現が期待されるとの意見があった。  生産性向上の成果は時間や件数といった指標だけでは捉えきれ ず、利用者の幸福感や地域とのつながり、職員のモチベーショ ンといった見えにくい価値も含めて捉える必要がある。あわせ て、人材不足や採用コストといった構造的な課題にも目を向 け、そこで生まれた余力を処遇改善や人材育成等に活かしてい く視点も重要である。 生産性向上の取 組を進めるうえ で、支援の本質 を見失わないた めに大切なこと  生産性向上の取組を進めるにあたって、最終的に目指すことは 利用者一人ひとりのQOLや自己実現、質の高い支援の実現で ある。  利用者にとって望ましい暮らしや支援のあり方は一人ひとり異 なるため、支援する側が一律に定義するのではなく、対話や関 わりを通じて本人の思いや希望を丁寧に捉えていく必要があ る。そのためには、利用者と向き合う時間や対話の時間を確保 することが不可欠であり、これらは削減すべきものではない。  取組の進め方としては、経営層が明確に関与し、現場任せにす るのではなく、目的や意義を共有しながら進めることが重要で ある。その際、トップダウンの有無ではなく、現場の納得感や 共感を得られているかが鍵となるため、丁寧な説明や対話を重 70 ねることが必要である。  生産性向上は個人ではなくチームで取り組むものであり、多様 な職員の意見や思いを引き出しながら進めていくことが求めら れる。課題の見える化に加え、それぞれが大切にしている価値 観を共有しながら進めることが、取組の定着につながる。ま た、標準化や見える化については、それ自体を目的とするので はなく、本人理解や支援の質の向上に資する形で活用すること が重要である。個別性を踏まえつつも、共有可能な視点や方法 を整理していくことが必要である。  取組は必ずしも当初から円滑に進むものではなく、試行錯誤や 修正を重ねながら進めていくことが前提となる。変化への抵抗 も踏まえつつ、対話を重ねながら段階的に進めていくことが、 支援の本質を損なわずに生産性向上を実現するうえで重要であ る。 2.パネルディスカッション②現場からひろがる生産性向上 ~みんなでつくる、 よりよい 支援のかたち~ 生産性向上の具 体的な取組と変 化  生産性向上の具体的な取組としては、グループウェアやスマー トフォンの配備、申請業務や情報共有のデジタル化、会議録の 共有など、多様な実践が紹介された。その中でも、テクノロジ ーそのものを導入することが目的ではなく、情報共有の迅速 化、職員間の連携強化、事務負担の軽減、支援記録や個別支援 計画の作成時間の短縮などを通じて、利用者に向き合う時間や 職員同士のコミュニケーションの時間を生み出すことに意味が あることが共有された。  福祉機器の活用に関しては、単に身体的負担を軽減するだけで はなく、介助の場面で利用者と会話する余裕が生まれ、職場の 雰囲気が明るくなる。生産性向上の効果は、時間短縮や効率化 だけではなく、支援の質や関係性の変化として現れる面もある ことが挙げられた。  既存業務をそのままデジタル化するのではなく、会議や紙の業 務日誌、慣例で続いている支援や業務そのものを見直し、「本当 に必要かどうか」を検討する取組も紹介された。テクノロジー の導入とあわせて、業務そのものを減らす・やめるという視点 も、生産性向上の重要な実践である。 71  就労系事業所では、作業の機械化や自動化による生産性向上に 加え、障害のある人の働き方そのものを広げる手段としてテク ノロジーが活用されていることも紹介された。在宅就労や新た な業務の創出など、支援の可能性を広げる取組としても位置付 けられる。 生産性向上の取 組のきっかけ (どこから、ど う始めたのか)  取組のきっかけとしては、利用者の高齢化・重度化に伴う支援 量の増加、紙中心の業務の多さ、事務作業に時間を取られて利 用者と十分に向き合えないことへの問題意識など、現場で顕在 化していた課題が多く挙げられた。どの事例においても、現場 の困りごとや業務上の不便さ、あるいは将来を見据えた問題意 識が取組の出発点になっていた。  取組の進め方としては、業務改善委員会やICT委員会などの形 でチームを立ち上げ、経営層、事務職員、現場職員など、立場 の異なる職員を交えて進めている例が多く見られた。現場だけ では課題が「大変」という声にとどまりやすいため、異なる立 場の視点を持ち寄ることが有効である。  大学教員や地元のIT事業者、伴走支援事業、補助金・助成金 の活用など、外部資源を活用しながら進めた事例も多く紹介さ れた。自法人だけで進めるのではなく、専門家や支援制度、他 地域の事例を取り込みながら始めることが、取組を前に進める うえで有効である。  経営層が最初に方向性を示した事例もある一方で、近年では職 員がSNSや他地域の事例を通じて情報を得て、そこから経営層 に提案し、法人全体の動きにつながるケースも増えている。地 域ごとに取組の進み方には差があるため、外部の情報に触れる こと自体が、取組のきっかけになることが紹介された。 取組を進めるう えでの課題の乗 り越え方と定着 の工夫  取組を進めるうえでの課題としては、テクノロジーに対する職 員の抵抗感やリテラシーの差、導入しても使いこなされず旧来 の方法に戻ってしまうことなどが挙げられた。いずれの実践で も、導入そのものよりも、その後の浸透と定着に苦労が大きい ことが共有された。このような課題に対しては、職員同士が互 いに助け合う体制づくり、外部アドバイザーの助言を受ける工 夫、会議を重ねて課題と方法を共有することなど、丁寧な対応 が必要である。特に、テクノロジーに苦手意識のある職員を切 り離さず、寄り添いながら一緒に進める姿勢が定着の鍵である ことが共有された。 72  特定の人材に依存しすぎないことも重要な論点として挙げられ た。IT担当者が退職した際の影響を踏まえ、作り込みすぎない ツール選定や外部委託の活用、複数人で支える体制づくりが必 要である。一方で、適性のある職員を発掘し、その強みを活か してチーム化していくことの重要性も指摘された。  取組を定着させるためには、「何のために導入するのか」を繰り 返し共有し、導入自体が目的化しないようにすることが重要で ある。その際、経営層の関与も重要であり、トップダウンの後 押しが必要な場面もある一方で、実際に使う現場職員を選定や 導入プロセスに巻き込み、納得感を持って進めることが必要で ある。上からの指示だけでは定着しにくく、現場を巻き込みな がら一緒につくる姿勢が、継続性につながるとされた。  取組は短期間で定着するものではなく、年単位の時間をかけて 根気よく説明と改善を重ねていく必要があることも共有され た。完璧な形を最初から求めるのではなく、トライアンドエラ ーを前提に、小さく始めて、うまくいったものを広げていくこ とが現実的である。加えて、権限や役割を一部の部署や担当者 に集中させすぎないこと、受け身で導入させるのではなく各現 場が考える余地を残すこと、情報セキュリティにも十分配慮す ることなど、継続のための留意点も示された。  生産性向上の取組を継続するうえでは、制度動向や技術の進展 といった外部環境の変化を見据える必要があることも示され た。将来的な制度対応や支援の持続可能性を考えると、生産性 向上は一部の先進事例の取組ではなく、現場を守るために向き 合うべき課題である。 第3節 参加者アンケートまとめ フォーラムの内容の理解度や参加者の生産性向上に対するイメージの変化を把握するた め、本フォーラム終了後に参加者を対象にアンケートを実施した。なお、一部の設問につ いては、申込時にも同様の内容を確認しており、開催後アンケートでも改めて把握するこ とで、参加前後の意識の変化を比較できるようにした。 ※アンケート結果の詳細は「第8章 参考資料」に掲載している。 ◼ 対象:フォーラム参加者 ◼ 回答数:256名(会場参加:32件、オンライン参加:224件) 73 ◼ アンケート結果を踏まえた考察 本フォーラムのアンケート結果を踏まえると、生産性向上に対する認識は、業務効率化を 中心とした理解から、利用者への価値の提供や支援の質の向上を重視する理解へと変化し ていることが伺えた。また、取組の必要性に対する認識が高まるとともに、懸念の内容につ いても、抽象的な不安から具体的な運用上の課題へと関心が移行していることが分かった。  障害福祉現場における「生産性向上」の取組の成果として期待すること 生産性向上の取組に対してどのような成果を期待するかについて、開催前後の比 較により確認したところ、期待される成果の内容に変化が見られた。特に、「利用者 のQOL向上」や「支援の質の向上」を選択した人の割合が増加しており、生産性 向上の取組を通じて期待する成果が、利用者へ向けた価値の提供であると再定義さ れたことが伺える。 また、「職員の働きがいやモチベーションの向上」を選択した人の割合も大きく増 加しており、生産性向上の取組が、利用者への価値提供に加え、職員の意欲や前向 きな働き方の実現にも資するものとして捉えられるようになったと考えられる。  障害福祉現場における「生産性向上」の取組の懸念 生産性向上の取組に対する懸念について、開催前後の比較により確認したとこ ろ、「利用者一人ひとりに寄り添った支援がしにくくなるのではないか」や「効率や 成果を重視することで支援の質が低下するのではないか」といった項目の割合が大 きく低下しており、生産性向上が支援の質を損なうものではないという理解が一定 程度浸透したことが伺える。 一方で、「職員間の役割分担や評価に偏りが生じるのではないか」や「取組が形式 化し、現場の負担だけが増加するのではないか」、「数値化しにくい支援の価値が評 価されにくくなるのではないか」といった項目の割合は増加している。これらの結 果は、支援の質そのものへの懸念の割合が低下する一方で、取組を具体的に進める 際の運用面や評価面に関する課題へと関心が移行していると考えられる。  障害福祉現場において、生産性向上の取組を実践することの必要性 生産性向上の取組の必要性に対する認識の変化について、開催前後の比較により 確認したところ、「 (必要だと)思う」と回答した割合が80%から91%へと増加し ており、生産性向上の取組の必要性に対する認識が一層高まっていることが確認さ れた。 また、「どちらともいえない」や「わからない」と回答した割合は減少しており、 生産性向上への理解の促進に伴い、必要性に対する認識がより明確になったことが 74 伺える。 75 第7章 今後に向けて 第1節 ガイドライン策定に向けた検討課題 本事業においては、障害福祉現場における生産性向上について、「なぜ必要か(Why)」 「何を目指すか(What)」「どのように進めるか(How)」の基本的な考え方を整理した。 これらは、現場における取組の前提となる共通認識を形成するためのものであり、具体的 な手法や手順の提示については、令和8年度に策定されるガイドラインにおいて取り扱う ことを前提として整理している。 なお、個別のフレームワークの詳細については、「基本的な考え方」には原則として盛り 込まないこととし、ガイドラインの検討の中で整理することとしている。本事業において は、そのための素材として、「あるべき姿」と「現状」とのギャップから課題を構造的に整 理し、要因分解を通じて打ち手を導出するフレームワークを例示したところであり、ヒア リング調査および実地での検証においても、現場にとって理解しやすく、有効であるとの 評価が得られている。 ガイドラインにおいては、本事業の成果を踏まえ、以下の観点について具体化が図られ ることが求められる。  サービス種別や事業所規模の違いを踏まえた、課題の抽出から解決策の検討までの進 め方の提示  各ステップにおける課題の整理や解決策の検討を具体的に進めるためのフレームワー クの活用方法の提示  サービスの種類や事業所の規模に応じて参照できる具体的な取組事例の提示  取組の成果を確認するための評価指標(何を・どのように測るか)の提示 特に、各ステップにおける具体的な進め方については、現場が自ら課題を捉え、主体的 に改善を進めていくための支援が重要となる。今後は、こうしたフレームワークについ て、単に提示するにとどまらず、ガイドライン策定後の普及展開の一環として伴走支援や 研修の場において、実際に活用しながら現場が自ら使いこなせる形へと具体化していくこ とが求められる。あわせて、サービス種別や事業所規模ごとの特性を踏まえた形での適用 方法の整理や、具体的な事例との紐づけを行うことにより、より実践的かつ現場にとって 理解しやすい内容としていく必要がある。 第2節 本事業を通じて得られた示唆 前節で整理したガイドライン策定に向けた課題は、あくまで取組の入口である。障害 76 福祉分野における生産性向上の取組は、まだ始まったばかりの段階にあり、現場での理 解の浸透や実践の広がりはこれから本格化していくものと考えられる。その意味で、本 事業を通じて「なぜ必要か」「何を目指すか」「どのように進めるか」という基本的な考 え方の全体像を整理したことは、今後の取組を進めていく上での出発点として位置づけ られる。 本事業の実施を通じては、取組の内容だけでなく、事業の進め方そのものに関しても 重要な示唆が得られた。本事業では、生産性向上の取組主体が事業所であることから、 事業者団体を中心とした構成で有識者会議を実施し、当事者の意見については事業者団 体を通じて把握する整理としたものの、障害当事者の検討への参画に関して更に考慮す べきとの意見が寄せられた。また、フォーラムの開催にあたっては、実施の過程で合理 的配慮の提供に関する建設的な対話が行われ、その中で、障害福祉分野のイベントとし て合理的配慮について特に留意しつつ企画する必要性が認識された。 こうした経緯は、生産性向上の取組が「当事者のためのケアの充実」を本来の目的と するものである以上、当事者の声をどのように反映していくかについて、事業の設計段 階から丁寧に検討しておくことの重要性を示している。当事者参画や合理的配慮の確保 は、事後的な対応にとどまらず、今後のガイドライン策定や各種施策の検討において も、当然の前提として位置づけていく必要がある。 特に留意すべき点として、障害福祉の現場においては、「生産性向上」という言葉に対し て、なお一定の抵抗感や慎重な受け止めがあることが挙げられる。この言葉は、効率化の 追求や人員削減を連想させやすく、障害福祉が大切にしてきた個別性や関係性、支援の質 と相容れないものとして受け止められる可能性がある。そのため、今後の施策展開におい ては、生産性向上を当事者視点に立ったケアの充実、利用者の生活の質の向上、支援者が よりよい支援を行うための環境づくりにつながる取組であることを、繰り返し丁寧に伝え ていく必要がある。 また、理解の浸透を図るためには、理念的な説明にとどまらず、現場での具体的な実践 と結びつけながら示していくことが重要である。実際にどのような課題意識のもとで取組 が始まり、どのような工夫を経て、どのように支援の質や働きやすさの向上につながった のかを、実践事例の紹介やフォーラム等を通じて示していくことで、生産性向上の考え方 はより現場に受け入れられやすくなると考えられる。 第3節 今後の展望 今後の政策的な展望としては、ガイドラインの策定にとどまらず、第8期障害福祉計画 及び第4期障害児福祉計画に向けた基本指針の見直しにおいて基本的事項として新設され る見込みの「ケアの充実のための生産性向上」の考え方を各地域で実装していくための取 組が本格化することが想定される。同指針においては、介護テクノロジーの導入促進、手 77 続負担の軽減、事業者間の連携・協働化等の取組により、間接業務の効率化と直接処遇業 務の負担軽減・質の向上を推進することの重要性が示される予定である。あわせて、各都 道府県において、人材確保や生産性向上に関するワンストップ窓口の設置及び生産性向上 等に向けた関係者の連携を図る協議会の設置が目標として掲げられる見込みであり、こう した支援基盤の整備が各地域で進んでいくことが期待される。 ワンストップ窓口をはじめとした地域の支援基盤は、取組を進めようとする事業所にと って重要な後押しとなり、現場における実践の広がりを支えるものと期待される。さら に、既に設置が進められている介護分野の「介護生産性向上総合相談センター」や、当事 者のICT利活用を支援する「障害者ICTサポートセンター」等の取組についても、その 機能や対象にはそれぞれ特徴があるものの、現場支援という観点では共通する要素も多 い。これらの知見や支援機能を相互に参照しながら、各施策が有機的に連携した支援の在 り方を考えていくことも重要と考える。 また、テクノロジーの活用を推進するにあたっては、機器やサービスを提供するメーカ ーとの接点も重要となる。現場での活用状況や課題に関するフィードバックが、機器の改 良や新たな開発につながり、より現場に適した形での普及が進む可能性がある。特に、障 害福祉分野においては個別性の高い機器や支援が求められる場面も多く、現場での実践と 開発・検証のプロセスを相互に循環させながら、実用性の高い技術の創出を図っていく視 点が重要である。 障害福祉分野における生産性向上の取組は、制度やツールを整備すれば直ちに進むもの ではなく、関係者の理解と納得を得ながら、少しずつ共通認識を形成していくことが不可 欠である。だからこそ、国、自治体、関係団体、事業所等のそれぞれが、生産性向上の本 来の目的と意義を共有し、現場に寄り添いながら発信と支援を積み重ねていくことが求め られる。 障害福祉分野における生産性向上の取組は、まさにこれからが本格的なスタートであ る。今後、ガイドラインの策定、基本指針に基づく各種施策の展開、地域における支援基 盤の整備が進んでいく中で、現場の実践と施策による後押しとを一体的に推進しながら、 多様な関係者がともにこの取組を育て、つくり上げていくことが期待される。 78 第8章 参考資料 第1節 フォーラムにおける登壇内容 1.障害福祉現場における生産性向上の政策動向(厚生労働省) 79 80 81 82 2.障害福祉現場における生産性向上とは(株式会社NTTデータ経営研究所) 83 84 85 86 87 第2節 フォーラムにおけるアンケート結果 一部の設問については、申込時にも同様の内容を確認しており、開催後アンケートで も改めて把握することで、参加前後の意識の変化を比較できるようにした。 図表 33 参加方法(1つ選択) 図表 34 所属先(1つ選択) 12% 88% 3/9(月)13:00~16:00会場参加(JA共済ビル カンファレンスホール・東京) 3/9(月)13:00~16:00WEB参加 n=256 81% 14% 1% 0% 1% 0% 0% 1% 0% 0% 0% 2% 0% 障害福祉サービス事業所等(管理者、現場職員等) 障害福祉サービス等を提供する法人本部(本部・事務部門 等) 障害福祉サービス等に関連する団体(事業者団体、当事者 団体、職能団体等) 障害当事者・家族 介護サービス関係者(施設・事業所、団体等) 医療関係者(医療機関、団体等) 教育関係者(教育機関、事業者等) コンサルタント(業務改善の伴走支援、事業運営・経営支 援等) 研究者 福祉用具、介護テクノロジー等の製造・販売企業 報道・メディア 自治体 その他 n=256 88 図表 35 本フォーラムのプログラム内容は有意義でしたか(1つ選択) ➢ 「非常に有意義だった」「有意義だった」を選択した理由(自由記述) ※文意に変更のない範囲で修正、一部抜粋している。 <生産性向上の意味・考え方の理解が深まった>  障害福祉分野における生産性向上の意味や意義、目的を理解できた  「生産性」という言葉に対する違和感や抵抗感が軽減された  生産性向上が目的ではなく、支援の質向上やケアの充実のための手段で あることが理解できた  生産性向上の考え方やプロセス、進め方の基本を理解できた  国が目指す方向性や制度の背景を理解できた <現場の具体的な取組事例を知ることができた>  他事業所の具体的な取組や実践事例を知ることができ参考になった  ICT導入や業務改善の実際の進め方や工夫を知ることができた  導入の過程や課題、効果について具体的な話を聞くことができた <自事業所での取組を考えるきっかけになった>  他事業所の具体的な取組や実践事例を知ることができ参考になった  ICT導入や業務改善の実際の進め方や工夫を知ることができた  導入の過程や課題、効果について具体的な話を聞くことができた <ICT・テクノロジー活用への理解が深まった>  ICT導入による業務効率化の可能性を理解できた  AIやICTを活用した記録作成や業務改善の事例を知ることができた  ICTは目的ではなく、業務改善を進めるための手段であることが理解で きた  ICT導入に向けて検討すべきポイントが明確になった 37% 54% 8% 0% 1% 非常に有意義だった 有意義だった どちらともいえない あまり有意義ではなかった 全く有意義ではなかった n=256 89 <多様な視点・情報を得る機会となった>  他事業所の具体的な取組や実践事例を知ることができ参考になった  ICT導入や業務改善の実際の進め方や工夫を知ることができた  導入の過程や課題、効果について具体的な話を聞くことができた ➢ 「どちらともいえない」を選択した理由(自由記述) ※文意に変更のない範囲で修正、一部抜粋している。  職員の生産性向上について、主にデジタルテクノロジーへの取り組みに ついての内容で必要になる面もあると感じたが、利用者中心の日々の生 産における生産性向上に向けての取組に対してイメージが湧きづらかっ た  冒頭の生産性の定義が、最後の方は業務効率の話となった  小さな事業所なので、費用面で厳しいと感じた  補助について説明が欲しかった  経営者側の目線が強かったように感じた ➢ 「あまり有意義ではなかった」「全く有意義ではなかった」を選択した理由 (自由記述) ※文意に変更のない範囲で修正、一部抜粋している。  すべての事業所が取組を実践するのは難しいと感じた 図表 36 有意義だったプログラム(複数選択) 79 110 184 168 020406080100120140160180200 障害福祉現場における生産性向上の政策動向 (厚生労働省) 障害福祉現場における生産性向上とは(株式会 社NTTデータ経営研究所) パネルディスカッション①「なぜ今、生産性向 上なのかー『基本的な考え方』に込めたメッ... パネルディスカッション②「現場からひろがる 生産性向上ーみんなでつくる、よりよい支援... n=541 90 図表 37 パネルディスカッション①について、興味を持った内容(複数選択) 図表 38 パネルディスカッション②について、興味を持った内容(複数選択) 88 96 160 0 020406080100120140160180 「生産性向上」という言葉の定義 障害福祉現場における「生産性向上」の取組が 実現すること 生産性向上の取組を進めるうえで、支援の本質 を見失わないために大切なこと その他 n=344 65 141 84 1 020406080100120140160 生産性向上の取組のきっかけ 生産性向上の具体的な取組と効果、そして直面 した障壁と工夫 生産性向上を定着させ、業界として広げていく ために その他 n=291 91 図表 39 障害福祉現場における生産性向上に関する理解は深まりましたか。 (1つ選択)  障害福祉現場における「生産性向上」の取組の成果として期待することは何です か。(上位3つを選択) ※ここでは、開催前後における各選択肢の回答割合の変化を比較できるよう示して いる。 図表 40 利用者のQOLの向上を選択した人の割合 図表 41 支援の質の向上を選択した人の割合 37% 56% 7% 0% 0% 非常に理解が深まった 理解が深まった どちらともいえない あまり理解は深まらなかった 理解は深まらなかった n=256 39.5% 60.2% 0%20%40%60%80%100% 開催前(n=1,323) 開催後(n=256) 62.5% 66.8% 0%20%40%60%80%100% 開催前(n=1,323) 開催後(n=256) 92 図表 42 職員のスキルや専門性の向上を選択した人の割合 図表 43 職員の働きがいやモチベーション向上を選択した人の割合 図表 44 職員の業務負担の軽減を選択した人の割合 37.7% 24.2% 0%20%40%60%80%100% 開催前(n=1,323) 開催後(n=256) 32.0% 46.5% 0%20%40%60%80%100% 開催前(n=1,323) 開催後(n=256) 47.5% 41.4% 0%20%40%60%80%100% 開催前(n=1,323) 開催後(n=256) 93 図表 45 記録や事務作業の効率化を選択した人の割合 図表 46 持続可能な事業経営を選択した人の割合 図表 47 事業所間の連携や協働の促進を選択した人の割合 29.6% 33.6% 0%20%40%60%80%100% 開催前(n=1,323) 開催後(n=256) 23.7% 21.9% 0%20%40%60%80%100% 開催前(n=1,323) 開催後(n=256) 6.5% 4.7% 0%20%40%60%80%100% 開催前(n=1,323) 開催後(n=256) 94  障害福祉現場における「生産性向上」の取組の懸念は何ですか。(上位3つを選択) ※ここでは、開催前後における各選択肢の回答割合の変化を比較できるよう示して いる。 図表 48 利用者一人ひとりに寄り添った支援がしにくくなるのではないかを 選択した人の割合 図表 49 効率や成果を重視することで、支援の質が低下するのではないかを 選択した人の割合 23.3% 12.5% 0%20%40%60%80%100% 開催前(n=1,323) 開催後(n=256) 37.5% 21.1% 0%20%40%60%80%100% 開催前(n=1,323) 開催後(n=256) 95 図表 50 数値化しにくい支援の価値が評価されにくくなるのではないかを選択した人の 割合 図表 51 職員の業務負担がかえって増えるのではないかを選択した人の割合 図表 52 職員間の役割分担や評価に偏りが生じるのではないかを選択した人の割合 28.8% 40.6% 0%20%40%60%80%100% 開催前(n=1,323) 開催後(n=256) 34.8% 38.3% 0%20%40%60%80%100% 開催前(n=1,323) 開催後(n=256) 16.9% 51.6% 0%20%40%60%80%100% 開催前(n=1,323) 開催後(n=256) 96 図表 53 能力や成果を基準とした評価が強まるのではないかを選択した人の割合 図表 54 現場の実情に合わない取組が求められるのではないかを選択した人の割合 図表 55 取組が形式化し、現場の負担だけが増えるのではないかを選択した人の割合 12.2% 21.9% 0%20%40%60%80%100% 開催前(n=1,323) 開催後(n=256) 28.3% 32.8% 0%20%40%60%80%100% 開催前(n=1,323) 開催後(n=256) 23.5% 40.2% 0%20%40%60%80%100% 開催前(n=1,323) 開催後(n=256) 97 図表 56 特に懸念はないを選択した人の割合 図表 57 フォーラム参加を通じて、生産性向上に対する懸念はどのように 変化しましたか。(1つ選択) 9.6% 17.6% 0%20%40%60%80%100% 開催前(n=1,323) 開催後(n=256) 16% 57% 20% 3% 1% 3% 大きく軽減した やや軽減した 変わらない やや強まった 強まった もともと懸念はなかった n=256 98  あなたは障害福祉現場において、生産性向上の取組を実践することが必要だと考え ますか。(1つ選択) ※ここでは、開催前後における各選択肢の回答割合の変化を比較できるよう示して いる。 図表 58 障害福祉現場において、生産性向上の取組を実践することが必要か(開催前) 図表 59 障害福祉現場において、生産性向上の取組を実践することが必要か(開催後) 80% 0% 15% 5% 思う 思わない どちらともいえない わからない n=1323 91% 0% 8% 1% 思う 思わない どちらともいえない わからない n=256 99 図表 60 あなたの事業所でも、生産性向上の取組は実践可能だと思いますか。 (1つ選択) ➢ 「難しい」「非常に難しい」を選択した理由(自由記述) ※文意に変更のない範囲で修正、一部抜粋している。  人員不足と経営基盤が不安定である  高齢の職員やICT機器に不得手の職員が多いため  経営者が必要としていないこと、導入に際して費用が高くなってしまう  管理者が難色を示している  その他、会議の開催方法や配慮事項等(自由記述) ※文意に変更のない範囲で修正、一部抜粋している。 <開催形式に関する評価>  ハイブリッド形式での開催であったため、遠方や業務の都合がある中でも参 加しやすかった  アーカイブ配信があることで、後日視聴や職員間での共有がしやすいと感じ た  支援業務中は視聴が難しいため、開催時間帯の工夫もあるとよい <フォーラム内容・テーマに関する意見>  生産性向上が効率化だけでなく、支援の質向上や利用者のQOL向上につな がるという考え方に共感した  生産性向上の目的や理念を組織内で共有することの重要性を感じた  生産性向上が支援者の能力主義や評価主義に偏らないよう留意が必要だと感 じた  経営判断に関わるテーマであり、経営層への理解促進も重要だと感じた  就労系サービスでは就労率など別の指標も重要ではないかと感じた <取組事例・ICT活用に関する要望> 48% 35% 14% 2% 1% 十分可能 ある程度可能 どちらともいえない 難しい 非常に難しい n=256 100  ICT導入や業務改善の具体的な事例をもっと知りたかった  小規模事業所や中小規模事業所の事例も紹介してほしい  費用をかけずに取り組める具体的な改善方法を知りたい <フォーラム運営・進行に関する意見>  進行が速く理解が追いつかない部分があった  声が聞き取りにくい場面があった  休憩時間をもう少し長く取ってほしい  パネルディスカッションでは、より具体的な事例資料や動画があると理解し やすい  テキスト表示(字幕)や資料の事前配布は理解しやすく良かった <今後の期待>  生産性向上の具体的な取組や実践方法をさらに詳しく学ぶ機会がほしい  生産性向上に関する悩みや課題を共有できる相談の場があるとよい  職員研修などで活用できる資料や情報提供があると助かる  全国の事業所の実践や課題を共有できる機会が今後も必要 令和7年度 厚生労働省 障害者総合支援事業費補助金(障害者総合福祉推進事業) 障害福祉現場の生産性向上に向けた調査研究事業 報告書 令和8年(2026年)3月 発行 株式会社NTTデータ経営研究所 〒102-0093 東京都千代田区平河町 2-7-9 JA 共済ビル 9 階 Tel 03-3221-7011(代表) FAX 03-3221-7022