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PDF厚生労働省2023年4月26日未分類

障害福祉現場における生産性向上の基本的な考え方

障害福祉現場の生産性向上に向けた調査研究事業有識者会議 1. はじめに.......................................................................................... 3

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障害福祉現場における 生産性向上の基本的な考え方 当事者視点に立ったケアの充実のために 障害福祉現場の生産性向上に向けた調査研究事業有識者会議 目次 1. はじめに.......................................................................................... 3 1.1. 背景................................................................................................ 3 1.2. 本書の目的....................................................................................... 3 1.3. 本書の対象者.................................................................................... 4 1.4. 本書の構成....................................................................................... 5 2. なぜ生産性向上が必要なのか―Why ...................................................... 8 2.1. 現状と課題....................................................................................... 8 2.2. 生産性向上の目指すこと..................................................................... 9 3. 生産性向上とは何か―What.................................................................. 13 3.1. 「生産性」の捉え方........................................................................... 13 3.2. 「生産性向上」と「業務改善」............................................................ 17 3.3. 「生産性向上」の「見える化」............................................................ 18 4. 生産性向上をどのように進めるか―How ................................................ 22 4.1. 3つの価値観.................................................................................... 22 4.1.1. 「3つの価値観」とは何か...................................................... 22 4.1.2. なぜ「3つの価値観」なのか................................................... 22 4.2. 5つのステップ................................................................................. 24 4.2.1. 「5つのステップ」とは何か................................................... 24 4.2.2. なぜ「5つのステップ」なのか ................................................ 24 5. 各ステップの進め方........................................................................... 27 5.1. ステップ1共感をつくる.................................................................. 27 5.1.1. 言葉にしてみる..................................................................... 27 5.1.2. あるべき姿を描く .................................................................. 28 5.1.3. 呼びかける........................................................................... 30 5.2. ステップ2課題を見える化する......................................................... 31 5.2.1. 現状を把握する.................................................................. 31 5.2.2. 課題を見出す........................................................................ 32 5.2.3. 現状/あるべき姿を整える...................................................... 33 5.3. ステップ3解決策を考える............................................................... 33 5.3.1. 課題を絞り込む ..................................................................... 34 5.3.2. 解決策を洗い出す.................................................................. 34 5.3.3. 解決策を選ぶ........................................................................ 36 5.4. ステップ4試してみる..................................................................... 37 5.4.1. 取組の計画をつくる............................................................... 37 5.4.2. 評価指標を決める.................................................................. 38 5.4.3. 小さく取組を始める............................................................... 40 5.5. ステップ5振り返る........................................................................ 40 5.5.1. 評価する.............................................................................. 41 5.5.2. 取組を意味づける.................................................................. 41 5.5.3. 次のサイクルに発展する......................................................... 42 6. 事例................................................................................................ 43 7. 参考資料.......................................................................................... 52 8. 終わりに.......................................................................................... 54 9. 索引・用語辞典................................................................................. 56 10. 引用文献.......................................................................................... 58 A 3 1.はじめに 障害福祉の現場では、利用者一人一人に寄り添った支援が日々行われています。その一 方で、記録や事務作業に追われたり、人手不足の中で業務を回したりと、「もっと利用者 と向き合う時間があればいいのに」と感じる場面も少なくないのではないでしょうか。 こうした状況の中で、「生産性向上」という言葉を聞く機会が増えてきましたが、障害 福祉においては、その取組はまだ始まったばかりと言えます。「生産性」と聞くと、「効 率を優先して、支援が画一的になるのではないか」「現場がさらに忙しくなるのではない か」といった不安や戸惑いを感じる方も多いかもしれません。 その一方で、国全体では、医療や介護等の分野において、現場の負担を減らし、より良い サービスにつなげるための取組として、生産性向上の取組に対する支援が強化されていま す。障害福祉分野についても、こうした流れの中で、生産性向上の重要性が位置付けられ てきています 1 。 しかし、障害福祉の現場では、 ●生産性向上がなぜ必要なのか、どんな良いことがあるのかが、十分に共有されて いない ● 「生産性」という言葉そのものに、どこか距離を感じてしまう ● 実際に何から始めればよいのか、具体的なイメージを持ちにくい といった課題があるのも事実です。 1.1.背景 1内閣府(2025)では、医療・介護とともに障害福祉分野についても生産性向上・省力化の実現に関する記載が盛 り込まれた。また、内閣官房(2025)及び厚生労働省(2025)では、障害福祉分野の生産性向上に関する目標が策定 された。 1.2.本書の目的 本書では、先に述べた課題を踏まえ、障害福祉現場における生産性向上は、「支援を減 らすこと」や「人を減らすこと」ではなく、「ケアを充実させるためのもの」であること を示します。ここでいう「ケア」とは、日常生活の支援にとどまらず、障害のある方が自 らの望む生活を主体的に営むことができるよう支援することを含む、幅広い概念として用 いています。業務の進め方を見直したり、使える道具や仕組みを上手に取り入れたりする 第 1 章 A 4 ことで、各法人・事業所の理念等を踏まえた「あるべき姿」を実現し、当事者視点に立っ た「ケアの充実」の実現につなげることが、生産性向上の取組の目指す姿です。 そのために本書では、 ●なぜ生産性向上が必要なのか(Why) ●生産性向上とは何か(What) ●生産性向上をどのように進めるか(How) という三つの視点から、考え方を整理しています。 1.3.本書の対象者 本書は、障害福祉の現場に関わる様々な立場の方々が「当事者視点に立ったケアの充実 のための生産性向上」の必要性や考え方、そして、その進め方を理解するための共通の土 台となることを想定しています。 その中でも特に、障害福祉サービス等の支援者の方々、具体的には、現場で働く職員の 方々、そして、管理者や経営層の方々を主な対象として作成しています。支援者の方々に は、障害福祉における「当事者視点に立ったケアの充実のための生産性向上」の必要性や 考え方を正しく理解し、職場の中や関係者同士で話し合いながら、それぞれの法人・事業 所ならではの生産性向上の取組を進めていただくことを期待しています。特に管理者や経 営層の方々には、本書を通じた学びを取組の優先順位の判断、人材の配置、テクノロジー 導入等への投資判断、職員が安心して生産性向上に取り組める組織風土の形成などにも役 立てていただくことを期待しています。 また、本書は、利用者本人やその家族にも、障害福祉の現場で進められている生産性向 上の取組が、よりよいケアの実現を目指すものであることを理解していただくことを目指 しています。本書を通じて、利用者に寄り添うことが生産性向上の前提であることを伝え ていきます。 第 1 章 A 5 さらに、自治体職員の方々には、本書を通じて、障害福祉の生産性向上の必要性や考え 方を理解し、法人・事業所との対話や支援に生かしていただくことを想定しています。次 期障害福祉計画及び障害児福祉計画に係る基本指針では、「当事者視点に立ったケアの充 実のための生産性向上」に関する記載が盛り込まれ、都道府県では人材確保や生産性向上、 経営改善に関するワンストップ窓口(サポートセンター)や、関係者の連携を図る協議会 を設置することが目標とされる見込みです。こうした動きを踏まえて、本書が自治体での 検討の参考となることも期待しています。 加えて、事業所向けに各種機器やサービスの開発や提供を行う民間事業者等にとっても、 本書は重要な意味を持ちます。テクノロジーを含むツールやサービスは生産性向上の重要 な手段ですが、その導入や活用は、現場の実情や価値観を十分に理解した上で行われるこ とが不可欠です。本書を通じて、「当事者視点に立ったケアの充実のための生産性向上」 の考え方を理解し、現場に寄り添ったツールやサービスの開発や提供につなげていただく ことを期待しています。 また、事業所の取組を支援する外部の支援者や事業者団体等にも、本書を活用いただく ことを想定しています。今後、都道府県における人材確保や生産性向上、経営改善に関す るワンストップ窓口の設置が進められ、様々な方々が法人・事業所の伴走支援に当たるこ とが見込まれます。また、事業者団体等においても、生産性向上に関する議論を行う機会 が増加することが見込まれます。こうした中、本書は現場への支援やそのための議論にお ける「共通言語」を提供することも目的としています。 本書は障害福祉の現場に関わる様々な方々がそれぞれの立場で「自分たちにできること は何か」を考え、取組の実行につなげるための一冊です。本書を通じて、障害福祉におけ る「当事者視点に立ったケアの充実のための生産性向上」に関する理解が広がり、全国の 現場や関係者による実際の取組につながっていくことを期待しています。 1.4.本書の構成 第2章から第4章では、「なぜ生産性向上が必要なのか(Why)」、「生産性向上とは 何か(What)」、「生産性向上をどのように進めるか(How)」についての考え方を紹介 しています。第1章から第4章までについては章や節の最後に、立ち止まって考えるため の「問いかけ」を用意しました。この「問いかけ」は、本書の読者の皆様、特に管理者や 経営層の方々や現場で生産性向上の取組の中心となるプロジェクトチームの方々に活用し ていただくことを想定しています。問いかけに対して、自分の考えを書き出したり、職場 の仲間と話し合ったりすることで、「自分たちの現場だったらどうだろうか」と考える きっかけとして活用してください。また、他の職員などの関係者に対して、生産性向上に 第 1 章 A 6 ついてのメッセージを伝えたり、一緒に生産性向上について話し合ったりするときのヒン トとしても活用してください。 第5章では、第4章で示した「生産性向上をどのように進めるか(How)」の考え方を もとに、各ステップの進め方を示しています。実際に各法人・事業所における生産性向上 の取組を進める際の参考にしてください。 第6章では、実際に生産性向上の取組を行っている法人・事業所の事例を取り上げてい ます。第5章で説明したステップや取組のポイントを具体的な事例と関連付けて理解でき るように整理していますので、第5章を見返しながら、生産性向上の取組の進め方への理 解を深めるのに活用してください。 第7章には、生産性向上の参考になるような資料を掲載しています。 第9章には、索引と用語辞典も掲載しています。本書で用いる重要な用語について、関 連する箇所を探しやすくしたり、理解を深めたりするのに活用できるようにしています。 本書を読み進める際に、必要に応じて参照してください。 本書は、これから障害福祉分野で生産性向上に取り組んでいくための、共通の考え方の 土台としての役割を担っており、サービスの種類ごとの違いや、さらに深掘りした内容に ついては、今後、厚生労働省が策定を予定している「障害福祉分野における生産性向上ガ イドライン(仮称)」の中で整理される予定です。 本書を通じて、読者の皆様が ●生産性向上についての理解を深める ●生産性向上について周りの人たちと語り合いたくなる ●生産性向上を「自分ごと」として捉え、実際の取組に着手したくなる ようになれば幸いです。 第 1 章 A 7 第1章の問いかけ あなたは「生産性」あるいは「生産性向上」という言葉に どのようなイメージを持っていますか。 「生産性向上」の具体的な取組として、どのようなことをイメージしますか。 あなたのイメージする取組を進める上で、どのような難しさがありそうですか。 第 1 章 A 8 なぜ、障害福祉で生産性向上が必要なのでしょうか。本書では、障害福祉におい て生産性向上に取り組む理由を「各法人・事業所がそれぞれの『あるべき姿』を実 現し、全国の障害福祉現場で当事者視点に立った『ケアの充実』を実現するため」 としています。 「ケアの充実」は、障害福祉が大切にしてきた「障害者の自立と社会参加」、 「地域共生社会」といった考え方にもつながっています。 障害福祉では、利用者の年齢層や障害の特性が多様です。提供されるサービスの種類も 多岐にわたります。また、求められる支援のあり方は一人一人によって異なるため、当事 者視点に立ち、個別性を大切にすることが求められます。こうした多様性や個別性に応じ て、各法人・事業所がそれぞれの経緯の中で設立され、多様な理念や大切にしている価値 観を掲げてきました。加えて、地域によってサービスの需要や状況にも違いがあります。 こうした違いがある一方で、どの法人・事業所であっても当事者視点に立った「ケアの 充実」が何よりも重要であることは、共通しています。 そして、「ケアの充実」は、「障害者の自立と社会参加」、「地域共生社会」といった 障害福祉が大切にしてきた考え方にもつながっています。 しかし、障害福祉の現場には、次のような課題が存在しています。 ●人材の確保が難しく、定着にも苦労している ●利用者や家族のニーズの多様化により、業務が複雑化している ●経営規模が中小程度の事業所が多くニーズ変動の影響を直接受けやすいため、 法人・事業所の経営や運営が不安定になりやすい これらの課題が重なることで、各法人・事業所が掲げる理念や価値観の実現、そして、 「ケアの充実」の実現が妨げられます。 2.1.現状と課題 2.なぜ生産性向上が必要なのか―Why 第 2 章 A 9 障害福祉の生産性向上では、各法人・事業所が組織全体で現場の課題に向き合い、支援 者が持つ力の発揮、そして、各法人・事業所の理念や価値観の実現を妨げる障壁をなくし ていくことを目指しています。さらに、生産性向上の取組を通じて、新しい価値を生み出 し、それを広げていくことで、障害福祉全体で当事者視点に立った「ケアの充実」につな げていくことを目指しています。 具体的には、 ● 「あるべき姿」はどのような姿か ● 「現状」はどのような状態か を、法人・事業所ごとの特徴に応じて明らかにします。その上で、「あるべき姿」と 「現状」の間にあるギャップを埋める取組を進めていきます。 2.2.生産性向上の目指すこと 第 2 章 A 10 「あるべき姿」と「現状」の間にあるギャップを埋めるに当たっては、個人で取り組む のではなく、目指す「あるべき姿」をチームで共有し、協力しながら進めることが重要で す。そのためには、職員一人一人が安心して意見を出し合える環境を整えるとともに、 チーム全体で課題や改善策を考え、実行していくことが求められます。 生産性向上の取組には、業務の進め方や役割分担の見直し、情報共有の工夫など、人や 組織の在り方を見直す取組も含まれます。大きな改革を一度に行う必要はなく、まずは現 場で実行可能な小さな改善から始めることで、支援者一人一人の力を引き出し、組織全体 として変化を積み重ねていくことができます。 こうした生産性向上の取組において、大きな力を発揮する重要な手段の一つが、テクノ ロジーです。例えば、介護ロボットや情報通信技術(ICT)といった介護テクノロジーを 導入・活用することで、支援者の負担を減らしたり、利用者の安全を守ったりするのに役 立ちます。特に様々な種類の帳簿を扱う障害福祉の現場では、異なる帳簿の間での転記作 業に要する時間やミスの発生が負担につながることが明らかになっています。こうした転 記負担の軽減には、記録ソフトをはじめとする情報通信技術の活用が有効であり、本書の 第6章では、こうした事例も取り上げています。このようにテクノロジーの活用により浮 いた時間を活用することで、当事者視点に立ったサービス提供の観点から、一人一人の利 用者をより丁寧に支援したり、より多くの利用者に支援を届けたりすることが可能になり ます。 テクノロジーの可能性はそれだけにとどまりません。例えば、 ●記録の共有により支援の質の向上につなげる ●AI(人工知能)の活用により「支援の見立て」や「計画づくり」の場面での 専門的判断を支援する ●障害者自身がテクノロジーを活用してコミュニケーションや移動の幅が広が り、自立や社会参加につながる といったかたちで、これまで「できなかったこと」が「できるようになる」という可能 性も持っています。 このように、テクノロジーは負担軽減と新たな価値創出の両面で大きな可能性を持って います。こうしたテクノロジーの可能性を生かすことは、社会の変化を踏まえつつ、障害 福祉の現場がより持続的に発展していくための重要な視点の一つとなります。このため、 障害福祉の生産性向上では、テクノロジーの活用を特に重点的に扱っていく必要がありま す。 第 2 章 A 11 コラム:「当事者視点に立ったケアの充実のための生産性向上」とDX 最近、「DX(デジタルトランスフォーメーション)」という言葉がよく聞かれるよ うになりました。DXとは単にデジタル技術を取り入れることではありません。DXで重 要なことは、現在の業務のあり方を出発点に、変革した後の「より良い」将来像から 逆算し、その実現のために、どのようなデジタル技術が必要かを考えることです。そ して、そのデジタル技術をあるべき姿に近づくための手段として活用することです。 DXでは、現在の業務のあり方としての「現状」を「As-Is」、変革した後の「あるべ き姿」を「To-Be」と表現し、その間の「ギャップ」を埋めるという考え方がよく用い られます。本書で取り上げた「あるべき姿」と「現状」の間の「ギャップ」を埋める という考え方は、このDXでよく用いられる考え方をもとにしています。そのため、本 書の示す「当事者視点に立ったケアの充実のための生産性向上」とはDXと重なる考え 方として捉えることもできます。 日々の業務負担を少しでも軽くすることで、生まれた時間や余力を活かし、当事者 にとってより良い支援につなげること、そして、支援に新たな価値を生み出すことこ そが障害福祉におけるDXの本質といえるでしょう。 第 2 章 A 12 コラム:「なぜ導入するのか」から始める介護テクノロジー 介護や障害福祉の現場では、介護テクノロジーを導入したものの、十分に活用されて いないケースが少なくありません。その大きな要因の一つは、「自分たちの法人・事業 所に、なぜこの介護テクノロジーが必要なのか」という目的が十分に整理されていない ことが挙げられます。 導入がうまくいくかどうかの分かれ目は、目指す姿に照らして本当に必要なものかを 検討できているかどうかにあります。そのためには、「あるべき姿」と「現状」を明確 にし、そのギャップを埋める取組として、介護テクノロジーの導入や活用を位置づけて いくことが重要です。このように目的や位置づけを明確にした上で導入を検討すること が、介護テクノロジーを現場に定着させ、生産性向上につなげるためのポイントとなり ます。 第2章の問いかけ あなたの法人・事業所が大切にしている理念は何ですか。 法人・事業所の「あるべき姿」はどのようなものだと考えますか。 法人・事業所の「あるべき姿」の実現の妨げとなっていることは何ですか。 第 2 章 A 13 障害福祉における「生産性向上」とは、何を指すのでしょうか。本書では、障害 福祉における生産性向上を、当事者視点に立ったケアの充実のために、「支援者一 人一人の力を引き出し、チームでその力を利用者に届けることで、新たな価値を生 み出すこと」と定義します。 「ケアの充実」の実現には、障害福祉の現場で活躍する支援者一人一人が持つ 「力」を、十分に発揮しやすい環境にしていくことが欠かせません。支援者がやり がいと安心感を持って働き続け、当事者視点に立ったより良いケアを持続的に届け られるようにすることが、結果として、障害福祉の仕事の魅力を高め、未来につな いでいくことになります。 障害福祉における「生産性向上」は「当事者視点に立ってケアを充実させるためのも の」であって、「支援を減らすこと」でも「人を減らすこと」でもありません。それとは 逆に、負担軽減や価値の創出により、「利用者の支援に注力できる環境づくり」や「支援 者の働きがいの向上」につながる考え方です。 しかし、「生産性」という言葉に対して、 ●人と人との関わりが大切な障害福祉にはなじまない、どこか冷たい言葉 ●現場の忙しさを無視した「人を減らす」発想につながる言葉 といったイメージを持つ方も少なくありません。 また、ここでいう「生産性」は、あくまで支援に着目した生産性を指しているのですが、 「人の価値や能力を測るものさしのように感じてしまう」という声もあります。こうした 理由から、「生産性」という言葉そのものに心理的な抵抗感を覚える障害当事者や障害福 祉関係者がいることも事実です。 こうした中、本書では、「生産性」という言葉の本来の意味に立ち返った上で、障害福 祉の文脈で捉え直しています。 3.1.「生産性」の捉え方 3.生産性向上とは何か―What 第 3 章 A 14 「生産性」という言葉は、「生」と「産」という、「うむ」「うみだす」という意味を 持つ漢字から成り立っています。また、「生産性」を意味する英語であるproductivity の語源をたどると、ラテン語のpro(前へ)とducere(導く・引き出す)に由来してお り、本来は、「前へ進める」「潜在的な力を引き出す」という意味を持っています。 こうしたことから、「生産性」という言葉は「組織等が持っている力を引き出し、新し い価値を生み出すこと」と捉えることができます。 これを踏まえ、本書では、障害福祉の現場でも使いやすいように、「生産性向上」を以 下のように整理しました。 障害福祉における生産性向上: 支援者一人一人の力を引き出し、チームでその力を利用者に届けることで、新たな価値を 生み出すこと 「生産性向上」とは、単に「業務効率化」だけを指しているものではありません。支援 者が自分の「力」や「強み」を理解し、それを発揮しやすい環境をつくることに関わるも のです。 障害福祉の現場では、支援に必要な「力」を持つ多くの支援者が活躍しています。この 「力」には、専門性に裏打ちされた知識やスキルのみならず、障害福祉にかける想いも含 まれます。こうした「力」が利用者に届くことで、支援の「価値」が生み出されます。こ のため、支援者一人一人が持つこれらの「力」の発揮を妨げている要因(事務負担、情報 共有・連携の不足等)を取り除くとともに、「力」の発揮を促す要因(役割の明確化、安 心して意見を言える雰囲気等)を大切にすることが「ケアの充実」の実現に不可欠です。 障害福祉における生産性向上 支援者一人一人の 力を引き出す チームでその力を 利用者に届ける 新たな価値を 生み出すこと 第 3 章 A 15 また、支援者一人一人にも多様な背景や個性があり、それが「力」の源泉になっている 場合もあります。このため、支援の現場で支援者一人一人の「強み」が発揮される環境づ くりも重要となります。 このような環境が整うことで、支援者はやりがいと安心感を持ち、自分たちの持つ 「力」を支援に十分に生かして働けるようになります。そして、当事者視点に立った「新 たな価値を生み出すこと」が実現します。具体的には、業務の見直しやテクノロジーの活 用などによって時間や余力が生まれることで、利用者の希望をかなえる新たな取組や支援 の質を高める工夫、さらに、当事者視点に立ったより良い支援の提供に向けて、支援者自 身がスキルを高めるための時間を確保することが可能になります。 その結果、利用者はより良いケアを受けられ、QOL(生活の質)の向上につながります。 この循環が続くことで、「ケアの充実」を持続的に実現できる強い組織へと発展します。 さらに、生産性向上の取組は、チームで取り組むことで、効果を実感しやすく、継続に もつながります。日々の支援の中で生じる課題の多くは、現場の工夫や話し合いによって 解決されてきたものです。生産性向上の取組についても、こうした現場発の気づきや改善 を大切にしながら進めていくことが重要です。そのうえで、経営層や管理者層が生産性向 上の意義や重要性を理解し、現場の取組を支えながら関与することで、取組が現場に根付 き、「あるべき姿」の実現に向けて着実に前進しやすくなります。 このようにチームで「当事者視点に立ったケアの充実のための生産性向上」に取り組む ことは、結果として、障害福祉の仕事の魅力や現場の持続可能性を高め、障害福祉を未来 につないでいくことになります。 第 3 章 A 16 障害福祉の現場には、様々な背景や経験を持つ支援者が関わっています。現場で活 躍する支援者一人一人の多様な背景や経験は、支援者の「力」の源泉となる「強み」 と捉えることができます。例えば、障害のある支援者が当事者としての背景や経験を 持っている場合、利用者が感じている不安や困りごとを、自身の体験と重ね合わせる ことで理解しやすくなることがあります。そのような理解を通じて、言葉になりにく い気持ちに気づきやすくなり、結果として、利用者の立場に寄り添った支援につなが ることもあります。 こうした「強み」に根ざした「力」を発揮するためには、互いの違いを理解し尊重 し合える心理的安全性が欠かせません。安心して意見や気づきを共有できる環境があ ることで、「誰か一人の正解」に頼らない、多面的な支援が可能になります。 多様性を尊重する価値観が広がる中で、障害福祉の現場が、多様な人々がそれぞれ の「強み」に応じた役割を担い、互いを尊重しながら働ける場であることは、これか らの人材確保においても大きな魅力となり得ます。 障害福祉の現場が、多様性を包摂し、支援者一人一人がその「強み」に根ざした 「力」を発揮できる場であることは、人材確保や定着、そして障害福祉の価値を未来 につなぐ上で大切なことです。 コラム:支援者の「強み」を活かすために 第 3 章 A 17 「生産性向上」と似た言葉に、「業務改善」があります。介護分野では、障害福祉分野 よりも先行して生産性向上に関する取組が進められており、「介護サービス事業における 生産性向上に資するガイドライン」では、主に現場で「業務改善」を進める過程が整理さ れています。 介護分野のガイドラインでは、「一人でも多くの利用者に質の高いケアを届ける」とい う介護現場の価値を重視し、介護サービスの生産性向上を「介護の価値を高めること」と 定義しています 2 。その上で、「職場環境の整備」や「業務の明確化と役割分担」など、 現場での「業務改善」の進め方がわかりやすくまとめられています。 障害福祉の現場にも、介護と同様に、人材不足や業務負担の大きさといった課題があり ます。その一方で、障害福祉には、 ●利用者の年齢層や障害特性が非常に多様であること ●サービスの種類が幅広く、支援の個別性が高いこと ●当事者や家族により設立された事業所をはじめ、理念等に設立経緯が強く反映さ れている場合が多いこと といった特徴があります。 このため、障害福祉の現場では、一つ一つの「業務改善」の必要性や優先度合いについ て、各法人・事業所の理念や価値観、現場の実情等に応じて、判断する必要があります。 例えば、 ●強度行動障害の状態にある利用者への支援等においては、「業務改善」において 重要視される「業務の標準化」を進めること自体が適切ではない場合もあり、状 況に応じた対応や個々の障害特性に十分に配慮した対応が求められる ●同じ「掃除」という活動でも、支援者の業務負担とみるか(例:重度の障害者を 対象とする居住系サービス)、教育的活動(例:障害児入所施設)や自立支援と みるかといった見方や価値観の違いが存在し、「業務改善」の意味合いが場合 によって異なる というように、「業務改善」の捉え方そのものに留意が必要な場面も多くあります。 3.2.「生産性向上」と「業務改善」 2厚生労働省老健局(2024)。 第 3 章 A 18 さらに重要なのは、「業務改善」はあくまで通過点であるという点です。業務改善や負 担軽減だけでは、利用者の生活の豊かさに、必ずしもたどり着けるとは限りません。 生まれた余力を、利用者の希望をかなえる新しい取組、支援の質を高める工夫、支援者 がスキルを高めるための時間などにどう生かしていくかという、「業務改善の先」を見据 える視点が欠かせません。 こうした背景から、障害福祉の現場で生産性向上を進めるためには、具体的な取組の前 に、自分たちの法人・事業所は何を目指しているのか、すなわち、どのような「ケアの充 実」を実現したいのかを明らかにし、取組の前提となる考え方を共有することが重要にな ります。 そこで本書では、 ●生産性向上の目的や意義を明確にすること ●生産性向上の取組を、「あるべき姿」と「現状」のギャップを埋める取組として 位置付けること ●取組を支えるチームづくりを重視すること を大切にし、生産性向上に取り組むための土台づくりに重点を置いています。 3.3.「生産性向上」の「見える化」 「生産性向上」と聞いても、まだどこか漠然としていて、具体的なイメージが持ちにく いと感じる方も多いかもしれません。また、いろいろな要素が思い浮かんでも、それらが どのように関係しているかを整理することが難しいと感じる場合もあるでしょう。 本書では、「当事者視点に立ったケアの充実のための生産性向上」という抽象度の高い 考え方と、現場で行われている具体的な取組について、それぞれの中身と両者の関係性を、 できるだけ「見える化」することを大切にしています。 障害福祉の現場では、多様な利用者の状況や法人ごとの設立経緯などを背景に、それぞ れの法人や事業所で、大切にされてきた理念や価値観があります。本書における「生産性 向上」の「見える化」では、「当事者視点に立ったケアの充実のための生産性向上」の考 え方を踏まえつつ、大切にされてきた理念や価値観、そしてそれを実現するための取組を 整理し、見える形にします。これにより、各法人・事業所ならではの「生産性向上」の取 組の中身や必要性が明確になり、関係者の間で共通のイメージを持つことができるように なります。 第 3 章 A 19 このように、自分たちの法人・事業所で大切にされてきた理念や価値観を具体化してい くことは、どのような「ケアの充実」を実現したいのかを具体化することでもあります。 本書でいう「ケア」とは、介助をしたり、サービスを提供したりする行為そのものに限り ません。利用者の生活を支えるための関わり全てを意味しています。こうした考え方に基 づき、本書では、「当事者視点に立ったケアの充実のための生産性向上」として、次の三 つの要素として整理しました。 ●利用者のQOL(生活の質)の向上 ●支援者の働きがいの向上 ●持続可能な事業運営の実現 「当事者視点に立ったケアの充実のための生産性向上」の実現には、これら3つの要素 をバランスよく実現していくことが重要です。 このような整理を参考に、各法人・事業所ならではの「生産性向上」の「見える化」を 進めることが生産性向上の取組を進めるための出発点であり、現場での対話や改善を重ね ていくための重要な一歩です。 本書では、生産性向上の具体的な手法として、主に「ロジックツリー」を用いま す。ロジックツリーとは、物事を分解して構造化することで、「全体」と「部分」 の関係を整理するための手法です。ロジックツリーでは、右(下位の概念)に向か うほど、要素が細かく分解されていき、上位の概念(左)から下位の概念(右)へ と進むにつれて、内容がより具体的に分かれていきます。全体像と、そこに至るた めの具体的な取組との関係を、ひと目で把握できることが特徴です。 この手法は、考えたい要素の大きさや具体性がばらばらな場合でも、それぞれを 適切な階層に整理し、全体像を見渡すのに役立ちます。また、ロジックツリーとし て「見える形」にすることで、自分たちの考えを他の職員や関係者と共有しやすく なるという利点もあります。 数ある分析・整理の手法の中でも、ロジックツリーは、こうした「自分たちは何 を大切にしているのか」、「どのような姿を目指しているのか」、「そのために、 現場で何に取り組むのか」といった問いを理念や価値観から実践まで段階的につな げて整理できる点に特徴があります。 コラム:ロジックツリーで「見える化」する 第 3 章 A 20 利用者の状況や法人・事業所の理念が多様な障害福祉の現場では、「正解となる取組」 が一つとは限りません。だからこそ、それぞれの法人・事業所が大切にしている理念や価 値観と日々の取組のつながりを整理し、共有するための手法として、特に取り入れやすい 手法です。このように、ロジックツリーは、本書の大切にする生産性向上の考え方を「見 える化」する上で、有効な手法の一つです。 以下では、各法人・事業所が「当事者視点に立ったケアの充実のための生産性向上」を より具体化するための手がかりとして、ロジックツリーを作る際に参考となるモデル(ひ な形)を示しています。 第 3 章 A 21 本書の第5章に沿って各法人・事業所で生産性向上に取り組む際には、このロジックツ リーのひな形を参考にしながら、自分たちの理念や価値観、さらに、現場の実情に合わせ たロジックツリーを作ってみてください。 第3章の問いかけ 本章の掲げる「生産性」の捉え方を読んで、当初抱いていた 「生産性」に対するイメージから変化はありましたか。 あなたの法人・事業所の「あるべき姿」を実現するためには、 具体的にどのような取組が考えられますか。 具体的な取組の中には、テクノロジーの力を活用して、 取り組めそうなことはありますか。 第 3 章 A 22 障害福祉の現場で、具体的にどのように生産性向上を進めていけばいいのでしょ うか。本書の掲げる「当事者視点に立ったケアの充実のための生産性向上」は、利 用者や支援者などの「人」を大切にするプロセスです。 このため、本書では、障害福祉の特性も踏まえ、「3つの価値観」を大切にしつ つ、「5つのステップ」に沿って、生産性向上の取組を進めることとしています。 障害福祉の現場で生産性向上に取り組むに当たっては、「何を大切にしながら進めるの か」という共通の価値観を、あらかじめ共有しておくことが重要です。 本書では、法人・事業所全体で生産性向上の取組を進めていくうえで、次の「3つの価 値観」を大切にすることとしています。 4.1.3つの価値観 4.生産性向上をどのように進めるか―How 4.1.1.「3つの価値観」とは何か 4.1.2.なぜ「3つの価値観」なのか 障害福祉の現場には、非常に多様な関係者が関わっています。例えば、利用者、家族、 現場の職員、管理者、経営者、自治体職員、支援機関などが挙げられます。 3つの価値観 協調性 (みんなですすめる) 立場や仕事の違いにかかわら ず、みんなで一緒に考え、 協力して取り組むことを 大切にします。 包摂性 (みんなにやさしい) 誰もが参加しやすく、 意見を言いやすい雰囲気 や仕組みをつくります。 共益性 (みんながうれしい) 利用者、支援者、組織等、 すべての関係者にとって、 よい変化になることを目指します。 第 4 章 A 23 また、相談系サービスであれば他のサービス事業所や病院等、就労系サービスであれば生 産活動の場面でのお客様など、それぞれのサービスならではの関係者や関わり方がありま す。さらに、協働化等により、複数の法人・事業所が協働して業務を行うことや同一法人 内にも設立経緯等が異なる事業所が存在することがあります。 このように多様な関係者が関わる中では、立場によって見えている景色や感じている課 題は異なります。だからこそ、生産性向上の取組をうまく進める上で、一緒に考え、協力 しながら進めていく姿勢が欠かせません。 また、生産性向上の取組を進めるうえでは、関係者一人一人の納得感も重要です。特に、 働く人一人一人の意欲や当事者意識を高めることは、結果として支援の質の向上にもつな がります。あわせて、「当事者視点に立ったケアの充実」には、利用者本人の意思決定を 尊重し、支援に生かしていく姿勢が不可欠です。 さらに、生産性向上の取組がすべての関係者にとって、よい影響がもたらされることも 重要です。特定の目標にこだわったり、支援を過度に標準化してしまうと、見過ごされる 観点が発生したり、誰かが取り残されたりするリスクもあります。 現場が一丸となって前向きに取り組める環境をつくるためにも、協調性(みんなですす める)・包摂性(みんなにやさしい)・共益性(みんながうれしい)という3つの価値観 を意識しながら進めることが重要なのです。 第4章第1節の問いかけ あなたの法人・事業所ではどのような関係者 (「3つの価値観」における「みんな」)がいますか。 あなたが挙げた関係者にとっての課題はどのようなものがありますか。 課題を乗り越えるためにどのような工夫・留意が考えられますか。 第 4 章 A 24 本書では、障害福祉の現場で「当事者視点に立ったケアの充実のための生産性向上」の 取組を進めるにあたり、次の「5つのステップ」に沿って進めることとしています。 ①共感をつくる:支援者間で共通の「あるべき姿」を描く。 ②課題を見える化する:「あるべき姿」と「現状」を比べ、 その間のギャップを明らかにする。 ③解決策を考える:課題について、無理なく実行できる解決策を考える。 ④試してみる:解決策を具体的な取組に落とし込み、小さく試す。 ⑤振り返る:取組を振り返り、次の取組へ発展させる。 この「5つのステップ」は、一度きりで終わるものではなく、循環・繰り返しの中で、 少しずつ前に進んでいくことを想定しています。 4.2.5つのステップ 4.2.2. なぜ「5つのステップ」なのか 4.2.1.「5つのステップ」とは何か 本書の「5つのステップ」は、障害福祉の特性を踏まえつつ、現場で活用しやすい手順 に整理したものです。 障害福祉の現場では、利用者の年齢や障害特性、生活環境が多様であり、求められる支 援のあり方は利用者一人一人によって異なります。その一方で、チームで協働して支援を 行うに当たっては、支援者側の支援のあり方に関する一定の共通理解が必要です。 第 4 章 A 25 このため、「当事者視点に立ったケアの充実のための生産性向上」の取組を進めるには、 共通の「あるべき姿」を描くという「方向付け」が必要となります。これは、「5つのス テップ」の中で、主にステップ1で取り組むことが想定されています。 また、多様性や個別性に対応した支援の中で得られる感覚、経験、ノウハウ等は、属人 化したり、潜在化したりすることがあります。チームとして充実した支援を行うには、こ れらを「見える化」し、共有することが欠かせません。このため、ステップ2をはじめ、 「5つのステップ」の各所で、言葉にしてみること、構造的に整理すること、そしてチー ムで共有することを大切にしています。 さらに、利用者の希望の実現に向けて力になりたい、チームで協力してよりよい支援を 届けたい、周囲の人の役に立ちたいといった支援者の想い、さらには各法人・事業所が掲 げる理念や価値観を生かすことも欠かせません。このような障害福祉ならではの強みを生 かし、「当事者視点に立ったケアの充実のための生産性向上」を実現するためには、前向 きで創造的かつ柔軟な進め方であることが求められます。このため、「5つのステップ」 では、想いを共有することを大切にするとともに、課題の特定や解決策の選択に際して結 論ありきにならないよう留意しています。 本書で示している「5つのステップ」は、「デザイン思考」の考え方 3 を参考にし ながら整理したものです。「デザイン思考」とは、サービスや製品を利用する人 (ユーザー)の視点を重視し、新たな解決策を創出するための方法論です。障害福祉 においては、これまでも当事者視点に立った支援を大切にしてきました。障害福祉 サービス等の利用者の生活や思いに寄り添いながら支援を考えていくという点におい て、デザイン思考の考え方は、障害福祉の考え方と親和性があるといえます。 本書では、デザイン思考のプロセスを参考にしつつも、障害福祉の現場における実 践になじむ形で整理し、「当事者視点に立ったケアの充実のための生産性向上」に向 けた取組を考えるための手がかりとして、「5つのステップ」として示しています。 3デザイン思考の考え方についてはBrown(2009)を参照した。また、本書の「5つのステップ」については、Hasso Plattner Institute of Design at Stanford(2012)を参考に作成した。 コラム:「5つのステップ」と「デザイン思考」 第 4 章 A 26 第4章の問いかけ 日々の業務の中で、利用者一人一人への対応が 特に難しいと感じる業務は何ですか。 その業務について、利用者の視点から見た 「あるべき姿」と「現状」にギャップはありますか。 このギャップを少しでも縮めるために、何ができそうですか。 第 4 章 A 27 ここからは「5つのステップ」に沿った、生産性向上の具体的な進め方を解説し ます。5つのステップは、ステップ1からステップ5まで順に進め、また、ステッ プ1に戻るという循環構造になっています。 ステップ1では、支援に込めた想いや価値観を言葉にし、支援者間で共通の「あるべき 姿」を描くことで、共感をベースとした取組を進めるための土台をつくります。多様性や 個別性への対応の要請が強い障害福祉の現場で、生産性向上の取組に向けた「方向付け」 をする上で、特に重要なステップになります。 5.1.ステップ1共感をつくる 5.各ステップの進め方 5.1.1.言葉にしてみる まずは、生産性向上の取組の中心となるプロジェクトチームを立ち上げ、プロジェクト リーダーを決めます。このプロジェクトチームの中で、「支援を続ける理由」を言葉にし てみましょう。例えば、 ●どんなケアを利用者に提供したいか。 ●どんな時に働きがいを感じるか。 ●法人・事業所が大切にしている理念や価値観についてどう思っているか。 ●地域にとってどのような存在でありたいか。 第 5 章 A 28 といった問いを投げかけ、プロジェクトチームの一人一人が考える、目指すケアの姿や法 人・事業所の姿について語り合いましょう。一人一人の考える(支援のあり方や法人・事 業所のあり方に関する)「ありたい姿」から始めることがこの後、「あるべき姿」を描く ことや「現状」を把握する上で、役立ちます。 法人・事業所が大切にしている理念や価値観が明確に決まっていない場合であっても、 ●法人・事業所の設立の経緯 ●提供している支援の特徴 ●日々の声かけや現場でよく使われる言葉・表現 から、法人・事業所が大切にしていることが見えることもあります。 なお、最初からプロジェクトチームを立ち上げるのではなく、経営層がトップダ ウンで生産性向上に取り組むケースもあります。その場合でも、経営層が自ら現場 を観察し、利用者や職員に耳を傾け、現場と関わることで、現場の職員の立場に立っ て「支援を続ける理由」を言葉にしてみることが大切です。 5.1.2.あるべき姿を描く 生産性向上の取組を進めるためには、「どのようなケアを実現したいか」「どのような 職場をつくりたいか」「地域にとってどのような存在でありたいか」といった共通の「あ るべき姿」を持つことが大切です。 既にプロジェクトチームの一人一人が言葉にしてきた「支援を続ける理由」を踏まえ、 法人・事業所としての「あるべき姿」にまとめていきましょう。「あるべき姿」に対して 共通認識を持つためには、「あるべき姿」を構造的に「見える化」することが重要です。 例えば、「利用者・支援者・組織」などの視点から、「それぞれにとって望ましい姿は何 だろう」と考えてみること、更に、「あるべき姿」のロジックツリーを作成し、「あるべ き姿」の具体的な要素や関係性を見える形にしていくことが有効です。 第 5 章 A 29 本書では、「5.1.1.言葉にしてみる」の中で「ありたい姿」、そして、「5.1.2. あるべき姿を描く」の中で「あるべき姿」という表現を用いました。 「ありたい姿」とは、一人一人が思い描く理想的な姿を指しています。同じ法 人・事業所の中でも、一人一人が考える「こんな支援がしたい」あるいは「こんな 職場で働きたい」という想いは多様です。立場や職種、経験年数によっても異なる かもしれません。 チームとして取組を進める上で、一人一人の多様な「ありたい姿」を言葉にして いくことは重要な過程です。その上で、「3つの価値観」を踏まえて、一人一人の 思い描く「ありたい姿」を大切にしつつ、組織としての共通の「あるべき姿」を整 理していくことが必要です。 このように、一人一人の想いの多様性を認めつつ、チームとしての「あるべき 姿」を描くことが取組の前進につながります。 解説:「ありたい姿」と「あるべき姿」 第 5 章 A 30 法人・事業所を挙げて生産性向上の取組を行うためには、経営層やプロジェクトリー ダーから自身の考える「なぜ生産性向上に取り組むのか」を発信することが重要です。支 援者全員を巻き込み、組織を挙げて「一緒に進めよう」という方向付けをするには、「あ るべき姿」として取組の目的をはっきりと示すことが不可欠です。 具体的には、以下のような内容を盛り込んだ「キックオフ宣言」を行うことが有効です。 ●生産性向上の取組を通じて目指す「あるべき姿」が何であるか ●「あるべき姿」を実現するためには、生産性向上の取組が不可欠であること ●この取組には、職員全員の協力が必要であること ●取組を進めるに当たって、協調性(みんなですすめる)、包摂性(みんなにやさ しい)、共益性(みんながうれしい)に沿った取組にすることを約束すること 5.1.3.呼びかける 事例 法人理事長による繰り返しのメッセージ 法人全体での記録ソフトの導入に当たって、理事長から「ICT化は支援の質を守るた めの取組である」というメッセージを繰り返し職員に伝えました。これにより、記録 ソフトの導入目的は単なる事務の効率化ではないということを全職員に浸透させまし た。 (CAREER PORTほんまち(社会福祉法人南高愛隣会)) 第 5 章 A 31 ここでは、「あるべき姿」と「現状」を比べ、その間のギャップを明らかにします。特 に、ロジックツリーを用いて、現場の課題を構造的に整理し、チームで共有しながら、検 討を進めることがポイントです。 5.2.ステップ2課題を見える化する 課題を明確にするためには、まず「今、自分たちはどのような状態にあるのか」を正し く知ることが欠かせません。「現状」の把握は、自分たちの「力」や「強み」が活かされ ている点と十分に活かしきれていない点を確認するプロセスです。 ここでは、ステップ1でまとめた「あるべき姿」との関係で「現状」がどうなっている のかを確認します。その際、次の2つの視点から確認すると、現場の実態をより正確に理 解できます。 ① 数値からわかること(定量)(例:記録にかかる時間、残業時間など) ② 職員や利用者の声や体験からわかること(定性) (例:負担を感じる場面、困りごとなど) 確認できた内容は、既にロジックツリー上で表現された「あるべき姿」の個々の要素に 対応した「現状」として整理し、書き加えていきます。 5.2.1.現状を把握する 第 5 章 A 32 ここでは、現状把握を通じて見えてきた「ギャップ」、すなわち、課題について、「な ぜ起きているのか」、「どのような影響が出ているのか」といった視点で掘り下げ、課題 の中身を明らかにしていきましょう。 具体的には、それぞれの課題を「原因」「結果」「悪影響」などの視点で分類し、それ らの課題がどのようにつながっているのかを構造化して考えることが有効です。 課題を構造的に分析することで ●どこが本質的な課題か ●どこから手をつけると効果が高そうか が見えやすくなり、後の解決策の絞り込みにつながります。 また、課題を検討する際には、他の事業所の取組を参考にすることも考えられます。特 に同一あるいは類似のサービスの種類を提供する事業所の間では、業務の種類や感じてい る課題感が似ている場合も多く、取組の効果が高そうな課題を特定するヒントを得られる 場合があります。 5.2.2.課題を見出す 第 5 章 A 33 ここでは、「現状」から得た気づきや課題をもとに、「現状」と「あるべき姿」の間の 関係を改めて整理します。 既にロジックツリーで整理した「現状」と「あるべき姿」を比較し、言葉のつながりに 違和感がある部分があれば、ロジックツリーを修正します。 ロジックツリーを見直すことで、「現状」「課題」「目指す方向」の関係性がわかりや すくなり、解決までの道筋が描きやすくなります。 5.2.3.現状/あるべき姿を整える 5.3.ステップ3解決策を考える 前のステップで「あるべき姿」と「現状」のギャップを明らかにすることで具体的な課 題が浮き彫りになりました。これらの課題について、現場で無理なく実行できる、解決策 を考えていきましょう。 事例 職員からの聞き取りによる原因の把握 「職員の有給休暇取得日数が少ない」という状況があり、その原因を把握するため、職員 に聞き取りを行いました。その結果、単に業務が多忙であることだけが原因ではなく、休 暇申請がすべて紙様式のため、休暇簿の記載や決裁手続に時間と手間がかかり、物理的に 休暇が取得しづらいということも原因となっていたことがわかりました。 (チャレンジャー(社会福祉法人武蔵野千川福祉会)) 第 5 章 A 34 ここまでで浮き彫りになったすべての課題を一度に解決する必要はありません。 「現状」をもとに、現場から出てきた意見や気づきを大切にしながら、「まずどの課題に 取り組むか」(「優先して取り組む課題」)をはっきりさせていきます。その際、 「5.2.2.課題を見出す」での整理をもとに、優先順位付けをすることも有効です。 5.3.1.課題を絞り込む 5.3.2.解決策を洗い出す 「どの課題に取り組むか」を明らかにしたら、その課題に対応した、考えられる解決策 をできるだけ多く出します。解決策を洗い出すうえでは、外部の情報を参考にすることも 役立ちます。例えば、 事例 緊急性×職員の声×効果の大きさで優先度をきめる 課題の優先順位を①緊急性が高いもの、②職員からの声が多いもの、③利用者と職員双方 にとって効果が大きいもの、の三つの軸で整理し、職員にも共有しています。職員の声を 定期的に無記名のアンケートで収集しており、例えば、送迎記録や勤怠管理の煩雑さはア ンケートでも最頻出の課題であったため、早期にICTを導入しました。優先順位の判断を 透明化することで、職員に納得感が生まれ、現場の協力を得やすくなっています。 (ひびきホーム音彩(社会福祉法人スプリングひびき)) 第 5 章 A 35 また、具体的な解決策としては、例えば、 ●テクノロジーの活用 ●業務の流れや役割分担の見直し ●ルールやマニュアルの整備・更新 ●職員同士の情報共有の工夫 ●手順書の作成 といったものが挙げられます。 なお、テクノロジーの導入等に際して、初期投資が必要になる場合でも、補助金の活用 により、負担が軽減できる場合があります 5 。補助金に関する情報は自治体や厚生労働省 のウェブサイト等で公表されています。また、こうした情報を事業者団体や行政書士等か ら入手している事業所もあるようです 6 。 4障害福祉現場のワンストップ窓口は、内閣官房(2025)、厚生労働省(2025)等を踏まえ、今後設置が進められる予定。 5厚生労働省(2025)。 6厚生労働省(2025)。 ●厚生労働省や自治体が公表している報告書等をもとに、類似のサービスにおける 取組事例を調べてみる ●「介護テクノロジー等導入・活用マニュアル(仮称)」(令和7年度中に策定 予定)を参照する ●自治体等のワンストップ窓口 4 に相談する ●機微情報を入力しないよう注意を払いつつ、生成AIに質問してみる ●テクノロジーの展示会等を見学する 第 5 章 A 36 5.3.3.解決策を選ぶ ここでは、洗い出した解決策から、どの解決策に実際に取り組むかを決めます。解決策 は一つとは限りません。特にテクノロジーを導入する場合は、業務の進め方の見直しや役 割分担など、アナログな解決策と組み合わせることで、現場に定着しやすくなり、より高 い効果が期待される場合もあります。 解決策を選ぶ際には、チームでの合意形成の観点も重要です。解決策を選ぶ過程が「3 つの価値観」に沿っているか、改めて、確認しましょう。 また、これまで整理したロジックツリーを見返し、選んだ解決策が各法人・事業所の 「あるべき姿」や「ケアの充実」の実現につながっているかについても、確認しましょう。 事例 保護者に合わせた解決策の選定 利用児童の食事提供におけるアレルギー対応について、これまで保護者との連絡を電話や 口頭で行っており、その確認作業や対応が負担となっていました。この解決手段を選ぶに 当たっては、事業所の都合だけでなく、利用児童の保護者の使いやすさも重視しました。 保護者は若い年齢層が多く、日常的にスマートフォンを利用していたことから、アレル ギー対応の連絡手段として、スマートフォンアプリの導入を採用しました。 (天使園(社会福祉法人宗友福祉会)) 事例 記録ソフト導入に向けた解決策の洗い出し 記録業務を軽減するため、特定のソフトに最初から絞るのではなく、解決策の選択肢を幅 広く検討することから取り組みました。積極的にメーカーへの相談やテクノロジーに関す る相談会・展示会へ参加し、複数の選択肢を比較・検討しました。また、職員のテクノロ ジーに対する不安を和らげることも重要な解決策と捉え、こまめな社内研修を実施するな ど、運用面での取組についてもあわせて検討しました。 (ヘルパーステーションぱーとなー(有限会社宝寿)) 第 5 章 A 37 考えた解決策を現場で実際に行う具体的な取組(アクティビティ)に落とし込み、小さ く試していきます。 5.4.ステップ4試してみる ここでは、課題に対する解決策について、実行計画を立てます。実行計画では、プロ ジェクトの実行体制やあるべき姿、解決したい課題、そのために取り組む解決策、スケ ジュールなどを記載し、「誰が・いつ・何を行うのか」を明確にします。これにより、取 組を確実に進められるようにします。 実行計画は、取組に当たっての仮説であり、その後の検証や分析や評価の土台となりま す。仮説に基づいて取組を進めることは「変化の実感」にもつながり、取組の継続や定着 にもつながります。 5.4.1.取組の計画をつくる 事例 記録ソフトの導入と併せてマニュアルも作成 「記録ソフトの導入にあたり、それまでの紙様式と入力項目が変わることを受け、各入力 項目に何を入力するのかを示したマニュアルを作成しました。これにより、職員が迷わず にソフトに入力することができ、記録ソフトの定着が進みました。また、職員間の記録内 容の標準化にもつながっています。 (トータルサポートライトブレイン上飯野校(株式会社UNIQUER)) 第 5 章 A 38 実行計画の策定にあたっては、ロジックモデルの考え方が参考になります。 ロジックモデルとは、事業が成果を上げるために必要な要素を体系的に図示したも ので、事業の設計図 7 にたとえられます。ロジックモデルは「インプット」「活動」 「アウトプット」「アウトカム」と4つの要素で構成されます 8 。 ロジックモデルの考え方に基づいて実行計画を立てることで、解決した課題に対し、 どのような取組を行い、その結果どのような変化が期待されるのかという因果関係を 仮説として可視化することができます 9 。なお、「アウトカム」には目標の達成段階 に応じて「初期アウトカム」、「中間アウトカム」、「最終アウトカム」があります。 7三菱UFJリサーチ&コンサルティング株式会社(2016:35)。 8日本財団(2019)。 9図は日本財団(2019)を参考に作成。 10Erezand Zidon(1984)。 コラム:「実行計画」と「ロジックモデル」 取組の進み具合や成果を確認するために、まず、何を指標として見ていくのかを示す評 価指標(KPI)を設定します。その上で、それぞれの指標について、どの程度の達成を目 指すのかを目標値として定めます。 評価指標は、チーム全体で「取組がうまく進んでいるか」を共有し、評価するための目 安であると同時に、取組の仮説が適切であったかを検証するための手がかりともなります。 同じ方向を向いて、継続した取組を進めていくうえでも役立つものです。 評価指標を決めるときは、「3つの価値観」を思い出しながら、全ての支援者が関わる ように工夫することが大切です。ある研究 10 では、目標は単に難しいほどよいのではなく、 関係者に受け入れられているかどうかによって効果が異なることが示されています。受け 入れられている場合には、難しい目標ほど成果が高まりますが、受け入れられていない場 合には、難しいほどかえって成果が下がることがあります。 5.4.2.評価指標を決める 第 5 章 記録ソフトの 導入に必要な 人員PC 予算等 記録ソフトの選定 記録ソフトの導入 操作研修の実施等 記録のデジタル化率 操作研修の実施回数 操作研修の参加者数 【初期アウトカム】 記録時間の短縮 情報共有の迅速化 【中間アウトカム】 職員の負担軽減 【最終アウトカム】 当事者視点に立った ケアの充実 記録ソフトの 例 A 39 また、現在のデータを把握しておくことは、取組後にどのような変化があったのかを確 認し、仮説に基づく取組がどのような成果につながったのかを検証するうえで欠かせませ ん。これらのデータは、その後の分析や評価を行う際の基盤にもなります。 評価指標は、できるだけ具体的で、「何をすればよいのか」が現場の職員にも分 かるものであることが重要です。そのための考え方として、ここではSMARTの観点 を紹介します。SMARTとは、目標や指標を設定する際に確認したい、次の5つの観 点の頭文字を取ったものです。 コラム:SMARTの観点 中でも特に重要なのが、「測定できるか」と「達成可能であるか」という2つの 観点です。取組による変化を測定できないと取組の成果を客観的に評価することが できません。また、達成があまりに難しい目標を設定してしまうと、現場の職員が ついていけなくなってしまうこともあります。これらは「協調性(みんなですすめ る)」という観点からも重要となります。 現状のデータの把握や分析を踏まえ、測定可能かつ適切な難易度の成果指標を設 定しましょう。 第 5 章 A 40 5.4.3.小さく取組を始める 取組は、最初から完成形を目指すのではなく、「小さく始め、試しながら改善してい く」姿勢で進めることが大切です。「5.4.1取組の計画をつくる」で作成した計画に沿っ て取組を始めましょう。 生産性向上の取組は、日常の業務に加えて行うため、一時的に業務の負担が増えること があります。必要に応じて、計画した取組を、一部の業務や限られた期間・人数など、小 さな範囲で試すことも考えられます。試してみて、思うような効果が得られなかった場合 は「5.3.3解決策を選ぶ」へ戻るなど、柔軟に進めていきましょう。 また、取組の中で得られた実感や気づきについては、振り返りに向けて記録しておきま しょう。特に取組の中での小さな成功体験は、取組を続ける意欲を高めるうえで効果的で す。 実行した取組を振り返り、必要に応じてやり方を見直しながら、次の取組へつなげ、よ りよい形へ発展させていきます。 5.5.ステップ5振り返る 事例 柔軟な姿勢での試行 記録ソフトの導入に当たって、「まず試してみて、合わなければ見直す」という柔軟な姿 勢のもと、複数メーカーの記録ソフトを比較検討し、現場の職員による勉強会や練習を重 ねながら導入を進めました。また、経営層から「慣れるまで時間がかかる職員には丁寧に フォローすること」を管理者・職員に事前に周知し、職員への支援体制を整えました。 (ユリーカハイム草加(ゆりいか株式会社)) 第 5 章 A 41 「5.4.2評価指標を決める」で定めた評価指標をもとに、取組の成果を確認します。評 価指標に基づく取組の成果の評価では、数字で確認できる変化(量的評価)と、現場の実 感や気づき(質的評価)の両面から確かめます。これらの両面から成果を捉えることで、 どんな変化があったかを把握することができます。また、評価指標以外にも、取組の中で 得られた実感や気づきについても確認しましょう。 5.5.1.評価する 生産性向上の取組は、1回取り組んで終わりではありません。よかった点やうまくいか なかった点を振り返り、「この取組が私たちにとってどんな意味があるのか」を言葉にし て共有することが大切です。この「意味づけ」を丁寧に行うことで、「なぜ続けるのか」、 「次に何を改善すべきか」が明確になり、生産性向上の取組に対する職員一人一人の納得 感や、次に向けた意欲につながります。 5.5.2.取組を意味づける 事例 効率化だけでなく、ケアの方向性の統一に寄与 これまで紙様式だった訪問記録について、記録ソフトを導入したことで、ヘルパーが記録 を定期的に事務所に届けたり、郵送したりする手間が削減されました。また、入力した記 録内容がリアルタイムに共有されることで、ヘルパー間での利用者のケアの方向性の統一 に効果があるという気づきも得られました。 (ぷっくるケア(ぷっくる株式会社)) 第 5 章 A 42 事例 定期的な振り返りと改善の実施 長距離移動を伴う相談支援業務を効率化するため、「現地完結型」の相談支援体制を構築 しました。ノートPCやディスプレイ、ポータブルプリンター等を活用し、契約から記録提 出までを現地で完結できる仕組みとしています。導入では、定期的に振り返りの会議を行 い、運用状況の確認と改善策の検討を行っています。例えば、一部の記録について、入力 が後回しになりやすいという気づきがあったため、各記録の入力のタイミングや手順の統 一を行いました。現在もこの振り返りと改善のサイクルを継続し、運用の定着と質の向上 を目指しています。 (相談支援事業所フロントライン(社会福祉法人大乗福祉会)) 評価を通じて得られた成果や取組の意味を踏まえ、ステップ1(共感づくり)に立ち戻 り、次の取組へとつなげていきます。原則として、ステップ5の後にはステップ1に戻り、 らせん状に発展していくことを想定していますが、必要に応じて、途中のステップに戻っ て考え直したり、やり方を見直したりしても問題ありません。 こうした発展を通じて、組織全体が経験から学び、改善を続ける「学び続けるチーム」 へと成長していきます。 5.5.3.次のサイクルに発展する 第 5 章 43 ■事業所の概要 法人名:社会福祉法人雄勝なごみ会 基本理念:響存:ふれ愛・助け愛・支え愛の3つの愛を大切に、 一人一人の幸せ創りを志とします。 事業所名:地域生活支援拠点(愛光園・ぱあとなあ・かざぐるま) 所在地:秋田県湯沢市 サービス種別: 愛光園(生活介護、施設入所、短期入所) ぱあとなあ(就労B、放デイ、相談支援、ホームヘルプサービス) かざぐるま(生活介護、短期入所、共同生活援助) 職員数:計115名(3部門合計) ホームページ:https://ogachi-nagomi.net/ ■取組の概要 既存の記録ソフトはパソコン入力が前提であり、現場での即時記録が難しいことや紙書類が多い運用が課題と なっていた。このため、タブレットによる入力を可能とする環境整備と、帳票のデータ管理への移行を実施した。 記録業務の電子化と運用見直しを進め、支援時間の確保につなげた。 8 月 9 | 10 月 10 | 12 月 12 | 1 月 2 月 ●プロジェクトチームの立ち上げ 各事業所からメンバーを選出、「みんなのそばにいたいプロジェク ト(通称:みんそばプロジェクト)」として始動した。 ●あるべき姿の言語化 利用者中心の支援を実現する姿を整理し、取組の方向性を共有した。 ●現状整理・導入機器の確認 既存ソフトの機能や運用方法を確認し、タブレット入力で実現でき ること・難しいことを整理した。 ●タイムスタディや職員アンケートで現場の課題を見える化 記録業務にかかる時間や負担感、現場の現状を把握した。 ●できること/できないことの整理 機能追加で対応できる範囲と、ソフト変更が必要な範囲を切り分けた。 ●代替案・追加機能の検討 優先度の高い業務(工賃計算等)も含め、必要な機能やソフトの 情報収集を行った。 ●運用方針の決定・試行導入 ・タブレット入力やバイタル連携を試行。メーカー説明会も実施し、 現場職員が直接操作を確認した。 ・就労Bの工賃計算について、2か月間の試行を経て本格導入とした。 振 り 返 る ●導入後の効果検証 アンケートや再測定を行い、業務時間や負担感の変化を確認した。 ●創出時間の活用検討 削減できた時間をどの支援に充てるか、現場で話し合いを進めている。 試 し て み る 解 決 策 を 考 え る 課 題 を 見 え る 化 す る 共 感 を つ く る 第 6 章 施設長 職員A 職員B 今回は、法人全体で取り組むため、各 事業所からプロジェクトメンバーを選 定しました。利用者のことを一番に考 えているメンバーです。 取組ごとに主担当を 決めました。 導入予定の記録ソフトでは、工賃計算 から支払請求まではできないことがわ かりました。期待していただけに ショックで...落ち込んでいる私に、施 設長が工賃計算ができるソフトも試し てみようと言ってくれました。 結果的に今回導入する ことになりました! テクノロジーに苦手意識のある職員も いるため、全体説明やマニュアル配布 の他、プロジェクトメンバーが職員の 特性や理解度を踏まえ、個別に説明も 行いました。 そのためか、当初想定していた職員の ネガティブな反応は少な かったです! 社会福祉法人雄勝なごみ会(秋田県) 6.事例 取組の流れ A 44 あるべき姿 ・本事業所では、「利用者の力を引き出し、生活の幅を広げたい」という理念のもと、利用者・支援者・ 組織の3視点からあるべき姿を整理した。 ・その結果、記録・帳票業務の負担により支援時間が圧迫されていることや、業務フローの複雑さが課題 として明らかとなり、記録業務の見直しに取り組むこととした。 現状 インプット 補助金 タブレット端末 記録ソフト プロジェクトメンバー ソフトメーカー支援 活動 業務可視化(記録時間 測定・帳票棚卸) タブレット・記録ソフ ト導入 アウトプット 記録ICT活用 タブレット導入台数 タブレット利用職員数 記録ソフト利用事業所数 帳票電子化 電子押印対応書類数 電子化した帳票様式数 バイタルデータ連携 電子転送対象機器数 工賃計算電子化 電子化対象利用者数 本取組では、記録・帳票業務の負担軽減を通じた個別支援時間の創出を目的に、記録や帳票の電子化を進めるこ ととした。 初期アウトカム 記録・帳票業務時間削 減 工賃計算の作業時間 押印時間 バイタル測定・記録時間 印刷枚数の削減 利用者の「力」を 引き出し、生活の 幅を広げたい 利用者の視点 支援者の視点 組織の視点 職員がやりがいを もって働ける 個別支援の充実 自分がしたいことが できる環境 ギャップ(課題) ・記録・作業に時間がとられ、個別支援の時間が十分に とれない ・その結果、利用者の生活体験の機会が少ない ・業務フローの複雑さ・帳票の多さが負担になっている 生活体験の増加 外出・体験が少ない 要望に応えられない ことが多い 地域・家族に 姿を伝える 入所生活が見えにくい 時間的な余裕がある 間接業務が 優先される 支援根拠が言語化 されている 個別支援に対する考えに職 員間の温度差がある 支援の根拠が わからない人がいる 人材育成の体制が 整っている 体制はあるけど、 不十分OJTも丁寧に する時間がない 現場に裁量がある (権限移譲) 現場に任せているが、 現場側がまだ慣れていない 今回の取組で特に焦点を当てた領域 第 6 章 あるべき姿と現状(ステップ2:課題を見える化する) 取組の計画(簡潔版)(ステップ4:試してみる) A 45 ・これまで工賃計算は、複数のExcelファイルで対応しており、管理・入力・確認に手間がかかっていた。 ・既存ソフトでは必要な処理に対応できないことが分かったため、就労Bについては、工賃計算が可能なソフトを 新たに導入した。 ・導入後は、現場入力→事務確認の流れが整い、転記・集計が減って業務フローが簡素化した。あわせて、日々の 確認を丁寧に行う運用とした。 Before 職員の作業時間4時間/月 事務員の作業時間30分/週 業務フロー After 職員の作業時間10分/月 事務員の作業時間0分/週 業務フロー 当法人では、業務を「直接業務」「間接業務」「個別業務」の 3つに分類して整理した。 今回の取組により、記録や転記にかかる時間が削減されたこと で、間接業務に充てていた時間を個別業務へ振り分けることが 可能となった。現在、個別業務に充てる時間は増加しているも のの、それが実際に「利用者の生活体験の増加」につながって いるかについては、引き続き検証が必要である。今後も取組の 効果を確認しながら、あるべき姿の実現を目指していく。 取組の成果として確認された変化のうち、代表的な業務である「工賃計算」「支払伝票の押印作業」における効果 を整理している。なお、取組全体としては他にも成果が見られるが、ここでは一部を抜粋して紹介する。 Before 押印時間90分/月 紙の枚数190枚/月 1事業所分/ 月 ファイリングや 印刷もすべて削減 After 押印時間10分/月 紙の枚数0枚/月 工賃計算 ・毎月190枚(3拠点合算)の支払伝票に押印(押印箇所770箇所)していた。 ・電子公印を作成し、システム内で書類確認と押印ができるようになり、ワンクリックで一括押印ができるよ うになった。 ・現在は支払伝票のみだが、今後、電子決裁できる帳票を増やしていく予定。 支払伝票の押印作業 第 6 章 取組の成果・変化(一部抜粋)(ステップ5:振り返る) 46 取組の流れ 9 月 | 10 月 10 月 10 | 11 月 12 | 1 月 2 月 ●あるべき姿の言語化 代表・リーダーが事業所の現状を振り返り、理念である「利用者の自分ら しい生活の実現」のためには、事業所の運営体制をより強化していきたい ことを改めて言語化した。 ●現状の言語化 管理職が人材育成等のマネジメント業務に十分な時間を割けていない状 況を振り返った。 ●プロジェクトチームの立ち上げ リーダーに属人化しているシフト作成業務を別の職員に引き継ぐことを目 的に、プロジェクトチームを立ち上げた。 ●取組の宣言・呼びかけ コアメンバー会議にて取組を宣言し、取組のねらいについて共有した。 ●課題の整理 現行のシフト作成手順を書き出し、見える化を行った。 ●解決策を洗い出す ・現行の作成手順に対し、効率化できるポイントをメンバーで意見交換し た。 ・シフト表のフォーマットの見直しや、Excel自動計算の導入等を検討し た。また、引継ぎを受ける職員の視点から、好ましい引継ぎ方法を聴取 した。 ●実際に引き継ぐ リーダーのサポートのもと、実際にシフト作成業務を職員へ移行した。 ●取組の振り返り シフト作成業務の引継ぎを行い、リーダーの業務時間や負担感の変化 を確認した。 振 り 返 る 試 し て み る 解 決 策 を 考 え る 課 題 を 見 え る 化 す る 共 感 を つ く る ■事業所の概要 法人名:一般社団法人HK 法人理念: 『障害者が障害のない人と同じように暮らせるようにしたい』 『障害を理由に「できない」ということを全てなくしたい』 事業所名:ケアクリエイト 所在地:愛媛県松山市 サービス種別:重度訪問介護 職員数:計50名 ホームページ(CIL星空): http://cilhoshizora.com/?v=f8f993120e2d ■取組の概要 管理職が現場支援や事務作業に追われ、人材育成等のマネジメント業務に十分な時間を割けない状況が続いてい た。管理職がマネジメント業務に専念できる体制づくりを目的に、リーダーへ属人化していたシフト作成業務を 他職員へ引き継ぐ取組を行った。現行の手順の可視化、シフト表の見直しや手順書の作成を行い、その他職員で も対応可能な体制を整えた。 ※ケアクリエイトは重度訪問介護事業所であると同時に、 同施設内のCIL星空の活動を支える役割を担っている。 ※CIL星空のメンバーは障害当事者として全国的に活動してお り、ケアクリエイトの支援は自宅での生活にとどまらない。 代表 リーダー 職員A 今回の取組では、まずリーダーと 話し合い、事業所のありたい姿を 改めて言語化しました。日々の運 営は回っているものの、事業所の 運営体制をより強化していくため に何に取り組むべきなのか、 改めて考えるきっかけ となりました。 まずは現行のシフト作成手順を書 き出すことから始めました。どの 工程にどれくらい時間を要してい るのか振り返るきっかけとなり、 負担の大きい手順も 明確になりました。 リーダーのサポートのもと、段階 的に引継ぎを受けたため、シフト 作成業務の理解が深まりました。 また、引き継がれる立場として疑 問点を共有したことで、 マニュアルや手順の改善 にもつながりました。 第 6 章 一般社団法人HK(愛媛県) A 47 ・本事業所では、「利用者の自分らしい生活の実現」という理念のもと、利用者・支援者・組織の3視点か らあるべき姿を整理した。 ・その結果、管理職が現場支援や事務作業に追われ、本来のマネジメント業務に時間を割けていないこと が明らかとなり、リーダーに属人化しているシフト作成業務を他職員に引き継ぐこととした。 取組の計画(簡潔版)(ステップ4:試してみる) ・本取組では、適切なマネジメントの実施と業務の役割・手順の標準化を目的とし、シフト作成業務の引き 継ぎとシフト作成手順の見直しを実施した。 プロジェクトメンバー シフト作成業務の手順 書の修正 シフト作成業務の引継 ぎの実施回数 シフト作成業務を担える 職員の増加 修正したシフト作成業 務の手順書 管理者のマネジメント 業務に充てる時間の増加 シフト作成業務の引継 ぎの実施 シフト作成時間の短縮 活動アウトプット初期アウトカムインプット 今回の取組で特に焦点を当てた領域 ギャップ(課題) ・管理職が現場対応にも追われ、マネジメント業務 (人材育成等)に集中することができない ・シフト作成業務が特定の職員に属人化している 利用者の自分らしい 生活を実現したい 安定したサービス提 供体制を維持 職員が質の高い ケアを提供 利用者が柔軟に サービスを利用 できる環境を整備 利用者の予定に 合わせた柔軟な 職員配置が可能 あらゆる利用者に対 応できる職員の不足 人材育成プログラム の充実 育成に対応できる 人材の不足 適切なマネジメント の実施 管理職がマネジメン ト業務に集中できて いない シフト作成業務・手 順が属人化している 業務の役割・手順の 標準化 利用者の視点 支援者の視点 組織の視点 職員が自律的に 行動できる 事業所理念・方針が 浸透していない あるべき姿現状 第 6 章 あるべき姿と現状(ステップ2:課題を見える化する) A 48 ・業務の引き継ぎを行い、シフト担当者は2名体制となった。 ・リーダーのシフト作成業務にかかる時間が削減したことで、マネジメント業務に従事できる時間の増加に つながった。 Before シフト作成業務に従事した時間 10時間/月(3か月平均) これまで管理者1名で担っていたシフト作成業務を2名体制とし、 あわせて作成手順の見直しを行った。 その結果、不在時にも対応できる体制が整い、業務運営の安定性 が高まった。また、シフト作成に要していた時間の一部を確保で きるようになったことで、管理業務や人材育成により注力できる 環境が整いつつある。 今後は、働きやすい環境づくりと運営体制の強化の両立を目指し、 創出された時間を人材育成の充実に活かしながら、引き続き取組 を進めていく。 ・これまで、シフト作成業務はリーダー1名が担当していたため、休暇・不在時にも急な勤務交代等への 対応が発生していた。 ・今回の取組ではシフト担当者を2名に増員することで、不在時にはもう一人の担当者が対応できる体制 を整えた。 ・効果の測定にあたっては、リーダーへ働きやすさに関するアンケートを実施した。 After シフト作成業務に従事した時間 4時間/月(3か月平均) 月6時間の削減をマネジメント業務へ 充当可能となった。 働きやすさの向上 マネジメント業務に充てる時間の増加 Before シフト作成担当者1名 シフト作成業務に対する負担感(5段階) 5 After シフト作成担当者2名 シフト作成業務に対する負担感(5段階) 3 休暇・不在時の 対応が減り、 心理的負担も 軽減しました。 第 6 章 取組の成果・変化(ステップ5:振り返る) 49 デコボコベース株式会社(東京都) ■事業所の概要 法人名:デコボコベース株式会社 法人のビジョン:「凸凹が活きる社会を創る。」 事業所名:ハッピーテラスキッズ中野ルーム 所在地:東京都中野区 サービス種別:児童発達支援 職員数:計5名 ホームページ:https://happy-terrace.com/ ■取組の概要 保護者面談について、現状メモを取りながら行っているため、表情や機微の把握に集中することができない場面が あった。一方で、メモをとりながらでないと記録を作成する際に、時間がかかってしまうという状況があった。この ため、PCの録音機能と生成AIによる要約の活用により、面談により集中できる環境の実現と記録の作成時間の短縮に 取り組んだ。 ●プロジェクトチームの立ち上げ プロジェクトチームを立ち上げる。小規模な事業所のためメンバーは、 支援にあたるスタッフ全員と管理者とした。 ●あるべき姿の言語化 ・各職員が普段思っている「もっと○○したい」を共有した。 ・職員全員が子供や保護者によりよい支援を届けたいと思っていることが 共有できた。 ●現状を確認 ・「もっと○○したい」に対して、なぜできないのか現状を共有。共通の 悩みとして「時間が足りない」という現状が明らかとなった。 ・また、保護者面談について、メモを取りながら行っていることや記録 作成に時間がかかるという意見も出た。 ●できることを考える ・「もっと○○したい」のうち、環境、予算、現実的に取り組めるか等を 判断基準に、取り組む課題、解決策を選択。 ・保護者面談において、面談により集中できる環境とすること、記録の 作成時間を短縮することを目的に、録音及び生成AIによる要約を導入 することを決定。 ●運用方針の決定・試行導入 ・生成AIについては、入力データが再学習に使われない企業向けアカ ウントの使用に限定した。 ・生成AIの利用について、同意書を作成し、承諾を得た。 ・現状値を確認し、目標値の設定した上で、保護者面談において、録音と 生成AIを導入した ●導入後の効果検証 ・職員アンケートを行い、面談での集中度合いの変化を確認した。 ・記録の作成時間についても測定結果を確認した。 ●新たな取組の検討 ・今回の取組を加算様式の作成にも応用するなど、新たな取組の検討を進 めている。 施設長 職員A 職員B 12 月 12 月 12 月 12 | 1 月 2 月 振 り 返 る 試 し て み る 解 決 策 を 考 え る 課 題 を 見 え る 化 す る 共 感 を つ く る あるべき姿や現状の前に、アイスブ レイクとして事業所や一緒に働くメ ンバーのいいところを書きだして共 有しました。最初に肯定的な面に目 を向けることで、その 後も建設的な議論が できました。 録音によるテキスト記録だけでは、 表情や身振りといった非言語の情報 が不足するため、そこを補う必要性 を感じました。だからこそ、改めて 面談時は話者の表情や機微を捉える ことに集中したいと改めて 思いました。 面談後の事務処理に対する心理的負 担が軽減されました。 また、面談の記録を当日中に作成で きることで、ケースの情報を職員間 で迅速に共有できるように なりました。 第 6 章 取組の流れ A 50 ・本取組では、保護者面談の充実を目的に、面談時のPCによる録音と生成AIによる録音データの要約に取り 組んだ。その結果、面談に集中できる、記録の作成時間が短縮したといった効果が確認された。 面談時のPCによる録音 生成AIによる録音デー タの要約 活動 PCによる録音の実施回数 生成AIによる要約の実施 回数 アウトプット 面談に集中できた度合の増 職員アンケートの結果 記録の作成時間の短縮 記録の作成時間 初期アウトカム PC及びPCの録音機能 生成AI プロジェクトメンバー インプット ・本事業所では、法人の「教育と福祉で、ゆたかさを広める」という企業理念のもと、「キッズファース ト」という支援ポリシーに基づき、利用者・支援者・組織の3視点からあるべき姿を整理した。 ・その結果、取り組みたいことはたくさんあるが日々の業務が忙しく取り掛かれていない現状が明らかと なった。そこで、今回はいますぐできることに絞り込み、保護者面談時の録音と記録作成にあたっての 生成AIの活用に取り組むこととした。 子供や保護者のため に、より良い支援を 届けたい 利用者の視点 支援者の視点 組織の視点 あるべき姿 ケース情報の 共有・把握 職員のQOLの向上 安定した支援の提供 教材の保管場所が 明確 資格取得のための 勉強時間の確保 業務マニュアルの 整備 適正な勤務時間 ケース会議の時間 の充実 保護者面談の充実 現状 ・保護者面談を充実したいが、メモをとりながら面談を 実施している。 ・記録の作成に時間がかかり、負担となっている。 ギャップ(課題) プリント類について、保管場 所が整理されていない 一部の業務でマニュアルがな く、属人化している 勉強時間が確保できていない 業務が時間内に終わらず、残 業が発生している ケース会議の時間は確保でき ているがより充実させたい メモをとりながら面談を実施 記録作成に時間がかかる 今回の取組で特に焦点を当てた領域 第 6 章 あるべき姿と現状(ステップ2:課題を見える化する) 取組の計画(簡潔版)(ステップ4:試してみる) A 51 ・これまで保護者面談の実施にあたっては、PCやノートでメモを取りながら実施をしており、面談に集中で きない面があった。 ・そこでPCの録音機能を活用し、メモをとらずに面談に臨むようにした。 ・導入効果の測定にあたっては、職員アンケートを実施し、録音により面談により集中できるかを確認した。 ・これまで、面談時にとったメモを基に、面談で話した内容を思い出しながら記録を作成していた。 ・面談時に録音した録音データを生成AIを活用し、文字起こしから要約を行った。 ・話者の表情や身振りといった非言語情報を補う必要があるものの、時間の短縮につながった。 Before 面談記録の作成時間30分/件 After 面談記録の作成時間6.6分/件 小さな取り組みではあるが、一つの業務に絞って生成AIの活用を試し たことで、他の業務に応用できる進め方を学ぶことができた。 新しいことを一人で始めても継続が難しいが、チームで一つの目標を 決めて取り組むことで、継続的に取り組めることがよくわかったほか、 職員間で様々な日頃感じていることを議論する機会となった。 保護者面談の質を向上させることで、今後の支援計画にもいい影響が 出ると考えている。 今後は、他の業務にも応用させつつ、職員の業務負担を軽減しながら、 保護者や子どもたちへよりよい支援を届けられるよう取り組んでいく。 Before 保護者面談に集中できる度合(5段階評価) 2.7 (職員4名の平均) After 職員の作業時間10分/月 事務員の作業時間0分/週 保護者面談 記録の作成作業 第 6 章 取組の成果・変化(ステップ5:振り返る) A 52 7.参考資料 ●障害福祉サービス事業所のICTを活用した業務改善ガイドライン https://www.mhlw.go.jp/content/12200000/000654236.pdf 本ガイドラインは、障害福祉サービス事業所の現場で生じやすい問題についての 業務改善のポイントを、規模別/内容別に、ICT 導入事例と共に紹介したものです。 7.1.生産性向上の取組の具体的な進め方を知る ●介護サービス事業における生産性向上に資するガイドライン https://www.mhlw.go.jp/stf/kaigo-seisansei-information.html 本ガイドラインは、介護サービス事業所が生産性向上の取組を進める際の参考とな るよう、考え方や取組の進め方、具体的な実践例を整理したものです。 「施設・居宅・医療系各サービス共通冊子(令和6年度改訂)」では、介護事業所 のサービス種別に共通する生産性向上の基本的な考え方や取組のポイントに加え、 ICT・介護テクノロジー等のツール活用の方法や、近年の取組事例が紹介されてい ます。 あわせて、サービス類型ごとの特性に応じた取組を示した、 施設系・居宅系・医療系の各冊子も作成されています。 第 7 章 A 53 ●省力化投資促進プラン―障害福祉― https://www.mhlw.go.jp/stf/seisakunitsuite/bunya/hukushi_kaigo/ shougaishahukushi/seisansei/shouryokuka.html 「省力化投資促進プラン」とは、人手不足が深刻な業種等において、AI、ロボッ トの導入やDXを始めとする省力化投資を推進するため、各事業の所管省庁が業種 ごとの具体的な課題を踏まえた省力化投資を促進するためのプランとして策定す るものです。 「省力化投資促進プラン―障害福祉―」(令和7年6月13日策定)では、障害福 祉分野における実態把握の結果を踏まえ、今後進めるべき多面的な促進策の方向 性が整理されています。あわせて、国等が実施する支援・サポート体制の整備や 周知・広報の方針に加え、目標、KPI、スケジュール等が体系的にまとめられて います。 7.2.政策の動きを知る 第 7 章 A 54 8.終わりに 本書では、障害福祉における「当事者視点に立ったケアの充実のための生産性向上」の 基本的な考え方を示してきました。そして、障害福祉の生産性向上について、「支援者一 人一人の力を引き出し、チームでその力を利用者に届けることで、新たな価値を生み出す こと」と位置づけてきました。障害福祉の生産性向上は「支援を減らすこと」でも「人を 減らすこと」でもありません。負担軽減や価値の創出により、利用者の支援に注力できる 環境づくりや支援者の働きがい向上を進めるものです。 障害福祉の現場では、既にそれぞれの現場の実情に応じた創意工夫が重ねられています。 利用者の小さな変化に気づき、支援の方法を調整し、チームでよりよい支援を模索してき た大切な積み重ねがあります。本書で示した考え方は、こうした現場の努力を否定するも のではありません。むしろ、既に行われている取組やもともと法人・事業所が大切にして きた考え方を「見える化」することで、支援者がより力を発揮できるような環境を整える ものです。 生産性向上は、一度に大きな変化を起こすことを求めるものではありません。まずは、 職場で話題にしてみること、本書で紹介した方法を試してみること、小さな取組から初め てみることといった、一つずつの取組の積み重ねが変化につながります。 本書の冒頭でも紹介したとおり、本書の途中には複数の箇所に、立ち止まって考えるた めの「問いかけ」があります。これまで示した「問いかけ」に対して、既に自分の考えを 書き出したり、職場の仲間と話し合った記録をつけたりされた方は、是非、それを読み返 してみてください。本書を読む前からの変化に気づくことができるでしょう。「考えるこ と」、「言葉にすること」、「対話すること」、「試すこと」、「振り返ること」、そし て、「気づくこと」、こうしたプロセスが生産性向上の取組では、とても大切です。 これからテクノロジーは更に進歩していきます。AIをはじめとする新しい技術は、支援 のあり方にも少なからず影響を与えるでしょう。しかし、どれほど技術が進歩しても、利 用者と向き合い、支援を届けるのは人です。だからこそ、生産性向上の中心にあるのは、 支援者の力であり、チームの力です。 障害福祉の生産性向上に関しては、令和8年度以降、ガイドラインの策定、更には、各 都道府県におけるワンストップ窓口や協議会の設置が進められることが見込まれます。今 後の政策的な展開においても、本書はその重要な土台となるものです。 第 8 章 A 55 このように技術の進歩や政策的な展開が見込まれる中でも、「当事者視点に立ったケア の充実のための生産性向上」の本質を見極めることが大切です。そして、前向きに取組を 進め、支援の可能性を広げていくことが必要です。本書が障害福祉現場の支援者を含め、 関係者の皆様のこうした取組の一助となることを期待しています。 第 8 章 A 56 9.用語辞典・索引 本書で用いている重要な考え方や用語について、その意味や本書における位置づけを整理 しています。 あるべき姿 将来的に実現したい状態、チームが共有する理想や目標とする姿。 単なる理想ではなく、「どのような状態を実現したいか」を具体的 に描くことで、改善の方向性や優先順位が明確になる。 介護テクノロジー 「介護ロボットや情報通信技術(ICT)等のテクノロジー」の総称。 介護サービスの質の向上、職員の負担軽減、高齢者等の自立支援に よる生活の質の維持・向上に資する取組を推進するために活用され る 11 。 ケア 日常生活の支援にとどまらず、障害のある方が自らの望む生活を主 体的に営むことができるよう支援することを含む広い概念。 現状 現在の状態・課題・できていること・できていないことを客観的に 整理した姿。改善の出発点となる「今の姿」であり、問題を特定し、 次の一歩を考えるための基礎となる。 DX (デジタルトランス フォーメーション) 「Digital Transformation(デジタルトランスフォーメーショ ン)」の略称で、デジタル技術によって、ビジネスや社会、生活の 形・スタイルを変えること 12 。 生産性組織等が持っている力を引き出し、新しい価値を生み出すこと 障害福祉に おける生産性向上 支援者一人一人の力を引き出し、チームでその力を利用者に届ける ことで、新たな価値を生み出すこと 評価指標 (KPI) 目標を達成するために、進捗や成果を数値で測るための主要な指標。 「今どれくらいできているか」を客観的に示すための“物差し”で あり、改善の方向性や優先順位を判断する根拠となる。 QOL (生活の質) 障害者にとっての生活の質とは、日常生活や社会生活のあり方を自 らの意思で決定し、生活の目標や生活様式を選択できることであり、 本人が身体的、精神的、社会的、文化的に満足できる豊かな生活を 営めること 13 。 11厚生労働省(2024)。 12厚生労働省(2023)。 13厚生労働省社会・援護局障害保健福祉部企画課(2002)。 第 9 章 A 57 【数字】 3つの価値観 :22, 23, 29, 36, 38 5つのステップ :22, 24, 25, 27 【アルファベット】 DX:11, 53, 56, 58 QOL(生活の質):15, 19, 50, 56 SMART:39 【あ行】 新たな価値:10, 11, 13, 14, 15, 54, 56 あるべき姿(To-Be):4, 8, 9, 10, 11, 12, 15, 18, 21, 24, 25, 26, 27, 28, 29, 30, 31, 33, 36, 37, 43, 44, 45, 46, 47, 49, 50, 56 【か行】 解決策:24, 25, 32, 33, 34, 35, 36, 37, 40, 43, 46, 49 介護テクノロジー:10, 12, 35, 52, 56 課題:3, 8, 9, 10, 15, 17, 23, 24, 25, 31, 32, 33, 34, 37, 38, 43, 44, 46, 47, 49, 50, 53, 56 価値観:5, 8, 9, 16, 17, 18, 19, 20, 21, 22, 23, 25, 27, 28, 29, 36, 38 【き行】 キックオフ宣言:30 ギャップ:9, 10, 11, 12, 18, 24, 26, 31, 32, 33, 44, 47, 50 協議会:5, 54 【け行】 ケア:3, 4, 5, 8, 9, 11, 13, 14, 15, 17, 18, 19, 20, 22, 23, 24, 25, 27, 28, 36, 38, 41, 46, 47, 54, 55, 56 ケアの充実:4, 5, 8, 9, 11, 13, 14, 15, 18, 19, 20, 22, 23, 24, 25, 36, 38, 54, 55 計画:5, 10, 37, 38, 40, 44, 47, 50 現状:8, 9, 10, 11, 12, 18, 24, 26, 28, 31, 32, 33, 34, 39, 43, 44, 46, 47, 49, 50, 56 【し行】 持続可能な事業運営:19 心理的安全性:16 障害福祉における生産性向上:13, 14 【ち行】 力:9, 10, 13, 14, 15, 16,21, 25, 31, 44, 54, 56 【つ行】 強み:14, 15, 16, 25, 31 【て行】 テクノロジー:4, 5, 10, 12, 15, 21, 35, 36, 43, 52, 54, 56 【と行】 当事者視点:4, 5, 8, 9, 10, 11, 13, 15, 18, 19, 20, 22, 23, 24, 25, 38, 54, 55 【は行】 働きがい:13, 19, 27, 54 【ひ行】 評価指標:38, 39, 41, 56 標準化:17, 23, 37, 47 【ふ行】 振り返り:24, 40, 41, 42, 46 プロジェクトチーム:5, 27, 28, 43, 46, 49 【み行】 見える化:18, 19, 20, 24, 25, 28, 31, 43, 44, 46, 47, 50, 54 【ゆ行】 優先順位:4, 34, 56 【り行】 理念:4, 8, 9, 12, 17, 18, 19, 20, 21, 25, 27, 28, 43, 44, 46, 47, 50 【ろ行】 ロジックツリー:19, 20, 21, 28, 31, 33, 36 ロジックモデル:38 【わ行】 ワンストップ窓口:5, 34, 35, 54 第 9 章 A 58 10.引用文献 厚生労働省(2023)「医療DXについて(その1)」、2023年4月26日、 https://www.mhlw.go.jp/content/12404000/001091100.pdf [アクセス日: 2026年1月16日]。 厚生労働省(2024)「「ロボット技術の介護利用における重点分野」を改訂しました」、 2024年6月28日、 https://www.mhlw.go.jp/stf/juutenbunya_r6kaitei_00001.html [アクセス日: 2026年1月16日]。 厚生労働省(2025)「省力化投資促進プラン―障害福祉―」、2025年6月13日、 https://www.mhlw.go.jp/stf/seisakunitsuite/bunya/hukushi_kaigo/shougaisha hukushi/seisansei/shouryokuka.html [アクセス日: 2026年1月16日]。 厚生労働省社会・援護局障害保健福祉部企画課(2002)「身体障害者ケアガイドライン~ 地域生活を支援するために~」、 https://www.mhlw.go.jp/topics/2002/04/tp0419-3.html [アクセス日: 2026年1月16日]。 厚生労働省老健局(2024)「介護サービス事業における生産性向上(業務改善)に資する ガイドライン~より良い職場・サービスのために今日からできること~(令和6 年度改訂版各サービス共通冊子)」、 https://www.mhlw.go.jp/content/12300000/001545559.pdf [アクセス日: 2026年1月16日]。 日本財団(2019)「ロジックモデル作成ガイド」、 https://www.nippon-foundation.or.jp/wp- content/uploads/2019/01/gra_pro_soc_gui_03.pdf [アクセス日: 2026年1月16日]。 三菱UFJリサーチ&コンサルティング株式会社(2016)「社会的インパクト評価に関する 調査研究最終報告書」、内閣府委託調査、 https://www.npo-homepage.go.jp/toukei/sonota-chousa/social-impact-hyouka- chousa-h27 [アクセス日: 2026年1月16日]。 第 10 章 A 59 内閣官房(2025)「新しい資本主義のグランドデザイン及び実行計画2025年改訂版」閣議 決定、 https://www.cas.go.jp/jp/seisaku/atarashii_sihonsyugi/pdf/ap2025.pdf [アクセス日: 2026年1月16日]。 内閣府(2025)「経済財政運営と改革の基本方針2025~「今日より明日はよくなる」と 実感できる社会へ~」閣議決定、 https://www5.cao.go.jp/keizai- shimon/kaigi/cabinet/honebuto/2025/2025_basicpolicies_ja.pdf [アクセス日: 2026年1月16日]。 Brown, Tim (2009). Change by Design: How Design Thinking Transforms Organizations and Inspires Innovation. Harper Business. Erez, Miriam, and Zidon, Isaac (1984). “Effect of goal acceptance on the relationship of goal difficulty to performance”. Journal of Applied Psychology, Volume 69, No.1: 69-78. Hasso Plattner Institute of Design at Stanford (2012). “An Introduction to Design Thinking: Process Guide”. https://web.stanford.edu/~mshanks/MichaelShanks/files/509554.pdf [アクセス日: 2026年1月16日]. 第 10 章 発行日2026年3月 令和7年度厚生労働省障害者総合福祉推進事業 「障害者福祉現場の生産性向上に向けた調査研究事業」有識者会議 (事務局株式会社NTTデータ経営研究所)